徒花が散るとき

ラー油

だって君には。

 私と君の関係性が友達以上恋人未満になったのはいつ頃だったかな。出会ったのは中学生の頃で、今はもう高校生だ。私と君は日々を嫌ってほど一緒に過ごしてきた。だから、私は君が横にいることが日常になっていて普通になってた。そのせいか、友達以上恋人未満の関係性になったのがいつかなんて思い出せやしない。多分世間的には親友と呼ばれる関係性で、そこに不満はなかった。君と遊ぶのはとても楽しいし、時間を忘れるという言葉を一番実感できるし、何も悪い所がなかった。心地がいい、というのはこういうことなんだろうと心の中でずっと感じていた。


 でも、本当にいつ頃だろうか。君を友達として見れなくなってしまったのは。それはあまりにも突然にやってきて、私の視界をもっと輝かせて君が中心の世界に変わった。視界の隅に君がいて、いなかったら探してしまって。そう、それこそ君が他の人と話していたら嫉妬に似た感情が心の奥に渦巻くようにまでなった。こんなのおかしいって自分でもわかっているのだけど、気付いてしまった気持ちというのは取り止めがないほどに溢れかえってしまう。


 だから、私はこの気持ちを打ち明けるべきかどうかを考えたけど、素直に伝えてしまったら今の関係性が簡単に壊れてしまうのでは無いか、ということが頭の中をチラついて一歩を踏み出さそうとした足は臆病で白線の内側に出ることを拒んだ。


 それから数ヶ月経った時、君から話したいことがあるって連絡が来た。私は呼ばれて家の近くのファミレスに行った。ここは何度も君とご飯を食べに来たところで、顔なじみの店員さんもいた。


 私は指定された時間にファミレスに行くと顔馴染みの店員さんが、君が先に来ていることを教えてくれた。


 店内は放課後ということもあってか、ガヤガヤと賑わっていた。慌ただしく料理を作っているキッチンを横目に案内された席に座る。そこには何ら変わらない君が席に座って私を待っていた。


「お待たせ、ポテト頼んでいいかな」


 通学鞄を空いている自分の横に置く。


「そう言うと思って、もう頼んでおいたよ」


「さっすが〜」


 私はいつもここに来ると決まってポテトを頼む。私は三度の飯よりポテトが好きな人間なのだ。だから君はそれを見越して、先に着くとポテトを頼んでくれている。こういうところが好きなんだ。先々を見て行動して、人を思いやることが出来る。そんな君がとても愛おしい。


「あ、そうそう。話って何?」


「あのね、わたし彼氏が出来たんだ」


「.........えっ?」


 少しだけ恥ずかしそうにモジモジと言う君は、恋する乙女って感じで言葉が本当であるということがヒシヒシと伝わってくる。私は言葉に困惑の色を浮かべ、処理しきれない頭で言葉の意味を反芻させ、ガヤガヤとしていた店内が急に静まり返ったように聞こえる。


 どう返したらいいのか。いや、どう返したらいいかなんてわかっている。おめでとうと笑って君の背中を押すことが一番良い選択肢なのは知っている。知っているが、私の奥に居座るこの気持ちが背中を押すことを許してはくれない。なんて醜いのだろうか。


「あ、ええ?急すぎてびっくりしてなんて反応していいか分からなくなっちゃったよ」


 絞り出した言葉には祝福の言葉は無い。苦し紛れの逃げるためだけの言葉。今はそれだけが精一杯だった。


「いやあ、私も急に言うのはどうかなあって思ったんだけどさ、やっぱり誰よりも一番に言いたくて」


 君の言葉はとても嬉しかった、なのに私の胸はどうしてこんなにも痛んでいるの。針がチクチクと刺さったようで、ズシンと重たくて、君の幸せを素直に喜べないこんな私を優先してくれた。きっと、優先するべき人ではないはずなのに。


 君の言葉がだんだんと咀嚼出来て、静まり返っていた店内の音は現実も一緒に連れてきた。


「そっか........。おめでとう」


「ありがとう、このポテトは私の奢りでいいよ」


「いいの?」


「今日は気分がいいからね」


「.........なにそれ」


 気付いたらポテトは運ばれてきていた。私は大好物のポテトが来ていることにさえ気付けないほどに、言葉を飲み込むのに時間がかかってしまった。ホクホクに出来上がった熱々のポテトを一つ口に入れるといつもよりちょっと塩っぱい気がした。


 その後はポテトを食べながら適当な話をした。学校のことや、明日の授業のこと。いつのように他愛のない話を。


 ファミレスを後にして、君と別れる。遠くなっていく君の背中を見届けて、空を見上げる。空は夕陽に照らされ、雲はオレンジ色に染っていた。我慢していた涙がこぼれそうになるけど、上を向いて流れないように堪える。


 いつも君の横に立っていた私はもう立てない。そこの席は譲らなければならない、私がいていい場所じゃないんだ。そう思うと、余計に苦しくなって馬鹿なことを考えるのはよせと頭に言い聞かせるけど、聞いてくれはせず馬鹿な事ばかり考えてしまう。


 打ち明けた方がいいのではないか、と思った時に言っておけばなんていうタラレバを考えても時は戻らない。時は刻々と残酷に進んでいくばかりだ。


 別れてしまったら、別れてくれたらまた横に立てるのに、私がずっと見ていた輝かしい世界にまた戻れるのに。だから、せめて私の前では彼氏の話をしないで。


 なんて君に面と向かって言えないくせに、こんなことばっかり心の中で吐き出して。私は一体何がしたいんだろう。君の喜ぶ顔は嬉しいはずなのに、素直に祝福できなくて。あぁ、こんなことを思ってしまう自分が醜い憎い。


 そっか、これが友達以上恋人未満なのか。辛いな。


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徒花が散るとき ラー油 @ra-yu482

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