トウトキニーソ

藤泉都理

トウトキニーソ




 ポメガバース。

 ポメガは疲れがピークに達したり体調が悪かったりストレスが溜まるとポメラニアン化する。

 ポメ化したポメガは周りがチヤホヤすると人間に戻る(戻らない時もある)。

 周りの人がいくらチヤホヤしても人間に戻らない時は、パートナーがチヤホヤすると即戻る。

 ポメガはパートナーの香りが大好きだから、たくさんパートナーの香りで包んであげるととてもリラックスして人間に戻る。


 「オメガバース」の世界観を踏まえて作られた「バース系創作」のひとつである。




 俺は想像する。


 マグマが盛り固まったが如く、あの骨太で、足首も太く、筋肉隆々のあの逞しい脚に、椅子に座った相棒が、ゆっくり、ゆっくりと、焦らすように、足の指にかけて、ゆっくりゆっくりと、持ち上げて、太股の半分まで純白の透けニーソを穿く様を。


 俺は何度も何度も、想像するのだ。

 大号泣しながら。

 漆黒のポメラニアンと化してしまった相棒を前に。

 魔法使いの呪いにより、漆黒のポメラニアンと化してしまった時にしか、ニーソを装着できなくなってしまった相棒を前に。




「うえ~ん」


 ポメラニアン化してしまった相棒は、膝をついて大号泣する俺を囲うように、グルグルグルグル回り続ける。

 また、くだらない事で泣いていないで、さっさと私をチヤホヤして人間に戻せと言っているのだろう。

 ああ、わかっているわかっているさ。

 そう、急かさないでくれ。

 俺は目に焼き付けているんだ。

 ポメラニアン化した時にしか、ニーソを身に着ける事ができなくなってしまった相棒を。

 人間の時の相棒の努力の結晶である、逞しい筋肉がなかったとしても。

 細い骨に、細い肉に、もっふもふもっふもふの漆黒の毛に覆われた脚と、その上に装着された、純白の透けニーソを網膜に焼き付けているのだ。


 ああ。

 なんて。


「尊い」


 俺は大号泣しながら、厳かに座を正して、合掌した。




 相棒よ、あと一時間だけ待ってくれ。

 部下たちも急かさないで待ってくれ。

 ああ、ああ、わかっているさ。今が、兵の強化合宿中で、心身を鍛えなければいけない事はよくわかっている。重々承知だ。

 だがな、癒しも、休息も、心身強化に必要なのだ。

 わかっておくれ。











「うえ~ん!人間の時も透けニーソを穿けるように早く魔法使いを退治しような!」

「魔法使い退治は賛成だが、絶対にニーソは穿かねえ」


 大号泣しながら抱き着いてくる相棒に、人間に戻った私は何でこいつと相棒をしているんだろうと、遠い目になりながら、永遠に解けそうにない答えを考えるのであった。時間の無駄だとわかっていても、考えてしまうのだ。


「見たいよ見たいよ見たいよ俺の浪漫を叶えてくれよっ!!!」

「ええいっ!地面に転がってバタバタするなっ!」











(2024.2.25)



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トウトキニーソ 藤泉都理 @fujitori

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