小さなメルヘン

仲津麻子

小さなメルヘン

 窓を開けると、そこには小さな白い猫がいた。


屋根のひさしの端っこに、ちょこんと座って、空を見上げていた。


澄んだ空には雲が、ちぎれたパンのように浮かんでいた。


飛んできたツバメが、雲の端をついばんで、雨のしずくをひとつぶ落とした。


雨のしずくは道端のタンポポの花びらをかたむけて、蜜を吸っていた蝶を驚かせた。


驚いた蝶は高く舞い上がり、小さなしろい猫のヒゲをかすめて飛び去った。


飛び去ったあとの空には何もない。ただ小さな猫が、空を見上げているだけだった。


(麻子のひとひら小説より 窓を開けると…… 01)

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小さなメルヘン 仲津麻子 @kukiha

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