問2:バレリーナ殺人事件
ここは…立派な建物だなー。周りも貴族で溢れかえっている、服装や街並みからして前回とそう変わらないのかもな。
「ホームズ、こっちだ!」
聞き覚えのある声、ワトソンだな。
「やぁワトソン君、奇遇だね」
「奇遇…?何言ってんだよ、そっちが誘ってきたくせに。僕はバレエを見るのは初めてでワクワクしてるよ」
そうかここはバレエ会場か。まさかただバレエを見にきたわけではないな、確実に死人が出る。
「では入ろうか」
中はやはり貴族や裕福な人が多かった、見た目ですぐわかる。ステッキを持った者、派手な装飾をつけた夫人、明らかに目に見えて高そうな時計、これらが見分け方だ。彼らは主に2階のバルコニー席からバレエを観るのだろう。俺らは一階の前から10列目の席でとてもじゃないが見辛い。最前列付近は裕福な人が買ったのだろうな。
10分待ったがなかなか始まらない、時計を取り出し時間を確認する。16:00ピッタリに開始するはずがやはり10分長引いてる、まさかだが事件が起きたのか?だとすれば被害者は…
「ワトソン君、ここで少し待っててくれ」
「? どうしたんですか?」
「いや何、少しトイレへと思ってね」
俺の直感が正しければ事件は舞台裏の準備室あたりだろう。ビンゴだ。大勢のスタッフが中で言い争ってる、仕様人は部外者を立ち入れさせない為に通路を塞いでる。
「お客様、こちらより先は立ち入り禁止です」
「事件だろ、殺人事件。違うか?俺はシャーロック・ホームズだ、入れてくれ」
「シャーロックってあの有名な探偵さんの!?失礼しました、こちらへ」
案内されたのはバレリーナの着替え室だった。床に倒れているバレリーナの華やかな衣装は自身の地で真っ赤に染まっている。
「誰だ部外者を入れたのは!!」
「す、すみません!彼は巷で有名のシャーロック・ホームズさんです。もしかしたらお役に立てるかと…」
「むぅ?あのシャーロックか!?失礼しました、ミスター・シャーロック」
禿げた小太りのチビがここの管理者だろうな。
「いやいやそんな頭を下げなくても。とりあえず状況をお聞かせください」
「はい。舞台開始5分前になっても来ないセリーナを探しにここに来てみれば彼女が倒れていたのです。血も大量で脈もなく、見つけた時すでに死んでいました」
「そうか、目撃者は誰だ?」
「私です」
事情を聞くとセリーナ、今回の被害者、はお化粧を直しに行くと着替え室に向かった。それまで彼女はストレッチや運動をしていた為汗で化粧が少し取れたらしい。時間もあったし禿げた小太りの男、ダリス、は了承した。開始5分前になってもセリーナの姿が見えなかったのでダリス本人が叱りに行くつもりで着替え室に向かった、が死んでいる所を発見した。すぐさまスコットランドヤードに部下を向かわせた。そして今に至る、と。
脈はなく争った形跡はない。頭の裏に鈍器で殴られた形跡がある、死因は脳震盪だろう。
「セリーナさんが着替え室にいる間に会った可能性のある人物を連れてきてください」
「は、はぁ分かりました」
連れてこられたのはダリス、バレリーナのアニー、照明係のジョナサンそして清掃係のアントニオ。今回の事件は決定的な何かがない限り解決しない。前回に増して難しいな。
「ではこちらの応接室で事情を聞きます。一人一人どうぞ」
容疑者1:ダリス。彼の話はさっきした。それ以外に目立った言動はないが、裏でセリーナと繋がっていて、彼女が主役に選ばれたのもダリスと何らかの取引をしたからだと他のバレリーナは噂している。
容疑者2:アニーはセリーナとの仲は良好だった。だが一ヶ月前、この舞台の主役がセリーナになった事に対して不満に思い不仲になった。その後何度か着替え室で揉めあっているのを同僚に見られていて殺人には充分すぎる。舞台裏に帰る前居たのは外の喫煙所だと目撃情報がある。
容疑者3:ジョナサンは20代前半の男性で半年前から照明係として働いている。この舞台の練習中に照明をセリーナの左30cmのとこで落としていた。これが火種となりジョナサンはバレリーナから嫌われた。まぁ多分セリーナが他のバレリーナにある事ない事言ったんだろうな。
容疑者4:アントニオには明確な殺人動機はないがバレリーナの間では元殺し屋と噂されてる。顔には傷跡があったりしてるのでそう噂されるのも妥当だな。ただ今回は、着替え室の掃除をしている所にセリーナと鉢合わせただけらしい。
「証言は纏まったのか、ホームズ」
「やっとお出ましか、スコットランドヤード」
「ご苦労だった、こっからは私達ヤードが引き受ける。君は帰りたまえ」
「いや、乗りかかった船ってやつだ。このまま事件解決まで協力するよ」
「この事件には依頼人がいないのだろう?なら君としては解決しても何も利益を生まない」
「事件解決に金を求めちまったら俺の株が落ちる。というのと普通にこの事件が気になる、職業柄こういうのには興味が湧くってもんよ」
「ふむ、君のその意気込みに免じて事件解決の暁にはヤードから懸賞金を与えよう」
「そりゃありがたいな」
と言ってもだ、明確な犯行理由があるのはアニーだけだ。だからと言って決めつけはダメだ、冤罪が一番の悪だからな。可能性を全て算出しよう。
①ダリスが犯人の場合:ダリスがセリーナを呼びに行く前彼はトイレに寄っていた。だがそれが嘘で着替え室に行き何らかの理由で口論になった後セリーナを殺害してしまった。セリーナとダリスの間には黒い噂があった事からそれ関連の可能性も。ただこれだと着替え室にある者で彼女を殺した事になるがそれらしき物が元々あった或いは部屋から無くなっているなどの情報はない。
②アニーが犯人の場合:セリーナが化粧を治しに行ったのを見計らって着替え室に行き、鈍器で後頭部を殴った。その後凶器をどこかに隠し舞台裏に戻った。この場合、凶器を事前に持っていってたとしても不思議ではない。だが殺人を犯した場合衣装に返り血がつく。
③ジョナサンが犯人の場合:彼の証言は『照明の調整をしていた』だ。これが嘘の場合、彼はセリーナが着替え室に来るとこを事前に知っており、近くでスタンバイしていた。この場合凶器は工具で信憑性は高い。返り血も予備の作業服に着替えたと考えやすい。
④アントニオが犯人の場合:着替え室で偶然鉢合わせて退出間際にセリーナに小言を言われ、日々の鬱憤を晴らすために殺害した。だがこれだとダリス同様の理由であり得ない。
この中の可能性を一つ一つ排除していき残ったのがどんなに現実味がなくて、それが真実だ。まず可能性の順序をつけるなら④①③②だ、④が一番ありえなく①が可能性大。次に排除するなら確定で④と①だ。最後に…
「ホームズ!たった今凶器が見つかった!」
「なんだと!?見せてくれ!」
凶器は鉄のボールが付いたステッキだった。ボール部分に血がびっちりと付いている。
「どうやらこれの持ち主はダリスの物のようだ、他の従業人が証言してくれた」
となると①に可能性が出てくる。操作は難航知る一方だ。
「こりゃお手上げかもしんねぇなぁ」
「何を言っている?もう犯人は確定したも当然だろう?」
「冤罪かもしんねぇだろ?まだほかに可能性は残っている、それら全てが消されるまでダリスが犯人だと断定しない」
「そうかぁ。ではまだ逮捕はしない、ホームズには借りがあるからな」
「恩に着るぜ」
「だが上層部から圧力がかかるまであと1日もないはずだ。すまないがそれ以上は待てない」
「いいやそれで良い」
今回のゲームオーバーの条件は「ダリスの逮捕」で間違いは無さそうだな。なら尚更①の可能性が無くなった。凶器の入手ルートを探さないと、とりあえずダリスに話を聞きに行かないとな。
「ホームズ!」
「今度はなんだ!ワトソン君か!」
「ホームズ、さっきダリスさんが…!」
全くなんてこった。
「口封じに殺されたのか…はたまた罪の意識から身を投げたか…」
ダリスは2階から飛び降り自殺をした。目撃者はいない。ん?じゃあゲームオーバーの条件は「真犯人を逃すな」か?迷宮入りにさせてはならないということか。
「ヤード側からしたらこれは罪の意識から身投げを図った、と見える。さぁ時間はないぞ、ホームズ」
「ああ分かってる、クソッ!」
どうやってもどう考えても犯人が分からない!誰なんだ!一体誰なんだ!考えろ、新しい可能性を!手がかりがあるはずだ、どこかに絶対!
「あの、ホームズさんですよね?」
「君は…ジョナサンか。何か?」
「実は言おうと思っていたことがあって、でも言ったら僕が犯人になるのが怖くて…」
「今は何がなんでも情報が欲しい、話してくれ」
「はい、実は…」
そうかそういう事か…可能性が見えてきた。
「ありがとう、ジョナサン。君は逮捕しないさ」
あとは最後の決定打となる証拠を見つけるだけだ。考えうるのは…あそこだ。案の定見つかった。これでゲームセットだ!
「あたし何か用があって?ホームズさん」
「ああ、もちろん。君だろ?セリーナ及びダリスを殺したのは。正直に言えよ、アニー」
「何を言ってるのか分かりませんわ」
「じゃあ順をおって説明しよう。君は着替え室にセリーナのロッカーを破壊する為に着替え室に寄った、ハンマーはジョナサンの工具箱から盗んだんだろう。だがそこで偶然ダリスとセリーナがなんらこの不純行為をしているのを見た。そこで怒り狂った末に殺害、ダリスが居るにも関わらずにだ。そしてダリスを脅迫した、概ねダリスに『バラしたらお前の黒い噂も全部しゃべる。協力の印にそいつの頭をそのステッキで殴れ』とでも命令したのだろうね。そこんところは分からない。返り血で染まった衣装とハンマーを外の喫煙所の壁にある排水溝に隠し、予備の衣装に着替えた。流石にステッキは入らないので場所を移したが場所が悪かった、ヤードがダリスを逮捕すればどの道道連れにされる。だから自殺に見せかけダリスを殺した。本当に完璧な犯行だよ、ただ君はハンマーを返すのを忘れてたのと予備の衣装が無くなっているのがバレたことだ。それが決定打だった。観念しろよ、アニー。君はもう逃げれない」
「なによ、全部お見通しじゃない。名探偵は伊達ではないのね?」
「ヤードの諸君、あとは頼んだ」
これで事件解決だろう。嫉妬が人を殺す、七つの大罪を考えた奴は本当に人間の芯を見抜いていた。
『ミッションコンプリート!お疲れ様です、プレイヤー1』
また真っ白の空間に戻される、そして再認識させられる。俺は誰なんだ?
n回目の 不細工マスク @Akai_Riko
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