第44話 白ギャル黒ギャル戦争

 うまなちゃんの無事を確認したことだし、後はこの件を片付けるだけだな。

 中田博臣と西勇作は手配していた車がやってきたのでそのまま運んでもらった。残る四人は僕が乗ってきた車で家まで送ってあげることにしようかな。


 偽教会の中に入ってみると以前来た時とほとんど変わっていないことに驚いた。あれだけ好き勝手に使っていた割には壁や装飾品は傷一つなく綺麗な状態を保たれていた。

 もしかしたら、ココを神聖な場所だと勘違いしてしまっているのかもしれない。あんなに傍若無人に振舞っていて幽霊を全く信じていない中田博臣でも教会的な場所にやって来ると心が入れ替わってしまうという事なのかな。ここは教会でも何でもないのにそんな効果が有るのはちょっと意外だった。

「君、着替えとかは持ってきてないよね?」

 僕の問いかけに言葉ではなく顔の動きだけで答えた女の子のために着替えでもあればいいと思ったんだけど、ココにはそんな気の利いたものなんてないだろうな。そんな事を考えながら収納スペースになっている椅子の座面を開けるとそこにはバスタオルが何枚か入っていた。

 使っても問題なさそうなバスタオルを三枚ほど手渡すと女の子は申し訳なさそうな顔をしながら受け取ってくれた。そのまま僕が近くに居たら気まずいだろうと思って少し離れてみたところ、僕の後を付けるように残っていた男の子が近付いてきた。その表情は女の子たちよりも深刻そうに見えるのだが、それは自分が加害者だという自覚があるからなのだろうか。それなら少しは救いがあるかもしれない。

「あの、これから僕たちはどうなるんでしょうか?」

「僕たち?」

 男の子が言った僕たちという言葉に何か引っかかるものを感じてしまった。この僕たちが男の子と中田と西の三人なら納得も出来るのだが、仮に僕たちがこの場に残された四人だという意味で使っていたのだとしたら、僕はこの子を救うことは出来ないだろう。僕が許したとしても、他のみんなは許すことはしないだろうな。

「悪いのは僕と先輩達なんです。彼女たちは何も知らされていないんですよ。僕も詳しいことは何も聞いてなかったんですけど、勇作さんがどんな人かってことくらいは知ってました。その上に博臣さんがいることも知っていて僕はここにみんなを連れてきたんです。なので、彼女たちは何も悪くないと思うんです。いや、彼女たちも自分たちは平気でうまなちゃんだけが酷い目に遭うって思ってたかもしれないですけど、それもこれも僕が詩織たちにそんな話をしなければこんなことにはならなかったと思います」

「うん、君は素直でいい子みたいだね。そんな君があんな奴らのために行動する必要なんてないと思うよ。これからは真面目に行動するといいんじゃないかな。その第一歩として、君にいくつか質問をしたいんだけど正直に答えてもらってもいいかな?」

 最初はうつむき加減だった男の子も僕が彼を責めようとしているわけではないと気付いてからは真っすぐに目を見てくれていた。そして、僕の質問に対して正直に答えるという意思を伝えるように力強く頷いていた。


「つまり、君はあの二人に脅されて嫌々ここに女の子たちを連れてきたんだね」

「そうじゃないです。僕は何も聞かされてはいなかったけどココに彼女たちを連れてきたら酷い目に遭うって知ってました」

「僕は正直に答えてくれって言ったよね。君はあの二人に脅されてここにやってきたんだよね」

「いや、僕は脅されたわけじゃ」

「君はあの二人が怖くて逆らえなかったって事だよね」

「確かに、僕は勇作さんに逆らえなかったです。勇作さんが博臣さんに逆らえないってのも知ってました。でも」

「僕は君が正直に答えてくれるだけでいいんだよ。素直に答えてくれればそれでいいんだ。君は何か勘違いをしているのかもしれないけど、僕は本当の事を知りたいんだよ。それは君もわかってくれているよね。もう一度聞くけど、君はあの二人に逆らうことが出来なくてココに女の子たちを連れてくるように誘導したんだよね。中田博臣と西勇作が怖くて逆らえなかったって事だよね」

「はい」

 本当に真面目で素直ないい子だと思う。でも、真面目過ぎるがゆえに自分が悪いと思い込んでしまっているようだ。その責任をとろうという男らしさも持ち合わせている点も評価できるだろう。だが、今回に限ってはこの子に何か責任をとらせようという気持ちはない。それは僕だけではなく他の人達も同じなのだ。

「君は女の子たちが何か罪に問われるんじゃないかって思ってるみたいだけど、そんなことはないから安心してね。君たちは今まで通りうまなちゃんと仲良くしてくれたらいいからね。せっかく出来た友達なんだし、これからは表面上だけの付き合いじゃなくて不通に友達として接してくれると僕たちとしても嬉しいんだよね。それと、あの女の子たちに伝えておいてほしいんだけど、茜ちゃんや千秋ちゃんは君たちと争うつもりなんてこれっぽっちもないんだからね。うまなちゃんを取り合って戦争みたいな真似をしようだなんて思わない方が良いよ。茜ちゃんと千秋ちゃんは君の彼女がうまなちゃんと一緒にいる時に邪魔したりなんてしなかったと思うからね」

「はい、ちゃんと伝えておきます。ありがとうございます」

 やっぱり頭が良くて素直ないい子だな。僕が言いたいことをちゃんと理解してくれたみたいだ。


「このまま君たちを家まで送ってもいいんだけど、時間があるんだったら少しだけ僕の話に付き合ってもらってもいいかな?」

 車を走らせる前に確認したのは後ろに座っている三人の表情を見て反応を確かめたかったからだ。三人とも何を聞かれるのかわからなくて困っているようだが、助手席に座っている男の子が後ろを振り向いて無言で頷くと女の子たちも覚悟を決めたような顔になっていた。

「大丈夫、変なことを聞いたりしないさ。ただ、みんなには今までとちょっと違って普通にうまなちゃんと仲良くしてもらいたいってだけだよ。怖い先輩の影に怯えなくていいからね。悪い人たちと僕たちが話し合いをしてわかってもらうことにしたから安心していいからね」

 四人とも戸惑っているのは一目見ただけで理解できた。普通に考えてあんなに凶暴な人間と話し合いをするなんて無理だろう。でも、僕たちにはソレが出来る理由がある。

「そうだ、もう一つ伝えておかないといけないことがあるんだけど、四つ角地蔵で君たちは下手な合成しちゃったでしょ。あそこに居たお地蔵さんたちがみんなそれで気分を悪くしちゃったみたいなんだよね。だからと言って何かしろってわけじゃないんだけどさ、次にあそこを通る機会があったら心の中でいいんで謝っておいてね。君たちが素直に謝ってくれたらお地蔵さんたちもみんな許してくれると思うよ。まあ、百人以上いるから怒ったままのお地蔵さんもいるかもしれないけどね。でも、僕たちがちゃんとお話ししてあげるから大丈夫だよ」

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うまなちゃんはもっと感じたい 釧路太郎 @Kushirotaro

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