第43話 黒ギャルと悪魔の家
明らかにいつもと違う様子の茜ではあるけれどどう見ても茜にしか見えない。私には幽霊に取り憑かれたとしか思えないのに愛華ちゃんに聞いても取り憑かれている人特有のオーラが無いので違うという事だ。
そうなると、この茜が本来の茜であって私と一緒にいたときの茜が別人だという事なのだろうか。そんな事は信じられないし、愛華ちゃんもどっちが本物の茜なのかわからないと言っている。
偽教会の入り口に立って先ほど車にしたように扉をドンドンと蹴っている茜の様子は何度見ても信じられないのだけど、完全に幽霊か悪魔に取り憑かれてしまっているようにしか見えなかった。
「悪魔の家に近付いたから茜が悪魔に取り憑かれたって事はないのかな?」
「さすがにそれはないでしょ。この家もあ熊の家って言われているけど本当に悪魔を呼び出しているわけではないからね。この家の持ち主である中田博臣が悪魔みたいだって言われてることからついた名前みたいだよ。でも、この家に取り憑いている幽霊は茜ちゃんの事を嫌がってはいないみたいなんだ」
「それってどういう事なの?」
「私にもわからないけど、中にいる幽霊が茜ちゃんを招き入れようと鍵を開けようとしているみたいなんだ。もちろんそんなことは出来ないんで努力しているだけって感じなんだけど、それをやっていることで中にいる人に何らかの影響は与えるはずだよ」
無言で扉を蹴り続けている茜は全く体がブレていなかった。あんなに体感が良かったんだと感心していると鍵が開く音が聞こえてゆっくりと扉が開いた。
わずかに開いた扉に強引に手を伸ばした茜はそこに立っていた男の顔をわしづかみにして外に引っ張り出すと、顔を掴んだまま膝蹴りを何度も男のお腹に入れて抵抗出来ない状態にしてから手を離してそのまま後頭部を掴んで顔面を何度も殴りつけていた。
中田博臣にしたときのように相手の意識が無くなっても殴ることをやめない茜を止めようとしたのだけれど、私も愛華ちゃんもあまりの迫力に動くことが出来ずにただ黙って立ち尽くしてしまっていた。
茜は何度も何度も顔を殴っていたが、時々私たちに対して何かを訴えるような目を見せていた。それを見た私は茜を止めようとしたのにもかからわず体は私の意志とは別に動こうとしなかった。愛華ちゃんも口元を手で押さえたままその場で固まってしまっていたのだ。
「それくらいにしておいた方が良いと思うよ。さすがに人殺しはまずいと思う」
いつの間にか私たちの後ろにいた清澄さんが声をかけると茜は動きを止めてジッとこちらに視線を送っていた。私とは目が合わなかったし愛華ちゃんの方を見ている感じでもなかったので清澄さんの事を見ているのかと思ったが、茜の視線は私達よりも少し上に向いていたような気がしていた。
「そこまで痛めつければ十分じゃないかな。それ以上の事は僕たちが責任をもって行うから今日のところは勘弁してやってほしい。中田博臣も僕たちが回収して閉じ込めておくからね」
「そうだね。このままここで殺しちゃったら大変だもんね。後は君たちに任せることにするよ。こいつらを殺しても殺さなくてもどっちでもいいんだけど、反省してもらえるように頑張ってもらえると嬉しいかな」
「もちろん。こいつらには今までしてきたことを反省してもらう事にするよ。大丈夫、僕たちが説得すればちゃんとわかってもらえるからね。君たちは安心してくれていいからね」
清澄さんと話をしているのは茜なのに茜じゃないように見えてしまう。見た目も声も話し方も私の知っている稲垣茜なのに、どう聞いても清澄さんと話をしている内容からは茜だと思えなかった。
茜は男の人の髪を掴んだまま扉を開けて中に向かって話しかけていた。
何を警戒しているのかわから羅ないが、茜は男の人の髪を掴んでいる左手も何も持っていない右手も両方とも力が入っているように見えた。
「ねえ千秋、うまなちゃんの事を助けてあげてよ」
「なんで私に言うのよ。あんたが行けばいいでしょ。って、あんたはここに入りたくないんだったね。入りたくない意味がわかんないけどさ、別に私は気にしたりしないから。連れてくるのはうまなちゃんだけでいいのよね?」
「うん、愛華ちゃんの車はあと一人しか乗れないし、青木たちは誰か他の人が迎えに来るでしょ」
「分かった。じゃあ、私がうまなちゃんを連れてくるけど、本当に私は入って大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫。変なのはみんな私の持ってるこいつを見てるから」
「うわ、そういうの教えてほしくなかったわ。じゃあ、私は気にしないようにするわ」
「ゆっくりでいいからね。どう、立てそう?」
恐る恐ると言った形で茜の横を通って偽教会の中を見ると、うまなちゃんの近くにみんな揃っていた。
青木たちも青木の彼氏も見たところ怪我なんてしているようには見えなかった。後ろをチラッと振り返ると茜は相変わらずあの男の人の髪を持ったまま私の事を無表情のまま見つめていた。私はなるべく茜の事を気にしないようにしながらうまなちゃんのそばに近付いてそっと腰に手を回して立てるように介助した。
うまなちゃんを支えてゆっくりと外へ向かって歩いていると青木が私に話しかけてきた。
「ちょっと待って、私たちの事置いてかないでよ」
「置いていくも何もあと一人しか乗れないんだって。それにさ、おしっこ漏らしているような人をそのまま車に乗せたくないって」
同い年の女の子がおしっこを漏らすのを見るのなんて一生に一度もないとは思っていた。でも、今年はそんな経験を二回もしてしまうなんて思わなかったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます