我天心酔の最終回!己が道、求め進むが万物流転! その①
リーシャ先輩が展開した「闇」のエレメントによって――
私の周囲は紫色の瘴気に包まれた。
見た目はこれまでの屋内プールと変わらない。
けれど、さっきまで近くにいたはずのウルカ様や、エルちゃんの姿は見えなくなっていて……プールサイドも、プールも、白い壁も、床や天井も、いずれもネガ・ポジが反転したようなサイケデリックな色合いとなっている。
「闇」の
「ここから出るためには、ユーア君は私との
「ウルカ様から聞いてたのと同じ……!」
ウルカ様は「闇」の勢力によって操られていたアマネさんと戦うことになったらしい……ダメージが実体化し、敗者が「闇」の手先に変えられてしまう
でも、それって要するに――
「私が勝てば、リーシャ先輩を元に戻せるっていうこと!
ならば、受けて立ちます。
「さて……君は生き延びることができるかな?」
互いの決闘礼装にカードをセットする。
展開された召喚陣――互いのメインサークルに精霊が出現した。
「ファースト・スピリット、
《聖輝士団の一番槍》を召喚です!」
「ファースト・スピリット……
《水舞台の蕾、ステイメン》を召喚だ」
私の前に現れたのは、
「光」のエレメントをまとう少女騎士――
《聖輝士団の一番槍》。
対して、リーシャ先輩の前に現れたのは、
華麗な舞台衣装を着た男装の
「(これが、リーシャ先輩のデッキ!)」
「リーシャ・ダンポートが宣誓する。
私が勝てば、君はここで終わりだ――
魂をいただくぞっ!」
「ユーア・ランドスターが宣誓します!
私は勝ちます!勝って、先輩を助けますっ!」
これよりアンディ
精霊は汝の元に、
牙なき身の爪牙となり、
いざ我らの前へ――
「光」と「闇」の果てしないバトル――
その最初の火ぶたが切って落とされた!
「「――――
先攻:リーシャ・ダンポート
メインサークル:
《水舞台の蕾、ステイメン》
BP1600
後攻:ユーア・ランドスター
メインサークル:
《聖輝士団の一番槍》
BP1900
先攻はリーシャ先輩――!
「私のターン!」
リーシャ先輩は左手に装着された亀の甲羅を象った決闘礼装に手を伸ばす――デッキに指先が触れると、紫色の瘴気が一段と濃くなった!
「まさか……!」
「第二種イディオット・プロット発令――
デーモンズ・ナイト・ドロー!」
運命を手繰り寄せる黄金の奇跡、
フォーチュン・ドローとは似て非なる技巧。
運命を改竄して「闇」のカードを手中に収める禁断の業!
漆黒に輝くアーチを描いて、
リーシャ先輩は必殺のカードを手札に収める。
私は息を呑んだ。
「来るんですねッ……!」
リーシャ先輩は薄ら笑いを浮かべた。
「たった一枚で――
《Final Act『
「闇」のオーラをまとうスペルカードをリーシャ先輩が発動すると、そこから噴き出した瘴気が先輩のファースト・スピリット――《水舞台の蕾、ステイメン》へと襲いかかった。
男装の
リーシャ先輩は謳うように唱えた――
「ウミガメのスープよ――その一滴は我の血肉。
かぐわしき喜び、夕べの悦びよ!
おまえがいれば何も要らない――
わたしがいれば何も
おお、ウミガメのスープよ――その一滴は我の全て!
我天心酔の最終回――
《「
「モック・タートル……!?」
黒い影は丸くなると、姿を変貌させた。
これって――
「亀の……甲羅、ですか?」
先攻:リーシャ・ダンポート
メインサークル:
《「
BP1111
後攻:ユーア・ランドスター
メインサークル:
《聖輝士団の一番槍》
BP1900
空中に浮かぶのは、手足も首も無い、がらんどうの亀の甲羅。
甲羅が腹を見せると、そこは鏡となっていた。
鏡には私の周囲の風景が――プールサイドが映っている。
けれども、どうしてだろう?
私に正面を向けているはずなのに……私の姿は映らない。
鏡面が水面のように波打つと、
そこに現れたのは……リーシャ先輩だった。
「先輩……?でも、どうして?」
「この私こそが主人公だからだよ。舞台の上で、万雷の拍手を受けてスポットライトを一身に受ける存在――この世界の主人公は、私だ。断じて君などではない……!」
主人公?
唐突な言葉に、私は困惑した。
「リーシャ先輩は、何を言っているんですか?」
「おやおや。ウルカ・メサイアやイサマル・キザンに聞いていなかったのかい?」
リーシャ先輩はくっくっ、と忍び笑いを漏らす。
「この世界はね……乙女ゲームなんだよ」
乙女ゲーム。
たしか、そういうゲームジャンルがあるのは知っている。
私が生まれ育ったムーメルティアは、精霊魔法の素養を持つ者が少ない代わりに、魔道具の開発に優れた産業立国だ。中でもゲームメーカーは人気の産業で、私も子供の頃はよく携帯ゲーム機で遊んでいた……。
とはいっても、乙女ゲームに関する知識は多くない。
たしか、よくあるのは――
「平民の女の子が、たまたま特別な才能があるばかりに貴族の子女が通う学園に入学することを許されて、カッコいい貴族の男の人たちにふーんオモシレー女……と見初められて、くんずほぐれつムフフのフでいやーん……みたいなやつですよね?」
「いや、言うほどそういう作品は多くないよ。まぁ、それはさておき」
コホン、とリーシャ先輩は咳払いをした。
「さっきの境遇を聞いて、どこかピンと来ないかな?」
「ピン……?」
「ピンと来るどころか、ウンともスンとも来てないようだね。いいかい、『平民の女の子が特別な才能があるばかりに貴族の子女が通う学園に入学することを許されてイチャコラ』……だよ?もう一度聞こう。どこか……ピンと来ないかなぁ?」
「ギャフン」
「ピンと来いってば!誰がギャフンと言えと言ったんだ!?」
ピン、と人差し指を立ててリーシャ先輩は言った。
「この境遇、どっからどうみてもまんまユーア君のことじゃあないかッ!」
「はっ、言われてみればそうですッ!」
たしかに私は平凡な平民だけど『光の巫女』としての才能――「光」のエレメントを操ることができる力があることで、この「学園」に入学を許されたんだった。
言われてみれば、乙女ゲームっぽい……。
あれ、でも、おかしい気がする。
「私はカッコいい男の人とイチャコラなんてしてませんよ?」
「それは君が勝手にウルカ・メサイアにうつつを抜かして、本来の攻略対象たちをガン無視してるからだろうがッ!」
「ひんっ!」
リーシャ先輩は肩を揺らして、ぜーっはーっと息を整えて叫ぶ。
「この世界は乙女ゲーム『デュエル・マニアクス』の世界でぇ……
ユーア君、君はその主人公であるプレイヤーキャラクターなんだよッ!」
「な、なんですってぇーーーっ!?」
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