第七回「プレミアムカードの殿堂」

《「執筆の化身」Sandmann》

ここは本編とは異なる時空。


星空が広がる銀河の海を、お菓子の列車が走っている。

さて、その列車の食堂車にて。


星空を映す窓辺に寄りかかり、ふかふかの客席に座って居眠りをする少女が一人。

そこにコック服姿のお菓子職人パティシエールが立つ。


お菓子職人パティシエール――

アマネ・インヴォーカーは苦笑して、少女を揺すった。


「ウルカ様、ウルカ様。起きてくださいまし」


「ふわぁ……あら、アマネちゃん?」


「お目覚めですわね、寝坊助さん。

 ほらほら、アップルパイが焼き上がりましたわよ?」


「アップルパイ!?

 私、アップルパイ大好き!」


ウルカ・メサイアの前に焼き立てのパイが供された。


香ばしい茶褐色のパイに包まれたリンゴの甘煮プリザーブ

半透明に透き通った甘煮プリザーブは一口大になるように丁寧にいちょう切りされており、てかてかと艶光りするリンゴの果肉からほんのりとシナモンの香りが漂っている。


見ているだけで美味しそう。

寝起きであることも忘れて、ウルカは満面の笑みで手を合わせた。


「いただきます」


フォークをアップルパイに伸ばすと――ひょい、とパイが逃げ出した。

伸ばしたフォークは空を切る。


「あれ?」


「パイはお預けですわ。ウルカ様、なにか大切なことをお忘れではなくて?」


「忘れてること……?あったかしら」


アップルパイが乗った皿を手にして、アマネは腰に手を当てた。


「今回の『デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど「カードゲームではよくあること」よね!?』は、本編とは異なる番外編。各章で活躍したカードを紹介する『プレミアムカードの殿堂』、その第七回ですわよ?」


「言われてみれば、そうだったわね」


前回の第一部・第七章では『プレミアムカードの殿堂』をお休みして、禁止制限改訂の発表をしたため――『プレミアムカードの殿堂』の開催は久々となる。


そのあいだに外伝のコラボエピソードも急に挟まったし。


アマネは「うふふ」と意地の悪い笑みを浮かべた。


「そういうわけで、さっさとウルカ様は読者の皆様にカードを紹介してくださいまし。それが出来るまではデザートはお預け、で・す・わ♪」


「えー。もう、仕方ないわね……」


ウルカは一枚のカードを手にした。


「それなら、ちゃちゃっと済ませようかしら」


「はい、そういうわけでこのコーナーでは、各章で活躍したカードの中で最も絢爛華麗プレミアムなカードを紹介していきますわよ」


「といっても、実は前回の第二部・第Ⅰ章は総集編ということもあって、新規登場したカードは少ないのよね……ということで、紹介するカードはこちら!」


ウルカは手にしたカードを指先でひっくり返す。

今回、殿堂入りとして紹介されるカードの名は――


幻想ダークスピリット、

 《「執筆の化身ザクリエーション・スクリプター」Sandmann》!」




《「執筆の化身ザクリエーション・スクリプター」Sandmann》

種別:ダーク・スピリット

エレメント:闇(※)

タイプ:フェアリー/アーヴァタール

BP0


【閉幕】

 このカードはデッキに入れることができない。

《Final Act『付焼刃の創作論リミテッド・フェアリーテイル』》の効果でのみ閉幕できる。

 閉幕条件:カード名にお菓子の名称を含むスピリット1体


効果:

閉幕時効果カーテンフォール・エフェクト

領域効果[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]を付与する。


メインシークエンスに1度まで、インタラプトとして以下の効果を発動できる。

「自身の手札を全て捨てる。この効果を発動したターンが自分ターンの場合、相手はこの効果で捨てたカードと同じ枚数まで手札を捨てる」


(※)「闇」のエレメントを持つスピリットは相手のカード効果では破壊されず、また、「光」のエレメントを持たないスピリットとの戦闘では破壊されない。(プレイヤーに対する戦闘ダメージは適用される)




ウルカはあらためてカード効果を確認した。


「……なんというか、盛り盛りね!」


アマネは得意げに云う。


「うふふ、ドカ盛りですわっ!まぁ、【閉幕】した時にフィールドに領域効果を付与する効果はダーク・スピリットの共通効果ですし、「光」のスピリットの戦闘以外への破壊耐性は「闇」のエレメントを持つスピリットならみんな同じですけども」


「【閉幕】って?」


「ああ!そういえば、ちゃんと説明してなかったですわね。「闇」のエレメントを持つダーク・スピリットは、いずれもデッキに入れることができないカードなんですのよ。普段は暗黒物語世界ダーク・ゾーンと呼ばれる特殊な次元に存在していて、一部のスペルカードの効果によって場のスピリットを素材にすることでのみ呼び出すことができますの」


アマネのエース・スピリット――ザントマンの場合。


フィールドに存在する「お菓子の名称を持つスピリット」(本編では《カスタード・プリンセス》)をコストにして発動した《Final Act『付焼刃の創作論リミテッド・フェアリーテイル』》によって、ザントマンはゲームの外にある領域から出現し、創造化身アーヴァタールとしてアマネと一体化した。


「闇」の決闘者デュエリストはデーモンズ・ナイト・ドローと呼ばれるドロー操作によって、確実に手札に『付焼刃の創作論リミテッド・フェアリーテイル』を引き込むことができる……


この組み合わせにより、1ターン目から確実にエースで攻めることができるわけだ。


「ゲーム外領域からのスピリットの召喚……やばいわね。

 インフレの気配がしてきたわ」


ウルカが前世で何度も見た光景である。


デッキの外にあるゲーム外領域――ここに強力なカードを置くことで、手札事故を減らしながら必要に応じてカードを使用することができる――そういった要素が追加されたことでインフレが加速して、ゲームバランスがめちゃくちゃになることも……カードゲームではよくあること、なのだ。


それを聞いて、アマネは唖然とした。


「ええっ!?じゃあ、これからぶっ壊れカードがバンバン登場するんですの!?」


いや――とウルカは思案する。


「とはいっても、ねぇ。よく考えたら、この作品では敵も味方も当たり前みたいにフォーチュン・ドローで好きなカードを引いちゃうし。ゲーム外領域からのカードの使用も、序盤の時点でアスマが《コスモグラフィア・アリストクラティカ》で実現していたし。インフレを気にするのは、今更かもね」


「敵も味方も当たり前に……って。そうは言っても、ウルカ様はフォーチュン・ドローが使えねーんですのよね?」


「そ、それは言わないでちょうだい!……大丈夫よ、次に強敵と戦うときまでには会得するから。パワーアップイベントがきっと来るわ!」


「そうですの。ところで、ウルカ様には残念なお知らせですわ。次回の第Ⅱ章で決闘デュエルするのは、ウルカ様ではなくユーアさんですのよ」


「そうなんだ。私のパワーアップは、まだ先ってことかしら。

 でも、ユーアちゃんの決闘デュエルも楽しみだわ!」



アマネは「じゃあ、カード紹介も終わったことですし」と言って、

温かい焼き立てアップルパイの皿をウルカに提供した。



「ありがとうね、アマネちゃん。それじゃあ、いただきます!」


「ドルチェ、ドルチェ♪わたくしもご一緒しますわ」


食堂車のテーブルに着席し、二人は手を合わせてパイを食べる。



そんなこんなで、新キャラも増えたところで。

次回はテコ入れを越えたテコ入れ、なんと、水着回である!




「水着美少女の祭典、待望の水着回よ!

 ☆5ガチャに限定実装、☆4キャラも無料配布!


 ……は、しないけれど。ともかく。

 あざとい衣装でのテコ入れも、美少女コンテンツではよくあること、よね!?」

 

「……この世界って原作は乙女ゲームなんですのよね?

 なんだか、美少女の比率が多すぎませんこと!?」




(本編に続く!)

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