第Ⅱ章[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]

海水浴がやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!

サマーシーズン到来!


毎年、アルトハイネス王国では7月下旬に「海開き」が行われる――

沿岸部の観光地にとっては、まさに書き入れ時。


海水浴やレジャーを目的とした観光客たちが押し寄せて、現地では大変な騒ぎになるという……海無し国のムーメルティアで生まれ育った私にとっては、海がある国というのはそれだけで馴染みが無い存在ですね。


とはいっても、この「学園」があるレーネ地方は沿岸部からは程遠い内陸に位置するため、気軽に海水浴ができるような立地ではないのですが……そう、本来なら。



おっと、申し遅れました。



私は『光の巫女』ユーア・ランドスター。


義理の兄で大切な家族であるお兄様を追って「学園」に入学して、イジワルな侯爵令嬢に目をつけられました。ウルカ様の嫌がらせに対応していた私は、背後から近づいてくる彼女の取り巻きに気づきませんでした。


私はウルカ様の取り巻き――アマネさんにデッキをいじられて、気がついたら……。

寄生虫カードを仕込まれていたっ……!


このまま嫌がらせを続けられたら、お兄様やまわりのお友達にも危害が及びます。


アスマ王子の助言で決闘デュエルを挑むことにした私は、ウルカ様にアンティを聞かれて、とっさに「退学」を賭けることになり、彼女に勝つために「光」のスピリットの力を借りることにしました。


では、ここで私の仲間を紹介しましょう。


まずは《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》。

死して尚、勇猛果敢を誇る戦士たちの魂――エインヘリアルの管理者であり、彼らの魂を解放することで力を継承することができます。


その召喚時効果サモン・エフェクトは、召喚した時に墓地から除外したスピリットの数の500倍までBPを上昇できるのです!


次に、《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》。

ランドグリーズ同様に、大神オーディンに仕える銀の聖戦士――こちらは墓地からスピリットを2体除外するたびにBPをアップする力を持ち……さらに、その効果はなんと自分フィールドのスピリット全体に及びます!


全体強化――墓地から「光」のスピリットを配置する効果を含めて、墓地のカードの消費こそ激しいものの、1体でゲームに勝てるほどの力を持っているわけですね。


最後に、《輪廻の剣、ワルキューレ・スヴァーヴァカーラ》。

このワルキューレは……そうですね、少し、特殊なスピリットとなっています。


「ユーユー?」


スヴァーヴァとカーラ――異なる二人のワルキューレが、どうやら一枚のカードに収まっているようです。

お兄様が伝承を調べてくれたところ……


「ユーユーってばぁ!」


「はっ!」


気づくと、目の前には一人の少女がいた。


鮮やかな新緑を思わせる髪色。

以前は肩まで伸びるような長さのツインテールのウィッグを着けていたけど、今は地毛を伸ばし始めたということで、低めのところにツインのお団子ヘアを作っていた。


年相応という感じで、この髪型もキュートだ。


少女――エルちゃんは「にひひ」と八重歯を見せて私に笑いかけた。


エル・ドメイン・ドリアード――

イサマルさんが率いる聖決闘会カテドラルのメンバーの一人。


聖決闘会カテドラル最強の決闘者デュエリストであり、更には弱冠10歳にして「学園」への飛び級入学が認められた天才児――「学園」内における最強集団『ラウンズ』でも上位の序列を誇っている。


エルちゃんとは一学期では色々ありましたが――

今となっては、私の大切なお友達です。


――で。


「ほらほら♪おきがえしたなら、早く早く!

 ウルウルが待ってる待ってる!」


「わわ、でも、私はまだ心の準備が……!」


私の手を引っ張って、エルちゃんが駆けだす。


更衣室を出て、姿の私たちは連れ立って廊下を走った。


夏休みということで、人通りの少ない校内――本来なら、向かう先は水泳の授業をするための屋内プールなのだが――今日にかぎっては、行き先が違った。


太陽が燦燦と輝く校庭に出る。

間もなく、私の前に「絶景」が飛び込んできた。


見渡すかぎりの水平線の向こうまで、澄みきった青がそこにある。



――まるで、海だ。



本来、レーネ地方は「学園」の生徒たちが精霊魔法を学ぶために最適な立地――すなわち、森が生む「地」の魔力、高原が生む「風」の魔力、山が生む「火」の魔力、そして湖が生む「水」の魔力――四大元素のエレメントが調和した土地となっている。


ところが、この光景はどうだろう?


今の「学園」は「水」のエレメントで溢れかえっていた。

校舎や学生寮だけが小島のように浮かび上がり、辺り一面は水没している。


まるで海水浴をしたい学生のために、海の方から出張してきたみたい。


エルちゃんは「わぁー♪」と声をあげた。


「すごい、すごい!

 ボクは”きせい”してたけど、もどってきて大正解!」


凹凸の無い体型を包むエルちゃんの水着は、

子供らしく可愛らしいフリルがあしらわれたパステルカラーの青いワンピースだった。


水着には赤・緑・黄の三色の花柄がプリントされている――

ワンピースの青を加えれば四大元素と同じく四色。


四元体質者アリストテレス

四元素すべてを操る天才児らしいエルちゃんのアイデンティティが光る逸品です!


エルちゃんのお家は貴族だけど、懐事情は厳しいとか――きっと、この水着は海水浴(?)を楽しみにするエルちゃんのために親御さんたちが奮発してくれたんですね。


エルちゃんは両手を広げてはしゃぐ。




「にひひ。ユーユーも、こっちこっち!」


【水辺のエレメント・マスター】

 エル・ドメイン・ドリアード

 ☆☆☆☆☆

 属性:水

 必殺:【アクア・コンバート】

 パッシブスキル:

 選択したカードによってサイクル終了時まで属性を追加する。




私も、エルちゃんに続いて外に出る。


――うう、やっぱり恥ずかしい。


急に海水浴、なんて言われても、水着を用意する時間が無かったし。

それに私は元々……


「(でも、せっかく誘われたんですし)」


ええい、ここまで来たら行くしかありません!


私は学園が水泳の授業用に指定している――

飾りけの無い紺色のスクール水着のまま、エルちゃんに続いた。




「ま、待ってくださーい、エルちゃん!」


【夏の日差しの救世主】

 ユーア・ランドスター

 ☆☆☆☆

 属性:光

 必殺:【は、恥ずかしいです…】

 パッシブスキル:

 【水着】の決闘者デュエリストの回避確率を35%アップ!

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