コラボ編、完結! 文学フリマ東京39をお楽しみに

調子に乗ったミラミスくんはオリパを再販売することにした。

これはチャンスである!


「よし、作戦通りにいくわよ」


「ほんまに上手くいくんかいな……

 けど、やるしかないか」


金欠の私に代わって、イサマルくんはオリパを十口フル購入した。

(侯爵令嬢なのに、どうして私が金欠なのかって?詳しくは本編を読んでね)


不安そうな面持ちのイサマルくん。

けど、上手くいくはずよ……たぶん。


「私がミラミスくんのオリパ――『ブラインド・フォールデッド・ゲーム』を解明できたのは、イサマルくんの完全記憶能力のおかげなんだから。当のイサマルくん本人が自信を持たなくて、どうするのよ」


「あの詐欺師の手口がわかっても、作戦が上手くいくかどうかは別問題やろ?」


「そこはシオンちゃんを信じましょう」


作戦のためにシオンちゃん――私のメイドをしてくれている相棒に連絡を取っておいた。《アントレギオン》のカードを渡してあるし、きっと大丈夫。



物欲に負けた生徒たちによってオリパ第二弾も完売。

主催者のオリパ師、ミラミスくんもホクホク顔のようだ。



「ええ、ええ。それでは当たりくじの開封をいたしましょう。前回とは別の……そうそう、あなたにお願いしましょうかねぇ」



ミラミスくんはパックを購入していない生徒を一人、選んだ。

利害関係の絡まない第三者――とは言っているが、確実にミラミスくんが仕込んだイカサマの共犯者だろう。


人の山をかき分けて、ひときわ目立つ女生徒が進み出た。


「あら……あの人なら見たことあるわ。

 たしか上級生、「学園」でも有名な人よね」


薄めのマリンブルーの頭髪をショートカットに整えた、スタイルの良い眉目秀麗な美人である――白と翠で彩られた「学園」の制服、翠色のプリーツスカートと、お椀のような胸のふくらみから女性であることは一目瞭然だが、その目鼻立ちと背丈は中性的で、どこか女子校の王子様じみた雰囲気が漂っている。


本物の王子様であるアスマよりも、この人の方がよほどそれらしいかも。


「誰だったかしら。

 ちょっと、名前が出てこないけれど」


「ウルカちゃん、それよりも作戦や、作戦!」


「……そ、そうだったわね!」


いけない、いけない。

私はあらかじめ練習していたセリフを披露した。


「ちょっと待ちなさい、ミラミスくん!」


私が水を差すと、ミラミスくんは面倒そうな顔をする。


「なんですぅ、ウルカ様?」


「あなたのオリパには、不正の疑いがあるわ」


不正だって――!?と、生徒からどよめきが起きた。

ミラミスくんは居丈高に云う。


「購入後のクレームは受け付けていないんですがねぇ。というか、今回のウルカ様はあたしのオリパを購入していない……言ってみれば、無関係の部外者でござんしょう。それなのに金も出さずに口だけ出すとは。流石は鼻つまみ者の「寄生女王」――いやはや、素行の悪さは評判どおりといったところで」


ええい、それは確かに正論!

こうなったら無理を通して道理を引っ込めるわ。


どうせ悪役令嬢ですものね。


「黙らっしゃい!さっきのオリパを見ていて思ったのよ。当たりくじを引くたびに一枚ずつ見せていく――その手法では当たりくじを操作する余地があるんじゃないかって。だから、今回は10枚のくじを全て引いた後で、一度に公開する方法にしてちょうだい!」



私が提案したルール変更は以下の内容である。

全部で九十九口のオリパに対して十口の当たり――生徒たちが購入したオリパに対応する十枚の当たりくじを、一枚ずつ引くたびに公開していくのがこれまでのルール。

ルール変更後は、一度にくじを十枚引いて、それから公開する。



私がそう言うと、周囲の生徒たちは首をかしげ始めた。


「な、なぁ……俺、馬鹿だからわかんねぇんだけどよぉ。一枚ずつくじを引いていくのと、十枚一度にくじを引くのって何が違うんだ?」「よくわからんけど、それで不正が防げるらしいぜ」「なんで?」「さぁ?」「???」「???」


ふふふ、どう?

ルール変更の意図が全然ピンと来ないでしょう!


これは私の狙いどおり。


案の定、ミラミスくんも腑に落ちていない様子だ。


「ええ、ええ。あたしは別にどちらの手法でもかまいませんがね」


「どっちでもいいなら、これでお願いするわ!」


「えぇ……」


しぶしぶ、ミラミスくんは了承したようだ。



☆☆☆



ミラミス・ミラーゲートは思案する。


「(この女……予想よりもポンコツだったのか?)」


ウルカ・メサイアの提案は、ミラミスにとって全く困るものではなかった。

一枚引こうが、十枚引こうが関係ない。


オリパを販売した時点で、すでに客の中に仕込んだ身内に行き渡った番号は全て把握しており、くじを引く協力者がその番号に合わせたくじを捏造するだけなのだから。


後は、協力者に十種類の番号を伝えるだけ。


となると――


「(悪くない提案だ。向こうから不正を防ぐためのルール変更を申し出て、あたしが変更を了承したならば、客観的にフェアな印象を与えることができる)」


実際は、意味がないルール変更だというのにな。


――買いかぶりだったか。


この「学園」にオリパの文化を持ち込み、生徒たちを熱狂の渦に叩き込んだオリパ師――ロフト・ナイトヘッドに、ミラミスは脳を焼かれていた。


オリパを買うたびに感じるひりつき。

オリパを開封するたびに満ちる欲望。


淡い期待が、甘ったれた理想が砕かれた客の慟哭。

怨嗟の声。

一切の希望が打ち捨てられた棄望郷の主人、それがオリパ師である。


そもそもオリパは商品として成立していない。

ギャンブルですらない。

客が「勝つ」ことはありえないのだ。


何を当たりにするか、何をハズレにするか――

良いも悪いも制作者しだい。


なぜ、オリパに騙される?

どうして、オリパを買おうとする?


結局のところ、客は本気で勝とうとしていないのだ。


ひょっとしたら……どうせなら……あわよくば……そんな「勝ち気」未満のナマの欲望だけで、客どもは浅ましくオリパを買い求める。


当たった人がいるから。還元率が高いから。

バリバリにお買い得だから――お笑い種だ。


オリパにアドなど存在しない。


見せかけのアドバンテージなど……

オリパ師が仕掛ける目くらましに過ぎないというのに。


――ミラミスもまた、敗北者だった。


ロフト・ナイトヘッドが販売する魅力的なオリパを買い求め、見事に玉砕し、爆死した。実家のお金を持ち出して、父親や兄にはしこたま怒られた。殴られた。


ロフトが消えたことで、ようやく自分の敗北を噛み締めることができた。


「(しかし……あたしは無料タダではやられない)」


授業料は支払った。


ならば、今度はこちらが食う側に回る番だ。

そのためには通過儀礼が必要となる。


聖決闘会長――イサマル・キザンも厄介な障壁だが、それ以上にウルカ・メサイアを完膚なきまでに敗北させる必要があるのだ。


なぜなら、ウルカ・メサイアだけがこの「学園」において、ただ一人、ロフト・ナイトヘッドに土をつけた女なのだから。



「あたしはロフトの旦那を超える。

 ウルカ・メサイア……お前を倒すことで!」



ミラミス・ミラーゲートは虚飾のゴールド――

金メッキの扇子をかかげて、人だかりに宣言した。


「皆さま、お待ちかね。

 お待たせしました、一番目のくじを引いてください!」


さぁ、引くんだ……



☆☆☆



ミラミスくんが口上を述べると、当たりくじが生徒の手によって引かれた。

くじは公開されずに、そのまま伏せられる。


私はくじを引いた生徒の手に注目していた。

王子様のような風貌の美人の先輩――

彼女は明らかに親指を隠して紙片を手にしている。


「やっぱり、あの人も「やって」るわ。鉛筆か、あるいはインクペンか……短くしたペン先のようなものを親指に装着して、箱からくじを引くときに白紙のくじに番号を書いているみたい」


このイカサマを封じるのは簡単だ。


箱の中身をあらためるように要求すればいい――中のくじの数は、購入されたオリパの数と合わないはず。


だけど、そんな要求をしてもミラミスくんが呑むわけがない。

何かの言い訳をして、賭場をたたむだけだ。

元より『ブラインド・フォールデッド・ゲーム』はオリパが完売しないと場が成立しないというルールで興行されている。場が不成立になるのは、よくあること。


イサマルくんは問いかける。


「くじを引く瞬間に、共犯者のイカサマを押さえるんじゃダメなんか?」


そこで親指に仕込んだペン先が見つかれば、動かぬ証拠にはなる。

けれども――


「ミラミスくんの共犯者はマジシャンじみた手先の訓練を積んでるはずよ。そんな人を押さえようとしても、どんな早業で証拠を隠されるかわからないわ」


「それもそうやね。なら――この手がベストか」


ミラミスくんはもったいつけた口上を言いながら、十枚のくじを生徒に引かせていく。やがて――十枚のくじが裏向きにセットされた。


くじが公開される――直前に、イサマルくんが前に出た。


イサマルくんは目を閉じたまま、空中から釘を抜くような動作をする。

突然の奇行に、周囲の生徒たちや、ミラミスくんは唖然となっていた。


私は知っている。


ペグメソッド――

イサマルくんが習得している記憶術だ。


「自宅」のような自分にとって馴染み深い領域を脳内に再現し、そこにある物品に記憶の情報を釘で打つように紐づけていく――そうすることで、頭の中で釘を引き抜くたびに仮止めしていた記憶を引き出すことができるのだ。


イサマルくんは語りだす。


「くじを引く生徒がイカサマの共犯者、ってとこまではわかってたんや。オリパを購入していた客ん中に協力者がおって、そいつが購入したオリパに相当するくじを引かせる、っちゅうところまではな。わからんかったのは、どうやってくじを引く担当にオリパの番号を伝えとったか、やな……」


「ええ、ええ。な、なにを言うかと思えば。

 困りましたねぇ。何を証拠にそんなことを」


「証拠なら、あるで。ここにいた生徒がみんな


そう、聴いていたのだ。


落語家じみた服装に、もってまわった口上。

ミラミスくんの奇矯なふるまいは、伊達や酔狂ではない。


全ては衆人環視の中で、協力者にオリパの番号を伝えるため。


私もイサマルくんの隣に立ち、生徒たちに云う。


「前回のオリパで、くじを引かせるときに――ミラミスくんがこう言ったのを、みんなは覚えてるかしら?『それでは、どうぞ』って……」


そう問われると、生徒たちは「言われてみれば……」と呟く。


私だって、全部は覚えていなかった。

正確に覚えていたのは、イサマルくんの記憶術のおかげだ。



「これは「10」のくじに対応しているわ。『それでは』は「1」、『どうぞ』は「0」に対応しているのよ」



ミラミスくんは口上を利用していたのだ。



『それでは』『どうぞ』は「1」「0」

『お待たせしました』『これより』は「8」「3」

『さて』『いざ』は「2」「5」

『待ってました』『いよいよ』は「6」「7」

『いきましょう』は「9」

『皆さまお待ちかね』『それでは』は「4」「1」


対応表は以下の通りになる。


『どうぞ』→「0」

『それでは』→「1」

『さて』→「2」

『これより』→「3」

『皆さまお待ちかね』→「4」

『いざ』→「5」

『待ってました』→「6」

『いよいよ』→「7」

『お待たせしました』→「8」

『いきましょう』→「9」




ミラミスくんの伝達システム(ミラミス・システムと呼ぶべきか)の全貌を公開すると、生徒たちは驚きの声をあげた。


「気づいたきっかけは「33」のくじ。ゾロ目の場合は同じ暗号が二連続になるから、ミラミスくんは『これより』『これより』と語っていたわ。それがどうにも語呂が悪くて、引っかかってたのよね」


それと、ミラミスくんの口癖。

彼は時折「ええ、ええ」と言う癖があるが、口上のときは一度も言わなかった。


口癖を口上に混ぜると暗号の濁りになるから――

おそらくは意識的に封印していたのだろう。


イサマルくんも続く。


「オリパが全部で九十九口なんも、当たりくじが最大で二桁の数字に収まるための工夫やね。まぁ「100」だけ専用の暗号を用意してもよかったやろうけど」


「くじを引く担当の負担が大きいから、できるだけ機械的に処理できるようにしたんでしょうね。例外処理が増えるほど、手順は複雑になる……くじを引く際に番号を記入するというのは繊細な作業ですもの」


全てを暴かれたミラミスくんは、憤怒の表情を見せた。


「ふざけるなよ……!口上が数字に対応してるだと?誰がそんなことをわざわざ覚えてるっていうんだよ!なぁ、なぁ、なぁ!おい、お前らで誰か一人でも、あたしの口上を完璧に覚えてるやつがいるかぁ!?いねぇよ!いるわけがねぇ!そんなもん、会長が勝手に言ってるだけだろうが……!」


「たしかに、オリパを買うときは魔法でズルが出来ないように誰も決闘礼装を出さないようにしていたものね。録音していた人はいないと思うわ」


「そうだろうがよ!……いや、待てよ。まさか、口上をメモしていたとでも言うつもりじゃねえだろうな。それだって、お前らが勝手に書いただけかもしれないだろ!」


「メモの必要は無いわ」


私はくじを引いていた女生徒に云う。


「ねぇ、そろそろ当たりくじを公開してちょうだい」


女生徒は「うん、構わないよ」と言って、十枚のくじを公開した。


一枚目のくじは――「24」


それを見たミラミスくんの顔がひきつった。


「……へ?」



☆☆☆



ど、どうして。


「24」だと?

馬鹿な、ありえない。


ミラミスは頭を抱える。


――あたしは確かに言ったはずだ。


『皆さまお待ちかね』『お待たせしました』――

くじの番号は……「48」のはずなのに!



☆☆☆



購買部の向かいの校舎の屋上に、

クラシカルなメイド服姿の少女が立っていた。


「……マスターは荒いね、人使いが。ううん、精霊使いかも」


シオン・アル・ラーゼス――

知性を持つスピリットである彼女は、決闘礼装を展開して昆虫型のスピリットを召喚している。


召喚されたスピリットは《アントレギオン》。


アリ型の小さなスピリットの群れはシオンの傍らに集い、葉っぱをかじりながら、キュルキュルと奇妙な音を立てていた。



――ハキリアリと呼ばれる昆虫がいる。


名前のとおりに葉っぱを切る習性を持つアリである。熱帯雨林に生息する彼らは、巣の中でキノコの一種を育てることで知られている。アリが切った葉っぱは巣へと運ばれて、キノコの餌となるのだ。育ったキノコは、今度はアリの餌となる。


高度な社会性を持つハキリアリには、他のアリでは見られない特異な生態が存在する――彼らは音でコミュニケーションを取るのだ。


木を削り、叩き、葉を切り、音を打ち鳴らす。


これらの音は数十種類以上に分類され、それぞれが異なったコミュニケーション上の意味を持つとされている――



シオンは無表情のままで《アントレギオン》を見下ろした。


「本機が解析したミラミスの音声に対して、それを打ち消すような逆位相の音声をマクシウム演算で算出。ミラミスに向けて指向性マイクの要領で放ち、音を打ち消す……その上で、合成したミラミスの声に似せた音声を連続射出……よくやったね。みんな、かっちょいい!」


シオンが拍手すると、アリたちもカチカチと音を立てて喜んだ。


「たっぷり褒めてもらおうね、マスターに。

 本機も楽しみ」



☆☆☆



公開されたくじは――

「24」「4」「52」「63」「98」

「1」「42」「57」「32」「9」


この番号は全て、イサマルくんが購入した十口と符号する。



「ふざけんな!リーシャ……てめぇ、俺たちを裏切ったのかよ!」と、生徒の一人が怒号をあげた。ミラミスくんの協力者として、オリパを購入した生徒なのだろう。


リーシャと呼ばれた女生徒――くじを引いた彼女は、肩をすくめた。


「裏切る?なんのことかな……私は、事前にミラミス君に受けた指示どおりにやったまでだよ。しくじったのは、君たちの方なんじゃないかな?」


「なっ……く、くそっ!」


「あ、あたしが……ハメられたってことですかい」


憔悴するミラミスくんたちに、私は言った。


「リーシャ先輩を責めるのはお門違いよ。だって、この人は「利害関係の絡まない第三者」……なんでしょう?」


結果としては「利害関係の絡まない第三者」から、イサマルくんが全面的に利益を受けたことになる……それを認めても、認めなくても、不正が行われたのは明白。


生徒たちも困惑していた。

その大半は何が起きたのかわかっていなかったが……


オリパ師が、自分たちをコケにしていたことだけはわかる。


この状況に、生徒たちにも火が点いた。


「流石にやべぇ……」「金だろ」

「いやマジで、金だろ、普通に!」

「おい、やってるってぇー!」

「金」「金!」「金ぇ!」


周囲は騒然となった。


返金を求める生徒たちがミラミスくんに殺到する!


その様子を見て、イサマルくんが青くなった。


「おいおい、大丈夫かいな……。

 アイツ、殺されるんちゃうか?」


「ミラミスくん、決闘礼装を装着したみたいね。

 波動障壁バリアーがあるから大丈夫でしょ」


とはいえ、これだけ滅茶苦茶になってしまってはオリパどころではない。

どうやら、せっかく当てた高額カードが手に入ることは無さそうだ。


「ともあれ、これだけの証人がいれば揉み消すことは不可能だろうし。先生にも報告しやすいんじゃないかしら」


「うん。生徒のために働くんは聖決闘会カテドラルの本分やからね、これでウチも一安心や」



程なくして、購買部からオリパショップが消えることになった。


ミラミス・ミラーゲート――

彼がその後、オリパ師を名乗ることは無かったという。


オリジナルパック、縮めてオリパ。


普通に嗜むだけならたわいの無い遊びであっても、商品が高額レアカードともなれば、たちまち人間の射幸性を煽るギャンブルとなってしまう。


かつて、私と出会ったオリパ師はこんなことを言っていた。




「利益や勝利を求めてオリパを買ってはいけない」




決闘者デュエリストの皆さんも、オリパを買うときには計画的にね?




<外伝コラボエピソード 了>

----------------------------------



作者です。

そんなわけで、外伝コラボエピソードは以上となります。


オリパは、遊びで買うには楽しいものですが、やりすぎは禁物です。

高額商品を謳うようなオリパには、特に注意ですよ!


今回のエピソードに登場した「ロフト・ナイトヘッド」という人物についての詳細は『カードゲーム大好き作家アンソロジー』収録の外伝『オリパ師たち』にて!


文学フリマ東京39で頒布予定です。

拙作の他にも粒ぞろいのアンソロジーとなっているので、よろしくお願いします!


ちなみに今回の途中で出てきた『推理しない三流探偵アルフィー、ヴィクトリア朝時代を闊歩する』という作品は、作者の別名義で発表したミステリ小説です。

本作品にもオマージュキャラが登場していたりするので、興味がある方はぜひ読んでみてくださいね!



(あとがきって楽しいね。キャラとも対談したかったな)

(もう、ええでしょ)

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「あはは、ずいぶんと大変なことになったねぇ」


私の元にやってきたのは、リーシャ先輩。

ミラミスくんと協力して当たりくじを引く細工をしていた人だ。


「た、他人事みたいに……あなただって、グルだったんでしょう?」


「まぁね」と、リーシャ先輩は右手を広げた。

予想通り、親指にはペン先のようなものが装着されている。


「やっぱり!」


「とはいえ、私が引いた当たりくじはイサマル君の買ったオリパと符号したからね。どちらかと言えば、私は君たちとグルだったように見えるんじゃないかな?」


それもそうかもしれない。

実際、この人はミラミス君の協力者であるにも関わらず、返金を求める大騒ぎからはちゃっかりと距離を置いていた。


要領の良い人なのだろう。調子の良い人かもしれない。


「どのみち、私はミラミス君の味方というわけではないしね。ただの雇われさ」と言って、リーシャ先輩は一枚のカードを取り出す。


「それは……」


カードのイラストに描かれたのは、麗しの舞台衣装を着た人魚姫だった。


「《水舞台の花形、デンドロビウム》――」


「良いカードだろう?これが報酬だったのさ。

 あはは、早く決闘デュエルで使うのが楽しみだよ」


そう言って、喧騒から逃れるように踵を返す――と。


振り返って、リーシャ先輩は言った。


「そうだ、ウルカ君。君はユーア君と仲が良いんだって?」


「ええ、そうね」


「聞くところによると、大の親友、心の友、マブダチだとか」


「そうよ。姉妹同然の仲と言っておこうかしら!」


「それは重畳。ユーア君によろしくね」


去っていくリーシャ先輩を目で追って、イサマルくんは呟いた。


「なんや、あの人。ユーアちゃんの知り合いなんか?」


「さぁ……聞いたことはないけど」


ここで「あっ」と思い出した。


「そうだわ、『水上の美麗姫エトラン・シース』!

 あの人、水泳部のエースの人よね?」


「今頃、気づいたんか?リーシャ・ダンポートって言ったら、去年の国民大会でも優勝して、卒業後はアルトハイネス代表は間違いないって言われとる有名人やんけ」


「そうね……でも、どうして急にユーアちゃんの話を?」




この時の私は、まだ知らなかった。


ユーア・ランドスター――

『光の巫女』に訪れる、恐るべき闇の刺客の影が既に迫っていたことを。




Next Episode.Ⅱ

『[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]』

→ To Be Continued…

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