ウルカ・オリパ対決 夏の陣!(後編)
『ブラインド・フォールデッド・ゲーム』、開幕――
「ええ、ええ。まずは第一回。一人、十口まででございます。さぁ、さぁ、早いもん勝ちですよぉ」
店主であるミラミスくんの手によって、オリパの当たりとなるカードが発表されると……高額かつ強力なレアカードの数々を見て、生徒たちの感嘆の声が響きわたる。
「おい、あれって《
ミラミスくんが用意したレアカードは、どれも名のある貴重なものばかり。
仮に生得属性が合わなかったとしても、手に入れば一財産となるだろう。
あからさまに怪しいオリパだというのに、すでにお札を握りしめた生徒たちがミラミスくんの元へと殺到している。
高額カードというものは、人を狂わせるもの……
本来なら、生徒たちもこんなに簡単に騙されることは無いだろうに。
――流石は四大侯爵家、ミラーゲート家の財力といったところね。
私は腕を組んで、ため息をつく。
「権力ってやつね。気に入らないわ」
「いや、ウルカちゃんもこの世界では侯爵令嬢やろ」とイサマルくんに突っ込まれたが、気にしないことにする。
――そういえば。
「規制がどうとか言ってた生徒がいたけれども。
デュエマニの世界って、規制とかあったのかしら?」
「ウルカちゃんは知らんかったんか。
規制っちゅうんは、一部の大会でのローカルルールやね」
「大会ごとにカードの禁止制限があるってこと?」
「せやで。たとえば、夏に開かされるDDD杯あたりやな。あの大会では主催者の三国が合同で使用禁止カードや制限カードを決めとる。大会の趣旨が国家間の交流と、平和の象徴である
強力すぎるカード――
そう聞いて、真っ先に思い浮かんだのは幼馴染の顔だった。
「たとえば、アスマの《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》みたいな?」
「アスマくんの【ドラコニア・キングダム】デッキなら無規制のはずやで。たしか」
「無規制ですって?あれほど強力なデッキは無いでしょう!?」
「大会を主催する三国――アルトハイネス、イスカ、ムーメルティアの中でも『スピリット・キャスターズ』の創始国である世界最強国家――アルトハイネス王国は最も発言力が強い。忖度か、あるいは圧力か……これもまぁ、政治ってやつやね」
そんなぁ……!アスマのデッキが無規制だなんて。
せっかく、アスマにぎゃふんと言わせるチャンスだと思ってたのに!
「権力ってやつねぇ、気に入らないわぁ……!」
「せやから、ウルカちゃんも侯爵令嬢やろ……って、そんなことよりも。そろそろ販売を締め切るみたいやね。とりま、一口は買っておかないと検証にならないからウチは買いに行くよ!」
「あっ、待ってイサマルくん!」
とりあえず、私は宣言していたとおり一口だけ。
イサマルくんは様子見で三口ほど購入したらしい。
物欲に突き動かされた生徒たちによって、オリパは完売した。
『ブラインド・フォールデッド・ゲーム】は完売が前提となるオリパである。
完売しない場合は不成立となって全額が返金となるシステムだ。
ひとまず場が成立したことで、場には弛緩した空気が流れる。
私は手元を確認した。封をされた包みを開けると、中には「34」と手書きされた紙片が封入されている。さて――ミラミスくんはどう仕掛けるか。
「販売されたオリパは全部で九十九口。当たりとなるカードは10枚だったから、レアカードが当たる確率はざっくり1/10ってところかしら」
「百口じゃないから正確には1/10にはならないけど……ううん、どうして百口にしなかったんやろ?」
「さぁ?」
ミラミスくんなりのこだわりなんだろうか。
そんなことをしていると、人だかりから一人の生徒が前に出る。
オリパを購入しなかった生徒――利害関係の絡まない生徒として、当たりくじを引く生徒たちが選抜されたようだ。
当たりのレアカードには「一」から「十」の番号が振ってある。
それぞれに対応するくじを今から引くらしい。
ミラミスくんは金メッキの扇子を閉じて、声を張る。
「それでは、どうぞ!
「一」の当たりくじの発表でございます!」
選ばれた生徒が、くじの箱に手を突っ込む。
取り出したくじの番号は――10!
こちらも購入したオリパ同様に手書きの文字だ。
私の番号は「34」だからハズレである。
イサマルくんを見ると、無言で首を横に振った。
どうやら、イサマルくんの三口もハズレらしい。
まだまだ、あと九口ある。
ミラミスくんは「お待たせしました、これより「二」の当たりくじです!」と云う――ふたたび生徒が引いたくじは「83」――またもハズレ。
「さて、いざ、「三」の当たりくじです!」
くじの番号は「25」だ。
――ええい、これもハズレだわ!
「待ってました、いよいよ「四」です!」
当たりくじは「67」――ハズレ!
「いきましょう!「五」のくじの番号は!?」
……今度は「9」!
それからも、ミラミスくんは次々と発表していく。
「五」、「六」、「七」、「八」――
いずれもハズレ。残念だけど、かすりもしない!
「皆さまお待ちかね、それでは「九」です!」
「九」のくじは――「41」!
「また、ハズレだわ……!くっそぉ……!」
とうとう、最後の「十」のくじ。
ミラミスくんはたっぷりともったいつける。
「これより……これより、「十」の当たりくじでございます!」
生徒が最後に引いたくじは――「33」!
私は「あーっ!お、惜しい!」と思わず声をあげてしまった。
イサマルくんは私のお腹をちょんちょん、と扇子でつつく。
「ちょいちょい、ウルカちゃん。キミ、本来の目的を忘れとらんか?」
「目的?目的はレアカードを当てることでしょ」
「ちゃうわ!あのオリパ師とかいうヤツが不正をしとらんか見張ることやろ!」
「そういえば、そうだったわね……」
レアカードと聞いて、カードゲーマーとしての前世の血が騒いでしまった。
イサマルくんは「まったく、ウルカちゃん……真由ちゃんは普段は冷静なのに、カードゲームとなるとテンションが変になるんだから……」と云う。
「それを言ったら、イサマルくん……しのぶちゃんだって、前世ではオリパ師のトリックを簡単に見破ってたじゃない。今回はどうなの?」
「せやねぇ」と言いながら、イサマルくんはハズレパックを引き換えた。
「まず、考えられる可能性の一つは――聖決闘会長であるウチが見張ってる今回だけは不正をしなかった場合、やね」
「普段は不正をしているけれど、今回だけは真っ当にオリパを売ったってこと?」
イサマルくんは頷いた。
――なるほど。
可能性としては考えられる。
というか、普通の詐欺師ならそうするだろう。
だけど、バリトク中山を知る私の見解は違う。
オリパ師には常識は通用しないのだ。
「ありえないと思うわ。ミラミスくんはバリトク中山の後継を名乗っている……オリパ師の後継をね。オリパ師にとっては、むしろ他人を騙すチャンスを逃さないはず」
「でも、見抜かれたら先生にチクられるんやで?」
「そうなったら、先生も騙すだけよ。オリパ師はね……お金を儲けるためとか、そういう当たり前の利益を求めてオリパを売っているわけじゃないのよ」
彼らが求めるのは、相手を騙すスリル。
お客を騙し、破滅させ、苦しむところを眺める愉悦。
オリパ師の目的とは、すなわち快感――エクスタシーにあるのだ。
イサマルくんは「ようわからんけど」と呟き、
「……ちゅうことは、ミラミスの阿呆は確実に不正をしとるってことか」
今度は私が頷く。
「ええ。そう考えてみると、不正がやりたい放題のシステムよね」
『ブラインド・フォールデッド・ゲーム』では、利害関係の絡まない第三者がくじを引くというシステムになっている。
「利害関係の絡まない第三者」……それをどうやって証明するというのか?
選ばれた生徒は、単にパックを購入していないというだけだ。
あらかじめミラミスくんが仕込んでいた生徒だとしても不思議はない。
「それでも、わからんことがある」とイサマルくん。
「生徒を仕込んだとする。くじを購入した身内の番号を当たりにする――けど、あのシステムのフォーチュン・ドロー対策は確かのはずやで」
「それは……イサマルくん自身が確かめたってこと?」
「うん。今のウチの運命力なら、1回ぐらいはできるから。でも、ダメやった。フォーチュン・ドローは不発……つまり、ウチがくじを買った時点では当たりは確定してなかったわけ」
「くじを購入した時点では当たりくじが確定していなかった……それなら、当たりくじの操作はくじの購入後に行われたってことよね?」
私は選抜された生徒がくじを引いた箱を見つめた。
「たとえば、あの生徒がくじを引くときにフォーチュン・ドローを使って、身内が購入したオリパと同じ番号のくじを引いた、とか……」
「くじは全部で九十九口やで?『スピリット・キャスターズ』のデッキかて45枚なのに、倍以上の数や。そこから任意のくじを10回連続で引くなんて……アスマくんみたいなバケモンか、ユーアちゃんみたいな主人公補正でもなけりゃ不可能やろ」
「それもそうね……いや、ちょっと待って」
――くじを引く必要なんて、無いのかもしれない。
くじが引かれた箱のうち、ハズレくじは公開されていなかった。
それなら、くじを引いたのではなく……
「くじを書いたんじゃないかしら?」
白紙の紙片を箱の内側にあらかじめ仕込んでおく。
くじを引く生徒は、親指に脱着できる鉛筆の芯などを装着しておいて、くじを引くときに番号を書いてくじを引く。
指に装着した鉛筆はくじの紙片で隠せばいい――
イサマルくんは扇子のお尻で掌を叩いた。
「なるほど!それならフォーチュン・ドローは要らんわな」
「この方法が用いられたとしたなら……
考えるべき謎は一つね」
ミラミスくんは、身内が購入したオリパの番号を選抜した生徒に知らせたはず――だからこそ、生徒はそのくじの番号をピンポイントで書くことができる。
だが、当たりくじは少なくともイサマルくんがオリパを購入して以降に確定した。
衆人環視の状況で……
ミラミスくん一味はどうやってオリパの番号を伝えたのか?
私は周囲を見回した。
「決闘礼装……は、誰も装着してなかったわよね?」
「ウチが目を光らせてたで。ウチの記憶が正しければ、オリパ販売の時には決闘礼装を着けてた者はおらん。つまり、精霊魔法の線は消えた」
「イサマルくんの記憶力なら、信頼してるわ」
イサマルくん――しのぶちゃんは、前世から特殊な記憶術を習得していて、疑似的な完全記憶能力を有している。
前世でバリトク中山のオリパを攻略できたのも、その力あってのことだ。
「――ということは、イスカの始原魔術はどう?あれなら、カードや決闘礼装を用いなくても魔法が使えるわ」
「始原魔術を行使するには、カードは不要やけれど、代わりに呪詞が必要になる。まぁ、一種の呪文みたいなもんやね。それに魔力にも不自然な動きが発生する……始原魔術を修めた者として断言するけど、それもありえへんな」
「精霊魔法でもなければ、始原魔術でもない……それなら、もっとアナログな方法なのかも。ほら、イサマルくんは『推理しない三流探偵アルフィー、ヴィクトリア朝時代を闊歩する』っていう小説を覚えてる?」
「あったなぁ、そんなん。
カクヨムで公式連載しとったミステリ小説やん」
「知る人ぞ知る名作よね。
作者が無名だから、知名度は高くなかったけれど」
『推理しない三流探偵アルフィー、ヴィクトリア朝時代を闊歩する』――
19世紀のイギリス、ヴィクトリア朝時代を舞台にしたミステリである。
https://kakuyomu.jp/works/16817330656345975799
電信技術、近代競馬、ニューゲート監獄といった当時のイギリスのカルチャーを絡めた一癖も二癖もある難事件を「推理しない探偵」を自称する男が解決する物語だ。
「あの作品の第二章では、
「暗号……サインか。野球とかでもよくあるやつやな」
この方法なら、魔法を用いずとも仲間の買ったオリパを伝えることができる。
イサマルくんは熟考するが、しばらくして、首を横に振った。
「……無理やね。少なくとも、身振りや手振りに怪しい動きは無かったで」
「でも、考え方は間違ってない気がするのよね」
身振りや手振り以外にも、暗号を送る方法があるのかもしれない。
それはひょっとしたら単純で、意外なほどに大胆な……
「――わかったわ」
不自然だと思った。
「(ミラミスくんには口癖があるはずなのに……あのときは言わなかった。いいえ、言えなかったのね!)」
それに、イサマルくんには疑似的な完全記憶能力がある。
きっと私の仮説……推理が正しいことを証明できるはず。
「ねぇ、イサマルくん。
思い出してほしいことがあるのだけれど……」
☆☆☆
「聖決闘会長が目を光らせてるんだぞ!?
今日はこれ以上は欲張らない方が……」
「……おい!」
「ええ、ええ。普通の詐欺師ならば、これで充分と引くところですが……あたしはオリパ師ですからねぇ。挑戦とあらば受ける他ないでござんしょう」
バリトク中山の口真似をして、ミラミスは笑う。
「最もディスアドバンテージで、
最もデッドヒートで、
そして最もデザイアなオリパで――
あたしは『ラウンズ』に勝利してやるよ……!」
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