ウルカ・オリパ対決 夏の陣!(中編)

「お運びありがとうございます。

 あたしのオリパショップへようこそ~」


「……ミラミスくん!

 貴方、オリパ師になっていたの?」


驚いた。

オリパショップの店長を務めていたのは、私のクラスメイトだ。


「ウルカちゃん、知り合いなん?」と問いかけたイサマルくんに、私は頷いて答えた。ミラミスくんは貼り付けたような営業スマイルで私たちを観察している。


ミラミス・ミラーゲート――


「学園」の一年生。

アルトハイネス王国の四大侯爵家の一つ「ミラーゲート家」の三男坊。


「ミラーゲート家の家業は、たしか貿易商だったわね……」


「おっしゃるとおり。こうやって、あたしがオリパ師をしているのも……将来に向けた、一種の社会勉強ってやつでござんすねぇ」


ミラミスくんは白と翠で彩られた「学園」の制服――夏らしい半袖の上から、イスカの落語家じみた和風の半纏を袖を通さずに羽織っていた。

手にはギラギラと金色に輝くメッキ色の扇子。

――これは、彼のオリパ師としての衣装なのだろうか?


イサマルくんはあからさまに鼻白んだ。


「なんや、このイスカかぶれの兄ちゃんは」


「ちょっと、イサマルくん!」


初対面なんだし、言い方ってものがあるでしょ!


イサマルくんの無礼な発言に対しても、

ミラミスくんは張り付いたような笑みを崩さない。


「ええ、ええ。構いませんとも。なにせ、相手がイスカの若殿様……将軍家嫡男のイサマル・キザンともあれば、あたしなんて「かぶれ」ですからねぇ」


さて――と、人だかりに向けてミラミスくんは語りかけた。



「こいつは盛り上がって来ましたよぉ!


 『ラウンズ』序列第八位のイサマル様に、

 『ラウンズ』序列第六位のウルカ様――


 「学園」の頂点に立つ決闘者デュエリスト集団のメンバーが一度に二名もご来店でぇす。こいつぁ、あたしの店も今日かぎり、店じまいの時が来たかもしれませんねぇ。いやはや、年貢の納め時はまさにこのこと……」



ミラミスくんは金扇子を閉じて、よよよ、とわざとらしく泣き真似をする。

途端に、周囲からブーイングが飛んだ。



「どうしてオリパショップにラウンズがいんだよ!」「フォーチュン・ドローはオリパ購入では禁止ですよね?」「店のレアカード全部抜くってこと!?」「横暴だー!」「流石、無法は悪役貴族コンビのお家芸だな!」「出てけーっ!」「出禁だ出禁!」「夏休みだというのに帰省もせずに二人きりで購買部デート……やっぱり、ウルカ・メサイアはイサマル・キザンと付き合っていたんだあああああっ!!!」



うう……そういえば私もイサマルくんも、どっちも「学園」では嫌われ者だったんだったわね……!っていうか、最後の人は何?


ざわめく生徒たちを、ミラミスくんは「どうどう」となだめる。


「なぁに、冗談でございます。心配無用。いくら『ラウンズ』と言えども、このお二人では玉石混交の「石」ですからねぇ」


「……何やと?」


「それはどういう意味よ、ミラミスくん」


「言葉のとおりですよ。一口に『ラウンズ』と言っても、アンティを悪用した初見殺しで成り上がっただけの「三日天下」のイサマル様と――それと、どんぐりの背比べでしかない「寄生女王」のウルカ様。お二人なら出禁にするまでも無いでしょう」


商人らしい揉み手をしながらも、ミラミスくんは不遜な物言いをする。

これは……あからさまな挑発である。


「イサマルくん、止めましょう。

 こんなお店でパックを買うことは無いわよ」


「いいや――ウチは買わせてもらうわ」


イサマルくんは手元から扇子を取り出すと、ミラミスくんに突きつけた。

ミラミスくんは嬉しそうに金扇子を広げる。


「ええ、ええ……!

 これは、大口のお客様が釣れましたねぇ……!」


これは良くない流れだ。


今のミラミスくんはオリパ師――あのロフト・ナイトヘッドの技術を全て受け継いだ正統後継者である。


きっと、売ってるオリパだってろくなものじゃない。

パックを買う人を陥れるような、何らかの罠が仕掛けてあるはずだ。


「イサマルくん、こんな人の挑発に乗っちゃダメよ」


「ウチは挑発に乗ったわけやないで。今のウチは「学園」の生徒のために働く聖決闘会長や……ミラミスのオリパが不正なものだったとしたなら、それを見極めて先生たちに報告する義務がある」


「……聖決闘会カテドラルとしての仕事ということね」


「せやで。新生・聖決闘会カテドラルは正義の組織に生まれ変わった。ウルカちゃんやユーアちゃんのお陰でな。そのことを知らしめるためにも、オリパ師を見過ごすわけにはいかへんのや!」


「そういうことなら、私も協力するわ。

 二人でオリパ師を倒しましょう」


私たちは頷き合った。


ミラミスくんはその様子を可笑しそうに眺める。



「ええ、ええ。心外ですねぇ……他人様をまるで詐欺師か何かのようにおっしゃる。あたしのオリパは公平で公正ですよ。そのことをわからせてあげましょうねぇ。本日、販売するオリパは――『ブラインド・フォールデッド・ゲーム』!」



ブラインド・フォールデッド・ゲーム――

子供がやる目隠し遊びのことである。


ミラミスくんはホワイトボードを取り出し、ルールを説明し始めた。



まず、お客さんはミラミスくんからオリパを購入する。

購入する際にはパックそのものではなく、二桁の数字が書かれた引き換え用紙を購入することになる。

引き換え用紙の数字を確認したら、対応するオリパを店から受け取る。

オリパには価値の低いカードが封入されたハズレパックも含まれるが、中には希少価値の高いレアカードが含まれた「当たり」も存在する――


ここまでは、通常のオリパとそう仕様は変わらない。


ミラミスくんは「ここからが重要です」と前置きした。


「ええ、ええ。今回のゲームで重要となるポイントは、お客様が購入した時点では「当たり」のパックがどの数字に該当するかが決まっていない点にあるのですよ」


「購入した時点では「当たり」が決まっていない……ですって?」


「お客様が購入を終えて、パックが完売した時点で改めて「当たり」の番号を決定します。ここにいる生徒たちの中で、パックを購入していない人物――つまり、利害関係が絡まない第三者にくじを引いてもらい、そこで「当たり」の番号を決定するわけでございます」


イサマルくんが「へっ」と毒づいた。


「わからへんな。公平で公正なオリパ、っちゅうんなら――どうして、そんな複雑な手順を挟む必要があるんや。どうせ、なにか仕掛けを仕込むためなんやろ?」


いや……ミラミスくんがこの手順を挟む意図はわかる。


、ということね」


「ええ、ええ!流石にウルカ様は理解が早いですねぇ。「三日天下」のバカ殿様……もとい、若殿様に説明してくれると助かりますが」


「ウルカちゃん、どういうことや!?」


「フォーチュン・ドローは運命力を行使して、望むドローを引き当てる力。仮に最初から「当たり」が設定されていたなら、オリパを購入する際に「当たり」を引き当てることは『ラウンズ』ともなれば難しくないわ……」


アスマのようなトップクラスの決闘者デュエリストなら、それは前提。

もっとも私に関しては独力ではフォーチュン・ドローは使えないし、イサマルくんにしても例の「旧校舎」での一件以来は成功していないようだけれども。


けれども――


ミラミスくんのオリパは、フォーチュン・ドローを潰す。

オリパを購入した時点では販売者であるミラミスくんを含めて、この世の誰も「当たり」を知らないのだから……当然ながら、フォーチュン・ドローは使えない。


理想を引き当てる奇跡を現実にするのがフォーチュン・ドロー。

黄金の奇跡を手にする魔法。

しかし、目指すべき理想が何処にもないのだから――

伸ばした手は、どこにも届くことはない。


黄金の簒奪者――

ミラミス・ミラーゲートの奇跡殺し。


なるほど……


「……ロフト・ナイトヘッドの正統後継者を名乗るのも、伊達や酔狂ではないってことね」


「名乗ってませんがねぇ。というより、あたしは既にロフトの旦那を凌駕したと自負しておりますよ。さぁ、買いますかぁ?それとも、買いませんかぁ?」


答えは決まっている。


決まってはいるが……

私はお財布を取り出して、しばし逡巡した。



「とりあえず、一口くださいな!」



ミラミスくんは口上で応える。



「グッド。それでは……東西東西 、これより、当店特別オリジナルパック『ブラインド・フォールデッド・ゲーム』の販売開始にござりまする。この度、お歴々の方々、ご贔屓の方々、いずれの皆様方も、隅から隅までずずずいっと――乞い願いあげ奉りまするぅ……」

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