外伝コラボエピソード

ウルカ・オリパ対決 夏の陣!(前編)

作者です。


突然ですが、2024年12月1日開催の文学フリマ東京39にて頒布される『カードゲーム大好き作家アンソロジー』(主催:獅子吼れお)に、本作の外伝が掲載されることになりました。」

(詳細は作者のTwitter(現:X)アカウント[@arcnight101]にて)


アンソロジーに収録される外伝――

題名は『オリパ師たち』。


外伝掲載を記念して、

今回は普段とは違う特別編を公開します。


では、本編へどうぞ

----------------------------------



「たとえば、ウルカちゃんがフィリップやったとしてやな」


「フィリップ?」


「ほら、そういうヒーローが昔おったやろ。

 菅田将暉の」


「なんだ、仮面ライダーの話ね。

 私、あんまりヒーロー番組は見てなかったのよ」


私と一緒に歩いているのはイサマルくんだ。


日本人形のように切り揃えられた桃色のおかっぱ頭に、目が合うと恥ずかしくなっちゃうくらいに愛らしい天使の美貌。「学園」指定の制服ではなく、いつも春を思わせる桜柄の着物をまとった小柄な童子――この子が女の子ではなく男の子だとは、言われなければ誰にもわからないだろう。


イサマル・キザン――

一年生でありながら「学園」の聖決闘会長にして、

正体は私と同じ転生者である。


乙女ゲームオタクの幼馴染、玉緒しのぶ。


イケメンが大好きなしのぶちゃんは、当然ながら前世でも特撮ヒーローものに詳しかった……あの手の番組は、まだ売れる前の若手俳優にとっての登竜門だからだ。


イサマルくんは扇子を取り出して扇ぐ。


「でな、そのフィリップが相棒の翔太郎に言うんや。

 『僕たちのビギンズナイトを思い出す……』みたいなことを」


おかしいやろ?とばかりに、イサマルくんはけらけらと笑った。


――ビギンズナイトですって?


「何なの、そのバットマンビギンズとダークナイトの融合体みたいな単語は」


「要は映画の宣伝や。同時期に、ちょうど二人の出会った夜を描いた『ビギンズナイト』っちゅうエピソードを収めた映画が公開したんでな」


TVシリーズを観ているお客さんへの宣伝。

できれば劇場へ足を運んでくださいね、ということか。


「出会いの夜、始まりの夜だからビギンズナイト。

 なんだか、言わされてる感がすごいセリフだわ」


「せやろぉ?それがシュールでなぁ。へへへ、普通は自分たちの出会った夜をわざわざ『ビギンズナイト』なんて固有名詞で呼ばんやろ!っていう」


「なるほどね……あら?」


廊下の先の購買部に人だかりができていた。


日用品や文房具の他に、購買部では王国が公式に販売しているカードパックも販売している――とはいえ、夏休みで帰省している生徒も多い中でも随分と盛況だ。


ひょっとしたら、新弾の発売日……?


「ううん。どうやら、オリパを売ってるみたいね」


オリジナルパック、縮めてオリパ。

公式に販売されたカードパックではなく、個人や店舗が自作したカードパックのことである。傷あり商品や在庫処分品が含まれるため、その分だけ通常のカードパックよりも当たりが魅力的に設定されていることが多い。


まぁ、この世界のカードは丈夫だから「傷あり商品」なんて無いし――せっかく強力なカードを引いたとしても、決闘者デュエリストの生得属性や実力によっては、せっかくのカードを扱えないようなことも多々あるのだが。


イサマルくんは可愛らしく唇を尖らせる。


「オリパ。元の世界で真由ちゃんが――ウルカちゃんが言うてた、あの胡散臭い詐欺みたいな商品のことかいな」


「中には健全なオリパだってあるわよ。……ところで、原作の購買部にもオリパショップってあったの?」


「知らんで。ウチの管轄外や」


彼は転生前のしのぶちゃんの記憶を持っている――この『デュエル・マニアクス』だって何度もクリアしてやり込んでいるし――そもそも、開発元のスタッフの一人でもあるのだ。


しのぶちゃんが知らないということは……

つまり、元の『デュエル・マニアクス』には存在しないということ。


「オリパ師の影響が、まだ残ってるのかしら」


私の脳裏に、サングラスをかけた妖しい青年が浮かぶ。

ロフト・ナイトヘッド――

転生する前にも、彼とは一度だけ面識があった。


前世では「バリトク中山」と名乗っていた男。

職業であり、生業であり、生き様は――オリパ師。


彼が「学園」にいたのは、たった数日の話だ。

それでも彼が残した残響は、生徒たちの脳を焼き、オリパへの執着と欲望を立派に植え付けてしまったのだろう。


主役が退場しても、キャストを変更して舞台は続く。


あるオリパ師が因果から追放されても、

別のオリパ師が志を引き継ぐということなのだろう。


そういえば――あの男はしのぶちゃんの関係者でもあった。

何かの縁なのかもしれない。


「ねぇ、せっかくだから運試しで買ってみない?」


「えぇー?ウチは気乗りせんなぁ」


「いいから、いいから!1パックだけ、ね?」



私の目下の悩みは運命力不足にある。

きっと、アスマやユーアちゃんなら難なく当たりを引けるだろう。


「この世界では、ドローは必然だもの」


もっと運命力を鍛えて、

フォーチュン・ドローを手にしなくては――



いざ、私は戦場へと足を踏み入れた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る