私欲恋理の最終回!廻想列車、出発進行!(イサマルからウルカへ)
「《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》……!」
アマネちゃんが夢の狭間から召喚したのは、
過去最強のスピリットだった。
存在するだけでプレイヤーをダメージから守り、さらに戦闘で敗北してもダメージを受けなくする【鉄壁】の効果に加えて、あらゆるカードの効果を一切受けないという完全耐性――!
その上、BPは4000。
エンシェント・スピリットとしても規格外の戦力を誇る。
ただし、力あるカードにはリスクが伴う。
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》は圧倒的なパワーと無敵の耐性を持っている代わりに、攻撃宣言時には自分のスピリットを1体コストとして墓地に送らなければならない。だが……!
「アマネちゃんの墓地には《カスタード・プリンセス》がいる……!」
「ウルカ様もご存知ですわよね?フィールド上のスピリットを召喚やカード効果のコストにするとき、代わりに墓地の《カスタード・プリンセス》をゲームから除外することで、1体分のコストとして使用できますの!」
パンパン、とアマネちゃんが手を叩くと――
ドラゴンの眼前に巨大なプリンが出現した!
「たんと召し上がれ♪
わたくしの特製ですわっ!」
アラベスクドラゴンはご馳走に目を輝かせる。
「これで、コストは確保されたわね……!」
アマネちゃんはバトル・シークエンスへ移行した。
「さぁ、バトルですわよ!」
先攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《埋葬虫モス・テウトニクス》
BP2000
サイドサークル・デクシア
《オトリカゲロウ》
BP1000
サイドサークル・アリステロス
《「
BP1500
領域効果:
[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]
後攻:アマネ・インヴォーカー
メインサークル:
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》
BP4000
サイドサークル・デクシア
《
BP1500
「アラベスクドラゴンでメインサークルを攻撃ですわ!
うふふ、これで終わりよっ!」
「くっ……!」
アマネちゃんは墓地から《カスタード・プリンセス》を除外して、叡智の龍への供物とする。これでドラゴンの攻撃封印は解除された。
「(私のサイドサークルにいる《オトリカゲロウ》は、墓地に送ることで相手の攻撃を無効にする特殊効果を持っている……けれど、アラベスクドラゴンにはカード効果は通用しないッ!)」
このまま《埋葬虫モス・テウトニクス》がバトルで敗北すれば、すでにシールドが破壊されている私に後は無い……それでもッ!
「打つ手は、まだ残っているわ!」
「負け惜しみですわねッ!ご覧なさい、『スピリット・キャスターズ』最強たるトライ・スピリットの雄々しき姿を――この《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》には一切のカード効果は無効ですわ。ウルカ様の小細工も通用しませんことよ!」
「……それは、どうかしら?」
アスマと対決したときには、そのドラゴンには苦戦させられた。
だけど、あれから私も強くなったんだ。
「やられっぱなしじゃ、終わらないわよ……!」
アマネちゃんにも、見せてあげるわ。
――本気の小細工をねッ!
「墓地から《
「インタラプト扱いの誘発効果……ですの!?」
フィールドに《
「このスピリットのモデルとなっている昆虫はコブゴミムシダマシ。別名をディアボリカル・アイアンクラッド――自重の約4万倍もの外圧に耐える、鉄の強さを持つ外骨格を有することから……その名が付いたみたいね」
「鉄の強さ……そんな、じゃあモス・テウトニクスに与えられた力は……」
「アマネちゃんの想像どおり、よ」
《
「《埋葬虫モス・テウトニクス》は【鉄壁】を得たわ!」
「無駄な足掻きを……ッ!
熾烈なるビブリオクラズム・バースト……ですわ!」
「……耐えきって、モス・テウトニクス!」
鋼鉄の硬さを得た銀色の翼を広げて、モス・テウトニクスは熾烈なるドラゴン・ブレスの一撃を受け止めた。かすめるだけで自然発火するほどの大火力から、プレイヤーを傷つけまいと余さず受け止めきる鋼鉄の盾――!
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》は相手のカード効果に対しては無敵の耐性を持っているが、バトルする相手スピリットの効果を無効にできるわけじゃない。
自身と同じ【鉄壁】を前にしては苦戦することを……アスマの過去の
「……まさか、アマネちゃん相手に披露するとは思わなかったけどね」
「まだ、まだですわっ!わたくしには《
先攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
なし
サイドサークル・デクシア
《オトリカゲロウ》
BP1000
サイドサークル・アリステロス
《「
BP1500
領域効果:
[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]
後攻:アマネ・インヴォーカー
メインサークル:
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》
BP4000
サイドサークル・デクシア
《
BP1500
私のメインサークルは
――だけど、その攻撃は通さないッ!
「《オトリカゲロウ》の特殊効果――
ブリザード・コンフュージョン!」
「なっ……!」
雪のように白い体躯をした《オトリカゲロウ》は、その姿を無数に分身させて、まるで猛吹雪のように増殖した――このスピリットを墓地に送ることで、相手の攻撃を1回だけ無効にできる。
幾層にも重ねられたケーキの鎧を着こんだ護衛兵は、氷雪じみた昆虫の攪乱を受けて、攻撃対象である相手プレイヤーを見失った……!
これで、アマネちゃんの攻撃は全て凌いだ。
私のターンが――回ってくる!
アマネちゃんは悔しそうに決闘礼装を操作した。
「……ッ!ターンエンド、ですわ!」
ターン終了と共に[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]も終わりを告げる――私の記憶から一時的に引き出されていた《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》は夢の世界へと戻り、ザントマンがフィールドに舞い戻った。
ガタン、ゴトン……
お菓子の列車は星空の航路へと戻って行く。
先攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
なし
サイドサークル・アリステロス
《「
BP1500
領域効果:
[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]
後攻:アマネ・インヴォーカー
メインサークル:
《「
BP0
サイドサークル・デクシア
《
BP1500
――なるほど、そういう処理になるのね。
「(想定していた懸念の一つとしては、カード効果を受けない《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》はターンが終了してもフィールドから離れずに居座ってしまう……なんていう可能性も考えていたのだけれども。夢の世界への帰還はカード効果ではなく、あくまでフィールドに付与された領域効果によるもの。アラベスクドラゴンであっても無視できない……なんとか、首の皮が繋がったわ)」
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》はカード効果は無視できても領域効果は無視するこができない――本来の使い手であるアスマは、そのことを利用してフィールドスペル《バーニング・ヴォルケーノ》とのコンボを狙っていたっけ……。
アスマ・ディ・レオンヒート――
王家でも随一の
私の婚約者であり、子供の頃からの幼馴染。
色々あったけど……今は、大事な友達。たぶん。
「アマネちゃんが得た仮初の力ではなく、アスマ本人が使うアラベスクドラゴンだったなら、この程度の手では凌げなかったはず。……アイツ、悔しいけど
ひとまずは、安心。
ただし……もう一つの懸念は的中してしまった。
アマネちゃんは決闘礼装に手をかける――
「わたくしはカードを5枚ドローしますわ。これはビブリオテカ・アラベスクドラゴンの特殊効果、ドラコニア・ウィズダムですの!」
「……ターン終了時に、手札が5枚になるようにドローする特殊効果。叡智の龍と呼ばれた異名の由来でもある、強力無比なリソース回復能力。領域効果によってフィールドを離れる前に、すでに効果は誘発していたのね……!」
こちらの手札は0枚なのに対し、相手は5枚。
リソース勝負を仕掛けても敗北は必至だ。
となれば――例の作戦を実行するしかない!
私は腕に装着された決闘礼装を見下ろした。
次に引くカードでゲームは決着する。
「(こんなときに、フォーチュン・ドローができればね)」
フォーチュン・ドロー。
『光の巫女』であるユーアちゃんや――
「学園最強」であるアスマ――
あの二人のような選ばれし者ならば、己の運命力だけで奇跡の実現を行使できる――フォーチュン・ドローを実行することができる。
「(以前に、私も2回だけフォーチュン・ドローをすることができたわ。でも、あれは私の実力じゃない。ユーアちゃんやアスマの力を借りることで、背伸びに背伸びをして、ようやく届いただけ……)」
アマネちゃんを救うためにも、
この戦いには負けられない。
私は震える手をデッキに重ねて――
祈るように、カードを引いた。
「(お願い……!)」
手にしたカードには……
ドローが描く軌跡には……
私が望む未来。
黄金の奇跡は、宿らなかった。
「(いいや、最初からそんなものは当てにしてないわ……!)」
必要なのは奇跡ではなく、発想の転換だ。
私はドローしたカードを確認する――
《エヴォリューション・キャタピラー》
種別:レッサー・スピリット
エレメント:地
タイプ:インセクト
BP1300
「(効果を持たない……けれども、コスト無しで召喚が可能なレッサー・スピリットが来てくれたわ!これなら、作戦を実行するには充分よ……!)」
私の様子を見て、アマネちゃんは嘲笑う。
「どうやら、フォーチュン・ドローは出来なかったようですわねぇ?それならば、こちらも行きますわよぉ……!」
メイン・シークエンスに移行した途端に、
アマネちゃんは
「ザントマンの特殊効果、発動ですわ!
メメント・インセプション――!」
これは1ターン目にアマネちゃんが発動した効果だ!
「自身の手札をすべて捨てる効果を……!?でも、その効果で手札を捨てても、捨てた枚数だけ相手の手札を破壊できるのは、アマネちゃんのターンのメイン・シークエンスだけのはずじゃ……!」
今は私のターンのメイン・シークエンスである。
これでは手札破壊効果は不発……!
――いや。
「アマネちゃんの狙いは手札破壊じゃないのね……!」
[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]の領域効果は手札が0枚のときにしか発動できない――つまり、狙いは自らの手札を0枚にして物語を召喚すること!
アマネちゃんは手札を全て墓地へと送り――
同時に手札0枚をトリガーにして領域効果を発動した。
「一か八か、バカラの始まりですわ~!
うふふ、絞りますわよ~!」
「領域効果によるランダム召喚……!」
お菓子の列車が汽笛を鳴らす。
広大な宇宙空間――銀河の果てへと伸びていた線路が形を変えて、次なる進路へと道を形作る。進路の先にある惑星は――
「……そういうことね。ようやく、アマネちゃんの狙いが読めてきたわ」
《スイーツのレシピ》を連打していたのも――
せっかくドローした5枚の手札を、惜しげもなく捨てたのも――
全ては墓地にスペルカードを溜めるため。
いつ、私の記憶から「あのスピリット」が召喚されてもいいように……準備を整えていたんだ。
列車が惑星に突っ込むと景色は一変する。
そこに広がっていたのは、広大な平原である。
上手には山の連なりて、下手には波打ち際。
風そよぐ小川が流れる、小舟が漕ぎし音にきく浜。
紅葉あふれる山々から、川に注ぐ滝の音色。
美しい和の原風景――山紫水明の桃源郷。
歌人・藤原定家が愛した水無瀬の里を模した、
「日本」の四季折々を一片に凝縮した箱庭世界。
この世界は「百人一首」の100枚のカードを配置することで作られている――今は存在しない、転生する前の私や――しのぶちゃんが生まれ、生きていた、今は無き「地球」にあった文化・文明による産物だ。
「ウルカちゃんは疫病神やなぁ。キミが見苦しく足掻くたびに、どんどん人が不幸になるでえ?キミみたいな不幸をばらまく病原菌はなぁ、ウチがきちんと駆除してやろうって話や……」
初めて会ったときにはこんな憎まれ口を叩いてたっけ。
まさか――あのときは「彼」がしのぶちゃんだなんて思わなかった。
転生する前の世界での、私の親友。
大切に想っていた人。
『デュエル・マニアクス』をやったのだって、しのぶちゃんに薦められたからだった。何の因果か、今では「学園」の聖決闘会長で、ユーアちゃんの攻略対象……。
女性ものの桜柄の着物に、桃色のおかっぱ頭。
少女よりも少女らしい顔立ちをした美少年――
イサマル・キザンは自身の切り札を呼び出す。
生命の根源たる
光輝はここに在り。正義は我にあり。
死者の言葉を束ね、
幾千の呪言を重ねしアシュム・ウォフーの代弁者よ!
二元論の真理をもって、
蒙昧なる生者に真実の託宣を下せ!
埋葬呪言の伝道が姿を現す。
七十二の聖なる炎が平原を焼き尽くす燎原の火となり、燃える火の粉は集まり、散って、また集まり、やがて蝶のような形を象っていく。
いいや、蝶ではない。
燃えさかる――
炎の
「《
イサマルくんのエース・スピリットね!」
お菓子の列車は惑星を通過し、星空を走行していく。
列車の屋上、展望席にて――
宇宙空間で炎の翼を広げるスピリットが顕現した!
《
私の墓地のスペルカードは《宝虫華葬》のみ。
対して、アマネちゃんの墓地には――
《Final Act『
「《スイーツのレシピ》を連打したことで、墓地のスペルカードが水増しされて、BPが底上げされてる……!」
アマネちゃんは「うふふ」と笑って云った。
「《
(1+1+2+4+3)×250=2750!
先攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
なし
サイドサークル・アリステロス
《「
BP1500
領域効果:
[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]
後攻:アマネ・インヴォーカー
メインサークル:
《
BP2750
サイドサークル・デクシア
《
BP1500
「これは……まずいかも」
「《
アマネちゃんのサイドサークルに控えている兵士――《
「《
「…………なるほどね」
まさに、万事休すかもしれない。
スペルカードは使うことができず、スピリットによる攻撃も封じられ……そもそもの話、手札にあるのは効果を持たないレッサー・スピリットだけ――
……それでも。
「私は、諦めないわ」
まだ勝機は残ってる。
ここからの鍵を握るのはカードの性能じゃない。
[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]――
アマネちゃんの領域効果は、ヒトの記憶を掘り起こし、過去の出来事を投影した夢の帳をスピリットに被せて物語を召喚する力を持つ……!
「私は《エヴォリューション・キャタピラー》を召喚するわ!」
チューチュー、と可愛らしい鳴き声をあげて、
蝶の幼虫を模したスピリットがメインサークルに現れた。
「うふふ、そんな芋虫さんを召喚しても無意味ですわ。
《
「それは芋虫のままだったら……の話でしょう?」
アマネちゃんは言っていた――
「自分には物語なんて無い」と。
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「――ああっ!
パラサイト子のことかいなっ!」
「そんな名前じゃないわよ。
あの子はアマネ・インヴォーカー」
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イサマルくん――
前世でのしのぶちゃんは乙女ゲームが好きだった。
『デュエル・マニアクス』をやりこんでいて……私よりも、ずっと知識が豊富だった。だから、アマネちゃんのこともよく知っていた。
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「あのモブ、アマネっちゅう名前だったんか。ユーアちゃんのデッキに寄生虫カードを仕込んだ子やろ?冒頭にしか出てこないモブキャラなのに、かわいいから人気の子でな。ピクシブ百科事典では『パラサイト子』で登録されとるんや」
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原作の世界では、アマネちゃんは「モブ」だったのかもしれない――物語を持たない登場人物――でも、そんなことを言ったら、私だって同じだ。
冒頭のチュートリアルで敗北して退学し、今度は逆恨みを抱えて、魔道に堕ち、「闇」の
悪役――それが私の「役割」だったと。
私は変わることができた。
運命を変えることができたんだ。
「(……ねぇ、アマネちゃん)」
アマネちゃんが、どんな気持ちで私の傍にいてくれたのかはわからない。私が距離を置いて離れてしまったときに……どんな思いでいたのかも。
それでも、お願いだから。
「(物語が無いなんて……悲しいことを言わないで)」
あなたは「パラサイト子」なんかじゃない。
アマネ・インヴォーカーは……
ウルカ・メサイアの友達だった。
プレイヤーが知らなくても――
読むことがない行間であったとしても――
正しくない悪役の、正しくない悪事を共有した、
間違った繋がりであったとしても……!
それを無かったことになんてさせはしないッ!
「今から、たっぷりと語ることにするわ。
私とアマネちゃんの物語をね……!」
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