私欲恋理の最終回!廻想列車、出発進行!(アスマからウルカへ)

「デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど『カードゲームではよくあること』よね」


フィールドのシオンちゃんが、ぼそりと呟いた。


「……って、言ってた。前のターンで。

 マスター、あれは何?」


「何って」


勢いで言っただけだから、改めて問われると困る。

別に、単なる意思表示でしかないし――


「ほら、私って『デュエル・マニアクス』の世界に転生してから、これまでも色々と大変なことがあったでしょう?だから、その経験を踏まえて……今回みたいな大ピンチだって『よくあること』ってことにして、アマネちゃんも救っちゃおうっていう」


言ってみれば、強がりである。

見え見えの強がりで、自分を鼓舞してみせたのだ。


「だから、別に変なことは無いでしょ?」


「否定する。それなら『今回みたいな出来事も『デュエル・マニアクス』の世界ではよくあることよね』で充分のはず。変だよ、言い方が」


「言われてみれば、そうかも。でも、なんだか妙に語呂が良かったから、不思議となめらかに舌の上を滑っていったのよねぇ」


「人間特有の不合理、ファジィなフィーリング。

 学習完了。勉強になる……本機にとっては」


「合理か不合理かで言ったら、シオンちゃんのネーミングだって合理的じゃないと思うわよ」


「半分は当たってる。痛いね、耳が」


半分かなぁ……?

なんだか、勝手にダメージを半減された気がする。


そんなやり取りをしてると、

アマネちゃんが「キーッ!」とハンカチを噛んだ。


「ま、またぁ!わたくしの目の前でぇ……

 女の子同士でイチャコラ、イチャコラと!」


「イチャコラって」


「わたくしの、ターン!」




先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000

サイドサークル・デクシア

《オトリカゲロウ》

BP1000

サイドサークル・アリステロス

《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》

BP1500


領域効果:

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]


後攻:アマネ・インヴォーカー

メインサークル:

《「執筆の化身ザクリエーション・スクリプター」Sandmann》

BP0




アマネちゃんは決闘礼装からカードを引いた。


そのテンションに呼応するかのように――

銀河鉄道は速度を上げて、星々を駆け抜けていく。


「(さて、アマネちゃんはどう出てくるかしら……)」


対戦相手の一挙手一投足に注目する。


アマネちゃんは一瞬だけ目線を走らせると、

手札からスペルカードを発動した。


「わたくしは《スイーツのレシピ》を発動ですわ!このカードの効果によって、デッキからカード名にお菓子の名前を含むカードを1枚まで選び、手札に加えることができますの!」


BOM!とコットンキャンディのような煙を立てて、魔法の料理本がアマネちゃんの前に現れた。表紙には美味しそうなショートケーキが描かれている。


晴雨計型決闘礼装『コッペリウス』にセットされたデッキが自動でシャッフルされて、アマネちゃんが望むカードを手札に加える。

そのカードの名は……って、えぇ!?


「《スイーツのレシピ》ですって!?」


「おほほ、そのとおりですわっ!」


《スイーツのレシピ》でサーチして手札に加えたカードは、名前に「スイーツ」を含んでいるカード……すなわち、同名カードである《スイーツのレシピ》だった。


アマネちゃんは二度、同じ行動をとる。


「わたくしは更に《スイーツのレシピ》を発動して、三枚目の《スイーツのレシピ》を手札に加えますわ!」


「またも同名カードのサーチ!

 もしかして、アマネちゃんの狙いは……!」


シオンちゃんも気づいたようだ。


……。

 本機も理解した。それが狙いだね、アマネの」



――デッキ圧縮。


デッキの中から不要なカードを減らすことで、当たりとなるカードを引く確率の期待値を上げる戦術のことである。


同名カードをサーチできる《スイーツのレシピ》によって、アマネちゃんのデッキからは2枚目と3枚目の《スイーツのレシピ》のカードが消えた。

『スピリット・キャスターズ』の初期デッキ枚数は45枚で、初期手札は5枚。

現在のゲームは2ターン目のため、ターン開始時のドローで2枚のカードが引かれているため、現在の残りデッキ枚数は38枚――そこから2枚の《スイーツのレシピ》が消えたことで、デッキ枚数は36枚となっている。


仮にアマネちゃんが引きたいカードが1種類あったとして、それをデッキに投入可能な最大枚数――3枚まで投入していたと仮定しよう。


38枚のデッキから特定の3枚を引く確率は――

3/38=7.89%


デッキ圧縮をした場合、

36枚のデッキから特定の3枚を引く確率は――

3/36=8.33%


次のドローでキーカードを引ける確率は約0.44%上昇する。



シオンちゃんは頷いた。


「アマネは領域効果を戦術に組み込む都合上、常に手札0枚で戦わなければならない。理に適っている戦術だね、次のドローの精度を上げるのは」


「そうよね……いや、ちょっと待って!」



手札0枚で戦わなければならない……?

それなのに、デッキ圧縮を……?



「おかしいわ――それなら、

 アマネちゃんは《スイーツのレシピ》を温存するはず」


「理解不能。おねがい、説明を」


「発動するだけでノーコストで「カード名にお菓子が含まれるカード」をサーチできる《スイーツのレシピ》は、アマネちゃんのデッキにおいては強力なカードだわ。シオンちゃん、これまでにアマネちゃんが使ってたスピリットを覚えてる?」


「肯定する。記録セーブしてるよ、最初のターンにランドグリーズによって墓地から除外された、4体のスピリットの名前を」



《カスタード・プリンセス》

《ラ・抹茶ラテの女》

私立探偵プライベート・アイスクリーム》

《ペパーミント・ブラマンジェ》



「4枚のカードはどれも《スイーツのレシピ》でサーチできるカードでしょ?」


「肯定する。『ブラマンジェ』はアーモンドミルクや牛乳をゼラチン質で固めた、白いプリンみたいなやつ。『抹茶ラテ』は甘いドリンク。『カスタード・プリン』はユーアの大好物。それと……」


「《私立探偵プライベート・アイスクリーム》には『アイスクリーム』が含まれている。私はアマネちゃんのデッキを知ってるわ――あの子の【スイート・ホーム】デッキは、ああいう風にお菓子をテーマにしたスピリットだけで組まれてるデッキなのよ」


――「闇」のカードであるザントマンを除いて。


「本機も理解した。アマネのデッキにおける《スイーツのレシピ》は、引いたときの状況に合わせて、最も必要となるカードをサーチすることができる万能カード」


「手札0枚のまま戦わなければいけない状況なら、尚更よね。どんな状況で引いても役に立つカードを――デッキ圧縮のために使い捨てるのは、合理的じゃないわ」


ならば、答えは一つだ。

《スイーツのレシピ》を連打した理由はデッキ圧縮だけじゃないはず。


私とシオンちゃんが答えを探っているあいだにも――

アマネちゃんは次なる一手を指した。


「作戦会議は終わりましたの?

 わからないことがあると不安よね。アマネ、動きます!」


「……っ!」


「《スイーツのレシピ》の効果を発動!

 《箴言の護衛アフォガードオペラ》を手札に加えますわ」


アマネちゃんは手札に加えたスピリットを召喚する。

現れたのは重厚な甲冑に身を包んだ騎士だった。


鎧はいくつもの層に分けられており、

コーヒー色の鎧、

チョコレート色の鎧、

ケーキの生地のような鎧と、

いずれも香しい菓子の匂いが漂っている。




先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000

サイドサークル・デクシア

《オトリカゲロウ》

BP1000

サイドサークル・アリステロス

《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》

BP1500


領域効果:

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]


後攻:アマネ・インヴォーカー

メインサークル:

《「執筆の化身ザクリエーション・スクリプター」Sandmann》

BP0

サイドサークル・デクシア

箴言の護衛アフォガードオペラ》

BP1500




シオンちゃんは物欲しそうな目をしている。

ちょっと、ヨダレが出そうになってるわよ?


「本機は知ってるよ。『アフォガード』――濃い目に淹れたエスプレッソコーヒーをアイスクリームにかけて、温かいコーヒーと冷たいアイス、苦いコーヒーと甘いアイス、二種の異なるコントラストを舌の上で完成させる極上のスイーツの名前」


私も好きなやつだ。

でも――


「シオンちゃん、

 『アフォガード』なんてお菓子は無いわよ」


「……本気マジ?」


「ええ。お菓子作りの名人の前じゃ、

 釈迦に説法だから……解説するのも恥ずかしいけれど」


アマネちゃんは得意げに云った。


「うふふ、そのとおりですの!エスプレッソとアイスクリームの取り合わせは、正しくは『アフォガート』――『アフォガード』は誤った読み方ですわ」


「本機は疑問。『アフォガード』がお菓子の名前じゃないのなら、どうして《箴言の護衛アフォガードオペラ》は《スイーツのレシピ》の効果で手札に加えることができたの?」


それについては、私にも見当がついている。


「『』。チョコレートとコーヒーを味付けに使ったケーキの一種ね。あのスピリットの鎧が幾層にも重なって見えたのは、ケーキの生地とクリームを何度も重ねながら作った『オペラ』の再現というわけ」


「ウルカ様は、流石によくご存知ですわね」


「ご存知に決まってるじゃない。

 ――アマネちゃんの『オペラ』は絶品だったもの」


「…………今更、そんなことを!」


この瞬間、アマネちゃんは領域効果を起動した。

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]――!


「わたくしの手札が0枚のとき、ウルカ様の記憶から物語を引き出してスピリットを召喚できる!さぁ、来なさい……頼母子講の始まりですわ~!」


アマネちゃんは腕を振り上げた。

その様子を見て、シオンちゃんは首をかしげる。


「……疑問。何なの、頼母子講って」


「まぁ、くじ引きみたいなものね」


つまりは、ギャンブルだ。

領域効果によって召喚されるスピリットはランダムで決定する!


プワァーン、と列車が汽笛をあげる。


宇宙いっぱいに広がる星空の果て、

線路の先に見える惑星がはっきりと見えてきた。


それは灼熱に燃える溶岩惑星だった。

ケーキも、クッキーも、スコーンも、焼いて召しあがるには過剰きわまりない超火力――触れる者すべてを焼き尽くす、炎獄の領域!


「(いつかは、来ると思ってたけど……!)」


冷や汗が流れる――

よりによって、この局面でアイツが来るなんて!




列車が惑星に突っ込むと、周囲の光景は一変した。

そこは「学園」が誇る円形闘技場。


扇状に広がる客席いっぱいに生徒たちが着席している。


生徒たちは望んでいた――

「学園」の恥部とも言える恥知らずを、

厚顔無恥の悪役令嬢を「彼」が断罪する――その時を。


断罪の対象である私にとっては、観客たちの無遠慮な視線はさながら暴力にも等しい。


やがて、私の前にアイツが現れた。


柔らかな金髪のマッシュヘアーに、

きれいに整った甘いマスク――


ただし、その瞳だけは真紅に燃えて爛々としている。


肩にかかる純白のマントは「学園最強」の証。


アルトハイネス王国の第二王子にして、

私の婚約者でもある男。


男は――長剣型の決闘礼装を構えて叫んだ。



「お集まりの観客諸君!僕はここに誓おう。


 不正義は断罪される。正義は成されるとッ!

 決闘デュエルの審判の前にて、全ての罪は暴かれるのだ。

 

 『光の巫女』を陥れようとした哀れな侯爵令嬢――

 この虫けら女に、僕自らが誅伐を下してやろうじゃあないかッ!」



アスマ・ディ・レオンヒートは神の龍を召喚する。


一枚一枚の鱗はいずれも翠玉の幾何学模様アラベスク

叡智の結晶たる王龍。


その瞬間、火山が噴火して爆炎が降り注いだ!


アスマは神を讃える口上を唱える。



観念迷宮の檻より出でし

竜の棲まう国ドラコニア』の王よ――


その叡智は真理万象を網羅するものなれど、

君臨すれども統治せず、ただ蹂躙あるのみ。


夢幻の主――

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》ッッッ!



「(よりにもよって、こんな時に……!)」



『スピリット・キャスターズ』の原初に存在する、

始祖の三枚のカードがここに降臨する。


『トライ・スピリット』と呼ばれる最強のカードの一つ。


イスカの守護神である、

『シルヴァークイーン・ナインテイルズ』や――


ムーメルティアの切り札である、

『ダインスレイフ・エクスマキーナ』に並ぶ――


精霊魔法の大家、

『スピリット・キャスターズ』創始国である、

アルトハイネス王国の権威と力の象徴。



叡智の巨龍――

私の対峙した中でも最強の敵が君臨した!




先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000

サイドサークル・デクシア

《オトリカゲロウ》

BP1000

サイドサークル・アリステロス

《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》

BP1500


領域効果:

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]


後攻:アマネ・インヴォーカー

メインサークル:

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》

BP4000

サイドサークル・デクシア

箴言の護衛アフォガードオペラ》

BP1500

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る