私欲恋理の最終回!廻想列車、出発進行!(シオンからウルカへ)

アマネちゃんに……物語が、無い?


「それは、どういう意味……」


「問答無用ですわ。

 わたくしのバトルですわよ!」


アマネちゃんはバトル・シークエンスに移行する――




先攻:ウルカ・メサイア

メインサークル:

《ローリーポーリー・トリニティ》

BP2100(+1000UP!)

=3100


領域効果:

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]


後攻:アマネ・インヴォーカー

メインサークル:

《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》

BP2000(+1500UP!)

=3500




「お行きなさい、ランドグリーズ!

 英断のタクティカル・スラッシュですわ!」


「……受け止めて、

 ローリーポーリー・トリニティ!」


装甲をまとい、まん丸に丸まったダンゴムシ型スピリットに対して、それを上回る威力を誇る英断の一撃が与えられる――亜麻色の髪の乙女、天を駆けるワルキューレによる長剣の一閃!


《ローリーポーリー・トリニティ》はその威力を殺したものの……それでも、余波となった衝撃が私のシールドを破壊する!


「きゃあああっっ!」


シールドが破壊されたことで、決闘礼装の中心にあるライフコアが露出した。あと一撃でもダメージを受ければ、ライフコアが砕けて敗北となる。


それだけじゃない。


「闇」の決闘デュエルによるダメージのフィードバック――!

かつて私を支配した、本物の闇の魔術師による「それ」と比較すれば、痛みも苦しみもまだ、手ぬるい……!それでも、心臓を抑えるような強い圧迫感と、神経への

痛みがキリキリと身体中を走り回った……!


「くうっ……!」


「これで、わたくしはターンエンド。

 ウルカ様のターンでしてよ」


アマネちゃんがターンエンドを宣言する――

すると、同時にフィールドから戦乙女ワルキューレが消失した。




先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

なし


領域効果:

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]


後攻:アマネ・インヴォーカー

メインサークル:

《「執筆の化身ザクリエーション・スクリプター」Sandmann》

BP0




さらさら……さらさら……

関節の隙間から砂がこぼれ落ちる木人形。


領域効果によって得ていたランドグリーズの姿を解除して、ふたたびフィールドには不気味な幻想ダークスピリットが顕現していた。


全身から突き出した望遠鏡、その先にある無数の眼。

ぎょろついた眼が一斉に私を見つめている。


「ザントマン……!」


「わたくしの創作化身アーヴァタールによって付与された領域効果――対戦相手の記憶から引き出したスピリットの召喚は、残念ながらターン終了時までしか保てませんの。全てはうたかたの夢ですわ――けれども、ご安心あそばせ。ウルカ様の物語は、もっと、もっと、既刊ストックがありますものね?」


「また、別のスピリットを私の記憶から召喚するつもりなのね!」


ユーアちゃんのランドグリーズは既に出た。

ならば、次に召喚されるスピリットはどうなる?


……考えてても、仕方ないか。

どうもアマネちゃんの領域効果はランダムっぽいし。


「ええい、ドローしてから考えるわ!

 私のターン!」


デッキからカードをドローする……

うん、良いカードを引いたわ!


「さらに!

 《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》の効果発動よ!」


「うふふ、存じてますわ。

 そのスピリットの効果は――」


「前のターンにコストとして墓地に送られたとき、次のターンの開始時に同名カードをデッキから手札に加えることができる――これで手札を補充するわ!」


決闘礼装でシャッフルされたデッキから飛び出してきたのは、銀髪青眼の精霊少女。

それをキャッチして手札に加えると、カードイラストに描かれたザイオンX――もとい、シオンちゃんが無表情のままピースサインをしたので――私は微笑み、シオンちゃんに向かって頷いた。


これで手札は2枚。


何を召喚されても大丈夫なように、態勢を整える!



私は墓地のカードを確認した。

手札から捨てたカードを含めて、全部で7枚。


《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》

《宝虫華葬》

《オトリカゲロウ》

《虫カゴ》

塵芥ジャンククラッド・ビートル》

《死出虫レザーフェイス》

《ローリーポーリー・トリニティ》



ここで除外するなら《死出虫レザーフェイス》か――


「墓地からインセクト・カードを除外することで、手札のこのカードをインタラプト扱いでシフトアップ召喚できる!出でませ、死出の旅の案内人!」



高貴なる魂を運ぶ死出の担い手が告げる――


その腹を、脚を、羽根を、はらわたを、

巡る命の糧として生命の円環を回せ!


「シフトアップ召喚――

 《埋葬虫モス・テウトニクス》!」



茶褐色の両翼がフィールドに展開する。

死者の死後をも管理する、昆虫界の墓守。


其の名は、モス・テウトニクス――

屍肉を喰らい生命の糧とする大蛾のスピリット!



それを前にしつつも、アマネちゃんは余裕を崩さない。


「知ってますわよ、そのスピリット。第一章のユーア戦ではウルカ様の逆転の布石になったスピリット……後の第六章で描かれたラウンズ昇格戦においては、今度はウルカ様のデッキを借りたユーアが使うことにもなりましたわ。まったく、皮肉な運命のスピリットですわね?」


第一章……それに、第六章ですって?


「さっきから、アマネちゃんは何を言っているの?」


「ごめんあそばせ。まだ未発表の原稿だから、ウルカ様がご存知なくても無理はありませんわ。書籍化もしてませんしね……」


アマネちゃんは原稿用紙の束を取り出した。

表紙には『まじっく☆クロニクル』と書かれている。


「わたくしは組織からの命令で、ウルカ様をずっと監視していましたわ。その記録を小説形式に書き起こしたのが、こちらの『まじっく☆クロニクル』。言うならば、実録形式のノンフィクション・ドキュメンタリーですの」


「監視ですって……?いつの間に、そんなことを」


私の手の内をアマネちゃんは研究し尽くしている――


「(初手から手札破壊を狙ってきたのも……!)」


私の得意とする錬成ユニゾンは、手札やフィールドのスピリット2体以上をスペルカードの効果によって一つとして、新たな戦力を創造する戦術だ。

強力なスピリットをシフトアップ召喚無しで呼び出せるものの、手札消費が激しくなるのが難点となる。


アマネちゃん自身が手札を失うリスクを取ってでも、ザントマンの効果で強引に互いの手札を全て捨てさせたのは――きっと、私の錬成ユニゾンを封じるため……!


それなら、錬成ユニゾン無しでも場を整えるしかない!


「モス・テウトニクスの召喚時発動効果サモン・エフェクト

 墓地からタイプ:インセクトのレッサー・スピリットを蘇生できる……私が復活させるのは――!」


アマネちゃんは『まじっく☆クロニクル』と題された原稿用紙をパラパラとめくり、私の言動を先読みした。


「――《オトリカゲロウ》、ですわね?」


……読まれてる!


とはいえ、これが最適解なのは事実。

《オトリカゲロウ》には、墓地に送ることで攻撃を無効にできる特殊効果があるのだから――!


うろたえるな、私!


インタラプト扱いの召喚は召喚権を消費しない。


「それに、まだ私の召喚権は残されているわ。

 手札からザイオンXを召喚よ!」


これで、全ての手札を使い切った……!




先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000

サイドサークル・デクシア

《オトリカゲロウ》

BP1000

サイドサークル・アリステロス

《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》

BP1500


領域効果:

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]


後攻:アマネ・インヴォーカー

メインサークル:

《「執筆の化身ザクリエーション・スクリプター」Sandmann》

BP0




『スピリット・キャスターズ』ではメインサークルと2つのサイドサークルを使用する――つまり、これ以上はスピリットを召喚できない。

とはいえ、3体のスピリットを召喚したなら充分のはずだ。


一見して、今の状況は私の有利に見える。


「(アマネちゃんのザントマンは「闇」のエレメントを持つスピリット。「闇」のスピリットは「光」のスピリット以外との戦闘では破壊されず、更に相手のカード効果では破壊されない耐性を持っているわ)」


本来は『光の巫女』――ユーアちゃんではない私は「光」のスピリットを使えないから、「闇」のスピリットに対しては搦め手以外では打つ手が無い。


「(打つ手が無い……本来はね。けれども)」


アマネちゃんのエース・スピリットであるザントマンのBPは0。


BPが0より高い攻撃力を持ったスピリットとバトルすれば、たとえ戦闘では破壊されなくても、プレイヤーへのダメージは通る……こちらには3体のスピリットがいるのだから、1体目の攻撃でシールドを破壊して、2体目の攻撃でライフコアを砕けば私の勝利。


このまま、何も起きなければ……


「ドルチェ、ドルチェ♪

 甘い、甘いですわよーっ!」


私の淡い期待を蹴飛ばして、アマネちゃんが動く。


「この瞬間……ッ!

 わたくしは領域効果を発動ですわ!

 [夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]――」


「……やはり、来るのねっ!」


お菓子の列車が汽笛を鳴らす。

列車の屋上――展望席に立っている私たちからは、列車の線路が飴細工のように曲がって進路を変えていくのが一目瞭然にわかった。


「行きますわよ。吉と出るか、凶と出るか。

 スロット・ゲームの始まりですわ~!」


コンペイトウのような星々が銀河に輝く空の先、お菓子の列車が向かっている惑星は――暗闇にネオンサインが輝く、近未来的な機械で出来た星だった。


「あの星は、まさか……!」


「うふふ。たぶん、第三章ですわね♪」


フィールドに召喚されていたシオンちゃんが、私の方を振り向いた。シオンちゃんも気づいたらしい……次に召喚されるスピリットが何なのかを。


「マスター、気を付けて。

 あのときの本機は、本気。ヤバいかも、敵に回すと」


「私も、骨身に染みてるわ……!」


列車が惑星にぶつかる直前、眼をつむる。

……やはり、衝撃はやって来ない。


恐る恐る目を開けると、そこには予想どおりの光景が広がっていた。



薄暗い地下空間。

無機質な印象の巨大な柱が延々と並んでいる。


他とは違う、ひときわ大きな機械柱には――

見慣れない装置が備え付けられ、電流が走っていた。


ここは、ユーアちゃんと友達になったばかりの私が新たな戦力を得るために潜った場所――ユーアちゃんに秘密を打ち明けて、本当の友達になれた場所。


「ダンジョン『嘆きの地下坑道・Lv7』――

 ノア級恒星移民星船『アメノトリフネ』!」


地下には電気で動く機械が大量に存在していた。

『デュエル・マニアクス』の世界には本来は無いはずの機械……先日の「旧校舎」で得た情報と組み合わせると、あの施設こそが……戦争から逃れるために、何千年も前の遠い昔に、私が転生する前の地球から飛び立った移民船だったんだろう。


私たちの先祖は、あの船に乗ってやって来た。

魔法や精霊が飛び交う世界――『エリクシル』へと。


この場所には少女が安置されていた。

三千年前から眠り続けていた少女。


全ては「使命」のために――


銀髪青眼の少女は、2枚のカードを手に宣言する。


「Phylo Genomics(疑似生命系統樹)に申請。

 共鳴条件は《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》と効果をもたないバード・スピリットカード1体。本機は、本機と《帰らずの鳩》をセット」



上にあるものは下にあるが如く、

下にあるものは上にあるが如し――


神の落とし子プリマ・マテリアたるアダム・カドモンよ。


ヘルメスの鳥と交わりて――

神なき大地にオリーブの枝の福音を!



古代の錬金術師は、その秘奥を解禁する。


疑似生命系統樹ファイロ・ゲノミクス――2種類のカードを組み合わせて、決闘デュエル中に新たなカードを創造するという法外なる召喚法、その名は錬成ユニゾン


天地逆転の系統樹が輝く。

神なき大地の創生神話が拓かれる――!


少女は――X錬成ユニゾンを完成させた。



「《「人造神話ゲノム・ミュトス」ハストゥール・ハルピュイア》!」




先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000

サイドサークル・デクシア

《オトリカゲロウ》

BP1000

サイドサークル・アリステロス

《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》

BP1500


領域効果:

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]


後攻:アマネ・インヴォーカー

メインサークル:

《「人造神話ゲノム・ミュトス」ハストゥール・ハルピュイア》

BP2700




幻影は消え去り、私たちはお菓子の列車に戻る。


見渡すかぎりの満天の星空――

銀河鉄道の線路にて。


アマネちゃんは、新たな戦力を記憶から召喚していた!


「ハストゥール・ハルピュイアを召喚するなんて……!」


フィールドに出現したのは、半人半獣の妖鳥ハルピュイア


その上半身こそ美貌を誇るシオンちゃんそのものだが、両腕はかぎ爪を備えた鳥の両翼に、下半身にいたっては黄色い羽毛に覆われた猛禽類のそれとなっている!


「アマネちゃんの領域効果にかかれば、

 ユニゾン・スピリットまで召喚できるのね……」


「うふふ。さぁて、どうしますの?ウルカ様?」


私はフィールドにいるシオンちゃんに視線を向けた。

自分と同じ顔をした敵スピリットと対峙しているシオンちゃんは、視線を動かさないままで首を横に振る。


「……今のマスターの戦力では敵わない。

 あっちの本機には」


「そうよね……」


「召喚されたのがマスターのターンだったのは不幸中の幸い、かも。バード・スピリットと錬成ユニゾンした本機には、スピリットを戦闘で破壊するたびに追加攻撃できる、かっちょいいスキルがある。マスターは覚えてる?どんな名前だったかを」


「えっと……効果は覚えてるわ。うん」


「…………」


「ご、ごめんなさいね。名前はちょっと」


「『殺戮戯曲・黄衣ノ王』だよ」


「オーケー!ばっちり覚えたわ!」


「うれしい。マスター大好き」


まぁ、私のデッキにはシオンちゃん以外はインセクト・スピリットしか入っていないから、バード・スピリットとのユニゾン体は使うことが無いと思うけども……。


ともあれ、今のフィールド状況では勝ち目は無い。

となると――ダメ元で、試してみるか。


「今の私の手札は0枚、条件は満たしているわ。

 [夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]、発動!」


アマネちゃんがザントマンを素体に私の記憶ユメを被せて召喚したように、私もアマネちゃんの記憶ユメにアクセスする……だがッ!


「(やっぱり、ダメ……!)」


効果は、不発。

本来は互いのプレイヤーに平等に働くはずの領域効果なのに、その恩恵を私は得ることができない。


アマネちゃんは首をすくめて、不機嫌そうに云った。


「ウルカ様も、こりない御方ですわね。言ったじゃないですの、わたくしには物語なんて無いと。領域効果の発動だなんて、何度やろうと無意味ですわ」


まただ。

アマネちゃんはよくわからないことを言う。



「物語が無いって、どういうこと?

 アマネちゃんにだって、あなたの物語が/


私の言葉は/



これまでにない剣幕の叫びで打ち消された。



「そんなもの、無いッッッ!!!」



ガタン、ゴトン……

言葉を失う私の耳には、列車の走行音だけが響く。


かろうじて、名を呼ぶことしかできなかった。


「ア、アマネちゃん……?」


「ウルカ様はいいですわよねえ。前世の記憶を取り戻して……破滅の運命に抗って、何度も運命をくつがえして!あんなに憎んでたユーアとも、仲良しこよしで!今では友達に囲まれて、心の底からニコニコ笑って……あんなに、あんなに、あんなに……生きるだけでも、つらそうな顔をしてたくせにっ!」


「何を……」


「ユーアへの嫌がらせだって!わたくしに手を汚させておいて……自分はユーアと勝手に仲直りして、イチャイチャして……わたくしは、それを見ているだけッ!」


アマネちゃんの仮面からこぼれ落ちる、砂のような砂糖……それを手のひらですくって、アマネちゃんは星空に放り投げた。


白い砂糖は黒い銀河に広がって、浮き上がる。

それは文字となり、連なり、文章のようになっていく。


これは……小説、なの?



----------------------------------

 ウルカはユーアに本当のことを話した。自分はウルカ・メサイアではないこと。退学を賭けた決闘デュエルの最中に、突然、自分がウルカではないことを想いだしたこと……別の世界の記憶でユーアの手札を知っていたからこそ、その知識を悪用して勝利することができたこと……。


 言葉はとめどなくあふれていく。ユーアは黙って聞いている。ウルカが語り終えた頃、ユーアが口を開いた。「関係ないよ。私たちは真剣に決闘デュエルをして、互いのすべてをぶつけ合ったのだから。ウルカは勝つために自分から不正に手を染めるような人じゃないって、私にはわかってる。きっと、それは仕方がなかったこと」と、話して言葉を切る。


「今だって、全力で戦ってる。私なんかのために。それはどうして?」

「ユーアちゃんが大切だから。この世界で出来た、初めての友達だからよ!」


 そう、ウルカにとっての……初めての……友達。じゃあ、私は……友達じゃなかったっていうの?ねぇ、ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?ウルカ様?

----------------------------------


「これは……っ!」


星空に広がった白文字が、あっという間に膨張して、視界を白く染めていく……これは、アマネちゃんの記憶なの!?


「違うのよ、アマネちゃん!あのときの私は、前世の記憶を取り戻したばかりで……自分が転生したウルカ本人だという自覚が無かったのよ!だから……」


「……ようやく、わたくしの物語が始まると思っていたのに」


アマネちゃんは卑屈な笑みを浮かべた。


「ウルカ様のことは、入学前から存じ上げてましたわ。「偽りの救世主」の烙印を押された、メサイア家の侯爵令嬢だと。救世主として祭り上げられた天国の頂上から、詐欺師として蔑まれる地獄の底辺を味わった……起伏に富んだ波乱万丈、まさに話のタネとしては最高の人生ですわね。だから、そんな人の近くにいれば……そんな人の友達になれば、何も無いわたくしにも、きっと、何かが生まれると思ってた!」


「……最高の人生ですって?」


思わず、声に怒気が混じる。


「ふざけたことを言わないで。

 いくらアマネちゃんでも……怒るわよ」


「ひっ……!」


青ざめたアマネちゃんの顔を見て、我に返った。


「……ごめんなさい、アマネちゃん」


私は頭を下げる。

アマネちゃんはバツが悪そうに顔を背けた。


「わ、わたくしも……言葉が過ぎましたわ」


「ねぇ、アマネちゃん。教えてちょうだい。あなた、さっき「私を監視してた」って言ってたわよね。それは、いつからなの?あなたは……いつから、「闇」の決闘者デュエリストだったの?」


「……ウルカ様が、ユーアに勝ってからですわ。それから「あの御方」に力をいただいて、ウルカ様を監視する任務を与えられましたの」



――やっぱり。



自分がウルカ・メサイアだという意識が薄くなって、ユーアちゃんと仲良くなり、二人で行動するようになった頃から――必然的に、それまでは交流があった取り巻きの人たちや、アマネちゃんとは疎遠になっていた。


思惑はどうあれ、私の傍にずっといてくれた人たちをないがしろにしていた。

アマネちゃんを孤独にしてしまった。

だから……その孤独を「闇」につけ込まれたんだ!



「(勝機が、見えたかもしれないわ。だけど、このターンは既に領域効果を使用してしまったわね……)」



勝負は、

だから……ここは耐えるしかない。



「ターンエンドよ!」




先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000

サイドサークル・デクシア

《オトリカゲロウ》

BP1000

サイドサークル・アリステロス

《「神造人間ゲノム・コア」ザイオンX》

BP1500


領域効果:

[夢幻廻想廻廊スイートフル・ドリーマー]


後攻:アマネ・インヴォーカー

メインサークル:

《「執筆の化身ザクリエーション・スクリプター」Sandmann》

BP0




ハストゥール・ハルピュイアの追憶ユメは消えた。

夢の殻を破り、ザントマンが正体を現す。

幻想ダークスピリット……悪夢の象徴!


「(こいつが、アマネちゃんを歪めた……!)」


いいわ、かかってきなさい。


次に呼び出す敵はアイツか、それとも、あの子か――

何が来ても、対処して見せるわ。


「(一度は倒した相手だもの、ね)」


私は、ウルカ・メサイアなんだから――

自分の物語ユメなんかには絶対、負けない!


しのいで、足掻いて、抗って……

なぁんだ。やることは、いつもどおりじゃない。


――そうよ。




「デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど……カードゲームでは、よくあること……よね!」




決闘者デュエリストが行くのは薄氷のロード

一手を間違えれば、全てがご破算。


全力を尽くしても、最善を尽くしても、

尚、届かないかもしれない。


けど、それは……挑まない理由にはならないもの!




「(助けてみせるわ……待ってて、アマネちゃん!)」

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