デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど「カードゲームではよくあること」よね！？

私欲恋理の最終回！廻想列車、出発進行！（始発駅）

乱数発生器（ランダマイザ）で先攻・後攻が決定する。

先攻となったのは私だ。

「私のターン、ドロー！」

決闘礼装にセットされたデッキからカードを引く。

『スピリット・キャスターズ』の初期手札は５枚。

１枚引いたことで、手札は６枚となった。

先攻：ウルカ・メサイア

メインサークル：

《「神造人間（ゲノム・コア）」ザイオンX》

ＢＰ１５００

後攻：アマネ・インヴォーカー

メインサークル：

《カスタード・プリンセス》

ＢＰ１１００

「（先攻の最初のターンは攻撃できない。まずは防御を固める必要があるわね……）」

フィールドのザイオンX――シオンちゃんがこちらを見た。

彼女は無表情のまま頷く。

私も頷き合い、シオンちゃんに指示を下した。

「私はザイオンXをコストにしてシフトアップ召喚するわ！」

シフトアップ召喚――

『スピリット・キャスターズ』では、強力な上級スピリットはフィールドのスピリットをコストとして墓地に送らなければ召喚できない。

《ローリーポーリー・トリニティ》はグレーター・スピリットであり、召喚するにはスピリットを１体コストにする必要がある。

「見せてあげるわ――

　私の【ブリリアント・インセクト】デッキの力を！」

ザイオンXに代わりメインサークルの召喚陣に出現したのは、体長が１０メートル近い巨大なダンゴムシ型のスピリットだ。

丸みを帯びたフォルムに輝くのは白銀色の装甲！

「現れなさい、堅牢なる護法の使者――

　《ローリーポーリー・トリニティ》！」

先攻：ウルカ・メサイア

メインサークル：

《ローリーポーリー・トリニティ》

BP２１００

後攻：アマネ・インヴォーカー

メインサークル：

《カスタード・プリンセス》

ＢＰ１１００

アマネちゃんは「うふふ」と笑った。

「丸々と肥え太った（ローリーポーリー）のおデブさん。

　食い意地が張ったウルカ様とお似合いですわね♪」

「それはどうかしら？

　このスピリットの真価はここからよ！」

私はターンエンドを宣言する。

その瞬間、ダンゴムシはくるくると丸まり――

外部からの衝撃に耐える球型に変形した！

「スフィア・イン・ディスガイズ！

　《ローリーポーリー・トリニティ》は相手ターンのあいだ、そのＢＰを１０００アップして……防御形態にトランスフォームできる！」

先攻：ウルカ・メサイア

メインサークル：

《ローリーポーリー・トリニティ》

BP２１００（＋１０００UP！）

＝３１００

後攻：アマネ・インヴォーカー

メインサークル：

《カスタード・プリンセス》

ＢＰ１１００

「このスピリットのＢＰは２１００だけど、これで１０００アップすることでＢＰは３１００！たとえ上級スピリットをシフトアップ召喚しても、並みのスピリットでは倒すことはできないわ。さぁ、アマネちゃんのターンよ！」

「……シフトアップ召喚？

　そんな甘ったるい戦術、わたくしには不要ですわ」

アマネちゃんは不敵な笑みを浮かべる。

その瞬間、彼女の右手に光が宿った――

「これは、フォーチュン・ドロー……！？」

いや、違う。

己の運命力によって奇跡を引き当てる黄金の光――フォーチュン・ドローの光とは違う。それよりも禍々しい……「闇」のエレメントそのものといっていい、邪悪なる極光がアマネちゃんを包み込んでいる。

アマネちゃんの爛々と輝く瞳は紫に染まり――

作られたキセキを実現すべく、決闘礼装に手をかけた。

「第二種イディオット・プロット発令――

　……デーモンズ・ナイト・ドロー！」

「デーモンズ・ナイト・ドローですって！？」

漆黒のアーチを描くドロー。

運命操作――否、これは運命の改竄！

私は確信した。

アマネちゃんの手に収まったカードは、

間違いなく「闇」のカードだと。

果たして、アマネちゃんは宣言する。

「たった一枚で――

　物語（すべて）を終わらせる力を！

　《Final Act『付焼刃の創作論（リミテッド・フェアリーテイル）』》を発動ですわ！」

私は息を呑んだ。

「これがアマネちゃんの使う「闇」のカード……！」

彼女が謎のスペルカードを発動すると、カードから噴出した瘴気が周囲に蔓延して――その瘴気は、アマネちゃんのスピリットである《カスタード・プリンセス》へと襲いかかる！

根元が黒いプリン頭をした金髪のお姫様は、苦悶の声をあげながら瘴気に取り込まれていく……！やがて、メキメキと音を立てて姿を変貌させていった。

お菓子を模した黄色いドレスは、

見るもみすぼらしい灰色のぼろきれに。

少女らしい細い手足は、

球体関節を備えた木製の人形に。

無数の目玉が、目玉が、目玉が、目玉が……

全身から突き出した望遠鏡の先に出現し、

ぎょろぎょろと周囲を見回した！

「最終幕（ファイナル・アクト）――、

　リミテッド・フェアリーテイルですって！？

　なんなのよ、そのカードは……

　《カスタード・プリンセス》に何をしたの！？」

「このカードはフィールドのスピリットを素材にして、対応するダーク・スピリットをゲーム外の空間――暗黒物語世界（ダーク・ゾーン）から召喚できますの。わたくしは《カスタード・プリンセス》を生贄にして、このスピリットを召喚した！」

舞台に舞い降りる幻想（ダーク）スピリット――

「情恋の火よ、まわりなさい。

　彼方から来たりし愛の約束を、

　優美なる愛の星を――

　甘き幻想の夢に、終わりを告げる者よ。

　私欲恋理の最終回――

　《「執筆の化身（ザクリエーション・スクリプター）」Sandmann》！」

「ザントマン……！」

フィールドに出現した異形のスピリット。

その無数の眼ににらまれながら、私は気づいた。

「やっぱり、アマネちゃんは「闇」のカードに操られているのね」

だって……

もしも、アマネちゃんが正気だったとしたなら。

「あなたが《カスタード・プリンセス》に、ひどいことをするわけがないわ。アマネちゃんは……自分のスピリットにそんなことをしないっ！」

変わり果てた《カスタード・プリンセス》の成れの果て……

《「執筆の化身（ザクリエーション・スクリプター）」Sandmann》をかたわらに控えて、アマネちゃんは哄笑する。

「何を言うかと思えば……執筆には犠牲がつきもの。良い作品を書き上げるためなら、わたくしは何だって犠牲にできますの」

「作品……？そういえば、アマネちゃんは文芸部」

「そうよ！さぁ、開きなさい夢の扉を！」

これは――

「まさか、多層世界拡張魔術（ワールド・エキスパンション）！？」