「禁止カード」発表②

それでは、2枚目。



短歌――

和の心を詠みあげる言の葉の魔術。


五・七・五・七・七……


カード名の文字数を重視するという前代未聞のデッキ構築を「縛り」とすることで、スペルカードを永遠とわに連鎖させることすら可能とする。


そう、歌人精霊セイレーンなら……ね!


2枚目の禁止カードは、

【セイレンシャウト】デッキからの登場よ!




ウルカは手にしたカードを指先でひっくり返す。

今回、「禁止カード」となったカードの名は――



「レッサー・スピリット、

 《決闘六歌仙シケイダ・マール》!」



《決闘六歌仙シケイダ・マール》

種別:レッサー・スピリット

エレメント:風

タイプ:セイレーン

BP1455

効果:

デッキ・手札・墓地にあるとき、カード名を《六歌仙》としても扱う。

【セイレンシャウト】に成功したとき、対象のスペルカードの効果をコピーする。これによりコピーした効果が対象を選ぶとき、新たな対象を選び直してもよい。



ユーアはテキストを確認した。


「これは……1枚目の《巫蟲の呪術師》と同じく、ループコンボのキーパーツとなるスピリットですね!」


「ええ。登場したのはイサマルくんとシァン・クーファンの決闘デュエル。墓地のカードを回収できる《本歌取り》とのコンボによって――《傾国反魂香-復活の千年狐狸精-》を無限に唱えることでフィニッシャーになったわ」


「スピリットの破壊を繰り返すことで、対戦相手の魂の焼却を狙う……「闇」の決闘デュエルを仕掛けたのは、シァン・クーファンの方とはいえ……そこまでの手段をイサマルさんが取るとは思いませんでした」



《決闘六歌仙シケイダ・マール》と《本歌取り》とのコンボの仕組みは簡単だ。

《本歌取り》の【セイレンシャウト】が成功したときに効果をコピーする。1つめの効果で墓地のカードを回収し、コピーされた2つめで《本歌取り》自身を回収する。

これによって《本歌取り》を何度でも発動可能であり、ついでに回収したスペルカードの方も繰り返し発動することができるわけだ。



でも――と、ユーアは疑問を挟む。


「《本歌取り》で回収できるのは基本的にはカード名が五文字または七文字のカードだけですよね?今のところは、無限に発動しても勝利に直結するようなカードは無いみたいです。それに【セイレンシャウト】を成功させるためにはデッキのほとんどのカードを五文字か七文字のカードで揃えなければいけませんし……」


「ユーアちゃんの言うとおりよ。本編では【セイレンシャウト】に必要なカードの文字数を拡張する《字余りに》とカード名を《殺生石》として扱う《傾国反魂香-復活の千年狐狸精-》との組み合わせ、加えて「スピリットの破壊」がプレイヤーへの精神ダメージに繋がる「闇」の決闘デュエルの特性――といった特殊な状況によって必殺のコンボにはなったけれども。今のところはそこまでの脅威ではないわ」


「じゃあ、どうして禁止になったんです?」


を狭めるから、よ」



デザイン領域――

カードゲームにおけるカードのデザインに用いられる用語の一つであり、ある種のメカニズムを取り扱うにあたって、どれだけのカードを作れるかという領域の広さを示す言葉である。


現状の第一部のカードプールでは《決闘六歌仙シケイダ・マール》と《本歌取り》を組み合わせたループコンボに噛ませることで、即座に勝利に繋がるようなカードは存在しない。


畢竟、それは「《決闘六歌仙シケイダ・マール》と《本歌取り》と組み合わせることで即座に勝利に繋がるようなカードはデザインが許されない」という意味である。

今後のカードにおけるデザイン領域を、大きく制限することに繋がるのだ。



そこまで聞いて、ユーアは「そっか!」と叫んだ。


「カード名が五文字、あるいは七文字のカードをこれ以上は強化できない……それは、むしろイサマルさんの【セイレンシャウト】デッキを弱めることにも繋がってしまうんですね!」


「そうそう、飲みこみが早いわね。それに、困るのはイサマルくんのデッキだけじゃないのよ?五文字や七文字のカードは他のキャラクターのデッキでも使用されている。たとえば、私のデッキで言うと《宝虫華葬》あたりが該当するわ」


「《宝虫華葬》は墓地からインセクトスピリットを蘇生するスペルカードですね。これを【セイレンシャウト】の無限詠唱コンボと組み合わせたら、せっかく禁止にした《巫蟲の呪術師》と同じことができちゃいます!」



禁止になった《巫蟲の呪術師》の代わりに《決闘六歌仙シケイダ・マール》をループコンボのエンジンに組み込んだ、パラサイト・ループリペア……。

なんていう、異次元のデッキさえも構築できてしまう。


《決闘六歌仙シケイダ・マール》は見た目こそ蝉だけど、タイプはインセクトではなくセイレーンだし――インセクトカードの多くはカード名が五文字でも七文字でもないから、実際には構築難易度は高くなってしまうけれどね。



「《決闘六歌仙シケイダ・マール》が生きているかぎり、今後のすべてのカードにおいて、本来は注意する必要がない「カードの文字数」が大きな意味を持ちすぎてしまう。そういうこともあって、今回の改訂で「禁止カード」になったみたいよ」


「残念ですけど、これも当然ですね……」


「でも、安心して。問題なのは「お手軽にループを組めてしまう」という点にあるから、改訂はその点についてのバランス調整のみに留めるみたい」


「どういうことです?」


「じゃあ、本編次元を見てみましょう!」


ウルカがそう言うと、モニターが点灯する。

ジジジジジジ……



映像は「学園」の保健室を映し出す。



☆☆☆



「……はぁ。せっかく、あんなに活躍してくれたのに……《決闘六歌仙シケイダ・マール》が、使えへんようになるとはなぁ」


ベッドの上でイサマルはため息をつく。

手にはしたカードは真っ黒に染まっていた。


「闇」の決闘デュエルのダメージの余波を受けて、《決闘六歌仙シケイダ・マール》のカードは「闇」のエレメントに侵食されて使い物にならなくなってしまったのだ。


「最後まで、ほんまに頑張ってくれたな。

 おおきに」


と、感慨にふけっていると――


コンコン。


「はーい?」


「会長……これを、お届け物……です」と云いながら、ドネイトが保健室に入ってきた。手にしているのは、小包だ。


「なんや、それ?」


「イスカのみかどから小包が届きました。

 中身は……スピリットカードのよう、です」


「あー、そういえば。

 良いカードがあるから送る、って言うてたなぁ!」


イサマルは小包を受け取った。


「パワーアップアイテムが小包で届くなんて、昔の特撮ヒーロー番組みたいやね。まぁ、天井から落っこちてくるよりはマシか……」


ぺりぺりぺり、と包みを破いて、

中から出てきたカードは――



《決闘六歌仙シケイダ・マール(二代目)》



「……へぇ。二代目がおったんか、キミ」


蝉頭の歌人精霊は、己の忍者としてのわざのすべてを後継者に仕込んでいたのだ。もちろん、言葉の魔術を複製するという「分身の術」――バルルン・コーラスも健在。


二代目のシケイダ・マールは、初代よりも痩せたスリムな体型をしているものの、全身にまとう雅なオーラからして、実力は師匠譲りであるのが一目瞭然だった。


――初代との絆は、途切れてなんていない。

イサマルは狐のように目を細める。


「へへへ。よろしくね、ウチの新しい相棒!」



☆☆☆



「二……二代目、ってなんですかぁ!?」


「言ってみれば、禁止になった初代の調整版ね。オリジナルとは違って【セイレンシャウト】成功時の効果が1ターンに1度しか発動しないようになっているのよ」


ユーアは「なるほど……」と呟き、手を叩いた。


「1ターンに1度しかコピーできないなら、ループコンボへの悪用はできませんね!それでいて、サポートとして使う分には初代と同じ性能になります」


「カード名が大きな意味を持つ……【セイレンシャウト】のコンセプト自体は活かした上で、お手軽にゲームを終わらせてしまうループコンボだけを抑制するための調整というわけ。それに――調整版と言っても、単なる下位互換じゃないのよ?」


「そうなんです?」


「ええ、実はシケイダ・マール(二代目)の胸部は観音開きになって開閉するのよ。その内部には「スペルバック反射鏡」というミラーがあって……」


と、ウルカが語っていると――


「ちょいちょい待ち、そっからはネタバレやがな!」とイサマルが乱入してきた。


「あら、イサマルくん。

 いいじゃない、本編よりも先に効果を明かしたって」


「ダーメ。ウチの相棒は第二部の目玉の一つやで?」


「そうなの?

 ところで……気になってたことを聞いてもいい?」


「ん、なに?」


「イサマルくんの「決闘六歌仙」って……他のスピリット(ウィスタリア・テイカーやハチクラウド・ショウ)は普通に和装のイケメンなのに――どうして、シケイダ・マールだけ昆虫みたいな見た目をしているのかしら?」


イサマルは首をひねった。


「さぁ……?言われてみれば、なんでやろうね」


ウルカは「うふふ」と意味深に笑う。


「もしかして、だけど。

 私のインセクトデッキに合わせて……とか?」


「べ、別に……そんな意味はあらへんよ」


「ふぅん。本当に?」


「本当の本当に!

 ってか、生得属性ってそういうんじゃないじゃん!」


「ふぅーん」


グイグイとイサマルに寄るウルカを見て――


「(……むぅ)」


「おほん」とユーアは咳払いして、仕切り直した。




「ところでウルカ様、イサマルさん。今回の「禁止カード」はどちらもループコンボにまつわるキーカードが規制されたみたいですね?」


「え、ええ。まぁ……『スピリット・キャスターズ』の本分はスピリット同士の地上戦だし――ループが強くなりすぎるのは、ゲーム性を否定してしまうものね?」


「せ、せやね。話によると、第二部はデュエルパートをわかりやすくして読者のハードルを下げる――みたいなことを考えとるとか。ループは邪魔なんやろ、たぶん」




そんなわけで「禁止カード」は以上の2枚。




「次回はデッキに1枚しか入れられない、

 「制限カード」について紹介していくわね!」

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