第一回「禁止制限改訂」
「禁止カード」発表①
ここは、本編とは異なる時空。
「学園」の外れにある「旧校舎」――
その地下深くにある秘密研究所。
ダンジョン『魔科精霊遺伝総研』の暗闇の中にて。
いつもなら、その章でもっとも活躍したカードを紹介する『プレミアムカードの殿堂』が始まるはずが――うーん、うーんと頭を悩ませる少女が一人。
「やっぱり……やるしかないわよねぇ」とウルカは呟いた。
そこにユーアが現れた。
「どうしたんですか、ウルカ様?
『プレミアムカードの殿堂』のお時間ですよね?」
「ユーアちゃん……悪いけど、今回は中止にするわ」
「えっ、どうしてですか!?」
「ほら、本編が第一部・完になったでしょ?」
「七章のラストで、ナレーションがなんか言ってましたね。ナレーションがカッコつけてるのはいつものことですけど……急に変なことを言いだすから、私、びっくりしちゃいました!」
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第一部『王立
第二部『
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「……とか、なんとか」
「そうわよ。次回からは第二部が始まるわ。ほら、長く続いた漫画は途中でタイトルを変えて仕切り直したり「〇〇編」とか付けて巻数をリセットするでしょ?」
「連載ではよくあること、ですね!」
巻数リセット――
あまりにも長期に連載が続くと、新規の読者が入りづらくなる……ということで、連載作品では定期的におこなわれることがある手法である。
「で、第二部に移るにあたって――
禁止制限改訂をおこなうことになったみたい」
「禁止制限改訂……!?」
「あまりに強すぎるカードを使用できなくすることで、環境を健全化させる――カードゲームではよくあることよね。で、私も泣く泣くカードにお別れを言ってたところだったのよ」
「そうだったんですね……」
「けれども。やっぱり、辛気くさいのはダメね」
スッ――と、ウルカはマイクを手に取った。
「使用できなくなるカードたちにとっては、これが最後の花道かもしれない。だったら、せめて華々しく、お祭りみたいに発表することにするわ!」
ウルカからカンペを渡されたユーアは「なるほど……」と言いながら記されたカード名に目を通した。
どれもユーアのよく知るカードである。
「……これから発表されるカードは、どれも第一部の名勝負を彩ったカードばかり。だったら、その激闘を振り返りながら、大々的にいっちゃいましょう!」
「ええ。音量を上げましょう!セレモニーよ!」
カチカチ、とマイクのボリュームを上げていく。
んっ……とウルカは喉の調子を整えた。
「それでは……!今回の『デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど「カードゲームではよくあること」よね!?』は、第一部完結記念の番外編!まずは「禁止カード」の発表から、いくわよ!」
「では、「禁止カード」についての説明をしますね。今回の改訂で「禁止カード」に指定されたカードは、第二部ではデッキに1枚も入れることができなくなります」
ユーアは2枚のカードを裏向きに取り出す。
そうだ――今回「禁止カード」に指定されるのは2枚!
まずは、1枚目。
このカードは
「呪い」は巡る。
巡る「呪い」は理外の戦術を可能とする!
旧世界の大魔術師、神話時代の特級存在がもたらした、
未曽有のループコンボのキーカード――
ウルカは手にしたカードを指先でひっくり返す。
今回、「禁止カード」となったカードの名は――
「グレーター・スピリット、《巫蟲の呪術師》!」
《巫蟲の呪術師》
種別:グレーター・スピリット
エレメント:地
タイプ:メタ・ヒューマン
BP2000
効果:
このスピリットが召喚に成功したとき、墓地からBP1000以下のタイプ:インセクトのスピリットを自分フィールド上のサークルに配置できる。
BP1000以下のタイプ:インセクトのスピリットがフィールドからあなたの墓地に送られるたびに、そのスピリットを自分フィールド上のサークルに配置できる。
ユーアは感慨深げに語った。
「忘れもしません。このスピリットは、ウルカ様から預かった【ゲノムテック・インセクト】デッキのキーカードの一つ――エルちゃんとの「壺中天」の決着を着けたループコンボの要となるカードですね!」
「ただし、その正体は私に憑依した銀毛九尾――シァン・クーファンの生得属性が生み出したカードだった。その証拠にイサマルくんと銀毛九尾の
巫蟲――
中国における動物を媒介にした「呪い」の総称である。
別名を「蟲毒」とも呼び、巫蟲師による呪術は時の権力者の命をも脅かした――そのため、近代までの中国では「蟲毒」は極刑にも至る重罪とされていたという。
このスピリットの問題点は――
BP1000以下のインセクト・スピリットであれば、回数を問わずに無限に使いまわすことができてしまうという強力な効果を持っている点だ。
「たとえば、私がよく使う《オトリカゲロウ》は墓地に送ることで攻撃を無効にできる効果を持ってるわよね。《オトリカゲロウ》と《巫蟲の呪術師》を組み合わせることで、相手の攻撃を何度でも無効にできてしまう――」
「ウルカ様の昆虫カードは、BPが低めな代わりに強力な効果を持っているスピリットも多いです。そうやって何度も使いまわされたら、たまったものじゃないです!」
「このカードを絡めた無限ドローコンボの成立条件はとても緩いし、そこからのデッキ破壊戦術は防ぐことが難しい。このまま《巫蟲の呪術師》が存在したままだと、第二部の
また、タイプがインセクトではないため《千蟲譜目録》のサーチにこそ対応していないが、代わりにインセクトを捨てることでインセクト以外をサーチできる《蟲毒の
仮に「禁止カード」ではなく、デッキに1枚までは入れることができる「制限カード」に指定した場合は――《蟲毒の
そういうわけで、残念ながら禁止は妥当だろう。
「ちなみに、本編では以下の経緯で使えなくなったみたい。カメラを本編次元に移してみましょう」
ウルカがそう言うと、地下研究所のモニターの一つが点灯した。
ジジジジジジ……とノイズを立てながら、徐々に映像が鮮明になっていく。
☆☆☆
寮の自室にて。
ウルカは真っ黒に染まったカードを取り出した。
「ユーアちゃんには言ってなかったけど、
《巫蟲の呪術師》が使えなくなってしまったのよ」
「そうだったんですか!?」
「あの「旧校舎」の一件以来、ずっと。銀毛九尾が言っていたの――このカードは元々は私に憑依した銀毛九尾のカードだったって。イサマルくんに銀毛九尾が封印されたことで、霊的なリンクが途切れてしまったのかもしれないわ」
「せっかく、私たちでドローコンボを考えたのに。
……残念です」
「うふふ、また新しいデッキを考えましょう。
DDD杯まで時間はたくさんあるもの、ね?」
☆☆☆
と、いうわけで――
禁止カードの1枚目は《巫蟲の呪術師》でした。
「禁止となるカードは、あと1枚あるみたいね?
次回は2枚目のカードについて語っていくわ――」
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