環境最強ランキング【Tier2(ウルカ環境)編】

「いくわよ……ドローっ!」


描くのは黄金の軌跡。

奇跡を手にする金色の光。


運命力の発露――フォーチュン・ドロー!


……とはいかず。


「よ、四等……!」


「残念でしたねぇ、ウルカ様。でも四等でも美味しいですよ?我々も生徒のために、腕によりをかけて作ってますからね」と、コックさんが笑った。


学食にて――


普段は貴族の子女が集う学校らしく、上品なコース料理を出している「学園」の学食も、今日からは夏休み営業。

私がドローしたのは、夏休み限定メニューの「ドローバーガー」だ。


これはコックさんが夏休みも帰省せずに勉強を頑張る生徒のために用意した特別なメニューであり――生徒の運命力を鍛えるために、パンズとパンズに何が挟まれているかは非公開ブラインドとなっている。


「求めよ、さらば与えられん……ってことかしら」


――日常生活でもドローを要求されるのは、カードゲームではよくあること、だけど……実際に体験してみると、シュールね!


このバーガーには一等から五等までの全五種類が存在する。


コックさんの趣味を兼ねているらしく、採算は度外視。

価格は非常にリーズナブルな設定となっているようだ。


「(実家からのお小遣いはメルクリエを通して渡されていたから……今後は、どうなるかわからないわね)」


ともあれ、今はお腹を満たさなくちゃ。


さて、「ドローバーガー」の内訳は――


一等はブランド牛100%パティのハンバーグ。

具材にはフォアグラとトリュフも使われているらしい。


で、四等は……


「フィッシュフライバーガーね」


包装紙を破ってあらわれたハンバーガーに挟まれていたのは、魚を揚げたフライ。

うん、普通に美味しそうね……!


庭園を一望できるテラス席に腰かける。


空冷魔法のカードがセットされたテーブル――

パラソルの下は真夏でも快適だ。


「いただきます」


手を合わせてから、パンズとフライをむしゃり。

って、えっ!?


「うなぎ……ですって!?」


フィッシュフライだから、てっきり淡白な白身魚を使っているとばかり思っていたけど――意外にも、フライにされていたのはうなぎだった。


さすがは「学園」のメニューと言ったところかしら。

コックさんの自身作、四等でも抜かりは無いみたい。


で、味は……


「うなぎって、脂っこいからフライにするイメージは無かったけど……ちゃんと美味しいわ。うまうま。でも、こんなにあっさりしてたかしら?」


「……白焼きの工程を長くしているんだろうね」


気づくと、金髪のマッシュヘアーがまぶしい貴公子――見た目だけはどこに出しても恥ずかしくない王子様――である、アスマがそこに立っていた。


アスマの手には「ドローバーガー」が手にされている。

どうやら、アスマも買ってきたらしい。


「白焼きって?」


「一般によく食べられる、うなぎの蒲焼きは――うなぎを焼いて脂を落とし、蒸して身を柔らかくして、それから何度もタレを付けながら焼くことで完成するのさ。その第一段階の焼き――これを指して「白焼き」、あるいは「白入れ」と呼んでいる」


「白焼きの工程を長くしている、ということは……このうなぎは普通よりも長く焼いているから脂が少ないのかしら?」


「そういうことだね」と、アスマはテーブルに座った。


「ただし、白焼きを長くすることは諸刃の剣でもある。脂を落とすということは、脂に含まれる旨味も落とすことに繋がってしまう。だから、蒲焼きをするときの白焼きは「さっ」と済ませるのが定石だ」


そこをあえてじっくりと長く焼くことで、フライ向きになるまで脂を落としている。

コックさんの見えない工夫というわけだ。


手間がかかってるのねぇ。でも――


「そこまでしてフライにするくらいなら、普通に蒲焼きにすればいいんじゃない?」


「……蒲焼きはうなぎをもっとも美味しく食べる方法の一つ、言ってみればうなぎの王道。カードゲームのデッキ構築で言えば、その有効性がすでに証明されているテンプレート構築に近い」


「歴史と、集合知による賜物ってことね」


「ただ美味しいものを作る、というだけなら王道に背を向ける必要は無い。「過去の歴史」という名の巨人の肩に乗った者に、背比べを挑んでも仕方ないからね」


「でも、料理でしょ?

 料理に「美味しいものを作る」以外の目的があるの?」


「美味しいものを作る、は前提として――

 そこに創造性という自分なりの刺激エキサイティングを混ぜる」


自分なりの、刺激――


「先人のレシピを踏襲して、その道も極めるのも立派な料理だよ。けれども、歴史が紡いできた「王道」に、自分なりの工夫で新たな創造性を加えて……あるいはそこに爪痕が残せたら……それがコックの想いなんじゃないかな」


「実際、美味しいわ。このフライ」


アスマは真剣な目をして云った。


「やってみないとわからないこともある、ということだ。失敗しても問題ない。次に活かせばいい。トライ&エラーからしか得られない経験があるんだから――取り返しがつく範囲のことなら、尚更さ」


「……意外だわ。

 アスマが、そんなことを言うなんて」


「おいおい、僕はこれでも第二王子だぞ。幼少のみぎりから一通りの贅沢はさせてもらっている。「食」についても一家言ぐらいあるさ」


「いや、そうじゃなくて」


――アスマが、言いたいことは。


「……私をなぐさめてるんでしょ?」


「…………っ!」


「肝試し大会の裏で起きていた出来事、一般の生徒には伏せられてるけれども……王子であるアスマの耳には入ってるわよね。私が銀毛九尾に操られて、イサマルくんやエルちゃん、ドネイト先輩を襲ってしまったこと」


「あ、ああ……」


「元は私の不注意から起きたことよ。

 みんなは許してくれたけどね……」


惑星地球化計画アルス・マグナ種の保存ニグレド》というカードから《シルヴァークイーン・ナインテイルズ》を作ってしまったことについては、シオンちゃんの正体にも触れることにもなってしまうので「学園」には伏せている。


(銀毛九尾は私を乗っ取っているあいだに大量に自身を複製していたので、実はそれらを回収するために大忙しだったのだが――それはまた、いずれ別の話で)


ただし、私が興味本位で《殺生石》を弄ったことが《シルヴァークイーン・ナインテイルズ》の封印を解除することに繋がり、結果として大きな被害を招いたことについては先生たちにも正直に話した。


「取返しがつく範囲、に終わったのは……イサマルくんが必死に戦ったから、メルクリエがイサマルくんを助けてくれたから。私には何もできなかったわ」


「……イサマルも、無事に目覚めたんだろ?メルクリエの件にしたって、君が何か出来たわけじゃないだろうに。ともかく。いつまでもナナフシみたいに止まっていないで、まずは失敗から学ぶことだな」


「ふふっ」


「な、なんだよ。急に笑って」


――ナナフシ。

じっと動かずにいることで木の枝に擬態する昆虫!


「そうやってアスマが素直でいてくれるなら……たまには、落ち込んでみるのもいいかもね」


「僕はいつだって素直だぞ。

 ひねくれ者は君の方だ」


そう言いながらアスマはバーガーの包装紙を開いた。

ふわり……とトリュフの芳醇な香りがただよう。


「どうだ。一等のブランド牛バーガー・ロッシーニ風……羨ましいだろう?羨ましければ、君も自己研鑽にはげんで運命力を鍛えることだね。ただでさえ地力で劣るウルカのような人間には落ち込んでいる暇などない……落ち込んでいるあいだに、せいぜい、落ちこぼれるだけさ。ひゃははは!」


「……はぁ」


――やっぱり、あんたもひねくれ者じゃない。


まったく、アスマは本当にウルカのことが好きなのね。

……ウルカだって、過去のすれ違いで気まずくなってただけなんだし。


そうね、ウルカの方も素直になれば――


「って、ちょっと待って」



銀毛九尾が言っていた話によると。


過去の世界で新川真由が転生して――

この世界でウルカとして生まれて――

真由としての記憶を取り戻して――

つまりウルカって私のことで――


……あ。



「あ、あ、ああーーーーっ!!!」


「ど、どうしたんだ!?」とアスマは狼狽する。


でも、そんなの気にしてる場合じゃない。


「ああーっ!ああーっ!ああーっ!」と、頭を抱えて私は絶叫した。



ウルカが、アスマのことを、好き?

アスマを、大切に、想っている?


いやいやいや。

いやいやいや。


そのウルカって……私のことじゃない!!!


「あ、ありえないわ……

 こんな、ひゃははは笑いの残念王子を……!」


この、私が……う、嘘。



ぐうう~~~と頭を抱えてうずくまる私に、

アスマは頬をかきながら云った。



「まぁ、なんだ。よくわからないけど。

 ……元気が出たならよかったよ」



☆☆☆



「うふふ。

 ついにウルカ様も自覚しましたわね~♪」


庭園の木陰に隠れたアマネは、望遠鏡を手にほくそ笑む。


イサマル――玉緒しのぶには、前世で両片思いだったアドバンテージがある。


前世アドバンテージでは並ぶ者はいない……

けれども、アドバンテージは一つ!じゃない!


。そうよそうよ、ウルカ・メサイアとアスマ・ディ・レオンヒートは今世では幼馴染にして憎からずの仲ですもの。ハート様もおっしゃってましたわね……ウルカ様がチュートリアルの破滅イベントを回避したことで、アスマ王子との仲がふたたび近づくことになると!」


クソボケ残念百人一首オタクが勝手にイモ引いてウルカ様から逃げ出した今、ひゃはは笑い残念ツンデレ王子が距離を詰めるチャンスですわ!

スピリット・レースで言えばコースのストレートで精霊身差を詰める絶好の機会!

いけーっ 国王の息子‼



う、うふふ……!

こうして炎天下の中、空冷魔法も効かない野外で……!


じっとナナフシみてえに木陰に止まってこっそり監視してた甲斐がありましたわ!

で、でも……!


「あっちぃですわぁ……」




というわけで、環境最強ランキングTier2編。

ウルカ環境のTier2は、この人ですわ!


【環境】

ウルカ・フォーマット

【Tierランク】

Tier2

【キャラクター名】

アスマ・ディ・レオンヒート

【強み】

今世では【幼馴染】属性キャラとして強い関係性を有している。

過去エピソードが強い。

決闘デュエルの腕は「学園最強」であり、運命力にも恵まれているため、シリアス展開になるほどウルカから見直される機会が増える。

意外と思慮深く面倒見が良い性格をしている。

【弱点】

ウルカと距離が近づくたびに、照れ隠しなのかクソみたいなツンデレを発動して距離を離しにかかる傾向にある。

百合とは異なり男女カプにおいての【幼馴染】属性は敗北者として扱われることがあり、【強み】であると同時に【弱点】にもなる。素人にはおすすめできない。

笑い声がチンピラ。




っと、解説を終えたところで――

ピロン♪と決闘礼装に通知が来た。


偵察に出していた《カスタード・プリンセス》だ。

プリン頭の少女精霊はイサマルを監視している。



「おっ、向こうでも動きがあったみたいですわね。

 次回はTier2(イサマル環境)編!


 ドルチェ♪ドルチェ♪

 いよいよ、わたくしの推しカプですわ~!」

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