環境最強ランキング【Tier1編】

「学園」の保健室にて――


目が覚ましたイサマルくんから、私はこの世界の元になっているはずの乙女ゲーム『デュエル・マニアクス』について聞くことになった。


この世界を襲う「闇」の正体――

超・幻想機関『イディオット・フェアリーテイル』!


「本来は、私がそのメンバーだったなんて」


「大丈夫や」


イサマルくんは云った。


「今のウルカちゃんが「闇」に堕ちたり、ユーアちゃんや世界の敵になんてなるはずがない。そうやろ?」


「ええ……そのつもりだわ」


――本来の、ウルカなら。


「学園」を退学し、家からも追放されて、何もかも失ってしまったウルカならば……その憎悪と怨嗟の虜囚となり、あるいは「闇」の力を追い求めたのかもしれない。

メルクリエが――私の憎しみを利用したというの?


「……きっと、「偽りの救世主」事件のせいね。私がユーアちゃんを憎むことになってしまった原因。真由としての記憶がなければ……ウルカとしての人生だけだったら、あの子に対する逆恨みを捨てることは出来なかったはず」


「ああ、そのことなんやけども。実は……ユーアちゃんの本当の生まれはアルトハイネス王国の侯爵一族――メサイア家。ウルカちゃんの実の妹だったんや」


え……!?


「ユーアちゃんが、私の妹?」


「ゼノンの予言は外れてなかった。予言にあった「光の巫女」はメサイア家に生まれていた……ウルカちゃんとユーアちゃんは血を分けた双子の姉妹。けれども、なんらかの理由で母親はユーアちゃんの出生を伏せた――その後は隣国ムーメルティアの児童養護施設に預けられることになり、ランドスター家に引き取られることになった……っちゅうわけや」


「お母さんは……私の、ウルカのお母さんは……どうして、そんなことを?」


「わからん。ここまでは霊岸島こころが残した設定メモどおりで、共通ルートにも伏線は張ってたから変更できなかったんや。変えようにも、共通ルートは体験版として配信しちゃったしね……しゃあないんで、作中では「メサイア家の権力争いに利用されることを恐れたんじゃないか」って推測させるに留めた」


お母さんが、ユーアちゃんの存在を隠した?

そんなことをしなければ……私が「偽りの救世主」として後ろ指を指されることもなかったのに――!


「(一体、どうして……!?」


写真でしか顔を知らないお母さん。


物心つく前に母を亡くして、父と義母に疎まれた私にとって――家族と言えるのはメルクリエだけだった。


優しくしてくれたアスマのお母さん――幼い私の心の支えになってくれたセレスタさんも、病で伏して……アスマともささいな諍いから疎遠になって……そう、私はずっと孤独だった。


でも、本当は……

私には、もう一人の家族がいた。


「あの子が……私の、家族だったなんて」


ユーアちゃんがいる学生寮の方へ意識が向いた。

私は保健室の窓の外に目を向ける。


すると――ん?


「……《カスタード・プリンセス》?」


「どうしたんや、ウルカちゃん?」


「窓の外に《カスタード・プリンセス》がいた気がして」


よくよく目をこらす。

そこの樹の枝にちょうど、根元が黒い金髪の……プリン頭の女の子みたいなシルエットが見えた気がしたんだけど。


「気のせいだったかしら?」


「ここ、二階やで?

 そもそも《カスタード・プリンセス》ってなんやねん」


「アマネちゃんのスピリットよ」


「アマネ……?」


「私のクラスメイトだから、イサマルくんとはクラスが違うけど……『デュエル・マニアクス』をプレイしたなら知ってるんじゃないかしら?ほら、私の友達で入学当初から仲が良かった、文芸部のアマネちゃんよ」


「そんなキャラ、おったっけなぁ?」


「えーとね……私よりもちょっと淡い色合いの紫っぽい髪色で、同じ縦ロールの……目元がぱっちりしてて、下まつ毛がオシャレな可愛い女の子よ」


「――ああっ!パラサイト子のことかいなっ!」


パ、パラサイト子?


「いや、そんな名前じゃないわ。

 あの子はアマネ・インヴォーカーっていうのよ」


「ウルカちゃんが悪役令嬢やった頃に、一緒にユーアちゃんに嫌がらせしとった取り巻きの子やろ?ウルカちゃんが気を引いとるスキに、ユーアちゃんのデッキに寄生虫パラサイトカードを仕込んだ……」


「え、ええ。たしかにその子だわ」



「あのモブ、アマネっちゅう名前だったんか。

 冒頭にしか出てこないモブキャラなのに、原画の赤木先生がはりきったせいでイベントスチルが可愛くなったんで、妙に人気がある子なんや。『デュエル・マニアクス』名鑑でも「取り巻きA」として名前が設定されなかったんで、ピクシブ百科事典ではファンからの愛称として『パラサイト子』で登録されとる」



「パラサイト子って……」



☆☆☆



「(し、失礼ですわね……!)」


――パラサイト子、ですってぇ!?

わ、わたくしが寄生虫そのものみたいに!


そもそもの話、あれは……



----------------------------------

ウルカ「やれ」

アマネ「はい……」

----------------------------------



「(どうみても、主犯はウルカ様ですわぁ!)」


くぅ~と唸りながら、

縦ロールの少女――アマネは決闘礼装を操作する。


晴雨計型決闘礼装『コッペリウス』――

気圧の変化を予想する大昔の気圧計を模したガラス球、そこに満ちた液体が七色に変化する。

ガラス球の液体はマルチカラーのモニターのように「学園」の二階にある保健室の光景を映し出していた――その映像が俯瞰映像となり、窓の外の木の幹に隠れる《カスタード・プリンセス》へと視点が移る。


「こら、見つかるところだったじゃないですの!」


アマネの叱咤を受けた黄色いドレスの少女精霊――

《カスタード・プリンセス》は目を><にして手を合わせた。


――もう、気をつけてよね。


スピリットとの視覚共有による偵察――

インヴォーカー家の家伝であり、アルトハイネスの魔術体系においても高等技術に属する魔法だ。


「まったくもう。デザートはこっからですのよ。

 ドルチェ、ドルチェ♪

 そろそろ「あの話題」に触れてくださいまし♪」



☆☆☆



ピロン♪と決闘礼装に通知が来た。


「あら、保健のカミッチ先生からだわ。イサマルくんが目を覚ましたなら、精密検査をしたいって」


「精密検査……バリウムとか飲むんかな?」


「会社の人間ドックじゃないんだから」


病み上がりで無理をさせすぎたかも。

そろそろお暇……なんだけど。


やっぱり、今のうちにしておいた方がいいわよね……

少なくとも「あの話」については。


「……ねぇ、イサマルくん。

 あなたがカードにされる直前の話なんだけど」


「ウチがカードにされる前の話?」


「イサマルくんが、その……ほら」



----------------------------------

「ウチ、真由ちゃんのことが好き」


「友達として、とか……親友として、とかじゃなく……女の子として好き。ずっと、好きだった。そういう目で見てた。気持ち悪いよね……こんなこと、言われても困るって思う。玉緒しのぶは、死ぬまで言えなかった。真由ちゃんが好きなの」

----------------------------------



「…………あ」


「思い、出した?」


「思い……出したわーっ!」


ガンガンガン!

保健室のベッドにイサマルくんは頭を打ちつける。


「ちょ、ちょっと!?

 これから精密検査なんでしょ!?」


「そ、そんなん知るかぁ!あ、あぁ!ウチ……なんてことを……し、死にたい……!いくら最期かもしれないからって、勢いだけであんなことを!」


「勢い、だけなの……?」


「う……」


あのとき、私はイサマルくんに――

しのぶちゃんに返事をすることが出来なかった。


でも、こうして会えたんだから。

今度こそは言えるはず。



――私の正直な気持ちを。



「イサマルくん。私ね……」


「大丈夫や、ウルカちゃん!

 もう、あのことはええから。

 これで……ウチもスッキリしたわ!」


「……は?」


「玉緒しのぶとしての未練は、きちんと失恋できなかったこと。ウチの思いの丈は伝えた!これで充分、満足や!いや、満足するしかないやないか!」


ち、ちょっと待ってよ。

そんなことで満足されてたまるもんですか!


「あのね、ちゃんと聞いて。私はね……!」


「それに言うても、今のウチは玉緒しのぶとは別の人間やからね。原作でも、ウチのルートのテーマは「今を生きる」やもん。見るべきは過去やない、現在や!」


「……私が、過去ですって?」


「あっ、もちろん大切な友達ではあるで。でも、もう変な気を起こしたりしないから、そこは安心してや。ウルカちゃんとウチは、この世界では知り合ったばかりやしね。だから、これから仲良くしていこうと思うんや。今度こそ……親友として」



…………へぇ?

…………へぇ??

…………へぇ???



「そうね、たしかに……私とイサマルくんはたった今、友達になれたばかりだものね?アスマのカードを賭けたアンティ決闘デュエルのときは、さんざん酷いことを言ってたし。ゴミだの、虫けらだの、疫病神だの」


「あ、あれはその……」


「私、忘れてないわよ?それに、聖決闘会カテドラルのみんなはイサマルくんのことが大好きみたいだもの、私なんて過去になっても仕方ないわよね……。原作のイサマルくんは「交遊」をよくしてたって言ってたけど、エルちゃんやドネイト先輩たちもそうなのかしら?」


「そ、そんなわけないやろ!エルちゃんはまだ子供やし……それに、どうしてドネイトくんが?ドネイトくんは男の子やろ?」


「……別に、他意はないわ。

 ずいぶんと仲が良いみたいだったから、それだけ」


「ウ、ウルカちゃん?」


「…………」


ばちん!と丸いおでこにデコピンをした。


「あ、あ痛ぁ!」


「よく診てもらうといいわ」


それじゃ――と言って、私は保健室を後にする。



「精密検査、がんばってね……?

 イサマル聖決闘会長さん」



☆☆☆



「こ、こんの……クソボケが~~~!!!」


「学園」の校庭にて。

モニター越しに保健室を監視しながら、アマネは絶叫した。


周囲のコートでクリケットを楽しんでいた上級生がジロリとにらんだので、アマネは愛想笑いを浮かべながらそそくさと小走りになる。


「王手だったじゃないですの!

 チェックメイトじゃないですのよー!」


互いに思い合っているけど口には出せなかった……

どうみても「両片思い」の構図だったじゃない!


余計なことを言わずに告白を待っていれば、勝負は決していたというのに。


「あのクソボケ残念百人一首オタクが……ふざけたことをベラベラと……ああもう、眼ん球引っこ抜きますわよ……!?」


ぐぬぬ……。

ここで「」にしてもよかったのに。


というわけで、勝負の行方はseason.2に持ち越しですわね。




環境最強ランキング、Tier1編。



まずはウルカ環境から解説していきますわね。


【環境】

ウルカ・フォーマット

【Tierランク】

Tier1

【キャラクター名】

イサマル・キザン

【強み】

前世では両片思いだったという圧倒的なアドバンテージ。

百合(女性同士の恋愛)においては最強と呼ばれるアーキタイプの一つである【幼馴染】属性を持つ。

他にも一見して恋愛とは関係なさそうな特技として、疑似的な完全記憶能力を有しており、これは幼馴染特有の過去エピソード語りにも応用できる。

【弱点】

デリカシーの無さ。

今世のイサマル・キザンが口も性格も頭も悪い男のため、肉体面でそっちに引っ張られることでデバフを受けている。

前世の時点で自社が開発に関わっている作品の次回作構想を友人に喋ったり、自社の作品の人気投票に段ボール票を送りつけたりとコンプラ意識がヤバい。

本人は無自覚ではあるものの、聖決闘会カテドラルを改造する過程でハーレムに近い環境を構築してしまったため、自分が攻略される立場になってしまっている。



続いて、イサマル環境ですわ。


【環境】

イサマル・フォーマット

【Tierランク】

Tier1

【キャラクター名】

ウルカ・メサイア

【強み】

前世では両片思いだったという圧倒的なアドバンテージ。

百合(女性同士の恋愛)においては最強と呼ばれるアーキタイプの一つである【幼馴染】属性を持つ。

一見して気丈でタフに見えるが、本質的には寂しがり屋な一面があり、こちらを開示することで威力を底上げできる。

【弱点】

今世のウルカ・メサイアから受けた影響なのか、意外にも嫉妬深い。

恋愛については受け身であり、積極性に欠ける。

自身も複数の人物から攻略される立場にあり、ウルカ・フォーマットの方でカップリングが成立した場合には勝手に退場する可能性がある。




――見てのとおり。


「現在の環境は、ウルカ・フォーマットのTier1とイサマル・フォーマットのTier1が互いにカップリング成立寸前という、麻雀で言えばリーチの状況……場合によっては両フォーマットが同時に「最終回」へ突入する可能性すらありましたわ」


がっ、ダメ……成立ならず!


「宝くじで言えばキャリーオーバーですわね。

 トロフィーは次回へ持ち越しですわ」


まだまだ、勝負は決していませんことよ。

Tier2の面々も、ポテンシャルで言えば劣ってませんもの。




「というわけで、次回はTier2の解説ですわ♪

 わたくしの推しカプも登場しますわよー!」

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