双児館の決闘! 光の巫女、壺中の天地にて斯く戦えり(第8楽章)

対戦相手でないにも関わらず、修行場に降り立ったウィンドさん。

彼は双子の姉――エルちゃん――の手を握り、決意に満ちた表情で言った。


「《完全生命体「RINFONE」》はドリアード家の相伝じゃない。私の生得属性から生まれた一代作札ハイブリッド――だから、「RINFONE」はずっと叫んでいたんだ。この「学園」に入った私が、他人に弱みを見せないために口を閉じて……沈黙を守っているあいだも、ずっと……誰にも聞こえない声で叫んでいたッ!」


私はウィンドさんと対峙する。


「……叫んでいた?いったい、何をですか」


「姉さんを……姉さんにとっての、この地獄のような「学園」を楽園へと変える強さ――それを求める、私の心の叫び。私は姉さんと一緒に強くなる。強者が弱者を食らうことが肯定されるのなら……私が誰よりも――姉さんを愛する強き者となる!

 「RINFONE」ッ!」


ウィンドさんの声に応えるように、すでにボロボロに崩壊しつつあったパズルの中から――新たな形態が出現した。

それは多面体で構成された巨大な人の顔――地獄の責め苦に晒された苦難の巨人。


「これは、巨人族ウトガルド……!?」


巨人族ギガースさ。一つ賢くなったね、ユーア!これは地獄の最下層である永久氷獄コキュートスにおいて、咎をあがなう宿命を課せられた――鎖に繋がれし罪人!」


巨人の顔を霜がおおった。

身も心も凍らせるほどの絶対的な冷気が発生する――。


私は直感した。

――


新たな形態の名をウィンドさんが告げる。


「《七連祭壇体セプタプティック・セブンシンズ「Frozen I」》!

 ……姉さんッ!」


双子の姉弟が視線を交わして見つめ合った。

瓜二つの双貌が、互いに対して頷き合う。


まだ、決闘デュエルは終わりじゃない。

一旦は敗北を受け入れたエルちゃんも――闘志を受け継ぎ、その炎を再点火させる!


「ウィウィがボクに力を貸してくれる……!

 「Frozen I」――変形時発動効果トランスフォーム・エフェクトにより、第七形態は自身を破壊するよ!」


自壊効果アポトーシス……!第七形態は繋ぎに過ぎないということですか!?」


「Frozen I」――我は凍結せり。

七連祭壇体セプタプティック・セブンシンズ「Frozen I」》が、己の罪を自ら裁いた――!


フィールドの「RINFONE」第七形態が破壊され――ウィンドさんそっくりの手つきで、エルちゃんはパズルを組み立てていく。


空中に「R」「I」「N」「F」「O」「N」「E」の七文字が現れた。

双子の少女たちが魔力を込めると、「F」と「I」の文字が結合して「A」となる。


新たに誕生した文字列は「RE ANON」。


「これって……!?」


いかめしい巨人の表情がヒビ割れて、中から神々しい顔が出現した。

豊かな髭をたくわえたその相貌は、さながら神話に登場する全能の神の如く。


巨人の生首は正体を現した。


「第七形態が破壊されたことで「RINFONE」は再配置されるんですね!今度は……第八形態として!」


エルちゃんとウィンドさんは、新形態の名を告げる。



「「《八連祭壇体オクテュプティック・オールマイティ「Re Anon」》!!」」



☆☆☆



聖決闘会カテドラルの応援席にて。

イサマルとドネイトは手に汗を握って双子の奮戦を見守っていた。


「ウィンドくんはエルちゃんの決闘デュエル地獄インフェルノで終わらせない、って言うてたけど……あんな生首みたいなスピリットでやれんのか!?地獄やぞ!?」


「小生の、推理が正しければ……第八形態すらも、まだ……終着点ではありません」


ドネイトの推理を聞いて、イサマルは驚いた。


「ってことは、あるんか……第九形態が!?」


「間違いなく、ここが正念場。ですから……小生も、兄になります」


――は?


「何を言うてんねや?」


「以前に……会長が、おっしゃっていましたね。ユーア嬢の本名は、ミシュア・メサイア――予言にあった「メサイア家に生まれた『光の巫女』」であり……ウルカ嬢の、双子の妹なのだと」


「せやで。まぁ、生まれてから色々あってな……この辺はアスマくんルート終盤のネタバレになるんやけど」


「現在のユーア嬢には、血縁の姉であるウルカ嬢と……血縁こそ無いものの……絆で結ばれた、兄のジェラルド氏がいます。対して……今のエル嬢にはウィンド氏だけ、です」


――たしかに。兄と姉の数で負けている。

もしかして、これがエルちゃんが苦戦している原因……!?


「……そういうことかいな。ドネイトくんが義理の兄になれば、数は互角になるっちゅうことか!」


「この「学園」が……エル嬢にとって、地獄のように感じられているというのなら――そうではないことを示しましょう。小生には、兄弟はいませんが……」


「そういうことなら、ウチも乗っかったるわっ!」


――やっぱり、ドネイトくんを仲間にしてよかった。


これが、今のうちにできることなら。

数だけじゃない。想いの質量だって、載せてやるんだから!



☆☆☆



「がんばれーっ!エルちゃーん!お姉ちゃんが、ついとるでーっ!」

「兄もいます。頑張ってください、我が妹――エル嬢!」


えっ、えっ。


突然、後ろの応援席から変な言葉をかけられたので――「ボク」は耳を疑った。


かいちょーとドネドネが……なぜか「姉」と「兄」を名乗り始めてる!?


「どうして、どうして!?かいちょーもドネドネも、別にお姉ちゃんでもお兄ちゃんでもないよね!?」


「気持ちの問題やーっ!エルちゃんは、小さいのによくやってるでーっ!」


「そ、それはありがと。でもでも、身長はどっちかっていうとかいちょーの方が小さい……」


「それは言わん約束……!年上なんは事実やからなぁ!」


かいちょーは「へへへ」と笑いながら扇子を広げた。

あっ……でも、かいちょーの中身は本当は「しのしの」なんだから。


「(ボクよりも、本当はずっと大人なんだっけ……)」


「姉さん」と、ウィウィが横で呟いた。


「ウィウィ?どうしたの」


「全力を尽くそう。ユーアが姉さんに対して、全力で挑んでいるように。

 ……負けるのは、怖い?」


「……うん」


「負けたら、もっと強くなろう。会長や、ドネイト先輩と一緒に」


「かいちょーたちと、一緒に……」


――正直なところ。


「学園」の決闘デュエルは、以前よりもつらくはなかった。

ドネドネのおかげで強くなったし……勝ったら、かいちょーが喜んでくれる。


「遊び」じゃない決闘デュエルに挑むのは、未だに手が震えるけど。

戦うのは、嫌なことばかりじゃない。


……居場所が、できたから。


だから、怖いのは……負けて、居場所を失うこと。


「……負けても。ボクと一緒に、いてくれるかな」


ウィウィは困ったように眉を寄せた。


「どうだろう。それは……あそこにいる、自称「お姉ちゃん」と「お兄ちゃん」次第になるね」


かいちょーとドネドネは、尚も――姉がどうした兄がどうした、と騒いでいる。

(そもそも、今のかいちょーは男の子なんだから兄なんじゃ……?)


はっきり言って、大人らしくもない、なんだかバカっぽい空騒ぎだけど。


「……にひひ」


――うれしくて、うれしくて。


たまらない気持ちになっている「ボク」がいるのだった。



〇〇〇



イサマルさんたちの応援を受けて、エルちゃんの気力は充分となったようだ。


「(ちょっと、応援の仕方が個性的でしたけどね……!)」


私は盤面に集中した。


アルターピースサークルに出現した新たな「RINFONE」。

エルちゃんは「Re Anon」――「即・再発動」の名を冠した効果を起動した。


「《八連祭壇体オクテュプティック・オールマイティ「Re Anon」》の変形時発動効果トランスフォーム・エフェクト

 これまでの決闘デュエルで発動した「RINFONE」の効果の中から、一つをコピーして再発動できるよ!」


全知全能オールマイティを名乗るだけはある特殊効果。

となると、コピーするのは――。


「エルちゃんの狙いは第六形態「INFERNO」の再現……!もう一度、このフィールドに「完全なる地獄」を出現させるつもりですか!?」


「ちがう、ちがうよっ♪ボクたちが目指すのは――」

「――私たちが目指すのは、地獄の先にあるもの。地獄の向こう側へと続く煉獄の山脈、それを踏破した先にある救済の道しるべだ!」


双子の宣言どおり。

「Re Anon」が選んだ効果は第六形態「INFERNO」じゃない。


選んだ効果は――第七形態「Frozen I」!


「ふたたびの自壊効果アポトーシス……!目指すは第八形態のさらに先ですね!?」


自らの罪を裁き、責め苛む氷獄の変形時発動効果トランスフォーム・エフェクト

第八形態「Re Anon」は、全能の力を持ちながらも退場していく。


求めるのは過去の再生産じゃない。

私にも、エルちゃんたちが目指すものの形が見えてきた気がした。


「恐らく、このターンで決着を着けるつもり……だとしたらっ!」


すでに現実世界での勝敗は着いている。

ランドグリーズと化した私が連続攻撃を繰り返したことで、私も、エルちゃんも、どちらもライフコアが破壊されて敗北条件を満たしているからだ。


勝敗の行方は「壺中天」に委ねられている。

ならば、ここでエルちゃんが打つ一手は――!


「変形した第九形態を――「壺中天」へと送り込むことにあるはず!」


「ユーア、君は賢いよ。だが、もはや止めるすべは無いっ!――姉さん!」

「うんうん!いくよ――っ!」


エルちゃんが手札のスペルカードに手をかける!



●●●



「……エルさん?」


「もう、ウィウィごっこはおしまい」


そう言って、「壺中天」のエルさんはズボンを下ろした。


「ちょ、ちょっと!?何してるんですか、ハレンチです!」


「にひひ、大丈夫大丈夫!ちゃんと下にはスカート履いてるもん!」


どこからか取り出したウィッグを付けて、髪型をツインテールに戻す。

リバーシブルのマントを裏返すと、四色に彩られたカラフルなマントになった。


エル・ドメイン・ドリアード。

『ラウンズ』の一角にして、四元体質アリストテレスの「四重奏者カルテット・ワン」。


本来の姿に戻ったエルさんは、寂しげな笑みを浮かべた。


「……ボクは、自分の中にウィウィをつくった。強くなるために。”ようしゃ”なく、”れいこく”に、相手をたおすために。絶対的なヒーロー。だけど……それは本当のウィウィじゃなかった。ボクがかってにつくったウィウィ――それを”しょうこ”に、ボクは知らなかったんだもの」


「何をですか?」


「ウィウィね……ボクのこと、大好きなんだって!」


エルさんは唇に指を立ててウィンクした。


この「壺中天」と現実世界を隔てる壁は、使用者であるエルさんのメンタリティに大きく依存しているらしい。

そのために、最初は聞こえなかった外の声が――徐々によく聞こえるようになっていた。


心の壁が、崩れようとしているんだ。


「私も、知りませんでした。お兄様が私の試合をずっと見たがってたって……それを知れたのは、エルのおかげかもしれません」


「あ、こっちのユーユーもなれなれしくなってるぅ!」


私たちは笑い合った。

決闘デュエルの結末は近い――。


エルちゃんが手札のスペルカードに手をかける。


「(来るんですね……あのカードがっ!)」



〇〇〇●●●




――二つの世界で、少女の声が重なった。


「「《双子連動消去》!!」」


そして――二度、天地が反転する。




●●●



現実世界と「壺中天」。

二つの世界を入れ替えるスペルカード《双子連動消去》――禁断の二度打ち!


これによって入れ替わっていた盤面は元に戻る。


「壺中天」の世界に完全生命体――「RINFONE」が帰還する!


これまでの「RINFONE」の形態を彩った八枚のイラストアート。

箱。熊。鷹。魚。巨神。地獄。罪人。聖人。

九枚目の「扉」が加えられ、その全てが並び、一枚の巨大な絵画となった。


アルターピースサークルに配置されたのは――「門」だった。


それは登竜門であり、異なるカードを繋ぐ門でもある。

煉獄の山を踏破した先にあるもの――天国パラダイスの扉。


「RINFONE」の最終形態――泣いても笑っても、これがラストバトル!

神の旋律をなぞることを許された天使の歌声で、エルちゃんはその名を響かせる。





「傾聴せよ!

 これなるは辺獄をさまよいし漂流楽人スカルドの韻文。

 嘆きの川を超えた地獄インフェルノの先にて――重力は反転する!

 煉獄プルガトリオの入り口に立つ者よ。

 歓喜の歌をもって第九の「門」へと進め!


 《九連祭壇画ノナプティック・ナインスゲート・完聖善門体「FOR NINE」》!」





先攻:「壺中天」のエル

【シールド破壊状態】

アルターピースサークル:

九連祭壇画ノナプティック・ナインスゲート・完聖善門体「FOR NINE」》

BP9999


後攻:「壺中天」のユーア

【シールド破壊状態】

なし

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