双児館の決闘! 光の巫女、壺中の天地にて斯く戦えり(第7楽章)

目の前に顕現した「完全なる地獄」――。

その名は「INFERNOインフェルノ」。


巨大な立方体型のスピリットの恐るべき姿……!

そのBPは……公式戦最高記録となる15600に達している!


細っこい足がガクガクと震えた。

それでも、私は必死に己を奮い立たせる。


「(決めたんだ。私はエルちゃんと正面から向き合うって。向き合って……私はエルちゃんのお友達になるんだッ!)」


まるで世界に自分がたった一人きりで、何もかもが自分を苛む鉄格子の檻のように感じている今のエルさんの姿は――よく似ている。

『光の巫女』である重圧に押し潰されそうになっていた、この私に。


そんな私だからこそ、エルちゃんに示してあげたい。


ただ同じ「学園」に集い、たまたま出会っただけの縁であったとしても。

偶然の出会いが――時に人生を揺るがす「きしみ」となることもあるのだと。


四元体質アリストテレスも『光の巫女』も関係なく。

ただカードを交わして、共に全力を尽くす。


決闘デュエルの場では、誰もが一人の決闘者デュエリストだ。


決闘デュエルは決して一人では成立しない競技。

だからこそ――この出会いには意味があるはず。


「(エルちゃんが誰にも必要とされないなんて、そんなことは絶対に無い……!だって、現に今――私はエルちゃんと決闘デュエルできて、とっても楽しいんだもの!)」


六連祭壇画セクスタプティック・セレスティアル・完成全能体「INFERNO」》。


今の私は、あまり良くない頭を全力で回して考えている――。

「どうすれば、あのスピリットを倒せるか」――と。


そうだ。


逃げ出したいくらいに怖いけど……!

同時に、頭がはちきれそうになるくらいに……楽しいッ!


攻略のカギとなるのは、決闘デュエルの前にお兄様から預かったカード。


使お兄様にとっての、スピリットの代わりとなる「あのカード」なら、もしかしたら――無敵の「INFERNO」に対抗できるかもしれない。


「……ユーア!」


お兄様は、今はこの場にいないけれど――。


「おい、ユーア!」


お兄様の心は、カードと共に私のデッキに宿っている。


「……まずいな、完全に自分の世界に入っているぞ」


その証拠に、こうして目を閉じれば――お兄様の声が聞こえてくる。


「ほら、あんたの応援が足りないのよ。もっと腹から声を出しなさいな」


あっ、ウルカ様の声も聞こえてきたっ!?


「僕の気のせいならいいんだが……ずいぶんとジェラルドとの距離が近くないかなぁ、ウルカ?君たちがそんなに仲が良いとは聞いてなかったんだが。おい、ウルカ、聞いているのか。僕たちは一応は婚」


……なんでアスマ王子の声まで聞こえてきたんだろ?


目を開ける。

すると――修行場の二階にアスマ王子とウルカ様、お兄様の三人が揃っていた。


――お兄様?

今日は図書館で大事な勉強があるはずなのに……!


「お兄様がなぜここに?(勉強を)サボったんですか?自力でサボタージュを!?」


「俺は最初から観戦していた……」と、お兄様はバツが悪そうに言った。


「ユーア……お前は俺の前だと、いつもプレイングに力が入りすぎる。力みすぎることで、プレイミスが起きやすくなっているんだ。……そのために、俺はあえてお前から身を隠していた」


「そうだったんですか!?」


「つまり、こうして俺が姿を現したということは……お前は今、プレイミスが起きやすくなっているということだッ!」


そんな――!?


「じゃあ……お兄様はどうして姿を現したんですか!?このままじゃ、私はプレミしちゃいますよ!」


「表向きの理由は――このあたりで、お前を成長させる必要があるからだ。誰が観戦してるかによってパフォーマンスが変わるようでは、一流の決闘者デュエリストとは言えない。……たとえ困難が伴うアウェーの環境であっても、万全の実力を発揮できるようでなくてはな」


「うっ。たしかに、一理あります……!」


――でも。それは表向きの理由?


「じゃあ、本当の理由は?」


「……俺だって」


急にお兄様の声が小さくなった。

距離が離れていることもあって、上手く聞き取れない。


「……お兄様?」


「ふムふム」と、立会人のジョセフィーヌちゃんがマイク型の決闘礼装を操作した。

その瞬間、決闘礼装のマイクアームがお兄様の元まで伸びていく。


あのマイクには拡声魔術がかけられているのだ。


「さぁ、お義兄さン!はりきってどうゾー!」


「ジョセフィーヌ……感謝する。すぅー……んんっ」


お兄様は深く息を吸って、喉の調子を整える。

意を決して、お兄様はマイクをつかんだ。



「俺だって……!ユーアの試合を……応援したいんだっ……!」



あの岩のように精悍なお兄様が――漏らした本音。

意外な言葉を受けて、修行場に集った面々はあっけに取られている。


ジョセフィーヌちゃんだけが「以上、未成年の主張でしター!」とテンションを上げて、記事にするためのメモを高速でタイピングしていた。


そして、私はというと。


「(……う。嬉しい。嬉しすぎますっ!)」


お兄様が、ずっと私の試合を応援したかっただなんて。

これまでにそれができなかったのが、私の弱さにあるのだとしたら。


「この「学園」で――私は強くなります!見ててください、お兄様っ!」


運命力が最高に高まっているのを感じる。

右手に宿るは黄金の光。


決闘礼装から――運命のカードをつかみ取る!

このターンが、全ての決着をつけるファイナルターン――!


「フォーチュン・ドロー……っ!」


黄金色に輝く軌跡が弧を描く。


果たして、思い浮かべた理想は現実に。

この状況で唯一、有効打になりうる奇跡の一枚が手中に収まった。


そう、これこそが……お兄様から預かった必殺の切り札。


「コンストラクトカード、発動!

 《「錬鉄の秘宝具ヴァルトニル・アームズ」変異面グリームニル》!」


エルちゃんは驚きを隠せない声で叫んだ。


「うそうそ、「錬鉄の秘宝具ヴァルトニル・アームズ」!?それってそれって、ジェラジェラのカード……!どうしてどうして、ユーユーがそのカードを使っているの?」


「えへへ、ちょっとした偶然です!」


今日――私は一枚のカードをデッキに入れ忘れたまま、寮を出てしまった。

それを見かねてお兄様はカードを貸してくれたのだ。


お兄様が使う最強のデッキ、「錬鉄の秘宝具ヴァルトニル・アームズ」の一枚を!



☆☆☆



修行場の二階にて。


ウルカは「あら?」と首をかしげた。


「ユーアちゃんが入れ忘れたカードって、たしか……スピリットカードだったわよね。どうしてジェラルドはコンストラクトカードを貸したの?デッキの枚数のバランスを崩しちゃいけない――とか言ってたのに」


アスマは呆れた様子で頭を抱えた。


「……まさか。君は、ジェラルドが使うデッキを知らないのか?」


「知らないわよ。だって、まだ戦ってないんですもの」


「戦ってなくても、公式戦の戦績ぐらい調べられるだろう。まったく――」


アスマはジェラルドを横目で見つめる。

ジェラルドは「仕方ない」と腕を組み、自身のデッキについて話し始めた。


「……教えてやる。俺の「錬鉄の秘宝具ヴァルトニル・アームズ」は45枚のカードのうち、ほとんど全てがコンストラクトのみで構成されたデッキだ。スピリットに関しては1枚も入っていない」


それって――いわゆる「ノーモンスターデッキ」というやつだろうか。

ウルカの脳裏に、元にいた世界で見たことがあるTCGのデッキがいくつか思い浮かんだ。


「(カードゲームではよくあるデッキ、だけど……スピリットの攻防がメインとなっている『スピリット・キャスターズ』のルールでは、あまりに不利な構築じゃないかしら?)」


ウルカの表情を読んだジェラルドは、修行場で発動した《変異面グリームニル》のカードを指差した。


「俺は生まれつきスピリットを扱うことができないが――それでも、戦いようというものはあるものだ。……まぁ、見ておけ」



〇〇〇



《「錬鉄の秘宝具ヴァルトニル・アームズ」変異面グリームニル》の効果を読み上げる!


「このカードは発動後、――装備されたプレイヤーを、BP1700のスピリットとしてメインサークルに配置できます!」


これが「錬鉄の秘宝具ヴァルトニル・アームズ」の共通効果の一つ。

自分フィールド上にスピリットがいない場合――装備したプレイヤーをスピリット化させて、スピリットカードの代わりに戦場に出すことができる。


カードから実体化した、粘土細工のような不気味な仮面を装着する。

《変異面グリームニル》の効果は、まだ終わりじゃない!


グリームニル――ムーメルティアの神話における大神オーディンの秘宝の一つ。

その仮面は装着した者の姿を自在に変える力を持つ――。


「自分または相手の墓地からスピリットカードを選択して、私に重ねることで――選択したカードの名称・属性・タイプを得ることができます。

 私が選択するカードは――!」


選択するのは……私の墓地に眠る、一枚のスピリット。


天使のような白い翼。きらめくほどの荘厳な鎧。

変容の仮面の加護を受けて、私は半身と呼ぶべき戦乙女と一体化していく。


半透明のエーテル状となった彼女は、私に一瞬だけ微笑むと、その力を私に預けた。

栗色のミディアムロングだった私の髪は伸び、流れるような長髪へと変わる。


細い腕に力が宿った――。

両手でも持ち上がらないような長剣が、飴細工みたいに軽々しく持てる!


これこそが私が思いついた秘策――立ち上がる、私の相棒!


「ライド・ザ・スピリット!

 《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》!」



先攻:エル・ドメイン・ドリアード

【シールド破壊状態】

アルターピースサークル:

六連祭壇画セクスタプティック・セレスティアル・完成全能体「INFERNO」》

BP15600【公式戦、最高BP更新中】


後攻:ユーア・ランドスター

【シールド破壊状態】

メインサークル:

ユーア・ランドスター

(≒《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》)

BP1700



ふっふっふ。

――馬子にも衣装とは、よくぞ言ったもの!


自身の決闘礼装が展開した召喚陣へと降り立ち、フィールドに現れた私は――この瞬間だけ、いつものちんちくりんではない――凛々しい威風をもって戦場を導く天上の御使い、かっちょいいワルキューレの似姿となっていた。


エルちゃんは池の鯉みたいにパクパクと口を開け閉めしながら、私を指差す。


「ユーユーが、ラ、ランドグリーズになっちゃった……!」


「いかにもです!今の私のことは――ランランと呼んでください!」


「それじゃ、パンダみたいだよぉ!?」


パンダ――否、ランドグリーズとなった私の腕には、決闘礼装が装着されている。


錬鉄の秘宝具ヴァルトニル・アームズ」。


決闘者デュエリストであると同時にスピリット――これがお兄様の流儀スタイル

ここからが見せ場だ。私は手札から更なる戦術を展開する。


「スペルカード、《栄冠に注がれし美酒ヘイズルーン》!このカードはゲームから除外されたカードを10枚まで選んでデッキへと戻します!――そして、この効果で戻したカードの枚数5枚につき、1枚のカードをデッキからドローできる!」


天上楽土の大宮殿ヴァルホルで振る舞われる美酒ヘイズルーン

ワルキューレによって解放された英霊の魂――エインヘリアルは、ひとときの宴を終えると再び永遠の戦場へと回帰する。


私がデッキへ戻したスピリットは全部で10枚。

よって、2枚のカードをドローできることになる。


ふたたび右手に黄金の光が宿った。


見ててね――エルちゃん。

これが、今の私の全力全開!


「フォーチュン・ダブル・ドロー!」


一気に二枚のカードを運命力によってたぐり寄せる。

ほとばしる光の奔流は、留まるところを知らなかった。


「そんなそんなっ……1ターンに3回のフォーチュン・ドローなんてっ!?」


普段の私なら、こんなことは出来ない。

きっと、これは私だけの力じゃないんだ。


私の勝利を祈ってくれる人が――私の試合を観たくて観たくてたまらない、その人がここにいると知ることができたから!


「(お兄様……!ありがとうございます!)」


――これでコンボが完成しました。


まずは1枚目!


「《光輝あれハヴァマール》!

 このスペルカードが発動したターン、光のエレメントを持つスピリットが攻撃宣言をするたびに、そのスピリットのBPをターン終了時まで1000アップします!」


そして2枚目です!


戦乙女ワルキューレ専用コンストラクトカード《銀星号シルヴリントップ》を私に装備!」


銀のたてがみが雄々しい名馬――シルヴリントップが出現する。

ランドグリーズと化した私は、名馬の背に飛び乗った。


これで準備は万端。

吉と出るか凶と出るか――全ては出たとこ勝負となる。


「……あとは野となれ、山となれ、ですっ!」


銀星号シルヴリントップ》が高らかにいななく。

私は長剣をかざして「INFERNO」の巨体へと向けた。


「さぁ――バトルです!」



●●●



「壺中天」の箱の中にて――。


カードをドローしてターンを開始した私は、思わず手を止めて、現実世界の決闘デュエルに目を奪われていた。


エルさんも箱の外の戦況を凝視している。


「……馬鹿げている。まさかBP15600の「INFERNO」を相手に、正面からバトルを挑むつもりなのか?」


「たぶん、そのまさかです」


私はエルさんの言葉を肯定した。


「エルさんの口癖じゃないですけど……箱の外の私も「一つ賢く」なりました。以前の私は力押しのパワープレイに頼りがちでしたけど――身近にいる、ある人の影響で……プレイスタイルにも変化が加わったんです」


「身近な人……それはウルカのことかい?」


私は頷く。


か細い勝利の糸を見逃さずに、まるで蜘蛛のように老獪な手練手管をもって、勝機を引き寄せるウルカ様の戦略眼。


それを学ぶことで――私はランキングを勝ち抜くことができた。

昇格戦にたどり着くことができたのは、ウルカ様のおかげ。


「ウルカ様の小細工と、私のパワープレイ――。

 その二つが加わった……大細工の始まりですっ!」



〇〇〇



「私はアルターピースサークルの「INFERNO」を攻撃!

 英断のタクティカル・スラッシュ!」


銀星号シルヴリントップ》にまたがった私は、その瞬速によって光の矢となって「INFERNO」に突撃した。

光輝あれハヴァマール》の効果によってBPは1000アップする!



先攻:エル・ドメイン・ドリアード

【シールド破壊状態】

アルターピースサークル:

六連祭壇画セクスタプティック・セレスティアル・完成全能体「INFERNO」》

BP15600【公式戦、最高BP更新中】


後攻:ユーア・ランドスター

【シールド破壊状態】

メインサークル:

ユーア・ランドスターwith《銀星号シルヴリントップ

(≒《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》)

BP1700(+1000UP!)=2700



エルちゃんは「にひひ」と笑い、「INFERNO」に反撃を命じる。


「ユーユー、テンションが上がりすぎてバカになっちゃったの?たった1000ぽっちBPが上がったくらいのよわよわスピリットごときが、ボクたちの「INFERNO」に勝てるわけないじゃん!見た目はランドグリーズにそっくりでも……そんなの、”こけおどし”だよっ♪」


巨大な立方体の一撃!


圧倒的な質量の体当たりが迫る――。

思わず目をつむる。直後、破壊的な衝撃がやってきた!


「(痛……くはない!プレイヤーは波動障壁バリアーで守られてる!)」


空を駆ける銀の流星――シルヴリントップは態勢を立て直しながら、受け身を取るように着地する。

私は馬の首元を撫でながら「無茶に付き合わせて、ごめんね」とねぎらった。


戦闘で敗北したことにより――決闘礼装のライフコアが砕け散る。


「くっ……!」


「にひひ、これでユーユーの”わるあがき”もおしまいっ!このターンは決着が着かないけど……次のターンになったら、今度こそ二つの世界でユーユーたちにトドメを刺してあげるあげる!」


――いいや。ここからが本番です。


「……エルちゃんは、一つ勘違いをしています」


「にひっ?」


「まだ私のバトルシークエンスは、終了していません……!」


銀星号シルヴリントップ》の眼光が鋭く光る。

――本当のバトルは、ここからですっ!



☆☆☆



「どういうこと……!?どうして……ユーアちゃんの攻撃が続いているの!?」


ウルカは目を疑った。


「INFERNO」に敗北したはずのユーアは、何事もなかったかのように長剣を構え直すと、ふたたび「INFERNO」に向かって突撃した。


反撃する「INFERNO」によってユーアは弾き飛ばされる。

だが、ふたたび《銀星号シルヴリントップ》は助走をつけて空中に飛び上がった!


何度も攻撃が繰り返され――そのたびにユーアは傷つき、それでも挑むのを止めない!


ジェラルドは「ふっ」と得意げな顔をした。


「……あれが《銀星号シルヴリントップ》の能力だ。装備されているワルキューレがメインサークルでの戦闘で敗北したとき、デッキから光のスピリットカードを2枚墓地に送ることで、戦闘による破壊を無効にして追加攻撃を可能とする」


本来は相手の介入インタラプトによるBP変動による予期せぬ敗北のケアや、光のスピリットを墓地に送るという墓地肥やしの性能を見込んで採用されているカード――。


それもそのはず。

通常のルールであれば、メインサークルのスピリットが戦闘で敗北した時点でプレイヤーにダメージが入る。


ダメージが入った後で破壊を無効にしたとしても、スピリットは守れてもプレイヤーのダメージを帳消しにはできない。

故に連続攻撃の回数にも「プレイヤーのライフ」という限界が存在する。


だが、今の――この「壺中天」の状況でなら……!


!さんざんエルちゃんに利用されていたこの特殊ルールを、今度はユーアちゃんが利用したってわけね!」


箱中の失楽パンドラ・ボックス》に翻弄されているばかりじゃなかった。

――ユーアちゃんは、この状況をどうやったら利用できるか学習してたんだわ!


ジェラルドは頷いた。


「ユーアはやればできる子だ。勉強嫌いが玉にキズだがな……」


アスマが「それだけじゃないよ」と補足した。


「ここでポイントとなっているのは――《銀星号シルヴリントップ》で連続攻撃しているのがスピリットではなく、ユーアさん自身だという点にある。ウルカ、覚えているかな?あの「INFERNO」の特殊能力はどういったものだったか」


「それって……あっ!」


「INFERNO」は戦闘で勝利するたびに、相手のスピリットカードを取り込んでパーツとして組み込むことができる。

次々にスピリットと合体して無限にBPを上げていく無敵のスピリットだった。


だけど、この状況では……!



〇〇〇



エルちゃんは感嘆の声を挙げた。


「バトルで倒しても「INFERNO」はユーユーを取り込めない……!だってだって、今のユーユーはスピリットだけど――。


 っ……!」


「そのとおりですっ!」


――とはいえ、一か八かの賭けだったんですよね。


もしもプレイヤーであっても倒したスピリットなら取り込むという裁定になっていたら、今頃は私は箱型スピリットの一部になっていたかもしれません……!


「でも、推測はできました。「INFERNO」の素体となっている「RINFONE」は、カードを組み合わせたパズルという実態に深く由来したスピリット。だったら、その素材とできるのはカードだけ――カードではないプレイヤーなら、パーツにすることはできないんじゃないか――そういう「縛り」があることは予想できます」


「……すごい」


「エルちゃん?」


「……すごい、すごい!ユーユーのデッキのカード――ジェラジェラに借りてたカード以外は、ぜんぶ調べてたよ?でもでも、こんな使い方があるなんて……思ってもみなかった!」


――エルちゃんの雰囲気が。どこか、変わった気がした。

決闘デュエルを通して、エルちゃんの心に触れることができたのかもしれない。


正面から、ぶつかるだけ――私にできるのは、結局はそんなことだけなのだ。


「なら――もっと、感じてください、エルちゃん!私の……全力をっ!」



《「錬鉄の秘宝具ヴァルトニル・アームズ」変異面グリームニル》。

銀星号シルヴリントップ》。


この二枚に加えて――。


鍵となるのは《光輝あれハヴァマール》だ。



私の攻撃は、これで13回目。

光のスピリットである私が攻撃するたびに《光輝あれハヴァマール》の効果が誘発して、そのBPは1000ずつ上昇していく!



後攻:ユーア・ランドスター

【ライフコア破壊状態――ゲーム継続!】

メインサークル:

ユーア・ランドスターwith《銀星号シルヴリントップ

(≒《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》)

BP1700(+13000UP!)=14700



戦闘に敗北した私は、25枚目と26枚目のスピリットをデッキから墓地へと送る。

だけど、まだデッキに残された戦士の魂エインヘリアルの数は充分。


次の攻撃で――とうとう私の剣が「INFERNO」に届く!


「行きましょう、《銀星号シルヴリントップ》。

 これでラスト・シューティングです!」


幾度となく最強のスピリットへと挑み、そのたびに傷を増やし、それでも共に戦ってくれた銀色の駿馬。

決着の予感を感じたのか――ひときわ、甲高く金切るときの声をあげる!


フィールドを駆けるシルヴリントップに身を任せて、私は剣を構えた。

光輝あれハヴァマール》の加護はここに。


光と光が重なり――敵を撃ち貫くは珠玉のシューティング・アロー!

加速する私は意識を白く染めて、尾を引く流れ星となる――!


音速を超えて空中を疾走する影を追いながら。

エルちゃんは「きれい……」と呟いた。



先攻:エル・ドメイン・ドリアード

【シールド破壊状態】

アルターピースサークル:

六連祭壇画セクスタプティック・セレスティアル・完成全能体「INFERNO」》

BP15600


後攻:ユーア・ランドスター

【ライフコア破壊状態――ゲーム継続!】

メインサークル:

ユーア・ランドスターwith《銀星号シルヴリントップ

(≒《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》)

BP1700(+14000UP!)=15700

【公式戦、最高BP更新!】



最強を超える最強――。

この瞬間、『スピリット・キャスターズ』の歴史に新たな1ページが加わる!


「《六連祭壇画セクスタプティック・セレスティアル・完成全能体「INFERNO」》を攻撃!

 英断のクリティカル……タクティカル・スラーシュッ!」


光線となった私が「INFERNO」を貫通した。

完成した究極のパズルが崩壊していく。


九枚のカードが組み込まれたパズルは、蝶番が外れ、巨大な石板のようになったカードが地面へと落ちていった。

落ちたカードは地面へと突き刺さり、次の瞬間には砂上の楼閣のように崩れ消える。


これが「完全なる地獄」の終着点。

無敵のスピリットを正面から打ち倒す、たった一つの泥臭いやり方。


完成全能体――撃破!


「つ、つっ疲れましたぁ……!」


銀星号シルヴリントップ》も頑張ってくれたけど――私自身も、あんな恐ろしいスピリットに何度も攻撃するのは、とても生きた心地がしなかった。


まさに、全力全開……もとい、全身全霊だ。

私は息も絶え絶えになりながら、エルちゃんに問いかける。


「はぁ。はぁ……見て、くれましたか?エルちゃん」


「見たよ。……にひひ。ボク、負けちゃった」


最強のしもべが戦闘で倒されたことで、エルちゃんのライフコアも砕けた。


これで、こちらの世界では互いのプレイヤーがライフコアを破壊されて、お互いに敗北条件を満たしたことになる。


後は――。



●●●



「私が、このターンで決着をつけるだけ!」



先攻:「壺中天」のエル

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《「衒楽四重奏ストリング・プレイ」真黒い毒風の閉幕終曲フィナーレ

BP4000

サイドサークル・アリステロス:

《「衒楽四重奏ストリング・プレイ」大地讃頌の経文歌モテット

BP3000


後攻:「壺中天」のユーア

【シールド破壊状態】

なし



手札を確認する。

コンボを始動させる準備はできている――たぶん。


「(あとは、どこまで私が……ウルカ様のデッキを使いこなせるかにかかってます……!)」


と、決闘デュエルを続行しようとした。


そのとき……!


現実世界では、思わぬ出来事が起きていたのだった。



〇〇〇



「……終わらせないっ!」


修行場に少年の声が響いた。

声の主は――。


「……ウィンドさん!?」


聖決闘会カテドラル側の応援席にいた緑髪の少年――エルちゃんの弟であるウィンドさんが、身を乗り出して叫んでいた。


寡黙な印象だったウィンドさんは、普段の面影もなく感情のままに振る舞っているように見える。

それは、まるで――双子の姉であるエルちゃんと瓜二つで。


エルちゃんも呆気にとられた様子でいる。


「……ウィウィ?どうしたの」


「姉さんの決闘デュエルを、地獄なんかで終わらせてたまるかっ!」


ウィンドさんが崩壊しつつある「INFERNO」に手を伸ばす。

それに応えるように、徐々に壊れたパズルが動き始めた。


「これって……もしかして」


「RINFONE」の――第七形態!?


ウィンドさんは闘志のこもった目で私をにらみ、宣言した。



「ファイナルターンだ。このターンで決着を着けるッ!

 私たちの勝利で――BEYOND THE INFERNO。


 地獄インフェルノを超えた――その先で!」



ウィンドさんは修行場に入り込み、エルちゃんの手を握った。


「ウィウィ……」


「共に戦おう、姉さん。……ジョセフィーヌ、マイクを貸してくれないか?」


突然、水を向けられたジョセフィーヌちゃんは「は、はいでス!」とマイクアームを伸ばした。

マイクを握ったウィンドさんは、大きく息を吸い、そして吐く。


深呼吸。あれ……これって、なんかデジャブ。


意を決して、ウィンドさんはマイクに向かって叫んだ。



「私だって……姉さんが大好きなんだーっ!」



な……な、なんか、よくわからない方向に話が進み始めてます!?


やりきった顔をしてるウィンドさんと真っ赤な顔をしたエルちゃん。

その両名を眺めながら――次回へ続く!

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