双児館の決闘! 光の巫女、壺中の天地にて斯く戦えり(第6楽章)
《
ついに出現した究極のラスボス――その脅威の特殊効果が明らかとなる!
現実世界のエルさんは意気揚々と宣言した。
「変形!ヘンケイ!
このスピリットが変形したとき、対戦相手のサイドサークルにいるスピリットすべてを「RINFONE」のパーツとして組み込むことができるできる♪」
その宣言どおり、サイドサークルにいた二体のスピリット――リョースアールヴと
六枚の正方形によって構成された立方体に、二枚の長方形のカードが翼のように接合する。
同時にカード型スピリットの質量が増大し、羽の生えた巨大な箱となった!
「これは……!?一体、何が起きているんですか!」
「教えてあげる!「INFERNO」のBPは合体したパーツ・スピリットの元々のBPの合計となるんだよ♪にひひ。どんどんつよくなるね、ユーユー?」
それって――。
《移り気なリョースアールヴ》のBPは2500。
《極光の
その合計は5000――いいや。
「パーツ・スピリットのBPの合計ってことは……まさか!?」
巨大な正方形の箱。
そこに描かれた六枚のイラストは、立体となったことで連結し、三次元上に浮かび上がった一枚の巨大な六連絵画となっていた。
箱。熊。鷹。魚。巨神。
そして――数多の人間が落とされ、もがき苦しむ艱難辛苦のインフェルノ。
《完全生命体「RINFONE」》
BP0
《
BP1000
《
BP2000
《
BP2500
《
BP3000
《
BP0
すべての合計となる、そのBPは……!
先攻:エル・ドメイン・ドリアード
【シールド破壊状態】
アルターピースサークル:
《
BP13500【公式戦、最高BP更新】
後攻:ユーア・ランドスター
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》
BP2100(+1500UP!)=3600
☆☆☆
修行場の二階で観戦していたアスマは、思わず叫んだ。
「BP13500だって!?馬鹿な、公式戦最高記録じゃないかっ!」
ジェラルドも身を乗り出す。すると――。
「あっ!アスマ、それにジェラルドもっ!」
「うげっ、ウルカに見つかった」
階下のウルカが、二階にいたアスマとジェラルドを指す。
「ちょっと待ってなさいよ、すぐにそっちに行くから!」
走り出すウルカを見ながら、アスマは肩をすくめる。
「……すまないね、ジェラルド。せっかく隠れていた君の努力が水の泡だな」
「構わん。それよりも……BP13500とはな。いかにBP上昇能力に長けたユーアのランドグリーズであっても、あそこまで馬鹿げた数値のスピリットを倒すのは難しい。仮にあのスピリットをランドグリーズの効果で倒すとしたら――」
BP13500 - BP2000 = BP11500
BP11500 ÷ (1枚あたりの上昇BP)500 = 23(枚)
「――相打ちでも23枚。上回るとしたなら、24枚のスピリットを墓地から除外しなければ、戦闘破壊は不可能だ……!」
「それって……ほとんど不可能な枚数じゃないか?」
「理論上は不可能ではないが……ユーアのデッキに入っているスピリットの枚数は33……いや、今は32枚か。そのうち、11枚がすでに除外されている――墓地を肥やすためには、除外されたスピリットを戻すカードを使わなければ枚数が足りん。
現在のユーアの墓地のスピリットの枚数はわずかに1枚だしな」
「《戦慄のワルキューレ
ジェラルドは頷いた。
「すでに敗色は濃厚……。加えて、公式戦で「RINFONE」の変形が確認されたのはウィンド・グレイス・ドリアードが使用した第五形態「Fe Iron Z」まで。第六形態「INFERNO」のカードテキストは不明だが……あれで終わりではないはず」
「公式戦で使用歴がないカードは、テキストを確認できない。
とはいえ……
この「学園」の頂点に立つ第一位と第二位――。
二人の男にとっても、ユーアの勝利を想像するのは困難となっていた。
〇〇〇
いかにBPが3600まで上昇したシグルドリーヴァであっても、BP13500の「INFERNO」に対抗する手段は無い。
「……私は、ターンエンドです!」
「にひひ。それなら――ボクたちのターン!」
エルさんはカードをドローする。
彼女の決闘礼装は変形し、メインサークルは「RINFONE」専用のアルターピースサークルとなっていた。
そのため、新たに他のスピリットを召喚したり、コンストラクトを使うことはできない。
エルさんは何もせずにバトルへと移行する。
当然の話だ。
エルさんには小細工無しで、正面から相手を打ち倒すだけの力がある――。
エルさんは「INFERNO」でメインサークルへの攻撃を敢行した。
「”しょうめんとっぱ”は、ユーユーだけの”おいえげい”じゃないよっ!」
「くっ……シグルドリーヴァ!」
迫りくる「INFRNO」の攻撃――羽の生えた立方体の体当たりを受けた。
栄光の戦乙女は粉みじんとなって砕け散る――さらに「INFRNO」の地獄は終わらない!
「そんなっ!シグルドリーヴァが「INFERNO」の一部に……!?」
「食べちゃえ、「INFRNO」っ!」
《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》のカードが、私の決闘礼装を離れて「INFRNO」に取り込まれていく。
これが「INFRNO」の更なる効果。
戦闘で破壊したスピリットを取り込み、自身のパーツ・スピリットにできる!
羽の生えた立方体の頭頂部に、まるで船の船首に取り付けられた女神像―フィギュア・ヘッドの如く、神々しき戦乙女の美麗なイラストがあつらえられたカードが突き出した。
新たなパーツスピリットを得たことで「INFERNO」のBPは2100上昇する!
吸収した魔力に比例して、質量を増大させていく巨大カードの立方体。
「これが、エルさんの言っていた「完全なる地獄」の正体。「INFRNO」のBPは、戦えば戦うほどに強くなっていく一方ということですか……!」
「ユーユー、理解がはやくて、すごいすごい!褒めてあげるね。これでわかったでしょ……完成した「INFERNO」には、誰も勝てないんだって!」
「INFERNO」の攻撃は、プレイヤーである私にも牙を剥く。
シグルドリーヴァの敗北は、ライフコアへのダメージとなった。
「きゃあああっっ!」
すでにシールドも無く、露出したライフコアも戦闘の余波を受けて砕け散る。
先攻:エル・ドメイン・ドリアード
【シールド破壊状態】
アルターピースサークル:
《
BP15600【公式戦、最高BP更新中!】
後攻:ユーア・ランドスター
【ライフコア破壊状態――ゲーム継続!】
メインサークル:
なし
こちらの世界の私は、打つ手を持たず。
勝敗の行方は「壺中天」の盤面へと託された――。
●●●
「壺中天」のエルさんのライフコアは再生し――新たなターンが開始した。
「私のターン、ドロー」
前のターンにエルさんが発動した《双子連動消去》の効果によって、私の目の前にいるエルさんの盤面――フィールド、デッキ、手札、墓地、どこかしらにあるゾーンの全ては現実世界のエルさんのものと入れ替わっている。
つまり、ここから「壺中天」のエルさんが取る戦術は……!
「現実世界のエルさんと同じ「
「こちらの私も
先攻:「壺中天」のエル
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「
BP1000
後攻:「壺中天」のユーア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》with《コクーンポッド》
BP3000(+500UP!)=3500
エルさんは新たな「
「《「
再演せよ――嵐の夜の
穏やかな色合いの寒色系のドレスに身を包んだ少女楽士が、翡翠の演目を再演させる。
嵐の夜の
弦楽器型に変形した決闘礼装から、エルさんはカードをドローする。
これで、エルさんの手札は四枚……!
「私は手札からスペルカード《
《
そのカードは事前にお兄様の宿題で予習済みの内容だ。
「フィールドに三種の属性が存在するときにのみ発動可能なスペル――フィールドのスピリットをコストにすることで、コストにしたスピリットと同じ属性のスピリットを、デッキまたは墓地から効果を無効にして配置できるカードですね。ただし、この効果では一つの属性につき、最大で一回ずつまでしか配置できない制約がかかるやつです!」
場には三種の属性。
つまり――狙いは《
「よく学習しているね。すでに一つ、賢くなっていたわけだ。いや……一つではないか……君はいくつも賢くなっている。もっとも、勝つのは私だがね」
エルさんは追加コストとして二枚のカードを手札から捨てた。
スペルカードによって四大元素の模型図がフィールドに展開する。
フィールドに揃っている属性は地、水、風だ。
生まれる命の
海のしずくの
嵐の夜の
三体のスピリットを贄として、エルさんのフィールドに三体のエンシェント・スピリットが出現する!
そのBPは――4000!
先攻:「壺中天」のエル
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「
BP4000
サイドサークル・デクシア:
《「
BP3500
サイドサークル・アリステロス:
《「
BP3000
後攻:「壺中天」のユーア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》with《コクーンポッド》
BP3000(+500UP!)=3500
恐るべきは大型「
効果こそ無効にされているけど――小細工を得意として打点が低いウルカ様のインセクト・デッキでは、とても太刀打ちできない布陣だ。
同じ頃――現実世界でも、BP10000を超える「INFERNO」によって、向こうの私は戦闘で敗北していた。
ライフコアを砕かれる――こちらの世界で敗北すれば、ここでゲームセットの状況。
エルさんは進軍の指揮を取る。
「さぁ、バトルだ。《真黒い毒風の
サナギに身を包み、防御を固めるスワローテイル。
そこに猛毒の疾風が襲いかかる……!
戦闘破壊は不可避。ならば、せめて――!
「スワローテイルの特殊効果を発動します!1ターンに1度、サイドサークルのカードを破壊できる……この効果で、七つの海の
鱗粉の反撃!その効果を受けて、水色の楽士長は身体を蝕まれて消滅した。
一矢報いた――だけど、メインサークルへの攻撃は止まらない!
「それで悪あがきは終わりかな。ならば、潔く――カーテンフォールを受け入れるんだね」
「させませんっ!ウルカ様のデッキの……圧倒的小細工は、まだまだ、これからです!」
私は手札からスペルカードを発動する。
「
「……【鉄壁】を付与するだと?」
「当然、対象とするのは《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》です!」
スワローテイルを包むサナギが金属光沢を放つ鋼鉄へと変貌した。
【鉄壁】――プレイヤーをダメージから守るキーワード能力!
真黒い毒風の
先攻:「壺中天」のエル
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「
BP4000
サイドサークル・アリステロス:
《「
BP3000
後攻:「壺中天」のユーア
【シールド破壊状態】
なし
エルさんは尚も指揮を続ける。
「大地讃頌の
「いいえ、そうはいきません。《アイアン・ワームズ》の対象となったスピリットが戦闘で敗北したとき、このターンのバトルシークエンスを強制終了します!」
「何だと……!?」
バトルシークエンスが終了すれば、このターンは凌げる。
エルさんは眉をしかめて、ターンエンドを宣言した。
「……遅延行為か。それは下策だよ、ユーア。
まず、ターンを重ねれば重ねるほどに「INFERNO」は相手のスピリットをパーツとして組み込んでBPを上昇させていき、逆転は困難となる。付け加えるのならば、パーツとなったスピリットは墓地に送られることもなく「RINFONE」の一部となっていくため、お得意の墓地コストを得意とした戦術は使えない。さらに言えば、元々が地力で劣り、生得属性の不一致によって満足にデッキを回せない「壺中天」での
――これで、三つ賢くなったかな?」
「さっぱりです!私、勉強は苦手なので!」
……でも。
くやしいけど、エルさんの言う通りなのは確かだ。
打開策が見いだせない。
一つだけ、この状況でも勝てるかもしれない手はあるが――あれはウルカ様お得意の初見殺し。
タネが割れたら、対策は容易となる。
現実世界の私が「INFERNO」を攻略するまでは、見せるわけにはいかない。
「(だけど……!)」
それでも、諦めるわけにはいかない。
だって、このデッキの本来の持ち主は……私の憧れの、あの人は……!
「(こんなときだって、きっと見え見えの強がりで戦うはずなんだから!)」
〇〇〇
「壺中天」のエルさんが勝利を逃したことで、ライフコアが再生していく。
「なんとか、私のターンが戻ってきました……!」
――でも……こんな状況、どうすればいいの?
私は盤面を再確認した。
先攻:エル・ドメイン・ドリアード
【シールド破壊状態】
アルターピースサークル:
《
BP15600【公式戦、最高BP更新中!】
後攻:ユーア・ランドスター
【シールド破壊状態】
メインサークル:
なし
決闘礼装に手をかける。
右手に宿るは黄金の光。
まだ、フォーチュン・ドローを使えるだけの力は残ってる。
それでも――何を引いたら、この状況で勝てるというのか。
フォーチュン・ドローは決して万能の力じゃない。
あくまで、デッキに託した運命を――少しだけ、こちらの元に引き寄せるだけ。
負けが確定した状況を……詰んだ状況を、解決できるものじゃない。
「(だけど……!)」
それでも、諦めるわけにはいかないんだ。
だって……私の憧れの、運命である、あの人は……!
「(こんなときだって、きっと見え見えの強がりで戦うはずなんだから!)」
どうして昇格戦に挑んで『ラウンズ』になりたかったのか。
オーダーメイドの決闘礼装をもらえるから?
お兄様や、家族が喜ぶから?
『光の巫女』としての見栄?
シオンちゃんやジョセフィーヌちゃんに……自慢、できるから?
それもある。だけど、一番大きいのは……!
「(憧れの人に――ウルカ様に並び立てる、自分になりたかったから!)」
あの『ダンジョン』の奥底で。
自分の弱さと汚さと、醜さに絶望して。
何もかもどうでもよくなった私をすくい上げてくれた――ウルカ様。
『光の巫女』であることは、正直言って、まだ重圧。
めんどくさい。かったるい。逃げ出したい。
でも――ウルカ様は、同じぐらいに追いつめられてたときだって……めっちゃ、かっちょよかったんだよね。
なんて、なんて……!シオンちゃんじゃないんだけど……!
「……あはは」と、思わず笑みがこぼれた。
エルさんは不機嫌そうに舌打ちをする。
「……頭がおかしくなったの?ユーユーは、これから負けるんだよ?『光の巫女』のくせに……世界の”きゅうせいしゅ”、ほかの誰よりも負けることをゆるされない
「そう、ですね。負けるかもしれません。エルさんは……とても強い人でしたから。だけど……勝負は、まだ決まってませんよ!」
「やめてよ」
「……エルさん?」
「いい加減、あきらめてよ。”こうさん”してよ。ボクは、ここまでしたのに。どうしてユーユーはあきらめてくれないの?なんで?……なんでっ!?」
エルさんが鼻をすする音がした。
もしかして……泣いているの?
このとき――私の中に痛みが流れてきた。
見捨てられたくない。
負けたくない。
負けたら、また誰にも必要とされなくなる。
――どうして、ボクなんかが
「(これって……もしかしなくても、エルさんの心の声?)」
イサマルさんとのアンティ
「……シオンちゃんは言ってました。あれは、人と人との心を繋ぐ絆の力。それは私がウルカ様を
――ウルカ様と同じことが、私にもできるのかもしれない。
ならば、
対戦相手であるエルさんの――壊れる寸前の、ガラス細工のような心に触れる。
エルさんが抱えていた恐怖の形。
「役割」を期待され、「役割」に縛られ、「役割」だけが自分の価値だと思い込んだエルさんの心――その姿は、私に似ている。
私にはウルカ様がいた。
ジョセフィーヌちゃんや、シオンちゃん。お兄様だっている。
エルさんには――
「……決めました。エルさん――いいや、エルちゃん!」
「えっ……?なんで、急になれなれしくなったの!?」
「初対面の相手を「ユーユー」呼ばわりしてるんだから、エルちゃんだって他人のことは言えません!それよりも……私はここでアンティを
当然の話ではあるが――。
勝ち確に近いような有利な状況での
そのため、通常の場合は適用されづらいルールである。
「今の状況は、私の圧倒的不利です!言わば、負け確です!よって……エルちゃんも私が提出した
「えっえっ!?そうなの、そうなの!?」
そんなことはないのだが。
嘘も方便――やらない善より、やる偽善!
「いいですか、私が勝ったら――エルちゃんには、私のお友達になってもらいます。私だけじゃありません、ジョセフィーヌちゃんともですっ!ジョセフィーヌちゃん、それでかまいませんねっ!?」
「はーイ!私は問題、ありませーン!」
立会人の了承は得た!
「さぁ、エルちゃんも私に対する追加のアンティを宣言してください!」
「そ、そんなこと言われても……とにかく、そのエルちゃんっていうの、やめてやめて!ユーユーに言われると、なんだか、胸のあたりがむずむずする!」
「了解しました。『エルちゃんと呼ぶのを止める』――それが、エルちゃんの提出した追加のアンティでいいですね!?」
「ちがう、ちがうよ!?そういうわけじゃ」
決闘礼装に新たなアンティ項目が追記された!
「ユーユー、いくらなんでも"ごういん”すぎるよぉ!?」
「エルちゃんみたいな、内にため込んじゃうようなタイプには……」
私みたいに、うじうじ考えこんじゃうタイプには――!
「ちょっとくらい強引なくらいがちょうどいいんですっ!」
もう、ごちゃごちゃ考えるのはやめた。
たとえ「INFERNO」だろうと――BP15600だろうと――公式戦最高BPだろうと、関係ない。
よくよく考えてみたら――私のデッキには、お兄様から預かった「あのカード」があったんだから。
勝機は、まだあるはず。
正面から、全力を出してぶつかって――「完全なる地獄」を攻略する。
勝っても、負けても……エルちゃんの心に全力で応える。
「(私が――エルちゃんのウルカ様になるんだ!)」
☆☆☆
一方、
イサマルは決闘礼装を操作して、これまでのログを確認していた。
現実世界に出現した「INFERNO」――。
それを呼び出したスペルカードを、イサマルは思い返す。
「《双子連動消去》……。
あれはたしか、DDD杯のためにドネイトくんが用意したカードだよね」
「いかにも。タッグデュエル専用カードです」
DDD杯――夏休みにおこなわれるタッグデュエルトーナメント。
『デュエル・マニアクス』の個別ルートの始まりとなる物語であり、主人公であるユーア・ランドスターは、選んだタッグパートナーと共に優勝を目指す――という筋書きになっている。
「ウチら
「ウィンド氏の《完全生命体「RINFONE」》は、ライフコアへのダメージが致命傷となる通常ルールの
ドネイトの言葉を、緑髪の少年が引き継ぐ。
「……姉さんは「RINFONE」の可能性に気づいたんだ。
《
ウィンドは沈黙を破った。肩を落とし、悲壮な声を漏らす。
「ドネイト先輩にも協力してもらった。《
「……何でなん?どうして、エルちゃんはそんなにまで……ムキになって、ユーアちゃんを倒そうとするんや」
「それが、会長の望みだから」
「うちは……そこまでしてなんて言ってないよっ!」
この戦いのために、あの子はどれほどの代償を払った?
「壺中天」の世界で弟に擬態するために、あの可愛らしいツインテールの髪型も短く切って、ウィッグを付けて誤魔化していた。
記憶を忘れないために、女の子の大事な肌にメモ代わりのタトゥーまで。
ユーア・ランドスターの昇格戦阻止だって、決して必要不可欠の案件じゃないのに。
いいや……じゃあ仮に、社命――必要不可欠の案件だったとしたら。
「(うちは、その犠牲をエルちゃんに強いる覚悟があったの?)」
☆☆☆
「嘘やん。エルちゃんってまだ9歳なん?」
「そうだよ、そうだよ♪ボクたちは”とびきゅう”だからねっ!ウィウィもおなじ!」
ありし日の聖決闘会室。
エルに話を振られて、ウィンドは姉にだけ聞こえるように耳打ちした。
「うんうん」と頷き、エルはにっこりと笑う。
「ボクたちはすごい、すごい!「学園」の方から入学していいよ、って言われたから、お父さんとお母さんも大よろこび!それもボクがつよいからっ!ウィウィもつよいつよい!」
ウィンドはあわてて「……私は、姉さんのオマケだから」と声に出して呟いた。
「いやいや、オマケで「学園」に入学できるわけないやん。
それに気づかないまま、イサマルはしたり顔で扇子を扇いだ。
「まぁ、ウチは原作をプレイ済みだから――エルちゃんたちが「チート級に強い」ことは知ってたんやけどね。……でも、ドリア―ド家ってそんなに余裕は無いんやろ?二人も入学させて、大丈夫だったん?」
「……これも”さいこう”のためだからって。お父さんは”ふんぱつ”したんだ。
だから、ボクたちが『
ウィンドが姉に耳打ちすると、エルは「うんうん」と頷いた。
「ウィウィも言ってるよ?かいちょーに、ありがとって!」
イサマルはけらけらと笑う。
「なぁに、礼はいずれ返してもらうで。エルちゃんたちには、ウチの懐刀として……存分に活躍してもらうからなっ!」
「にひひ。まかせて、まかせて!かいちょーのためなら、なんだってするよっ!」
☆☆☆
自分が、エルの運命に触ってしまった――そこにイサマルは思い当たる。
イサマルは震える手で扇子を取り落とした。
「……エルちゃんはさ、そういう子じゃないじゃん。いつも楽しそうにしてて、悩みなんて全然無さそうな顔で笑ってて……
――エルちゃんは……本当は
「それも、本当は違うんだっけ。……うちはエルちゃんのことを全然わかってなかったんだ。
強者が弱者から奪うことを肯定され、また強制される「学園」のシステム。
ただ「遊ぶのが好き」なだけだったエル・ドメイン・ドリアードにとって、この「学園」で勝ち進むのは苦痛でしかないはずだ。
本来ならば――落伍者として、遠からず「学園」を去っていたかもしれない。
そこに
「……この
ドネイトは、普段は決して想い人に向けることはない水晶の瞳を――すべてを見通す探偵モードの眼光を、イサマルへと向けた。
「エル嬢は、もう不要ということでしょうか?」
「そ、そんなことないよ。ほら……そもそもエルちゃんは
「エル嬢は
ウィンドは無言で頷く。
イサマルは「で、でもっ」と拳をにぎった。
「そこはウィンドくんと交代でもいいじゃん!とにかく、エルちゃんには
「
「退学……!?そ、そんなのって……」
「イヤ、だと。……まずはご自身の感情を正確に切り分けてください。会長がエル嬢に抱いている感情は何なのか。親愛ですか?同情でしょうか?それとも憐憫?」
「そ……そんなの。わかんないよ。わかんないけど、でも……」
――エルちゃんと一緒にいたい。
「(うち、エルちゃんと一緒にいる時間が好きなんだ)」
――今度は本当の意味で笑い合える友達になりたい。
床に落ちていた扇子をドネイトが拾い、イサマルに手渡した。
「以前に、会長は小生にお尋ねになられていましたね。どうして、小生があなたに力を貸すのかと」
「……うん」
「その答えは――まだ明かせませんが」
「え、教えてくれないの?」
ドネイトはくしゃくしゃと前髪を乱して、瞳を隠した。
「会長に、わからないことが……あるの、でしたら。
どうか……小生を、頼ってください。
推理は、得意なので。
――いかがでしょうか、しのぶ嬢」
ドキリ、と胸が高鳴った。
これは錯覚。
そう、たぶん、いや、これは、ただの気のせい。
「だ……だから。しのぶ嬢、はやめてってば。……ここでは」
イサマルとドネイト――二人のやり取りを見守っていたウィンドは。
誰にも悟られぬように、口元だけで笑みをつくった。
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