第五回「プレミアムカードの殿堂」
《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》
ここは、本編とは異なる時空。
「学園」の中でも選ばれし者しか使うことができない特別なラウンジ。
アンティークな家具に囲まれた雰囲気のある洋風の空間――ウルカは等身大の鏡を前にして、腕を組みポーズを取っていた。
学生服の上から、青い蝶の柄が描かれた緑色のマントを肩に羽織っている。
「……よく考えたら、私も『
――とはいえ、ちょっとカッコつけすぎかしら?
元のウルカがゲームの悪役令嬢ということもあり、なんだか威圧感がした。
ただでさえ青紫髪の縦ロールに加えて目つきが悪くて、ワルモノっぽいというのに。
こんな偉そうなマントまで羽織ってしまうとね。
威厳がある、と言えば聞こえはいいのだけれど――。
「ふん。馬子にも衣裳とはよくぞ言ったものだ」と後ろから声がする。
「ひゃあっ!」
「うわぁっ!急に叫ばないでくれっ!」
振り返ると、そこにいたのは童話の本から飛び出てきたような金髪の王子様――。
「……なんだ、アスマか」
「なんだじゃない。僕を呼んだのは君じゃないか。そろそろ始めるんだろう?」
――そうだったわ!
「コホン」と咳払いをして、ウルカはカメラに向けて指を指した。
「待たせたわね。始めるわよ!今回の『デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど「カードゲームではよくあること」よね!?』は恒例の番外編。
第五回『プレミアムカードの殿堂』――ゲストはこの人!」
「アスマだ。このコーナーに出演するのは初めてになるね。よろしく頼むよ」
いかにもよそ行きらしい、爽やかな笑顔を作るアスマ。
片目を閉じると、まるでお星さまが弾けるようだ。
皆さん!こいつ、こんな顔してるけど笑い声は「ひゃははは」だからね。
騙されちゃダメよ。
アスマは営業スマイルのまま台本を読み上げる。
「――さて。今回は第五章で描かれた、僕とミルストン先輩の
「ええ。今回はずいぶんとド派手な戦いだったから……紹介するカードを選ぶのにも苦労したわ。王家直伝の強力なドラゴン・スピリットたち。歴史に悪名高い禁断の決戦兵器。あるいはアスマと母親であるセレスタさんを繋ぐ因縁のカードまで。様々なカードが激突した、その中でも――もっとも
ウルカは手にしたカードを指先でひっくり返す。
今回、殿堂入りとして紹介されるカードの名は――
「ユニゾン・スピリット、《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》!」
《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》
種別:ユニゾン・スピリット
エレメント:水
タイプ:エレメンタル
BP4500
共鳴条件:
《
効果:
このカードは効果の対象にはならない。
素材となった水のエレメントを持つスピリットの数だけ攻撃できる。
このスピリットが攻撃するとき、攻撃対象が相手のメインサークルである場合、戦闘ダメージを与える代わりに相手のデッキのカードを上から5枚ゲームから取り除く。(5枚未満の場合は全て取り除く)
「ミルストン先輩のエースだね。このカードにはずいぶんと苦しめられたものだ」
「まさか、あの人も
――てっきり、
ウルカは《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》のテキストを再確認した。
「このカードの最大の強みは、なんといっても4500ものBPね。アスマの《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》をも上回る驚異のBP!それに加えてカード効果の対象にならない耐性、さらにはデッキ破壊効果まで――いくらなんでも強すぎるわよ!」
「……どうかな。BPと耐性はともかく、デッキ破壊効果については一長一短だよ」
「そうなの?でも、実際にアスマはあと一歩まで追いつめられてたじゃない」
アスマは首を横に振った。
「あれは先輩のデッキ構築と、実際の戦術が組み合わさった
「戦闘でスピリットを破壊できない――相手のスピリットをBPで上回っているのなら、デッキ破壊なんてせずに戦闘でスピリットを破壊した方が有利になるかもね」
「それだけじゃない。このスピリットは相手プレイヤーにダメージを与えることもできないんだよ。『スピリット・キャスターズ』では初期デッキ枚数は45枚――初期手札の分を引いても40枚。自身の効果によって連続攻撃こそ可能だけれど、それでも8回は攻撃しないとデッキ破壊が完了しないことになる」
「もしもプレイヤーにダメージを与えられたなら、シールドとライフコアを破壊するだけでいい――合計で2回の攻撃で済む。そう考えると攻撃でダメージを与えられないというのは、デメリットとも言えるのね……」
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》を上回るステータスと、カード効果の対象にはならないという強力な耐性。
それらはどちらも「攻撃をデッキ破壊に置換する」デメリットと引き換えに得た効果だったわけだ。
――もっとも、デッキ破壊によって相手のキーカードをゲームから取り除く効果は、時として戦闘ダメージよりも効果的に働く場面もあるのだし。
実際に劇中ではミルストン先輩の使った《無反響兵装ブラインド・ウォッチャー》のデッキ破壊との併用も相まって、恐ろしい威力を発揮したのだけれど。
「ところで」と、アスマは質問をした。
「僕はいまだに
「自由に……というと、
――シオンちゃんが言うには、無数のユニゾン・スピリットが登録されたアーカイブなのだそうだ。
もしセットしたカードに該当する共鳴条件のユニゾン・スピリットがアーカイブに存在しない場合には、
「共鳴条件を探る――そのために、暇さえあれば
「そうか……いや、ちょっと気になっていて」
「何が?」
「……その。僕のカードと君のカードで
「できるわよ」
「なんだって!?」と、アスマがいきなり声量を上げた。
――試してみる?
私はデッキケースからインセクト・カードを取り出して、アスマに見せた。
「ほら、このカードよ。この子と、他のカードの効果でインセクト扱いにしたアスマのカードを組み合わせてね……」
「……もういい」
「えっ、なによ。さっきまでノリ気だったじゃないのよ」
「オチが読めたぞ。そのスピリット、寄生虫カードじゃあないかっ!どうせ他の虫に寄生することで
――ちぇっ。バレたか。
アスマはつまらなそうな顔をする。
「ふん。少しは
「そうね。さて、次回は――とうとうユーアちゃんの主役回よ。彼女が『ラウンズ』に昇格するための「昇格戦」に挑むことになったの!」
「ユーアさんが……それは良かった。僕も応援に行くよ。相手は?」
「エル・ドメイン・ドリアード。
第1話以来のユーアちゃんの
『光の巫女』の実力を、ついに読者に見せるときが来たわ!
「次から次へと現れるライバルとの激闘!――カードゲームならよくあること、よね!」
(本編に続く!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます