爆撃! 爆撃! 爆撃!(Q)

白い炎によって、フィールドの全てが消し飛んだ。


カード効果を受けない《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》こそ健在だが――他のスピリットは、敵も味方も例外なく爆発四散し戦場を去った。


アスマは球状モニターの向こう側の惨劇に、思わず胸を抑えた。


「あれは……『ゼノサイド』か!?」


対するミルストンは「ははは」と鷹揚おうように笑った。


「シールド破壊をトリガーとするカード――私は手札からインタラプトスペル《決戦兵器ゼノサイド》を発動していた。このスペルは互いのフィールドのスピリットを全て破壊して、バトルシークエンスを強制終了させる。さらに……召喚可能な全てのサークルに《汚染英魂キングスミート》を生成する!」


「《汚染英魂キングスミート》だと……!?」


通常は不可侵の聖域であるメインサークルのスピリット、それに対する直接破壊を可能とするカード――その禁忌の代償は、自身のメインサークルすらも破壊する無差別の虐殺と――互いの戦場にまん延する高濃度の汚染スピリット「キングスミート」だった。


やがてアスマの二つのサイドサークルと、ミルストンの場の三つのサークルに生成されたスピリットがしみ出してくる。

それは粘性状に溶けた紫色の肉魂――《汚染英魂キングスミート》!



先攻:アスマ・ディ・レオンヒート

【デッキ残り34枚】

メインサークル:

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》

BP4000

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・アリステロス:

《汚染英魂キングスミート》

BP500


領域効果:[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]


後攻:ミルストン・ジグラート

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・アリステロス:

《汚染英魂キングスミート》

BP500



この惨状は、ただのスぺルカードが引き起こしたものではない。


破壊の規模も、その後に引き起こされる汚染も――カードの元になった兵器は明確である。

人類が生み出した最悪の殺戮兵器。

実戦においてはただ一度だけ、15年前の『五龍戦争』で使用歴が存在する。


『ゼノサイド』。


アルトハイネス王国は、世界で唯一の『ゼノサイド』被災国だった。


――アスマは激昂する。

よりにもよってその兵器を――アルトハイネスの貴族の嫡子ともあろう者が!


長剣型の決闘礼装、その赤い魔力刃を現出させて――その刀身をアスマは構えた。


「ミルストン……貴様ァーーーーッ!!!」


だが、アスマの怒りをミルストンは意にも介さない。


「落ち着きたまえ、第二王子殿。戦争であろうと決闘デュエルであろうと、常に冷静に臨むのが指揮官の務めというものだよ」


「貴様はわかっているのか……?この国の者が、どれほど『ゼノサイド』を恐れ、憎んでいるのかを!それこそは戦争の最も醜悪な部分を露出させたものだ。第五世代型決闘礼装は――『スピリット・キャスターズ』は、そんな兵器を二度と人間同士で向けあわないために存在するのだ!」


「ジグラート商会は武器商人を営んでいる。これも家業というものでね……『ゼノサイド』が有用な兵器なのであれば、それを『スピリット・キャスターズ』のカードとして転用するのは当然だろう。――決闘デュエルこそが、”次なる戦争”で用いられる主力兵器なのだから」


「ふざけるな……!そのカードを、貴様の言う”次なる戦争”で敵に向けるというのか」


「安心したまえ。こちらから『ゼノサイド』を撃つことはありえない――国王陛下の提言により、《決戦兵器ゼノサイド》には「自身のシールドが破壊されたとき」という発動条件が追加された。これは専守防衛のための兵器だよ」


「父上が……!?父上は、そのカードのことを知っているのか」


「当然だとも。オール・ザ・キングスメン――全ては王の臣ということだ。《決戦兵器ゼノサイド》の開発は王命である。仮想敵国が強大な兵器を有しているのならば、こちらもそれ以上の兵器を有していることを示さなければならない。今日の決闘デュエルで世界はそれを知った――”戦争とは力の行使であり、その行使には制限は存在しない”」


――父上が、『ゼノサイド』をカードにすることを容認した?


「馬鹿な……!」


――『ゼノサイド』が投下されたオーベルジルン会戦には、母もいた。


王国の白き魔女ブラン・ド・ソルシエール」と呼ばれた母上の奮戦と、事前の諜報によって得た迅速な避難により王国軍の犠牲は最小限で済んだとは言われている。


それでも、避難が遅れた設計局の職員や、母上と共に戦った「魔女の従者ソルシエール・ド・シュヴァリエ」隊を始めとする空軍の猛者たちは、その多くが犠牲となった。


母上――セレスタ・エス・レオンヒートも、一命は取り留めたが――当時の第五世代型決闘礼装は開発中であり、その波動障壁バリアーは不完全で――爆発後の魔力汚染を防ぎきることはできず、戦後は後遺症に苦しむことになった。


戦争の頃、アスマはまだ1歳。

それから物心がつき――。

アスマの記憶の中のセレスタは、いつも天蓋付きのベッドで横たわる姿だった。


決闘礼装の刀身を地に突き立てる。試合場の地面は瓦礫のように砕けた。


「母上を死に追いやった『ゼノサイド』を……父上は利用するというのかっ!」


「……お前だけが、悲劇の主人公だと思い込んでいるのか?」


「なっ……」


ミルストンの様子が変わる。

これまで、過去の兵法家たちの言葉を引用するように言葉を重ねてきた彼は――ここに来て、初めて「自分自身の生の憎悪」をむき出しにした。


「おめでたいな、第二王子殿。『ゼノサイド』の被害に遭ったのは君の母君だけではない。アルトハイネス王国軍・オーベルジルン設計局――大戦時、その局長を務めていたのはジグラート商会から出向した一人の研究者だった」


「ジグラート……!?まさか」


「私の父だよ」


――ミルストンの父親は、オーベルジルンにいた。


そのことで、対戦前にアスマがミルストンにかけられた言葉――その信憑性がにわかに高まっていた。


アスマは思い返す――自身の流儀スタイルを乱し、フォーチュン・ドローを使用不能にまで陥らせている悪魔のささやきを。



☆☆☆



対戦前。円形闘技場の廊下にて。


握手をしながらミルストンは言った。



――何を、言っているんだ?


そう問おうとして、ミルストンと目が合うと――アスマは言葉を失った。


憎悪。


あらゆる色を失い、光を反射することもない漆黒の瞳。

一切の対話を拒絶する怒りと、憎しみ。


そして決闘デュエルの幕が開く――疑念に囚われるアスマの左手からは、黄金の光は失われていた……。



☆☆☆



聖決闘会室にて――。


モニター超しに試合を観戦しながら、イサマルは補足する。


「要するに「連合国軍が『ゼノサイド』を投下した」っちゅうんは、嘘っぱちってことや。あくまで表向きに流布されとるカバーストーリーやね」


イサマルは「あ、これ内緒やで。他所でべらべら話さんといてや」と口に人差し指をあててウィンクした。


エルが「はいはーい」と手をあげて質問する。


「でもでも、それっておかしいよね?どうしてアスアスのお母さんが、自分の基地に”ばくだん”を落とさなきゃいけないの?」


「機密保持――ってことやね。実際、連合国軍も『ゼノサイド』を用意しとるって話はあった。そこに乗じて、守りきれないと踏んだ基地を放棄するついでに、敵軍を巻き込んだ新兵器『ゼノサイド』の投下実験の実施――加えて、機密保持のために民間から招聘しょうへいした決闘礼装研究者たちの口を封じることにした。……そのための下手人として、国王は最も信頼を置く人物に任せたっちゅうわけや」


ドネイトがその人物の名を告げた。


「「王国の白き魔女ブラン・ド・ソルシエール」。王が最も信頼を置く人物……妃の一人にして、空軍の信頼も篤いエースパイロット。加えて……彼女の専用機には……試作型の第五世代型決闘礼装が内蔵されて、いました。万が一、『ゼノサイド』の爆風を受けても……波動障壁バリアーによって、身を護ることが……できます」


「アスマくんを産んで間もないっちゅうのに空軍に復帰させたんは、その辺の仕込みでもあったんやろうね」


歴史とは、勝者が書き記すもの。

『五龍戦争』の勝者はアルトハイネス王国だった――。


連合国軍が『ゼノサイド』投下の罪を被ることは、和平の条件の一つだったのだ。


ウィンドは姉に耳打ちする。

弟の言葉を聞いたエルは「うんうん……」と頷いた。


「……でも。ウィウィも言ってるよ?いくら戦争だからって……自分の仲間に”ばくだん”を落とすなんて……そんなの、ひどい。ひどいよ」


「ウチもそう思うで。エルちゃんの言うとおりや」


うつむくエルの緑髪をイサマルが撫でた。


「――だから、アスマくんルートは嫌いなんだよね。どうにも、話が重苦しくってさ」


エルは「ぐすっ」と鼻をすすった。


一方、ドネイトは――前髪をかき分けて、水晶の瞳で事態を見通す。


「会長は以前にこうおっしゃっていましたね。”まだ赤ん坊だった頃のアスマ氏がミルストン氏の父を死に追いやった”と」


「――せやで。ひょっとして、ドネイトくんは気づいたんかな?」


「ミルストン氏は《エンダー・ザ・ゲーム》を発動するときに言いました――”彼の地は君がこの世に生まれ落ちて、物心つく前に過ごしていた場所なのだ”――つまり、オーベルジルン設計局はアスマ氏が生まれた地であり、そこから『ゼノサイド』が投下されるまでの1年ほどを過ごしたことになる。

 ですが、これはおかしい」


「おかんが軍属とはいえ、無関係な赤ん坊を基地に置いておくなんて。普通はありえへんよね」


「ならば、こう考えるべきです。アスマ氏は無関係な赤ん坊などではなかった――むしろ、オーベルジルン設計局とはアスマ氏のために存在した機関だったと」


アルトハイネス王家と、空軍きってのエースのあいだに生まれたサラブレッド。

生まれつきの無尽蔵な運命力。

天命に選ばれた『学園最強』の決闘者デュエリスト――。


ドネイトの言葉は真実を貫く。


「第五世代型決闘礼装とは――この世界の闘争の在り方を根本的に変えてしまった波動障壁バリアーとは。もしかして、アスマ氏の力をベースにして開発されたものだったのでは?」



☆☆☆



「これで……僕はターンエンドだ。アラベスクドラゴンの効果で、カードを2枚ドローする」


ドラコニア・ウィズダム――手札が5枚になるようにドローする効果を起動して、アスマはターン終了を宣言した。



先攻:アスマ・ディ・レオンヒート

【デッキ残り32枚】

メインサークル:

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》

BP4000

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・アリステロス:

《汚染英魂キングスミート》

BP500


領域効果:[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]


後攻:ミルストン・ジグラート

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・アリステロス:

《汚染英魂キングスミート》

BP500



自律飛行型決闘礼装「アグネスヘクトール」――ミルストンは飛来するデッキに手をかけた。

その瞬間――そこに黄金の光が宿る!


「私のターンだ。――フォーチュン・ドロー!」


理想を現実にする運命の操作――時間律の改変。

天命に選ばれた決闘者デュエリストにのみ可能な奇跡を、ミルストンは行使する。


この局面での切り札の開帳――アスマは戦慄した。


「フォーチュン・ドローだと……!?」


「舐められたものだな、第二王子殿っ!私とて『ラウンズ』の一角だ。お前を倒すために、ずっとこの腕を磨いてきたのだ。万雷の観客たちの前で、地に額を擦り床を舐めるお前の姿を見るために……己が悲劇の主人公などではなく、戦場では掃いて捨てるほどいる単なる戦争加害者でしかないことを、その心身に知らしめさせるためになァ!」


「だが……この状況で何をするつもりだ?見ろ、貴様が引き起こした惨状を!」


アスマはフィールドを埋め尽くす《汚染英魂キングスミート》を指した。



《汚染英魂キングスミート》

種別:レッサー・スピリット

エレメント:水

タイプ:ウーズ

BP500

効果:

このスピリットはカードや効果のコストにできない。

フィールドに存在するかぎり、自分はスピリットを召喚できない。



「貴様のフィールドにある三つのサークルは、すべてキングスミートが埋め尽くしている。カードや効果のコストにもできず、召喚も封じる汚染効果――これで一体、何が出来る!?」


「出来るとも!第二王子殿、お前を倒す程度のことならば!」


ミルストンは手札からカードを発動する――本来の『デュエル・マニアクス』には存在しない、未知の戦術が披露される!

それは、フォーチュン・ドローによって手札に加えた切り札。


超古代の文明――その遺産である超科学の結晶!


「水属性専用錬成ユニゾンスペル《蒼の遺伝子ブルー・ジーンズ》発動!フィールドまたは手札のスピリットをコストとして、水のエレメントを持つユニゾン・スピリットを生み出す――!」


錬成ユニゾン!?それは、イサマルとの試合でウルカが使ったカードと同じ力か!」


ミルストンの背後に、天地逆転の系統樹が出現する。

これこそが超古代の叡智――疑似生命系統樹ファイロ・ゲノミクス


疑似生命系統樹ファイロ・ゲノミクスに申請!

 共鳴条件は《磁気の火蜥蜴マグネティクス・サラマンダー》と水のエレメントを持つ「英魂」スピリット1体以上!

 私は手札の《磁気の火蜥蜴マグネティクス・サラマンダー》とフィールドにいる3体の《汚染英魂キングスミート》をセット!」


ミルストンは手札の《磁気の火蜥蜴マグネティクス・サラマンダー》を公開する。

赤色の体躯をした量産型の空戦スピリット――実体化した鱗まみれの肉体に、汚染された肉魂がへばりついていく。


これこそが、修行場でイサマルに披露したミルストンのエース・スピリット。

ジグラート商会が開発した最強最悪の殺戮兵器――!


錬成ユニゾン!」


4枚のカードは系統樹の幹で合流し――創造された新たなカードが飛来すると、自律飛行する決闘礼装がキャッチしてメインサークルにセットした。


魔力探知器レーダーに新たな光点が追加される。

「XENOCIDE」。

人類最悪の決戦兵器と同じ名を持つスピリット。


やがて、決闘場となった空域に新たな影が出現した。


それは尾を食らう蛇のような不気味なシルエットを空に落とし、その長い体躯をうねりながら、空を海のように泳ぐ。


スピリットの肉体は半エーテル化しており、この次元には背びれだけが引っかかっている。

本来は次元の向こう側――虚数の世界に潜航しながら、攻撃命令を待っている。


これこそがミルストンの切り札。

彼は自慢の兵器の名を詠唱する――同時に、スピリットの青いバイザー状の瞳が輝いた!



「激水のはやくして、石を漂わすに至る者は勢なり。

 進みて防ぐべからざる者は、其の虚を衝けばなり。


 兵の形は水に形どる――水に常形なし、我に常勝あり!


 潜航せよ――《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》!」



先攻:アスマ・ディ・レオンヒート

【デッキ残り32枚】

メインサークル:

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》

BP4000

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・アリステロス:

《汚染英魂キングスミート》

BP500


領域効果:[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]


後攻:ミルストン・ジグラート

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》

BP4500



「BP、4500――!」


《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》をも凌駕する真のエースが登場した。


しかし、ここで疑問が生じる。

錬成ユニゾンは召喚ではないため、召喚ロック効果の影響を受けないのはわかる。


だが――!


「《汚染英魂キングスミート》は効果のコストにできないはず――なぜ《蒼の遺伝子ブルー・ジーンズ》のコストにすることができたんだ!?」


「さすがに第二王子殿も、錬成ユニゾンの仕様については不慣れと見える。いいかね、錬成ユニゾンとは古代の『スピリット・キャスターズ』にあったルールの一つなのだ。つまり《蒼の遺伝子ブルー・ジーンズ》の効果はあくまで「錬成ユニゾンの実行」にあるのであって、その後に実行された錬成ユニゾンはカードの効果ではない――ルールだ。よって、効果のコストにできない《汚染英魂キングスミート》もコストとして使用できるわけだ」


「古代の『スピリット・キャスターズ』……つまり、それはロストレガシーだと言っているのか」


「いかにも。研究者の中では以前から確認されていたものだ。とはいえ、カード社会に与える衝撃が大きいため、王命により公開は差し控えられていたのだがね。まさか、研究者でもない侯爵令嬢殿が、公衆の面前で使用するとは」


「ウルカ……先日のイサマルとの決闘デュエルだな」


「結果的には、なし崩し的に解禁されることになった。まったく、どこで手に入れたのかは知らんがね……」



☆☆☆



「えっ、あれって使っちゃダメだったの?」


ぜ、全然知らなかった。


気づくと、観客席の周囲の視線が私に突き刺さっている……!


「ユーアちゃん、フォローお願い!」


「あはは……無理」


メルクリエも目を合わせてくれない。

そ、そんなぁ……!


「だ、だって知らなかったんだもの!ダメならダメって言ってくれればよかったのにーっ!」



☆☆☆



《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》のBPはアラベスクドラゴンを上回っている。

その気になれば、力で押し通すことが可能――!


「ここからはデッキ破壊ではなく……ライフコア狙いのビートダウンに切り替えるということか!」


「まさか。私の狙いは依然としてデッキ破壊だとも。

 《決闘戦術教義ドクトリン・リンクス「白昼の斬月」》を発動――!このゲーム中に発動したスペルカードの名称を一枚だけ宣言し、以後のゲーム中において互いのプレイヤーが発動できなくする!」


ミルストンが呪文スペルを唱えると、空域の背景に丸い新月が出現した。

「白昼の斬月」――月面に映ったカードは、宝石があつらえられた宝箱だ!


アスマはそのカードの名を知っている。


「《ドラコニア玉手箱エクラン》……!」


「《無反響兵装ブラインド・ウォッチャー》によるデッキ破壊は、このための布石だよ。私は君の底が知りたかった――侯爵令嬢殿との「メサイア会戦」を経て、どのように部隊を編成し直したのか。その戦術の全てをね。そして、底は見えた……」


「白昼の斬月」によって《ドラコニア玉手箱エクラン》の発動は封じられた。

もはやデッキ回復はできない。

この状況で、ミルストンの爆撃が再開する――!


「バトルだ!さぁ、侵攻を開始しようじゃあないか!」



先攻:アスマ・ディ・レオンヒート

【デッキ残り32枚】

メインサークル:

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》

BP4000

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・アリステロス:

《汚染英魂キングスミート》

BP500


領域効果:[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]


後攻:ミルストン・ジグラート

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》

BP4500



「進軍せよ――《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》でメインサークルの《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》を攻撃!――第一弾、装填!」


「第一弾……?そのスピリットは、連続攻撃が可能なのか!?」


「ゼノサイド・デストロイヤーは素材とした水のエレメントを持つスピリットの数だけ攻撃することができる。錬成ユニゾンの素材となったキングスミートは3体――よって、3回連続攻撃が可能だ!」


次元の狭間からゼノサイド・デストロイヤーが泳ぎ出でる。

その背びれが変形し、敵基地を長距離砲撃するためのキャノン砲へと変わった。


「第一射撃……初撃のファーストバレット!」


白き爆炎が込められた砲弾が放たれる――その砲弾は、アラベスクドラゴンには直撃せず、後方に控えるアスマの決闘礼装を直撃した!


「な、なんだ、このスピリットの攻撃は!?」


アスマは長剣の刀身で弾丸を切り払う。

決闘礼装にセットされたデッキから、カードが宙を舞って消滅した。


ゲームから取り除かれたカードの数は5枚。


「メインサークルのスピリットではなく……プレイヤーのデッキを直接攻撃するスピリット!?」


「スピリットではない、兵器だ!ゼノサイド・デストロイヤーが相手のメインサークルのスピリットに対して攻撃宣言をおこなったとき、そのバトルでは戦闘ダメージは発生せず――代わりに相手の「本国」に5点のダメージを与える!」


「《無反響兵装ブラインド・ウォッチャー》同様のデッキ破壊を内蔵している――しかも、今度は墓地送りではなく除外。より回復が困難なダメージを与えるということかっ!」


「理解が早くて助かるよ。続けていくぞ、追撃のセカンドバレット!」


ゼノサイド・デストロイヤーからの第二撃。

アスマはその攻撃を剣で受け止めることしかできない。


「くっ……おのれぇ!」


「まだだ……終撃のラストバレット!」


第三撃が直撃する――これで破壊されたデッキの枚数は全部で15枚!


アスマは剣を地面に突き立てて、吹き飛ばされそうなほどの衝撃に耐えた。



先攻:アスマ・ディ・レオンヒート

【ミルストン大空襲! 敗戦まであと17枚!】

メインサークル:

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》

BP4000

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500

サイドサークル・アリステロス:

《汚染英魂キングスミート》

BP500



「これでターンエンド。第二王子殿、君のターンだよ」


「僕のターン……」


「もっとも――もはや、君にできることなど何もないがね」


決闘礼装からカードを引きながら、アスマは考える。


自分の場のサイドサークルを埋め尽くす《汚染英魂キングスミート》。

このスピリットがいるかぎり、スピリットは召喚できず、さらにキングスミートはカード効果のコストにできない……!


ミルストンの狙いはわかっている。


「アラベスクドラゴンは他のスピリットをコストにしなければ攻撃宣言ができない。叡智の龍の攻撃を封じる――それが貴様の狙いだな、ミルストン!」


「それだけではないさ。本来なら君の墓地に埋葬されたセイコウとハクザンロウは、ターンの開始時に墓地からフィールドに配置することができる不死の竜。だが、すべてのサークルが埋まりきったこの状況では効果を発動できない」


「……っ、そこまで考えていたのか」


そのために――あえてアスマのフィールドにスピリットを与えた!


「”真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方である”。至言だな」


この状況では、下手に動くことはできない。


アラベスクドラゴンの攻撃は封じられている――それに、たとえコストを確保して攻撃が可能となったとしても、BPはゼノサイドの方が上。

下手に手札を消費すれば、アラベスクドラゴンのドラコニア・ウィズダムによるドローで「本国」――デッキの消費が加速してしまう。


キングスミートを場からどかそうにも、召喚もコストにすることも不可能。

さらには《エンダー・ザ・ゲーム》の領域効果により、サイドサークルのスピリットは戦闘では破壊されない。


この盤面で取れる手段は――。


「僕は、メインサークルのアラベスクドラゴンとサイドサークルのキングスミートを配置交換。そして、バトルだ……メインサークルのキングスミートで攻撃」


「死ぬとわかっている戦場に兵を送り込むとはねえ。ご立派だよ、第二王子殿」


――畜生。


自爆特攻。この方法でしか、キングスミートを取り除く手段はない。


ゼノサイド・デストロイヤーのデッキ破壊と戦闘ダメージの無効化は、ミルストンの攻撃宣言時にしか発動しない――こちらからの攻撃でならキングスミートを破壊できる。


加えて《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》の【鉄壁】効果によって、本来は自爆特攻に伴って発生する戦闘ダメージも防げる。


「……これで、僕はターンエンドだ。メインサークルが空白ブランクのため、このタイミングで配置転換がおこなわれる――僕はアラベスクドラゴンをメインサークルに戻す」



先攻:アスマ・ディ・レオンヒート

【ミルストン大空襲! 敗戦まであと16枚!】

メインサークル:

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》

BP4000

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500


領域効果:[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]


後攻:ミルストン・ジグラート

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》

BP4500



これでサイドサークルが一つ空いた。

次のターン、スピリットを墓地から配置する余地が生まれる。


しかし――ゼノサイド・デストロイヤーのデッキ破壊速度が早すぎる。


「(果たして、間に合うのか……僕の反撃は!?)」


「私のターンだ。ドロー」


ミルストンは飛行する決闘礼装から新たにカードを補充する。

そして、勝ち誇ったように口元を歪めた。


「これは良いカードを引いたよ。《戦術予報-ミラーズ・レポート-》――私はデッキの上から10枚を確認し、その中から「戦術」スペルカードを2枚選んで手札に加える!」


「《決闘戦術教義ドクトリン・リンクス》を手札に加えるのか……!」


ミルストンの決闘デュエルを要所で支える戦術支援カード。

認めたくないが、流れは相手にある――!


「バトルだ。侵略と攻勢を開始するぞッ!」


虚空の海から、空間の狭間をすり抜けてゼノサイド・デストロイヤーが浮上する。

それは長距離砲撃――プレイヤーへの直接攻撃の合図!


「させない……!僕は手札からスペルカード《方向痴》を発動する!」


アスマが手札から切ったのは、攻撃無効のスペルカード。

ゼノサイド・デストロイヤーのデッキ破壊効果は攻撃を介する――ならば、その攻撃を無効にすればダメージを軽減できる!


だが――!


「ステルス機能、展開……エンターズ・シャドウ!」


「まさか……《方向痴》が効かないだと!?」


虚数の海に潜航したゼノサイド・デストロイヤーには、攻撃本能を狂わせる《方向痴》の標準が定まらない。

呪文効果をかいくぐった生物潜艦は、ふたたび現実世界に浮上する。


「《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》はカード効果の対象にならない。君のアラベスクドラゴンほどの完璧な耐性ではないがね――策も無く、あんな巨体を浮かべておくとでも思っていたのか?」


「思ってはいなかったさ。だが……!」


ユニゾン・スピリット――。


錬成ユニゾンという未知の技術で決闘デュエル中に創造されるカード。

どんな効果を持っているのか、その性能は全て未知数。


戦ってみるまでわからない――情報戦という点においては、これほどまでに厄介なカードも無いだろう。


「……イサマルも。ウルカに苦戦するわけだ」


「”事は間より密なるはし”と言うだろう?相手に知られていないということは、時として最大の武器となる。戦争であっても――決闘デュエルであってもな!」


ゼノサイド・デストロイヤーが狙いを定めた。

ミルストンは攻撃開始の号令を下す。


「《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》の攻撃――初撃のファーストバレット!」


「――来いっ!」


覚悟を決めたアスマは、長剣を正眼に構える。


飛来する白炎の砲弾、それをアスマは切り捨てる――切り捨てられた砲弾の欠片は散逸し、容赦なく銃後の「本国」を焼き払った!


第一撃――5枚のカードがアスマのデッキから消滅する。


ミルストンは、スピリットの攻撃に怨嗟の念を込めた。


「まだ抵抗するかっ……!第二王子殿、決闘デュエル前に私が君に言ったことが……今では確信しているのではないかね、それが真実だと!?」


――わかっているさ。



――あなたはそのために《決戦兵器ゼノサイド》を見せた。


あれは一日、二日で完成した技術ではない。

おそらくは大戦時の時点ですでに大枠は完成している――さらには実際に使用した際に採取したデータをベースとして、入念に研究された技術なのだと。


「――だとしても。僕は、貴様には負けられない。僕は王家の男だ。レオンヒート家のために……父上が築いた平和のために、必勝を誓った!」


「その平和が、血まみれの偽善によって築かれたものだと知ってなぜ戦う!」


ゼノサイド・デストロイヤーが第二撃を放つ――。

追撃のセカンドバレット!


「なら、貴様はどうなんだ!自分の父親の命を奪った『ゼノサイド』を、どうしてそんな風に決闘デュエルに持ち込むことができるんだ!」


「決まっている――平和のためだ。ジグラート商会は、どんな時代であろうとそのためにある。たとえ、平和が次の戦争への準備期間でしかないとしても――そんな生ぬるく、だらけきった瞬間を……民たちが穏やかに過ごせるように。その時間を、一分一秒でも長引かせるのが我らジグラートの使命だッ!」


「そのために『ゼノサイド』だって使うっていうのかよ……!」


「我らが使わなければ、奴らが撃つ。奴らが使うッ!」


ゼノサイド・デストロイヤーに第三の弾丸が装填される。

ミルストンは目の前のアスマの存在――その全てを否定すべく引き金に指をかけた。


「終撃の――ラストバレット!」


「ぐ……うおおおおおっっっ!」


ついに、耐えきることができなくなったアスマは衝撃に吹き飛ばされた。

必至に倒れないように受け身を取る――闘志は消えていない。


しかし、その意志とは裏腹に――「本国」は限界となっていた。



先攻:アスマ・ディ・レオンヒート

【ミルストン大空襲! 敗戦まであと1枚!】

メインサークル:

《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》

BP4000

サイドサークル・デクシア:

《汚染英魂キングスミート》

BP500



「残りのデッキ枚数は……1枚、か」


荒い息を吐くアスマ――対するミルストンも、これまでとは様相が変わっている。

質実剛健を絵に描いたように整えられたオールバックは、苛烈を極める決闘デュエルによって乱れ、その何本かが眼鏡にかかっていた。


「……必勝を誓うといったな。


「ああ」


「私と君の運命は、その始まりからして呪われている。私は、ずっと知りたかった。アスマ・ディ・レオンヒートという人間が――どういう男なのかを」


「……知ることは、できましたか?ミルストン先輩」


「まだだ。『スピリット・キャスターズ』が真に永劫の平和をもたらすというのなら――兵器を必要としない世界を、本当に作ることができるのだとしたら。王家は――君たちは最強を示さなければならない。どんな相手にだって敗北は許されない。負ければ、王の民は全てを失う。領土も、資源も、人も、命も……!」


ミルストンは言っている――ここで、必勝を示せと。


ああ――示してやるとも。


「――あなたを倒す。ここで勝って、レオンヒートの最強を証明してやる!」


残るデッキ枚数は1枚。

そのカードが何なのか――すでに墓地と除外領域のカードから計算してわかっている。


フォーチュン・ドローは必要ない。

もはや確率を操作する必要はないのだ。


このカードこそが――僕の運命なのだから。


脳裏に、懐かしい少女の声が響く。


――「アスマは強い決闘者デュエリストだから、きっと使ってくれるわよね」


まったく。なんて最高エキサイティングな運命だ。

決闘礼装に手をかける。運命に――手をかける!



「僕のターン。……ドロー!」

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