言の葉の庭の真実! 埋葬呪言の伝道、シャムウーン!(後編)
私の――ターン。
「……ドローッ!」
祈るようにカードを引く――だが。
黄金の奇跡は、訪れなかった。
「やっぱり……そう、都合よくはいかないわね」
相対するイサマルくんは、私の様子を見てけらけらと嘲笑う。
「んん?まさか、フォーチュン・ドローができるとでも思っとったんか?キミごときに、そんな力が宿るわけないやろうが!へへへ」
「くっ……!」
くやしいが、そのとおりだ。
フォーチュン・ドロー。
天命に愛された
己の望む理想のドローを現実とする、黄金の手。
かつて、一度だけ私はそれを手にしたことがあった。
『ダンジョン』でのザイオンXとの
『光の巫女』であるユーアちゃんの
あの後、何度か試してみたけれど――ユーアちゃん自身も、その力をコントロールできていないようだった。
あくまで一度だけの奇跡。二度は起きない。
「フォーチュン・ドローには頼れない……それでも、私は諦めないわ!」
《「
「前のターンにコストとして使用された場合、ザイオンXをデッキから手札に加えることができる!続いて――《時計仕掛けの
決闘礼装のメインサークルにカードをセットする。
召喚陣に出現したのは、薄い茶褐色の体色をした昆虫型スピリットだ。
カブトムシのメスにも似た丸っこい甲虫である。
雌雄の求愛行動の際に「コチ、コチ、コチ」という時計に似た音を立てることから、その名が付いた。
《時計仕掛けの
「はっ……
「領域効果――!」
「[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]の領域効果が発動する――火のエレメントをもたないスピリットのBPは1000ダウンするでぇっ!」
周囲に展開した活火山が、一斉に火を噴く。
流れるマグマ――そこから出現した灼熱の炎が
先攻:イサマル・キザン
メインサークル:
《
BP5500(+1000UP!)
=6500
サイドサークル・アリステロス:
《殺生石》(”銀毛九尾”蘇生実験、失敗!)
領域効果:[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]
後攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《時計仕掛けの
BP1300(-1000DOWN!)
=300
「……っ!この
「残念やったなぁ?そのフィールドスペルを活かせるのは、キミではなくウチの方や。ウチの《
『歌仙争奪』を終わらせ、魔女メフィストを除去するために発動した《バーニング・ヴォルケーノ》……だが、それが裏目となった。
今となっては、火のスピリットをもたない私に牙を剥き、イサマルくんの切り札に力を与える……このフィールドがあるかぎり、私の勝機は遠のいていくだけ。
さらに――。
「(イサマルくんの《
いや――正確には「ほぼ」完全に、か。
たった一枚だけ――この状況でも使えるスペルカードが存在する。
だけれど、そのカードは私の手札には無い。
もしも、私にフォーチュン・ドローができたなら……!
「(……あのカードを、引くこともできたのに!)」
「はん。どうやら、もう打つ手はないようやねぇ?」
「いいえ……まだよっ!」と、私はスピリットの特殊効果を発動した。
リスクはある――だが、今の私に打てる手はこれしかないっ!
「《時計仕掛けの
私はデッキからスペルカードが出るまでカードをドローし……そのあいだにドローしたスペル以外のカードを全て墓地に送る!ただし、四枚ドローするまでにスペルを引けなかった場合には……《時計仕掛けの
「ははっ、なんやその効果は。イチかバチかのギャンブルやとぉ?ええ趣向やね。そのカウントダウンは――
「死神の時計が導くのは、あなたの敗北よ。これは――私の勝利へのカウントダウンになるわ!」
もちろん、ハッタリだ。
勝てる保証なんて無い。私には天命に愛された奇跡なんて訪れない。
だけど、それは足掻かない理由にはならない。
アンティ
「……キミが見苦しく足掻くたびに、どんどん人が不幸になるで?」
――そうなのかもしれない。
本来の乙女ゲームには「わたし」は存在しない。
『デュエル・マニアクス』のあらすじをねじ曲げるたびに――ユーアちゃんも、アスマも――私との
だけど――。
「(私が破滅を回避したことで起きたのは、悪いことばかりじゃないわっ!)」
ユーアちゃんとは本当の友達になれた。
お互いを許し合うことができた。
ウルカの親代わりをしていたメルクリエにとっても、私が――ウルカが破滅しなかったのは、きっと嬉しかったはずだ。
ザイオンX――シオンちゃんは何者なのか、まだよくわからないけれど。
でも、私やユーアちゃんと一緒に過ごして楽しそうにしている。
そうよ、アスマとだって……!
今の私はウルカ・メサイア本人じゃない。
それでも――本当はお互いを大切にしてる幼馴染同士が……すれ違ったままでいいわけないでしょうがっ!
――目的が出来た。
いつか、私は元の世界に帰るときが来るのかもしれない。
しのぶちゃんや、お父さんやお母さん――妹とも、もう一度会いたいし。
そのためにも、しばらくはウルカの身体を借りることになるけれど。
せめてそれまでは、ウルカと、ウルカの周りにいる人のことは――できるだけ、幸せにしたい。
「イサマルくん。……あなた、言ってたわね」
「……あぁ?なんや、急に」
「あなたが聖決闘会長になったのは、他人の「役割を決める」側の人間になれるからだって」
「何を言うかと思えば……。せやで、この「学園」の頂点はウチや。
「……私はカードゲームが好き。だけど、カードゲームで不幸になる人がいるのは嫌いよ。だって、カードゲームは楽しいものなんだから!」
もう、私の
「イサマルくんには感謝するわ」
「……何やて?」
「顔は可愛いけど、性格も口も悪い。悲しき過去もなんにも無いっ!……前に友達に聞いてたの。あなたなら――何の憂いもなく、ボコボコにできるんだからっ!」
「なっ……!」
私はデッキに手をかける。
――お願い。私は祈るように指を重ねる。
あのスペルカードを、手札に引き込んで見せる!
「まず一枚目――ドロー!」
引いたカードは……スピリット・カードだ。
《埋葬虫モス・テウトニクス》!
死出の旅の案内人――私は、ユーアちゃんとの
「まだよ、二枚目……!ドロー!」
次に引いたカードは――《ミミクリー・ドラゴンフライ》。
アスマとの
死神のカウントダウンが迫る。
喉元から、嫌な冷たさを感じる――。
あと、引けるカードは二枚だけ。私は目をつむった。
「三枚目。……ドロー!」
目を閉じたままカードを引く――。
緊張のあまり、冷や汗が流れた。
――カードを確認する勇気が持てない。
それでも、意を決して目を開く!
視界に飛び込んできたカードは――蒼銀に輝ける双翼。
「《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》……!」
ウルカ・メサイアのエース・スピリットであり――今は、私の相棒。
三枚連続でスピリット・カードを引いた私に、イサマルくんは勝ち誇った。
「へへへ。なんや、あれだけ大見得切ったくせに、ドローはパっとせえへんなぁ!?次が最後のカウントダウン。そこでスペルカードを引けなければ
――いや。
私はスワローテイルを墓地に送る。
「ここまでは、理想のドローだわ」
「……あぁん?」
「正直なところ、あまりの運の良さに驚いているくらいよ」
これは強がりではない。
イサマルくんの言うツキは、今は私に舞い降りていた。
ウルカ・メサイアの組んだ【ブリリアント・インセクト】デッキのスピリットたちが……私に力を貸してくれている!
墓地に送った三枚のスピリット・カードは、後の逆転の布石になるはず。
あとは――あのスペルカードを引くだけ。
「四枚目。これが、最後のドロー……!」
四――死の数字。
《時計仕掛けの
震える手を、決闘礼装に添える。
思い浮かぶのは、ウルカの追憶に眠る金髪の青年――。
「アスマ……!」
☆☆☆
「……ウルカ?」
アルトハイネス首都・エインヴァルフ――大王宮。
王宮で最大の容積を誇る修練場にて。
青年は、ここにはいない少女の気配を感じていた。
一瞬、
矢じりを模した頭部をしたスピリットは、両手両足を格納した飛行形態となって攻撃してきた。
スピリットを発射した男――弓型の決闘礼装をかまえた
「油断なされたな、王子ッ!お命を頂戴いたすッ!」
「……油断だと?」
青年――アスマ・ディ・レオンヒートは、底冷えするような低い声で呟いた。
普段は整えられている金髪のマッシュヘアーは、度重なるアンティ
「
《スリーヘッド・スカルワイバーン》をコストにして新たなスピリットが現れる。
弓使いは驚愕に目を見開いた。
「馬鹿なっ、バトル中のシフトアップ召喚など……データにはありえぬ!」
「データを更新した方がいいんじゃないかな?この程度の戦術、「学園」なら一年生のカリキュラムで習得する。王宮のレベルも……落ちたものだね」
メインサークルに出現したのは――神々しき翠玉の巨龍だ。
『スピリット・キャスターズ』における最強のスピリットの一角。
アルトハイネス王家の『札遺相伝』。
「夢幻の主、《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》!」
「アラベスクドラゴン……!これでは、拙者には勝ち目は無いぃ!爆散!」
対戦相手は
アスマは息をつく――が。
間髪入れず、即座に次の刺客が出現する!
「王子、お覚悟!」
敵は目の前の刺客だけではない。アスマは周囲を見回す。
フードとマントで顔も身体も隠した
敵の群れは、一斉に各々の決闘礼装を取り出し、デッキをセットした。
その全てが王宮の近衛兵である。
アスマの父――国王の指示の元、彼を狙う
戦意を鼓舞するように、アスマは長剣型の決闘礼装を振るう。
乱れた髪は逆立ち、幽鬼の如き形相をつくった。
「さぁ、来いよ……!僕からアラベスクドラゴンを奪うのだろう?やってみろよ……てめぇら如きに、出来るもんならなァ!」
「きえええええーっっっ!」
奇声をあげて襲い来る刺客。
迎撃するアスマの右手が光る。
天命に選ばれた光が――アスマを包み込んだ。
アスマは目の前に向き合いながら――同時に相反する
――ウルカ。
僕は、負けられない。
絶対にこの地獄を勝ち抜いて「学園」に戻ってみせる。
《バーニング・ヴォルケーノ》を預けた――再戦を誓った約束。
くだらない意地かもしれない。
だけど、僕と君の関係は――言葉ではなく、
そうさ――。
「……だって。君はもう、諦めないんだろう?」
☆☆☆
観客席にて――ユーア・ランドスターは身を乗り出した。
「あれはっ!?ウルカ様に、黄金の光が……!」
「運命力の上昇を確認。
シオンは両手でVサインを作った。
闘技場の中央では、ほとばしる光の奔流が空からウルカに降り注いでいる。
「ウルカ様に誰かの光が流れ込んでるんですね!でも、私は何もできなかったのに……どうして?」
「否定する。これはユーアの力。ユーアだもの、マスターを
「
シオンは無表情のまま、ユーアの手を握る。
「この世界を襲う『闇』に立ち向かえるのは、『光の巫女』であるユーアだけ。でも、ユーアは一人じゃないよ。マスターは――
「人の心を繋ぐ指揮官――それが、ウルカ様の力になったんですね」
――ウルカ様は、アスマ王子との絆を守るために戦っている。
――それなら、ウルカ様に降り注いでいる光の主は……きっと、アスマ王子。
闘技場の廊下で、秘めた心を吐き出していたアスマの姿を思い返す。
そうだ……二人の心は、きっと離れていても繋がっているんだ。
ユーアは口元を手で抑えて微笑んだ。
「……なんだか、妬けちゃうな。でも仕方ないですよね。ウルカ様は、私一人のものじゃないんだから」
「大丈夫。本機はユーア推し。正妻は渡しちゃダメ。安心してね、サポートするよ」
「えへへ。ありがとうございます、シオンちゃん」
握られた手に力を込めて、ユーアはにっこりと笑った。
そして、祈る。――大切な人の、願いに重ねる。
「お願い……勝って、ウルカ様!」
☆☆☆
全身に、力が満ち溢れた。
これはユーアちゃんの力?
いや、それだけじゃない――この気配は、以前にも感じたことがある。
乱暴で、荒々しく、だけど繊細で。
もしかして、これは――アスマ?
「アスマも、力を貸してくれているの……?」
右手に光が宿る。
天命に選ばれた黄金の光――それを見て、イサマルくんが呆けた声を出す。
「んな、阿呆な……?フォーチュン・ドローの光……やと。なんで、なんでやぁ!?なんでぇ、ウルカちゃんがその力を使えるんやぁ!?」
「そんなこと……私が知るものですかっ!」
なにがなんだかわからないけれど。
……この光がアスマのものだとしたら、私は嬉しい。
アスマが「わたし」に――いいや、ウルカに力を貸してくれるのなら。
ウルカ・メサイアとアスマは、またきっと元の幼馴染に戻れるはず!
「……まぁ。彼氏とか彼女とか婚約だとかって話は、勝手にやってもらうことにするわ」
その先は若いお二人で、ってことで!
――私はイメージする。
勝利へと繋がるロードを――あらゆる
理想は現実に。
このドローで、
決闘礼装に手をかけて――私はこの手で、黄金の奇跡をつかみ取る!
「……フォーチュン・ドロォーッ!」
ほとばしる黄金の軌跡が弧を描く。
ドローしたカード――そのテキストを確認する必要はない。
四枚目のドローはスペルカード。
「スペルカード……発動ッ!」
イサマルくんは扇子を開いて、せせら笑った。
「はん。学習しない子やねぇ、ウルカちゃんは。生きとるもんの吐く言葉は《
我は正義なり――真理は我にあり――そう主張するかのように、炎の集合で形成された巨大な蝶は、その翼から火の粉を放つ。
七十七の聖なる火の粉は、発動されたスペルカードを滅却せんと襲いかかる!
だが――私は、笑みをつくった。
「宇宙の理を知るのは――あなたの方よ!」
「な、何……やとぉ!?」
オフルミズドの火をいくら受けても、スペルカードの放つ光は色あせない。
このカードの効果は決して無効にはできない。
それは宇宙の理――いいえ。
『スピリット・キャスターズ』における基本ルールの一つ!
「あらゆる効果は、このカードを無効にできず。スピリットの効果も――スペルカードの発動も――このカードにインタラプトすることはできない!」
「……まさか。キミが発動した、スペルカードは」
私が手にしたカードは銅色にふち取られていた。
――そうよ。
これは、シオンちゃんから借りた魂のカード。
超古代の叡智――
現代では失伝した超科学の産物。
互いのプレイヤーに
『スピリット・キャスターズ』における戦術の頂点に立つカードの一つ。
――
「フィールドスペル――《アルケミー・スター》!」
☆☆☆
「こ、これは……いったい何が起きているのでしょウ!?」
目の前の光景にジョセフィーヌは困惑した。
現在、フィールドに展開しているのは
下位にあたるはずの
観客席も喧騒に満ちていた。
その中で――ただ一人、ジェラルドだけは「ふっ」と息を吐く。
「……そういうことか。なるほど、たしかにその手があったな」
「お義兄さん。これは、どういうことでスか?」
「失念していた。実戦ではめったに起きないケースだ……」
異なるフィールドスペルが激突した場合の処理は、通常ならばどちらの領域の性能が高いか――つまり、カードのレアリティによって優先される領域効果が決定する。
しかし、ここに例外が存在した……!
「異なる二つの領域効果が、それぞれ異なる意志の元に激突したとき――それが領域の押し合いにおける大前提だ。ならば、もしも……二つの領域効果を展開したのが同じプレイヤーなら?」
「あッ……!」
「《バーニング・ヴォルケーノ》も――《アルケミー・スター》も――どちらも発動したプレイヤーはウルカ・メサイアだ。つまり『異なる意志の元に激突したとき』という前提を満たさない。一つの
「え、えートぉ……この場合は、どちらの効果が優先されるのでスか?」
「――あくまで知識だけで、実際に目の当たりにするのは俺も初めてだが。この場合には、どちらが優先されるかは……発動したプレイヤーが決定する」
ウルカがどちらを選んだかは明白だ。
灼熱炎獄を象徴する活火山群が消え失せていく。
代わりに出現したのは、謎めいた幾本もの柱だった。
一見して魔道具に見えるが――どこか違和感を感じる、未知の器具。
柱と柱のあいだには線が交わされ、そこには稲光が走る。
用途不明の透明なカプセルが並び――中には溶液に満ちた生物標本のようなものが浮かび、ぶくぶくと不気味な泡を上げていた。
《バーニング・ヴォルケーノ》を塗り替えて、展開した新たな領域の名は――。
☆☆☆
「
[神話再現機構ゲノムテック・シークレット・ラボラトリー]!」
イサマルくんは手をだらりと下げて、扇子を取り落とした。
「な、なんやこれぇ……《バーニング・ヴォルケーノ》じゃないフィールドスペル……なんで、そんなもんをキミが……!?」
「ちょっとした縁があって借りたのよ。――私は、このフィールドに付与された領域効果を発動するわ!」
《アルケミー・スター》の領域効果は1ターンに1度、手札を1枚捨てることで
《
「領域効果は《
手札からザイオンXが実体化した。
バイザーで隠された目元――その背後に、天地逆転の系統樹が出現する!
「
申請は承認される――そう、これこそが【ゲノムテック・インセクト】デッキの新戦術!
ウルカが大事にしていたカード――貴金属や美術品をモチーフにした、絢爛華麗な昆虫型スピリットたち――この子たちは、
その力の名は……ゲノムセクト・アーマー!
「ザイオンX、変身よ!」
「なっ……変身やてぇ!?」
フィールドの
光の粒子はザイオンXの手元に集まり――元のスピリット・カードに戻った。
ザイオンXが左手を前に伸ばすと、その腕が決闘礼装に変形して――彼女は手にしたカードをセットする。
「
「うふふ。あまりにも趣味が男の子に寄りすぎてるけど、仕方ないわね」
シオンちゃんが楽しそうだから、いいか!
ザイオンXの決闘礼装が、機械的な響きの音声を読み上げる。
その声は――シオンちゃんと同じものだった。
「
Gene Mutation。――Death Watch Beetle X!
The Time Is a Cruel Mistress.」
ザイオンXは姿を変える。
ユニゾン・スピリットがフィールドに舞い降りた――。
十二の文字盤が配置された茶褐色の装甲――死番虫を模したアーマーに身を包んだザイオンX。
変身前同様にバイザーで目元は隠し――表情がうかがえない美貌は、まさに終焉の刻を告げる残酷な女王だ。
――これが新たな切り札。
私はメインサークルに創造されたカードをセットした!
「
「デスウォッチ……ビートルX……やと!?」
先攻:イサマル・キザン
メインサークル:
《
BP5500
サイドサークル・アリステロス:
《殺生石》(”銀毛九尾”蘇生実験、失敗!)
領域効果:[神話再現機構ゲノムテック・シークレット・ラボラトリー]
後攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「
BP3000
「……はん。へ、へへへ」と、イサマルくんは半笑いを浮かべた。
「大げさな演出をしてまで、何が出てくるかと思えば……たかだかBP3000やんけ。灼熱炎獄の加護がなくても、《
「……それは、どうかしら?」
「あぁ?」
「呪詛望郷の『歌織物』。鎮魂の魔術がかけられた言の葉の庭――そこに積もった歌を糧にして、亡き者が遺した言葉を力とする《
「そんなもん……書き記せばええ。『百人一首』かて、そうや。それを詠んだ歌人はとうに亡くなってる。ウチらが、その歌を知ることができるのは……」
「……色紙や、『本』に書き残されていたから。そうよね?」
『本』――その言葉を聞いて、イサマルくんの顔色が変わる。
「まさか。……ウソやろ?」
「『本』みたい古い紙はね――あなたの言うところの害虫、
私はデスウォッチ・ビートルXの特殊効果を発動した!
「
このスピリットを
「なっ、ウチの墓地が……スペルカードが……《歌仙結界》がぁっ!?」
デスウォッチ・ビートルXの全身に付けられた、十二の文字盤――時計の針が回転すると、私とイサマルくんの墓地に眠るカードはその全てが吸い込まれていく!
同時に、時計の文字盤にそれぞれ異なる
これは互いの墓地に眠っていたスピリット・カードだ。
スピリットをゲームから取り除くたびに、文字盤には力が蓄えられていく。
取り除いたスピリット・カードの数は――合計で十二枚!
「この効果でスピリット・カードを取り除いた数だけ、デスウォッチ・ビートルXの上に時計カウンターを乗せることができるのよ。そして、墓地からスペルカードがなくなったことで、あなたのスピリットのBPは……!」
先攻:イサマル・キザン
メインサークル:
《
BP0
サイドサークル・アリステロス:
《殺生石》(”銀毛九尾”蘇生実験、失敗!)
領域効果:[神話再現機構ゲノムテック・シークレット・ラボラトリー]
後攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「
BP3000
「ゼロ……!《
「時は過去には巻き戻らない。私たちは死者の言葉を乗り越える。――進むのよ、未来へと!」
私は攻撃宣言をおこなう。……これで、決着よ!
「《「
ゲノムセクト・アーマーをまとったザイオンXが、跳ぶ。
昆虫の瞬発力を得た脚力をもって、空中を足場にするようにして何度も宙返りをしながら、その高度をあげていく。
準備は整ったようだ。
円形闘技場の空から――すでに力を失い、消える直前となったロウソクの灯に向けてザイオンXは高速で急降下する!
決め技は……跳び蹴りだッ!
「がああああっっっ!」
《
残火は消え、いぶる煙だけが中空に残された。
攻撃の余波を受けて、イサマルくんのシールドが砕け散る。
それでも彼は吠えた。
「だが、まだシールドが砕けただけや……!まだや、まだウチはやれるで……!」
「いいえ。残念だけど、これであなたは終わりよ」
デスウォッチ・ビートルXの全身にあつらえられた文字盤――そこに封じられたスピリットが、時計の針が回転するごとに解放されていく。
「《「
時計カウンターが取り除かれるごとに、機械音声が鳴っていく。
取り除いた時計カウンターの数は――十二個!
「これにより、私はバトルシークエンスのみのターンを追加するわ!」
「バトルシークエンスのみのターンを追加やとぉ!?ちゅうことはぁ……!」
「ターンをまたいだことにより、さらなる追加攻撃が可能となる!」
時計の針は先に進む。
デスウォッチ・ビートルXは加速する。
神速のスピードで空中を舞うスピリットの姿は、もう誰の目にも捉えることはできない!
コチ、コチ、コチ……と、時計の針が刻む音だけが、音速を超えた仮相の戦士の存在の影を落とす。
処刑の時は近い――イサマルくんは、ただその瞬間を待つことしかできない。
見た目だけなら幼い童女にしか見えない体躯を縮こまらせて、彼は両腕で自分を抱きしめた。
メインサークルは
ガタガタと震えるイサマルくんの元に、フィールドを駆ける残像が徐々に近づいていく。
死神の時計が、終焉の時を刻む!
「ウ、ウソや。こんなん、ありえへん。ウチのデッキは完璧や!『学園最強』はウチなのに……!ウルカ・メサイアなんかにィ、このウチがぁぁぁぁっ!」
「トドメよっ!
神速で繰り出される二度目のキックが、ライフ・コアを砕く!
「がぁっ、くっ……いやああああっっっ!」
響く断末魔。かくして、
追加ターンの攻撃によって――
立会人のマロー先生は、手にしたアンティーク時計を胸に仕舞い、宣言した。
「勝負ありです。
王立
立会人:マロー・ゼノンサード
勝者:ウルカ・メサイア
敗者:イサマル・キザン
アンティ獲得:《殺生石》
こうして、私は《バーニング・ヴォルケーノ》を守りきった。
けれども――この時の私は、まだ知らなかった。
イサマル・キザン――彼の正体が何者だったのか。
そして、再戦を約束したアスマの元に――恐るべき刺客が迫っていたことを。
勝利の美酒を味わうのは、一瞬。
やがて、少しして――「学園」にアスマが戻ってくる。
立ちはだかるのは、『ラウンズ』の一角にして最悪の『英雄殺し』。
ミルストン・ジグラート。
彼が展開する未曽有の戦術――それは
そう――戦争だった。
Episode.4『[呪詛望郷歌・歌仙大結界『百人一呪』]』End
Next Episode.5…『[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]』
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