VS『学園最強』! 飛んで火に入れ、熱き虫!(中編)
アルトハイネス王国、王家に伝承される『札遺相伝』のレアカード。
第二王子であるアスマは、そのうちの三枚を継承している。
すでに今回の
一つは、
もう一つは、《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》。
アスマのエース・スピリットである。
その効果は以下の通りだ。
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》
種別:エンシェント・スピリット
エレメント:火
タイプ:ドラゴン
BP4000
効果:
【鉄壁】
カードの効果を受けない。
各ターンの終了時に手札が5枚になるようドローする。
他のスピリット1体を墓地に送らなければ攻撃宣言ができない。
まだアスマが見せていない効果――【鉄壁】については説明が必要だろう。
まず、【鉄壁】を持つスピリットが戦闘で敗北した場合にはダメージは発生しない。
また、【鉄壁】を持つスピリットがいるかぎり、そのプレイヤーは戦闘でダメージを受けない。
つまり、何らかの手段をもってアラベスクドラゴンを無視してアスマを直接攻撃するような戦術を取ったとしても、ライフ・コアはおろか彼のシールドに傷をつけることすら叶わない。
正攻法でアスマを倒すためには、アラベスクドラゴンの攻略は不可避となる……。
ここまでも、彼が『学園最強』を誇る理由は充分にわかる。
だが――私の中のウルカ・メサイアの見解は違う。
彼女の記憶を呼び覚ます。
そのとき、一時だけ「わたし」はウルカ・メサイアとなる。
幼い頃から、数えきれないほど繰り返してきたアスマとの
彼が見せてきた手の内。
アルトハイネスを統べるレオンヒート家が、なぜ世界最強の
その答えは、そこにある――そう、ウルカは訴える。
『学園最強』。
アスマ・ディ・レオンヒートの不敗伝説を支える最大の要因は――彼がまだ見せていない三枚目の相伝にあると。
先攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
なし
領域効果:[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]
後攻:アスマ・ディ・レオンヒート
メインサークル:
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》
BP4000(+1000UP!)=5000
だが、まずは……この局面を乗り越える!
「私のターン――ドロー!」
目をつむり、祈るように決闘礼装に手を伸ばす。
清水の舞台から飛び降りるような思いで、私はドローした。
私には、ユーアちゃんやアスマのように――好きなカードを引くことができる、フォーチュン・ドローは使えない。
それでも。
ここで引いたカードは、逆転の一手となりうるカードだった。
「……っ!(このカードは!?)」
「へぇ。気に入らないな。面白くない顔をしているよ、ウルカ」
アスマは眉をしかめる。
「もうとっくに勝負は決している――
「え。私、にやけてた?」
これでもポーカーフェイスを作ったつもりだったんだけれど。
やはり、私には騙し合いの類は向いていないようだ。
「(さて、どうするかよね……)」
私が引いたカードは、デッキから好きな昆虫型スピリットを手札に加えることができる効果を持つサーチ用のスペルだった。
ここで、私には二つの選択肢が与えられる。
アスマが三枚目の相伝を吐き出すまで、場を繋ぐか――あるいは、ここで勝負を仕掛けるか。
本当なら、ここで仕掛けてしまいたい。
灼熱の領域効果が展開され、アラベスクドラゴンまで召喚されてしまった状況。
正直なところ、あと1ターン耐えられるかどうかも怪しい。
だが、たとえ仕掛けたとしても。
結局、最後に立ちはだかるのはあのカードなのだ。
ここは――耐えるしかない。
「私はスペルカード《千
千の虫が記された昆虫大百科、《千蟲譜目録》。
私は魔法の力でめくられる無数のページの中から、一枚の挿絵を選択した。
その絵に描かれていたのは――。
☆☆☆
「なんだ、あれぇ?」
近くの観客席から、間の抜けた声が聞こえた。
「あの『寄生虫女』が選んだ絵、何の虫も描いてないじゃん」と声がしたかと思うと、別の席からは「あれって、ただの枯れ木よね?」と呟く声が。
一方で、ユーアは思い出していた。
「……そっか。ウルカ様のデッキにはドラゴンのカードが入っていたんだった」
ユーアは兄にそのことを伝えようとする――と。
ジェラルドは、ユーアに向けて分厚い本を開いてきた。
ああ、これは……お兄様が図書館から借りた昆虫図鑑!
得意げな顔をする彼に、ユーアはひそかに苦笑した。
「教えてやる、ユーア。あれは……擬態昆虫だ」
☆☆☆
「私は手札に加えたスピリットを召喚する――あなたの出番よ!
《ミミクリー・ドラゴンフライ》!」
《千蟲譜目録》の挿絵に描かれていた、細長い枯れ木の正体。
それは越冬する冬場のあいだだけ、体色を枯れ木色に変色させて身体をたたむことで周囲の枝に擬態する能力を持つ――
一瞬、アスマはあっけにとられた様子を見せたが……。
すぐに気を取り直した。
「はっ!馬鹿か、君は。いくらドラゴンの名が付いていようが、そんなトンボ如きが火のエレメントを持っているわけねぇだろうがっ!」
火のエレメントを持たないスピリットを拒絶するフィールド……[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]の魔炎が《ミミクリー・ドラゴンフライ》を襲う。
「そいつのBPはわずか1000。
終わりだ――燃やし尽くせっ、灼熱炎獄領域!」
「それは、どうかしら?」
「な、何ィ……!」
計算通りだ。
アスマの意図とは裏腹に――《ミミクリー・ドラゴンフライ》は自身にまとわりつく炎を吸収して、そのパワーを上昇させていく!
先攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《ミミクリー・ドラゴンフライ》
BP1000(+1000UP!)=2000
領域効果:[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]
後攻:アスマ・ディ・レオンヒート
メインサークル:
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》
BP4000(+1000UP!)=5000
「ありえない……!
たかが虫けら如きが、僕の
「もう虫じゃないわ。よく見なさい、《ミミクリー・ドラゴンフライ》の姿を」
ウルカのメインサークルに召喚されていたスピリット。
その姿は、もはや先ほどまでの
一枚一枚の鱗が、翠玉の
その威容は――《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》そのものだった。
「アラベスクドラゴン……だと!?」
「《ミミクリー・ドラゴンフライ》の
アラベスクドラゴンのステータスをコピーすることで火のエレメントを獲得した。
これが、擬態昆虫の神技ってやつよ!
すると――アスマは、右手に装着していた長剣型決闘礼装『ドラコニア』に魔力を込めると、赤色に輝く刀身を現出させた。
剣となった決闘礼装を構える。
一度だけ深い息を吸って、彼は表情を消した。
「あら。ようやく本気になったのかしら」
「君を甘く見ていたのは認める。そのスピリットは、アラベスクドラゴンに対する対策札としては非常に優秀なカードだ」
「……意外ね。あんたがそんなに素直な物言いをするなんて」
「アラベスクドラゴンはあらゆるカードの効果を受けない……だが、カード効果の対象にならない耐性を持っているわけじゃない。君のスピリットは、あくまでコピー元として参照しただけであり、アラベスクドラゴンに一切の効果を及ぼしていない。見事な抜け穴だよ。そして――」
「気づいたようね。BP以外のステータスを全てコピーする、ということは」
カード効果に対する完全な耐性。
プレイヤーを守る【鉄壁】の効果。
さらに各ターンの終了時にドローを補強する効果。
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》のあまりにも強力すぎる能力。
その全てを《ミミクリー・ドラゴンフライ》が受け継ぐことになるってわけ!
「私はバトルをおこなわずにターンエンドするわ。そして手札が5枚になるようにドローする!」
これで1枚だった手札は、5枚にまで補充された。
擬態作戦、大成功!
……だが、気にかかることがある。
私の作戦は、アスマがウルカ・メサイアを舐め切っていることを前提としていた。
だが今のアスマは――妙に冷静になってしまっている。
恐らく、こちらに策があることに勘づいたのだろう。
「(腐っても『学園最強』は伊達じゃない、ってことね……)」
この先、どこかでアスマを冷静じゃなくする必要がある――。
「僕のターン、ドローだ」
アスマは先のターン同様に左手を光らせて、決闘礼装からカードを引いた。
――それって、何回でも出来るもんなの!?ずるい!
フォーチュン・ドロー。
今のタイミングで好きなカードを引いたということは、手札に加えたカードは十中八九、三枚目の相伝カードのはずだ。
「……そのフォーチュン・ドローってヤツ。意外と不便なものなのね。その証拠に――前のターンのアラベスクドラゴンの効果によるドローや、そもそも
おそらく、ターン開始時のドローにしか使えないという縛りがあるか――あるいは、一回の
どちらにせよ、フォーチュン・ドローも万能ではないということだ。
「それは挑発のつもりかな?残念だが、もう僕は君との茶番には付き合わない。レオンヒート家の家訓に『獅子は全力を持って油断なく虫を潰す』というものがあったのを思い出したよ。もっとも僕は獅子ではなく竜だがね」
まずい、思った以上に頭が冷えてしまっている。
どこかでこれ以上に揺さぶらないと……!
アスマはさらにターンを進行する。
「僕は墓地にいる《
先攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《ミミクリー・ドラゴンフライ》
BP1000(+1000UP!)=2000
領域効果:[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]
後攻:アスマ・ディ・レオンヒート
メインサークル:
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》
BP4000(+1000UP!)=5000
サイドサークル・デクシア:
《尸解の竜、セイコウ》
BP1900(+1000UP!)=2900
「アラベスクドラゴンをコピーしたとはいえ、BPはわずかに2000……所詮はハリボテだ。バトルに移行するよ。《尸解の竜、セイコウ》で《ミミクリー・ドラゴンフライ》を攻撃」
これまでとは打って変わって、淡々としたアスマの攻め手。
だが、やられる側としてはそれが一番きつい!
《ミミクリー・ドラゴンフライ》にはアラベスクドラゴンからコピーした【鉄壁】があるから、ここでバトルに敗北したとしても、すぐには敗北にならない。
だが、アラベスクドラゴンから追撃を受けて
私は先ほどドローしたばかりの
「
スペルの効果で三種類の蝶の刻印が空中に出現した。
《バタフライ・エフェクト》は三種類の効果の中から選択するスペルカード。
どの効果を発動するか――それはスペルの解決時に決定される。
「《バタフライ・エフェクト》。そのカードも飽きた……面白くない。モード①の効果は『レッサー・スピリット一体の攻撃を無効とする』だったね。
なら、その前に――」
アスマは
《死の舞塔-タワー・オブ・インフェルノ-》――これは、バトル中のシフトアップ召喚を可能とするスペル!
「僕は《尸解の竜、セイコウ》をコストにシフトアップ召喚。
現れよ、《蓬莱の竜、ハクザンロウ》」
セイコウをコストにして召喚されたグレーター・スピリットは、セイコウを一回り大きくしたような鈍色の鱗をした中華風の竜だった。
たしかあのスピリットは、セイコウ同様に次の自分ターンの開始時に墓地から蘇る効果を持っていたはず。
……早く決着をつけないと、どんどん状況は悪くなる!
先攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《ミミクリー・ドラゴンフライ》
BP1000(+1000UP!)=2000
領域効果:[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]
後攻:アスマ・ディ・レオンヒート
メインサークル:
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》
BP4000(+1000UP!)=5000
サイドサークル・デクシア:
《蓬莱の竜、ハクザンロウ》
BP2400(+1000UP!)=3400
「ハクザンロウはグレーター・スピリットだ。君の《バタフライ・エフェクト》は通用しない――サイドサークル・デクシアのハクザンロウでドラゴンフライを攻撃する」
「あらあら。《バタフライ・エフェクト》をモード①で発動するなんて、私、言ったかしらぁ?」
「……あぁ?」
「私が発動した効果はモード③よ。この効果により――私はこのターン、全てのスペルカードを
これが《バタフライ・エフェクト》第三の効果。
これによって本来はインタラプトを持たないスペルカードであっても、相手ターンに発動できる。
「ここで私は手札からスペル《宝虫華葬》をインタラプト扱いで発動!墓地から《オトリカゲロウ》をサイドサークルに呼び戻すわ!」
「BP1000の昆虫スピリットだと――そんなものをいまさら呼び出しても、領域効果の炎で焼かれるだけだろうがっ!」
おっ。ちょっと乗ってきたかも。
だが、その炎が到達する前に――。
カゲロウの命は自ら潰えて、墓地へと戻っていった。
直後――吹雪のように増殖するカゲロウの群体が、ハクザンロウをかく乱する!
「あはは、ざーんねん!《オトリカゲロウ》の特殊効果はインタラプト――よって、領域効果が誘発し、BPダウンの効果が解決される前に割り込んで自身をコストとして墓地に送ることができるのよ。その効果によって《蓬莱の竜、ハクザンロウ》の攻撃を無効にしたわ!」
そう、これは何度もユーアちゃんと相談しながら見つけた突破口の一つだった。
[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]の数少ない弱点。
それはBPダウンとBPアップの効果が一般的なコンストラクトのように永続的にフィールドに展開されるものではなく、
前者――
だが、後者――スピリットが召喚・配置されたタイミングの誘発では、効果が解決される前に、スピリットの効果やスペルをインタラプトされる余地が発生するわけだ。
「ふふふ。なーんだ、レオンヒート家の相伝って言っても、大したことないのねー」
「……てめぇ。今、なんて言った?」
「何度でも言ってやるわ。あんたがさんざん馬鹿にした虫一匹、潰すことができない領域効果だなんて。お父さんに貰ったって自慢してたけれど……フィールドスペルの中でも、あんまり大したことないカードなんじゃないかしらー」
「…………」
おっ。どうやら上手くいきそうだ。
こうして離れた距離からでも、あいつの「線」がキレた音が聞こえる。
「……やれ、アラベスクドラゴン」
アスマの命令により、脳髄から叡智を奪われ、塵と消えるハクザンロウ。
これで、このターンのアラベスクドラゴンによる攻撃が可能となる……!
『ドラコニア』の刀身を地面に叩きつけると、アスマは目元を歪ませて、混じりっ気なしの殺意を噴出させた。
「ウルカァァァァ!てめぇの小細工が本当に王家の『札遺相伝』に通じるかどうか、その身で試してみろ……!《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》で、《ミミクリー・ドラゴンフライ》を攻撃――熾烈なるビブリオクラズム・バースト!」
やばい、上手くいきすぎたかも!?
けれど、これで……。
「
《女王の継承-ターマイト・リィンカーネーション-》!」
1ターン目からずっと手札にあった、このカードを使うタイミングが来た!
「このスペルを発動したターン、私のスピリットが破壊されるたびに――そのスピリットは墓地に置かれる代わりに手札へと戻る!」
巨龍が放つ
だが、そのカードは墓地へは行かずにそのまま私の手札に収まった。
「(破壊された時点で《ミミクリー・ドラゴンフライ》はアラベスクドラゴンからコピーした能力を失っている。よって、カード効果の影響を受けるわけね)」
さらに【鉄壁】の効果により私のライフ・コアはまだ健在である。
アラベスクドラゴンの力はあくまで自身が受けるカード効果を無視するものであり、私のライフ減少を防ぐ【鉄壁】には干渉できないのだ。
そして、ここでダメ押しに――私はフラグを立てることにする。
「ふふふ、あーはっはっは。このターンも私は生き延びたわぁ。次のターンになったら、また《ミミクリー・ドラゴンフライ》を召喚してアラベスクドラゴンのステータスをコピーできる。そうすれば、再び手札が5枚になるように補充できるのよ。次のターンも、また次のターンもそうやって耐えていくの。そうすれば、いずれは、あんたは、私の術中にはまることに……なる……の……よ……!」
次のターンの戦術を滔々と説明する。
カードゲームではよくあること――いわゆる、説明死というやつだ。
ちょっと無理がある内容なので、めちゃくちゃな棒演技になってしまったが――頭に血が登っているアスマには、効果は抜群だ!
「次のターンに、《ミミクリー・ドラゴンフライ》を召喚だとぉ……?ふざけんなぁぁぁっ!そんなことはさせねぇ、絶対になぁ……!僕は、手札を3枚墓地に送ることで――インタラプト・スペルを発動する……!」
――ついに、来た。
3枚の手札コストを墓地に送ったことでアスマの手札は0枚になる。
それだけの重いコストを要求するのには、理由があった。
このスペルこそ、アスマがフォーチュン・ドローで引き込んだ必殺の切り札。
彼がレオンヒート家から受け継いだ三枚目の相伝カード。
「発動せよ、叡智なる地下大図書館――。
《コスモグラフィア・アリストクラティカ》!」
☆☆☆
会場の中央で、アスマがスペルを発動した瞬間。
円形闘技場が、揺れた。
これは
本物の地響きが会場を襲い、観客たちは阿鼻叫喚となっている。
揺れは収まらない。いや、どんどん大きくなりつつある。
一体、何が起きているのか……!
観客席で事態の全容を理解しているのは――ユーアだけだった。
「《コスモグラフィア・アリストクラティカ》……ウルカ様が言っていた通り」
ジェラルドはユーアの肩を掴むと、地震から守るように自分の側に寄せた。
ユーアは力いっぱいに兄の身体にすがりつく。
「……ユーア。一体何が起きている。アスマが発動した、あのカードは何なんだ」
「ウルカ様は、あのカードのテキストを知っていました。
その効果は――」
《コスモグラフィア・アリストクラティカ》
種別:スペル(インタラプト)
効果:
手札を3枚捨てることで発動。
自身が所有するカードをゲーム外から1枚選び、手札に加える。
「……何?たった、それだけの効果なのか」
ユーアが明かしたテキストは、いたって普通のカードだった。
ゲーム外からカードを1枚選び、手札に加えることができる――実際に、その場その場で最適なカードを手札に加えられるという意味では優秀なカードではある。
だが、あまりにも重い手札コストに見合った効果とは言い難い。
仮に相伝であったとしても、それほどレアリティは高くないはず。
いや、それ以前に。
「そんなカードを発動しただけで、どうしてこんなことになっている!」
そこで――ジェラルドは初めて気づいた。
闘技場の中央で、アスマが長剣の刀身を地面に突き立てている。
そのまま地面に線を引くように刀を滑らせると――地面が割れ、底には広大な空間が広がっているのがわかった。
空間の向こうにあったものは、白。
何もない空白。
だが、よく目を凝らすと――そこには無数の何かが回遊していた。
「あれは……本棚、か?」
そう――ジェラルドが捉えたものは幻覚でもなければ、決闘礼装によって召喚されたスピリットでもない。
現実の空間に実際に存在している、数えきれない数の本棚が地下空間を飛び回っている光景だった。
ユーアは、尚も続く揺れの恐怖と戦いながら言葉を紡いだ。
「あの場所は――この闘技場の地下ではありません。この「学園」から遠く離れた、アルトハイネス首都・エインヴァルフに聳える大王宮の地下。アスマ王子の決闘礼装が空間を飛び超えて、この場所と地下図書館を接続したんです!」
「王宮の地下――地下図書館、か」
ジェラルドも噂で聞いたことはあった。
『スピリット・キャスターズ』創始国であるアルトハイネス。
その王宮の地下には、世界中から蒐集されたカードが収められた場所があると。
そこは図書館と呼ばれている。
ただし、納められているのは蔵書ではなく、カードだ。
あらゆる国家・あらゆる貴族・あらゆる
そこにアクセスできるのは、レオンヒート家にまつわる者の中でも、王位継承権を持つ者だけ、だと――。
ジェラルドは、ここで答えに至った。
「『自身が所有するカードをゲーム外から1枚選び、手札に加える。』だと……まさか……そんなことがありうるのか!?」
「ありうるのです。《コスモグラフィア・アリストクラティカ》とは、レオンヒート家の相伝カードの名前であると同時に――。
王宮の地下に実在する『
ユーアも、ウルカから聞いたときには信じられなかった。
でも、こうして目にすれば信じざるを得ない。
「『
アスマ王子は――レオンヒート家の王位継承者候補は。
その全てのカードを――
《コスモグラフィア・アリストクラティカ》の効果によって、自由に引き出すことができるんです……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます