第一回「プレミアムカードの殿堂」

《バタフライ・エフェクト》

ここは、本編とは異なる時空。


王立決闘術学院アカデミーが誇る大殿堂に、二人の少女がいた。


一人は悪役令嬢、ウルカ・メサイア。


ウルカはコホン、と咳払いをするとカードを掲げて宣言した。


「さぁ――始めるわよ!

 『デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど「カードゲームではよくあること」よね!?』の特別コーナー、名付けて『プレミアムカードの殿堂』!」


「わー、わー」


ウルカの宣言を受けてぱちぱちと拍手をするのは、乙女ゲーム『デュエル・マニアクス』の主人公である、ユーア・ランドスターだ。


「このコーナーでは、各章で活躍したカードの中でも最も絢爛華麗プレミアムなカードを紹介していくわ」


「今回は第一章『《階級制度》』で描かれた、私とウルカ様の決闘デュエルからの紹介になりますね!」


ウルカは手にしたカードを指先でひっくり返す。

今回、殿堂入りとして紹介されるカードの名は――


「スペルカード、《バタフライ・エフェクト》!」



《バタフライ・エフェクト》

種別:スペル(インタラプト)

効果:

 以下の効果の中から一つを選ぶ。

 ①レッサー・スピリット1体の攻撃を無効とする。

 ②このカード以外の手札を好きなだけデッキに戻してシャッフルする。その後、戻した数と同じ数だけカードをドローする。

 ③【ひみつ】



「このカードは三つの効果を持つ特殊なスペルカードよ。使用時には三つの中から、どのモードを適用するかを宣言して発動できるの」


《バタフライ・エフェクト》。

そのカード名は、カオス理論における用語の一つ「バタフライ効果」に由来している。

これは気象学者のエドワード・ローレンツが提唱した概念であり、その意味は「蝶の羽ばたきが、地球の裏側で発生する嵐に作用するように――非常に小さな出来事でさえも、時に予想もしないような大きな出来事を引き起こすことがある」というものだ。


(タイム・リープ作品の名作である映画にも、同タイトルのものがあるわね。久々に見たいけど、こっちの世界にはDVDが無いのが残念だわ……)


「《バタフライ・エフェクト》……このカードには苦戦しました」と、ユーア。


「一枚のスペルカードに三種類の効果があるということは、それだけ色んな状況に対応できるということになりますよね。さらにインタラプトのスペルカードなので、相手ターンやスピリットがバトルしているタイミングでも発動できる……とても便利なカードだと思います」


「ただし、弱点もあるわ。汎用性の高い効果を多く抱えている代わりに、一つ一つの効果はスペルカード1枚の効果としては決して強力なものとはいえないの」


「そうなんですか?《バタフライ・エフェクト》の効果によって、ウルカ様は何度もピンチを脱していたように見えましたけど」


「たとえばモード①の効果はスピリットの攻撃を無効にするものだけれど、その対象はレッサー・スピリットのみ、それも1体だけに限られているわ。モード②の効果では手札を交換することができるけれど、《バタフライ・エフェクト》を使用した分、カード1枚分の損失が発生して手札は1枚減ることになる。それと、モード③の効果は……」


「ちょっと待ってください、ウルカ様。さっき見せていただいた《バタフライ・エフェクト》のテキストなんですけど、モード③のテキストが読めなかったんですが……」


「あぁ、それはね……。今後の展開のために、あえて伏せておくことにしたのよ」


「そんな、ズルいです!」


「一応はヒントを出しておくと、作中で《バタフライ・エフェクト》が発動されたのは今のところ二回。そのどちらであっても選択する意味がない効果ということになるわね」


「選択する意味がない……それってつまり、あまり強くない効果ということでしょうか」


「さぁ、どうかしら?そんなわけで今回の『プレミアムカードの殿堂』はここまで」


「ちぇっ。仕方ないですね……それでは、次回は第二章『[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]』でお会いしましょう」


「完全なテキストが不明のカードというのも、カードゲームではよくあること、よね?」



(次回からは本編に戻ります!)

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