壊れろ、運命! 破滅の未来を回避せよ!(後編)

「……ウルカ様。もう何をやっても無駄です。見てください、このフィールドを!」


ユーアちゃんは決闘礼装が装着された左手を振りかざして、互いの盤面を指し示す。



先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

なし


後攻:ユーア・ランドスター

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》

BP2000(+1500UP!)=3500

サイドサークル・デクシア:

《極光の巨人兵士ウトガルド

BP2500

サイドサークル・アリステロス:

《エヴォリューション・キャタピラー》

BP1300



「ウルカ様のフィールドにはスピリットは無く、メインサークルもガラ空き。そして私には《極光の巨人兵士ウトガルド》と《エヴォリューション・キャタピラー》の攻撃がまだ残されています。どちらか一体でも攻撃が通れば、対人攻撃ペネトレーションは成功――すでにシールドが破壊されている以上、あなたの負けです!」


「そう、ね……たしかに絶体絶命だわ」


私の左手に装着されている、絢爛豪華に装飾された籠手型の決闘礼装。

その中心部で赤く発光する――ライフ・コア。


決闘デュエル開始時には透明なシールドで守られていたライフ・コアも、今は守るものもなく、剥き身のまま露出している。

決闘デュエル中にスピリットによってメインサークルへの攻撃を受けるとシールドが破壊され、その上で更にもう一撃を受けると、ライフ・コアは砕けるのだ。


そのときがこのアンティ決闘デュエルの終幕であり――決闘デュエル開始前の宣誓通りに、「学園」からの追放という……悪役令嬢ウルカ・メサイアにとっての破滅の序曲となる。


私のシールドは先ほどの戦乙女ワルキューレの攻撃によって破壊されてしまった。

次のユーアちゃんの攻撃が、正真正銘の最後の一撃となるわけだ。


それでも。


「私は、最後まで諦めない。さっきのユーアちゃんのようにね!」


「私の、ように……!?」


「そうよ。シールドは破壊されフィールドにスピリットも無い、まさに絶体絶命の状況……それでもユーアちゃんは諦めなかった。なぜなら、デッキにはあなたの信じるランドグリーズがまだ眠っていたから!」


そして、信じるカードは私にもある。


「わたし」がこの世界で目覚める前に、ウルカ・メサイアが組んだ【ブリリアント・インセクト】デッキ。

そのデッキの中には、この状況を打開できる切り札がたった1枚だけ入っていた。


そして、それは――。

ウルカが執着した《階級制度》が存在する状況では、切り札とは成りえないカードだった。


だから私は破壊したのだ――。

自らの手で、この盤面を縛りつける《階級制度》のカードを!


「そう、ですか。なら……それがハッタリでないというのなら、見せてください!ウルカ様の信じる、カードの力を!」


「言われなくったって!」


「サイドサークル・デクシアから《極光の巨人兵士ウトガルド》で、空白になっているウルカ様のメインサークルを攻撃!」


ここだ。


この局面で、私は運命を切り開く!


介入インタラプト!手札からスペルカード《バタフライ・エフェクト》を発動するわ!」


私が手札から呪文スペルを唱えた。

《極光の巨人兵士ウトガルド》が進撃するメインサークルの目の前に、鈍く光を放つモルフォ蝶の刻印が出現する!


それでも、ユーアちゃんは止まらない。


「無駄です!そのスペルの効果はレッサー・スピリット1体の攻撃を無効にするもの――グレーター・スピリットである巨人兵士ウトガルドには、無力!」


「あら?忘れてしまったのかしら、ユーアちゃん」


蝶の刻印は三つに分裂する。


 そのいずれもが、吹けば飛ぶほどの微小なる蝶翼の羽ばたき――それでも!その羽ばたきは、きっと誰も知らない未来で大嵐を巻き起こす!」


私は分裂した刻印の一つを選択した。

それは、最初のユーアちゃんのターンに発動した効果とは異なるモード……!


「私はモード②を選択!このカード以外の手札を好きな枚数だけデッキに戻すことで――戻した枚数と同じ数だけ、カードをドローする!」


「引き直し効果?この局面でっ!」


「私がデッキに戻すカードの枚数は、1枚!」


私は、己の手に残された最後の手札に別れを告げた。



歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》

種別:レッサー・スピリット/コンストラクト

エレメント:地

タイプ:インセクト

BP1000



。今は、眠って」


手札をデッキに戻すと、決闘礼装が自動的にデッキをシャッフルした。

これで次に何を引くのかは、未知。


怖い。


張り裂けそうに鼓動が高まる。

息が苦しい。


それでも、私は目をつぶりながら決闘礼装へと手を伸ばした。


「お願い……来て……!」


「……っ!ウルカ、様」


このドローで、私の運命は決まる。

チュートリアル通りに定められた敗北による破滅か。

それでも、運命を乗り越えた先にある勝利による突破か!


「…………ドローッ!」


私の手に、ユーアちゃんと同じ運命に愛された光は――。


宿らなかった。


自分のことだから、はっきりとわかる。


ランドグリーズを引き当てたときの彼女のような、まばゆいばかりの光の洪水は――目には見えないが肌では感じる、見えないオーラが空間全てを震わせるような神々しい地響きは――起こらなかった。


それは当然。だって、私は『光の巫女』じゃない。

高飛車で性悪で嫌がらせばかりする乙女ゲームの悪役令嬢と、どこにでもいるカードゲームアニメ好きの日本人が一つになった――なんだかよくわからない存在で。


だから、これは奇跡じゃなくて。


初期デッキ:45枚

使用カード:

《エヴォリューション・キャタピラー》+《オトリカゲロウ》+《コクーンポッド》+《バタフライ・エフェクト》+《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》+《階級制度》+《バタフライ・エフェクト》=7枚


1/45マイナス7……つまり、約2.6%という単純な計算で。


「現代日本人を舐めるなよぉ……単発ガチャでSSR引く確率は、だいたいこんなもん(※)なんだからーっ!」


※ゲームによるから注意!


「は?え、いや、ガチャってなんですか!?」


ユーアちゃんの困惑をよそに、私は己が身に起きた幸運を噛み締める。

奇跡と呼ぶには安すぎるによって、私はこの局面を乗り越える唯一のスピリットを引き当てた。


この子の特殊効果なら――ユーアちゃんの攻撃を凌ぐことができるはず!

私は引き当てたカードをかざして、その効果を宣言した!


「このスピリットは召喚にコストを必要とするグレーター・スピリットだけど、墓地の「タイプ:インセクト」のスピリットをゲームから取り除くことで、インタラプト扱いとしてシフトアップ召喚することができる!」


「私のランドグリーズと同じ、コスト代用効果……加えて、インタラプトによる相手ターンのシフトアップ召喚を!?」


私の墓地から《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》の魂が現れる。


羽根を休めているのにごめんね、スワローテイル。

あと、もう少しだけ……その力を、私に!


「高貴なる魂を運ぶ死出の担い手が告げる!その腹を、脚を、羽根を、はらわたを、巡る命の糧として生命の円環を回せ!

 シフトアップ召喚!《埋葬虫モス・テウトニクス》!」


スワローテイルの魂をシフトアップの贄として、再び両対の大翼が戦場に現出する。

しかし、それは蒼銀の輝きを誇った煌びやかなスワローテイルのそれではない。


墓守の外套にも見える茶褐色の蛾翼には、動物の眼のような模様が浮かんでいる。

その凶悪な眼光からは、死者の死後すらも逃れられない。

モス・テウトニクス――死出の旅の管理人。



先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000


後攻:ユーア・ランドスター

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》

BP2000(+1500UP!)=3500

サイドサークル・デクシア:

《極光の巨人兵士ウトガルド

BP2500

サイドサークル・アリステロス:

《エヴォリューション・キャタピラー》

BP1300



「……それでも!」


ユーアちゃんは再び、巨人兵士ウトガルドに攻撃を命令する。


「モス・テウトニクスのBPは2000!私の巨人兵士ウトガルドのBP2500には及びません!この攻撃を防ぐ手立ては、無いっ――!」


「ふふふ。それは、どうかしら?」


「なっ……!」


進撃する巨人は、突如として出現した猛吹雪によって足を止められた。

その瞬間、吹雪はまたたく間に勢いを増して、メインサークルの位置を覆い隠してしまう。


いいや、これは吹雪などではない。


《オトリカゲロウ》だ。

儚い白色の体色をした昆虫型のスピリットが、増殖しながら攻撃をかく乱している!


「まさか、これは……!」


「《オトリカゲロウ》の特殊効果。ブリザード・コンフュージョン!」


「そんな!どうして、フィールドにいないはずの《オトリカゲロウ》が」


「《埋葬虫モス・テウトニクス》は、その召喚時発動効果サモン・エフェクトによって墓地の昆虫型スピリット1体を呼び戻すことができるのよ。私はすでにその効果を発動していた!」


効果宣言が、ちょっとばかし遅れたけど。

カードゲームならよくあること、よね?



先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000

サイドサークル・デクシア;

《オトリカゲロウ》

BP1000


後攻:ユーア・ランドスター

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》

BP2000(+1500UP!)=3500

サイドサークル・デクシア:

《極光の巨人兵士ウトガルド

BP2500

サイドサークル・アリステロス:

《エヴォリューション・キャタピラー》

BP1300



「そして墓地から復活した《オトリカゲロウ》は、即座に自身の効果を発動したのよ――攻撃無効効果をね!」


《埋葬虫モス・テウトニクス》の効果は強力だが、弱点も大きい。

その効果によって墓地から復活させたスピリットはBPが0となってしまう。


だが、攻撃無効効果を発動する際のコストとして自身を墓地に送る必要がある《オトリカゲロウ》なら、復活させる対象としてはうってつけだったのだ。


「戻って、巨人兵士ウトガルド


攻撃が空振りに終わった《極光の巨人兵士ウトガルド》は、とぼとぼと自陣へ戻っていく。

これで巨人の進撃は、二度、《オトリカゲロウ》によって防がれた。


よほど悔しかったのだろう。

巨大な体躯を縮こまらせて肩を落として帰還したスピリットを、ユーアちゃんは優しく撫でることでねぎらった。


「……《エヴォリューション・キャタピラー》のBPではモス・テウトニクスに届きません。私はこれで、ターンエンドです」


「ターン、エンド……」


やった。


本来のチュートリアルでは、このターンこそが私の命運が尽きるファイナルターンとなっていた。

だが……その運命が、破れた!



先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000


後攻:ユーア・ランドスター

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》

BP2000

サイドサークル・デクシア:

《極光の巨人兵士ウトガルド

BP2500

サイドサークル・アリステロス:

《エヴォリューション・キャタピラー》

BP1300



ターンエンドを宣言したユーアちゃんは――ふと、何かに気づいたようだった。


「もしかして。……ウルカ様は、これを狙っていたんですか。初めから、さっきの局面を……だから、自身の手で《階級制度》を破壊したんですね?」


「《階級制度》は――それがフィールドに存在するかぎり、上位のスピリットが自身より下位のスピリットによる効果を受けなくなるという強力なコンストラクトだわ。だけど、その効力は互いのフィールドにまで及んでしまう。だから《オトリカゲロウ》を呼び戻すまでに破壊しておく必要があったの」


《オトリカゲロウ》はレッサー・スピリット。

もしも《階級制度》が健在だったとしたら、より上位であるグレーター・スピリットである《極光の巨人兵士ウトガルド》に効果を適用して、攻撃を防ぐことはできなかった。


そして、ここまで来れたのは――。


「ありがとう。これも、ユーアちゃんのおかげ」


「……え?」


「どんなに追いつめられた局面でも、諦めないこと。自分のカードを……共に戦うスピリットを信じて、最後まで戦う。ユーアちゃんがそうやって頑張ってるんだから、私が諦めるのは違うよねって。そう思えた」


悪役令嬢?


破滅の未来?


敗北の運命?


それは、あくまでゲームの話。

今、ここにいる「わたし」が決闘デュエルを諦める理由にはならない。


……それに、これはウルカ・メサイアには掴めない勝利だったかもしれない。


《階級制度》は彼女の【ブリリアント・インセクト】デッキの中核。

いわば彼女にとっての人生観そのものと言えるカードだ。


それもまた、カードを信じるという一つの在り方なのかもしれない。


でも、すでに「わたし」と混じり合った私は、ウルカとは違う考え方をする。

《階級制度》を捨てることで得る、運命を切り開く道があるのなら。


私はその道を選ぶ。


「あーあ、もう勝ったつもりなんですか?ウルカ様」と、ユーアちゃんは挑発した。言葉こそトゲトゲしく見えるが、その声色は柔らかい。


「私のランドグリーズは、ターンを跨いだことでそのBPは2000に戻りました。それでも、ウルカ様のモス・テウトニクスのBPは2000――互角です。いくらメインサークルへの攻撃だとしても、相打ちでは互いのスピリットが破壊されるだけで、ライフ・コアを傷つけることはできません」


そして、

ユーアちゃんの手に握られた最後の手札は、インタラプトで墓地から光のエレメントを持つスピリットを復活させる《光神バルドルの帰還》だ。

あのカードがあるかぎり、たとえランドグリーズを破壊しても、再びメインサークルへと復活させられてしまう。


つまり、ガラ空きになったメインサークルを他のスピリットで攻める……といった戦術は通用しないわけだ。


このターン中に決着をつけるためには――メインサークルのランドグリーズのBPを、一撃で乗り越える必要がある!


「相打ちなんて狙わないわよ。見せてあげるわ……【ブリリアント・インセクト】デッキの本当の力を!」


次のドローで、BP2000を超えるようなスピリットを引き当てるか――あるいはBPを強化するようなコンストラクトや、戦闘を支援するスペルを引く――?いやいや、他にもあのカードでもいけるはず……うーん。


「この局面を突破できるカードをドローできる確率は――。

 そうねぇ……80%くらいってところかしら(最大限に甘めに見積もって)」


「……そうですか。で、引けるんです?」


「そんなの、あったり前よ」


単発ガチャでハズレのRを引く確率は、だいたいそんなもんなんだから!

――と、見え見えの強がりを呟きながらドローする。


本当は確信なんてない。


それでも、不思議と焦燥感は薄れていた。

「学園」の退学が賭けられた窮地だと言うのに、このときの私は「負けたらどうしよう」なんてことが頭からすっぽりと抜けていたようだ。


それはユーアちゃんも同じなのかもしれない。

どこか浮ついた面持ちで、彼女は私のドローを待っている。


互いに全力をぶつけ合って。


戦術を計算し合って。


紙一重の攻防を繰り返して。


時には奇跡とも言えるドローを引き当てて。


それでも最後の最後では、運命の天秤に栄冠を委ねるしかない。


それが決闘デュエル――私の好きなカードゲームアニメの世界だった。


「ははっ……楽しいな」


そして、私が最後にドローしたカードは――。


「……おかえり。さぁ、あなたの出番よ」



歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》

種別:レッサー・スピリット/コンストラクト

エレメント:地

タイプ:インセクト

BP1000



「私はサイドサークル・デクシアに《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》を召喚!」


紙のように透き通った薄羽を振るわせて、黒色の飛行虫スピリットが現れる。

これで決着よ、ユーアちゃん!


「どうやら……っ!引けなかったようですね、ウルカ様!そのスピリットでは、ランドグリーズのBPを乗り越えることはできません!


「それはどうかしらぁ!?」


なんだか「それはどうかしら?」って言うのも楽しくなってきたぞ!


「もうすでにフィールドに《階級制度》は存在しない!今こそ真の力を見せなさい、《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》!」


私が効果を発動すると、飛行虫は変態を引き起こし、その姿を別種へと変貌させていった。

羽根と脚がポロポロと取れると、スピリットの体表はズルリと皮が剥けて、白色の幼虫じみたフォルムへと姿を変えた。


それと同時に《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》のカードに書かれた種別表示も、その文字が浮き上がり、並び替えられて、異なる文字へと変化していく――!


「このスピリットは……!?いや、スピリットじゃない!」


「《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》はスピリットとコンストラクト、二つの種別特性を併せ持つカードよ。スピリットとしてフィールドに召喚された後で、自身の効果を起動することにより、味方の「タイプ:インセクト」カードを強化するコンストラクトとしても扱うことができる!」


「……やっぱり、すごいですね。ウルカ様は」


ユーアちゃんは感嘆の声を漏らした。


「ここまで、展開を読み切っていたんですね。《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》は二つの種別特性を併せ持つ。つまり、コンストラクトとして扱われている際も、種別は依然としてレッサー・スピリットのまま……《階級制度》があるかぎり、グレーター・スピリットである《埋葬虫モス・テウトニクス》を強化することはできなかった」


「なーに、偶然よ、偶然。こうなったらサイコー、とは思ってたけどね!」


それに……。


「この局面を想定できたのも、ユーアちゃんの決闘デュエルを見ていたからよ。死した仲間の力を受け継ぎ、時として戦線へと復帰させて立ち向かう。それは《階級制度》によってスピリットの効果を分断する私には、持ちえない力だったから」


「――そっか。《埋葬虫モス・テウトニクス》によるスピリットの蘇生戦術による逆転は、私の各種スペルからの着想――《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》による味方の力を合わせる戦術も、同様にランドグリーズから――。敗因がわかりました。私は、手の内を見せすぎてしまったんですね」


完敗、です――と、ユーアちゃんは笑った。


「……いくわよ。私は《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》をBP500ポイントアップの強化カードとして《埋葬虫モス・テウトニクス》に装備!」



先攻:ウルカ・メサイア

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《埋葬虫モス・テウトニクス》

BP2000(+500UP!)=2500


後攻:ユーア・ランドスター

【シールド破壊状態】

メインサークル:

《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》

BP2000

サイドサークル・デクシア:

《極光の巨人兵士ウトガルド

BP2500

サイドサークル・アリステロス:

《エヴォリューション・キャタピラー》

BP1300



決闘デュエルの決着はもう間もなく。

その最後から目を逸らすまいとするように、ユーアちゃんは顔を上げた。


「仲間と仲間の力を合わせる《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》。ランドグリーズと同じ力。そう、これが私と同じ……せんじゅ、つ……?って、え……?えぇ……!?」


「どうしたの?」


「い、いや違います!全然同じじゃないです!ウルカ様ぁ!私のカード、こんな戦い方してないですー!」


突然、ユーアちゃんが騒ぎ出した。

つられて、決闘デュエルを観戦していた生徒もざわつき始める。


「うっわぁ……何だよあれ」


「何って、ウルカ様がたまにやるやつじゃん。昆虫デッキを見るのは初めてか?力抜けよ」


「やだやだやだキモいキモいキモい」


「あのスピリット、なんかグッタリしてるけど……死んだりしてないよね?」


阿鼻叫喚となった大広間。

私は《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》を装備した《埋葬虫モス・テウトニクス》を見て、ようやく騒ぎに合点がいった。


そういえば、ウルカだったときにこのカードを使ったことは何回かあったけど――さっきは決闘デュエルに集中するあまり効果にばかり目が行っていて、すっかりそのを忘れていたんだった。


「あぁ、なるほど!「歪み発条ツウィスト・スプリング」って、ネジレバネのことだったのね!」


幼虫のようになった《歪み発条ツウィスト・スプリングバグ》は、モス・テウトニクスの腹をぶち破ると体内に潜り込んでいた。

ビクビクと震えるモス・テウトニクスの全身には青筋のようなものが走り、その筋は不気味に赤く脈動している。

そのあいだ、巨体は死んだように地面に止まり、うずくまっていた。


「なんなんですかぁ、ネジレバネって!?」


「寄生昆虫の一つね。中でも働き蜂に寄生するタイプのネジレバネは、宿主の寿命を飛躍的に伸ばすことで知られているわ。なるほど、それがスピリットを強化する効果の着想元になっていたのね」


ここに来る前の「わたし」は会社が休みの日にはたまに昆虫採集に出かけていた。

だが、ネジレバネに寄生されたスズメバチは生殖能力を失い、巣の中で死んだように過ごすという特性があるので――さすがに実物を見たことはなかった。

それでも特異な生態から、昆虫図鑑では定番の虫である。


「じゃあ、これって装備とか、力を合わせるとかじゃなくって……寄生……!」


「ま、まぁそういうことになるわねー……ははは……」


うーん。

有用なカードだけど、これは次の決闘デュエルからはお暇させとくべきかもしれない。


この世界ではスピリットはただの道具じゃない。

一緒に戦う、大切な仲間なのだから。


「そういうわけで……パワーアップした《埋葬虫モス・テウトニクス》で、ユーアちゃんのメインサークルにいる《戦慄のワルキューレ騎士ナイト、ランドグリーズ》を攻撃するわね!ええと……パラサイト・アターック!」


「やあぁぁぁ!来ないでぇぇぇぇ!」


死んだ目をしたモス・テウトニクスが突進し、ランドグリーズを轢き潰した。

同時に、ユーアちゃんのライフ・コアに亀裂が入り――砕け散る。


その様子を見届けて、立会人のアスマが宣言した。


「決着!勝者は――ウルカ・メサイア!」


――――こうして。

私はこの世界で訪れた、を退けた。



王立決闘術学院アカデミー・非公式アンティ決闘デュエル

立会人:アスマ・ディ・レオンヒート

勝者:ウルカ・メサイア

敗者:ユーア・ランドスター

アンティ獲得:敗者(ユーア)に「即刻退学」を命じる権利



そして――運命の天秤は、次なる破滅の未来を導く。



Episode.1『《階級制度》』End


Next Episode.2…『[灼熱炎獄領域イグニス・スピリトゥス・プロバト]』

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