~人探しは始まらない~

電車を乗り継ぎ、事務所からそこそこに離れた街に着いた。

俺は電車での窮屈さを振り払うように背中を伸ばし、スマホを取り出す。

ここから近い位置から調査をしていきたいな

まず俺は駅から1番近い、霜月が元々働いていた場所に行く事にした。

道中で会社員の人が行き交っており、昼間近くなのに人が多くいた。

出来れば俺は記憶障害が治ったら普通の安定した職業につきたいものだ。


ビルの元にやってきて上を見上げる。

あまりにも高く、相当大きな企業なのだろう。

少し調べたが戦後に大きく発展した会社の内の1つらしい。

ここから霜月の元自宅までの間で霜月らしい人をまずは探すことにまた戻ってこないとも限らないからな。

歩きながら周りに目をやる。

それにしても職場から自宅までが歩きで来れるとは?普通のサラリーマンは満員電車に揺られている中、霜月は歩き悠然と出社していたようだ。

なんとも羨ましい、関係はないがここまで来るのにお金を使う事になってしまった側からするとお金を使わずに移動できる距離とはなんとも楽である。

電車での移動で少しづつ預金が減っていくことに軽く恐怖を覚えていると霜月の家まで着いていたようでそれと同時に時間も数十分程が経過していた。

流石にお昼を食べない訳にはいかないから近くで良いお店を探す事に、と言ってもそれほどお金がある訳ではないので安いお店に行くことになるのだが...

そんな事を思い、鞄の中から財布と取り出そうとするが、

「ない?」

鞄の中に入れたと思われていた財布を事務所に置き忘れていたようだ。

「終わった...」

俺は絶望を噛み締めて近くの公園のベンチに項垂れる。

歳的には学生だからこんな時間に公園のベンチに座っていたら不審がられると思ったがそれは大丈夫なようだ。

そもそもこんなお昼に公園にいる人の方が少なかった。

いや、そんな事よりどうしようか...

残念ながら一度事務所に戻ろう、そう思い立ち上がろうとしたが...

そういえば交通系のicカードの残高ってどれ程あったか、そう思い一応確認をしてみた所帰り分のお金が無いと言うことに気づく。

財布と通帳は事務所に置いているから口座からお金を下ろすこともできない。

icカードは残高足らずで事務所に帰ることすらできない。

殆ど詰みだった。

結局ベンチに座り、項垂れる事となったこんな事になるならお金を惜しまずにちゃんとチャージしておけば良かったと後悔してしまう。

少しの間視線を地面に向けていると突然目の前の地面に誰かの靴が写った。

??「どうしたんですか、出社に鬱を感じた新卒のサラリーマンみたいにして?」

とそんな失礼極まりない言葉が俺に向けて放たれていた。

俺は一度顔を上げて相手の顔を見る事に。

その子を見て一番に目に付いたのは綺麗に左右均等に結われたピンクのツインテールだった。

「えっと、君は?」

少女は驚いた様な顔をしてから言葉を紡ぐ。

沙織「あ、お久しぶりです、日元 沙織です。」

日元...確か朝に見た日記の中にそんな名前の人がいたはず、えっと...

あぁ、そうか、彼女は俺が探偵になって初めて受けた依頼の依頼人さんの娘さんだ。

こんな所で何を?というか学校がある時間じゃないのか?

「えっと、久しぶりだね。どうしてこんなところにいるんだ?」

沙織「ど、う、し、た、ん、で、す、か、?」

沙織が顔を近づけながらそんな事を言ってくる。圧が強い。まぁ、恐らくサボりだろう。

「仕事だよ」

沙織「公園のベンチで項垂れてるのが?」

「グッ、いや、これはお金が無くて途方に暮れているだけだよ」

沙織「それを平然と言えるのは人としてどうかと思うけど...」

何を言っているのか分からないな。

沙織「ならさ、私が奢ってあげようか?」

そんな魅力的な提案を提示してくる。

だが、まさか学生から昼ごはんをたかるなんて人として終わってしまう。故にこれはどうするべきかは決まっている。

「喜んで、お受けします」

俺は頭を少し下げてそんな事を言う。

当たり前だ、人は食べなければ死ぬましてや探偵は常人の数倍の頭を使っているのだ。

栄養補給は必要だ。そうこれは仕方がないのだ。うん。

そう思うことにして沙織ちゃんの方をむく。

何故か引かれている、おかしいだろあんたから提案してきたのに。

沙織「ははは...」

やめてくれ、なにか言うならいっその事言ってくれた方がいい。

同情される方が傷つく。

そんなコトがあった後にとりあえずすぐに食べれるファストフード店に向かった。

そこで俺はバーガーのセットを頼み、沙織ちゃんはポテトを少し頼むだけだった。

なんでもダイエット中なんだそうだ、女子とは大変だなと思いつつすぐに席を確保した。

席に着くとすぐに沙織ちゃんが質問を始めた。

沙織「今回はどんな依頼なの?」

「ん?今回の依頼か?詳しくは説明できないけど、人探しだよ。」

沙織「へ〜、今回は動物じゃないんだ」

なんか失礼なこと言ってないか、いや気のせいだろう。

「それで沙織ちゃんこそなんでこんなところに?今日って平日だよね?」

そう言うと沙織ちゃんは目を泳がせていた。

やはりはじめに思った通りサボりか。

「こんな事を俺が言うのは変な話だけど、学校にはちゃんと行った方がいい、俺みたいに不安定な仕事に就くとすごく苦労するんだぞ?」

そう言うと少し悩んでから

沙織「そ、そう言えば、知ってる?

蒼の事務所の近くの公園で人が死んだんだって。」

話を変え始めていた。

まぁ、俺は沙織ちゃんの親ではないので何を言っても無駄だろうけど。

「そんなニュースは見てないけどな」

沙織「うん、まだニュースではやってなかったんだよね、なんでだろ」

「さぁ、分からないけど物騒な世の中だね〜」

俺はどうでも良さそうにそう言いながらバーガーを食べ始める。

沙織「なんかどーでも良さそうだね、少しは興味を持とうよ!探偵として!」

バーガーを1口かじりそれを飲み込んでから俺はその言葉に対して回答をすることに。

「興味を持つも何も物騒だなとしか」

沙織「え〜、面白くないな。だって探偵って事件に敏感なんじゃないの?」

そんな意味のわからないことを言ってくる

探偵をなんだと思っているのだろう?

「どの世界線の探偵だよ...」

そんな事を言うと「え!違うの?」というような顔でこちらを見ていた。

いや、違うだろ。漫画の見すぎだ。

「そんな探偵はほとんどいないと思うけど」

沙織「へ〜、そうなんだ」

そう言いながら沙織ちゃんはポテトを頬張っていた。

そんな他愛のない話をしながらご飯を食べていた。

俺はもう1時を回ってしまった時計を見つつ少し考えてから言葉を発する。

「そろそろ、いかないと」

そう言うと俺は自分のと沙織ちゃんのトレイを持ってそれを戻しに行った。

それを見て沙織ちゃんは俺の後ろを着いてきていた。

トレイを戻してからお店の外に出ることにした。

出てすぐに沙織ちゃんが俺に向かって

沙織「あのさ、私もその仕事につれてってよ」

うーん、どうしようかだが今から学校に行く様に説得しても聞かないだろう。

なら邪魔じゃ無ければいいか、

「わかった、だが条件がある」

沙織「ありがとー、これで居させてくれなかったらご飯を奢ったことを脅そうと思ってたけど...」

すごく怖い言葉を聞いた気がするが聞かなかったことにした。

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探偵は忘れない 御槍 翠葉 @goyari_suiyou

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