~朝と依頼人~
「
俺は自分について書かれた日記を手に、書いてある事を独り言のように言葉に出す。
朝、陽光に起こされ、見知らぬ天井の元に居たがまさかそこは自分の見知った家だったとはな。
家、少し違う気もするが俺は記憶障害によりここが自分の居所だと忘れていた。
少し現実味はないがその日記に書かれていた事は信用出来るそう確信している。
俺は少しわからない事が多いから少し頭を冷静にするためにもう一度ベッドに寝転ぶ。
決して二度寝をしようとしている訳では無いと言い訳だけはさせてもらう事にしよう。
日記の内容を砕くと俺は探偵事務所の実質的な所長という事になる。
人生って不思議な事もあるもんだな朝起きたら自分が探偵だ、なんて。
ここでそのまま二度寝に入るという手もあるが今からそれをすると次に起きたら昼になっていそうで怖かったので二度寝は断念して起き上がり部屋を出て事務所にある応接室兼リビングへと歩みを進める。
まずすべきは、と思いさっき手に取った日記を開き、毎朝している事を調べてみる。
まずは朝風呂に入るのが習慣らしい、どこにお風呂があるか知らないが...
そんな事を思いながら階段を降り、私室とは違うもう1つの部屋の前まで着いた。
応接室がある部屋の中に入ると所長用のデスクの上に事務所の間取り図が置かれていた。
なんと親切な事だろうか、恐らく昨日の自分が何とかしてくれた。と言うやつなのだろう、実際にこの言葉を本気で使うのは俺くらいだろうな。
なんせ昨日の自分を俺は知らないからな。
俺は間取り図を見つつ風呂場を探した。
事務所に着いている風呂場にしては少し広いな、そんな感想を持ち服を脱ぐ。
すぐに軽く体全体を洗い、濡れた体を常用しているタオルで拭き、動きやすい私服に着替えた。
いつも通りだが朝食を用意する程のお金が無い為何も食べずに歯を磨く。
事務所の冷蔵庫も確認したが朝食にできそうなもの、というか何も入っていなかった。
だが朝食が無いくらいでどうということは無い。
その後は簡単に事務所内の清掃を行う。
だがこれに関しては前からマメにしていたのであろうから然程時間をかける事がなく終わる事ができた。
そして事務所前の掛け看板を返し営業再開を知らせる。
その時点で事務所内の時計を確認、10時ほどであることがわかる。
ここから一体どんな依頼が来るものか、まぁ来なかったとしたら近いうちに晩御飯さえ食べられなくなるだろう。
そんな殆ど死の宣告のような考えがよぎったが頭を振ることで思考から追い出す。
とりあえずは最低限にやるべきことを終わらせたが結局は依頼人が来ない限りは暇だ。
この暇を潰すため起きてからずっと持っている自分についての事が書いてある日記を読む事にした。
最初の頁を見ていたらわかるがこの日記はだいたい4年前くらいから書き始めたものだ。
俺は順調に日記を読み進めていた。
...
それから数十分程日記を読んでいると突然ノックの音がした。
俺は一度、日記を机に置き返事をしながら扉を開ける。扉から入ってきたのはブロンドの髪を肩口まで切り揃えている輝くような赤の瞳を持った童顔の女性だった。
どんな依頼人が来たのか少し楽しみにしつつ入ってきた人を応接室のソファーへと案内し、依頼内容を聞くことに。
そんなことを思っていると白のワンピースに身を包み、それに合う白の麦わら帽子を着た女性は、
??「すみません」
そんな事を言いながら申し訳なさそうな顔で俺の事を見て続きを口にした。
??「調査の方はどうなったのでしょうか?」
「...え?」
俺は女性が何を言っているのか一瞬理解できなかった。
その後、女性に自己紹介をしてもらいそれを日記内で全力で探した。
なんでも彼女の名前は
そう決意を固め日記のプロフィール欄にその事を記入しておく。
「一応、経過報告を致しますね。
それらしい人物は未だ見つかってません」
俺は日記に記載されている経過報告の欄をそのまま依頼人に伝えた。
それに対して琳寧さんはなんとも思ってないのか特に表情を変えることなく話を聞く。
「すみません、未だに進捗はありませんね」
端的な報告をしてそれに対する進捗の無さに謝る。
一度日記に視線を落とし依頼内容の確認を再度する事にした。
報告の通り簡単に依頼内容を説明するなら人探しだ。
だがその内容は少し奇妙なものだった。
探している人は
男性をただ単に探しているだけなら奇妙とは言えないのだがおかしいと思ったのは彼女が彼を探している理由を話さないということだ。
霜月との関係性も伝えられていない為本当に何故探しているのか分からないのだ。
兄妹の可能性も考えたが琳寧さんが見せてくれた、霜月の写真を見る限り兄妹の可能性は低いと思う。
恋人という線や夫婦と言うことも考えたがそれなら隠す必要が無い為、結局奇妙なままだった。
まぁ、どちらにせよこの依頼を達成しなければ明日のご飯さえ危ういのだから何があろうと解決に向かうしかないのだ。
霜月についての情報は最低限のものは琳寧さんから聞いているが調査と言う名目もあるため自宅周辺の人や職場の人に聞きこみをしたりはしているのだが、これといって収穫はない。
琳寧「いえ、気にしないでください」
琳寧さんは俺の謝罪に対してそう返した。
「いえ、こちらも対価を貰って調査している身ですから」
俺はそう言ってからまた日記に視線を向ける。
霜月については琳寧さんの情報以外にも少しは調べていた。
まず、霜月はここ最近自宅を売り払ったと言う事、仕事は辞めていないが長期的な休暇を取っていると言う事である。
この2日間少しは調べをつけているがそれでも本人が見つかることは無く、ここまで全くと言っていいほど進捗がないのである。
「探索の範囲を広げようと思います」
行動に移すには少し遅くなった気がするが探索範囲の拡大を提案する。
琳寧「すみません、お願いします」
琳寧さんは渋い顔をしてそう答えた。
なにかあったのだろうか?
「はい、では今回はここまでということでまた明日報告の為事務所に足を運んでください。」
琳寧「わかりました、ありがとうございます」
そう言うと琳寧さんは立ち上がり事務所を後にした。
俺はそれを見送り応接用のソファーに体重を預けため息をつく。
「ふぅ〜」
仕事モードから一転、少し疲れたがまだ仕事はここからだ。
だがそれにしても短い会話にしては少し考えすぎていたかもしれない。
起きてから約1時間程短くも長い時間が過ぎていた。
「それにしても...」
俺はそんな事を口にしながら少し頭を傾げる。
これは日記に書いてある事であるが霜月が家を売ったことは琳寧さんの耳には届いていない様でその報告を聞いた時、彼女は少し驚いたような顔をしていたのだ。
それにしてもどこにいるかも分からない人を探す事になるとは少しは情報があったら良かったのだが。
霜月 蓮也、彼は家族も無くしているようで詳しくは分からないが彼の家族は何者かによって殺されたそうだ。
こんな状況で霜月を見つける事はできるのだろうか、そんな事を思いながら一度私室へと戻ることにした。
私室に置いておいた鞄を取り必要な物を鞄へと詰め込む。
机の引き出しを開け、コレを持っていくべきかと少し悩むが流石に昔とは違うからな使う事はないだろうと思い引き出しを閉め調査に行くことに。
鞄を方にかけ玄関から外に出る、その際入り口の掛け看板をCLOSEに返しておく。
これでここが今営業していないことを示しておく。
まぁ、営業していてもしていなくても人は殆ど来ないのだが。
俺は歩き電車で霜月が住んでいた地域に向けて行く事にした。
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