第5話 : 切り札とはこうやって使うのだよ

 本当に家から追い出されてしまった。

 嘘だろおい。ふつう困っている友人を夜中につまみ出すか? ありえねぇ……。

 一度あいつの血の色を見せて欲しいよ。絶対に真っ黒に決まっている。

 しかし困った。非常に困った。俺の頭はあまりよくないことには絶対の自信があるんだ。カッコよく一人で悩みを解決できるようにはできていない。

「ということで、第二回恋のお悩み相談室~」

 パフパフパフ。

「……」

「あ、あの陽太さん? 何かリアクションをしてくれませんか?」

「……」

「ねぇ頼むから目で語らないで!」

 ずっと死ね死ね死ね死ね死ね死ねってメッセージを受け取るこっちの身にもなってくれませんかね?

「……はぁ。じゃあさっそく昨日の続きだ。お前は何に悩んでいる?」

「まったくも~素直じゃないな陽太君は!」

「そうだそうだ。そういうところだぞ!」

「……お前ら人の家で好き勝手言いやがって。……追い出すぞ」

「幸ちゃんはともかく。彼女の私まで追い出すってどういうことよ」

「……頼むからもうちょっと大人しくしてくれ」

 くっくっく。そんな頭を抱えてどうしたどうした陽太さんよ。この俺が同じ失敗をそう何度もするとでも?

 否! ちゃんと対策は考えてありますよ。凛さんこと永田凛ながたりんをお呼びしております。

 凛さんとは陽太の今カノである。つまり、振られた翌日に陽太が俺の話を聞かずずっとイチャイチャしていた相手ってこと。

 なぜ彼女をここに呼んだかと言うと簡単な話。彼女こそ陽太への切り札なのである。

 凛さんはいつでもどこでもニコニコ太陽みたいな人だ。

 そんな彼女を語るうえで外せないのが押せ押せの精神だ。その精神力は壁があってもその壁ごと突破してしまう程だ。

 その押しの強さは陽太にも遺憾なく発揮されている。なにせ陽太に押して押して押して押しまくった結果付き合うことになったのだから恐れ入る。

 さすがの陽太も頭が上がらないってわけ。

 追い出された後凛さんに助けを求めた俺は、いくつかの条件を飲むことで彼女の協力を得ることに成功した。

 今更になって俺を追い出したこと後悔しても遅い遅い。さてさて重々反省してもらおうかね。くっくっく。

 その凛さんは陽太の横でニコニコと体を揺らしている。彼氏の傍にいられてひどくご機嫌のご様子。

 ちなみに、凛さんもボニーテルをしている。だから萌絵ちゃんと少し似ていて時々ドキッとしてしまうのは陽太には秘密だ。とは言っても萌絵ちゃんと違って邪魔だからとりあえずまとめました感があるけどね。

「なあ。日を改めないか?」

「凛さんは毎回特別ゲスト出演だから意味ないよ?」

「それゲストじゃなくてパーソナリティだろ!」

「私と幸ちゃんのダブルパーソナリティでお送りしま~す」

「俺の立場はどこ行った!」

「ん~ゲスト?」

「なんでだよ!」

 はぁはぁと叫びすぎたのか、既に疲労困憊の陽太。ふふっふふふ。いいぞいいぞもっとやれ。

「最悪だ。よりによってこの組み合わせはひどい。幸ちゃんと凛が一緒とか劇薬だからな?」

「そのために誘ったんだ」

「てめぇ覚えてろよ?」

 作戦大成功。いえ~いと凛さんとハイタッチ。

「でも本当に陽ちゃんの血管がブチ切れそうだからさ。幸ちゃん早速悩みを教えて?」

 おっと、まさか話を進めてくれるとは。デキたパーソナリティなこと。まあ俺はパーソナリティ兼相談者だから進行はできないし、ゲストの陽太はさっきから俺を殴ろうとしているのを、彼女の手前必死に抑え込むのに忙しそうだから無理無理。

「では早速相談に乗ってもらいましょうかね。……ご存じの通り、俺は萌絵ちゃんが好きだ」

 昨日までの出来事はすべて凛さんも知っているから、前置きはぶっとばして本当に昨夜の続きからスタート。

「でも、土屋の好意を知ってしまってからは……その、土屋もイイナ~みたいに思えてしまってですね……」

「さすが幸ちゃん。クズの鏡のような発言だね!」

 あ、あの凛さん? にっこりと笑いながら、心臓に刃を突き立てるのはやめてもらっていいですか? さっそく失血死しそうです……。

「あくまでも! ここ大事。あくまでも俺が好きなのは萌絵ちゃんだ。しかし、土屋のことも少しだけだよ。少~しだけ意識してしまっているってだけだよ?」

「おぉ~すごい。罪の告白だ! 死刑だね!」

 すみません最期まで言わせてくださいお願いします。

「だから土屋と萌絵ちゃん。一体どちらが好きなのかはっきりするまで、両方と付き合うつもりで関わってみる。というのはどうでしょうか?」

「……えーと。さすがにあまりに堂々としたクズ発言にはノーコメントかな……」

 笑顔でドン引きしないでよ。知ってるんだよ笑顔で言うときは本心で言ってるってことは。

「だから言っただろ。真面目に聞くだけ損だって」

「じゃあさっきから文句ばっかり言う陽ちゃんはなにかコメントあるの?」

「そうだな……。美女二人に挟まれたいという願望は理解できる」

「陽ちゃんのバカ! それが彼女のいる前での発言なの? 陽ちゃんこそ真面目に聞いた私がバカでしたよ!」

 バスッバスッっと陽太の肩を叩く凛さん。うわ、結構本気で叩いてる。

「いった、いったい。痛い痛い痛い。しょうがねぇだろ。男なら一度は夢見てしまうんだ」

「さすが親友。いや心の友よ!」

 その通りさ。いや~こういうノリに意外と乗ってくれるんですよ陽太は。

「……ただ、それを実現するのはマジのクズだ。だから、僕はしない。幸ちゃんがするのは眺めるけどな」

「いやとめてぇぇぇぇぇぇ。親友がダークサイドに落ちそうになってんだから止めてよ!」

「だって、生まれついた性格は治せないしな。……あといい加減リンの攻撃がつらいからちょっと真面目なことを言わないと俺の肩がもたん」

「最後に本音が漏れてますよ!」

 お前はそこまで追い詰められないと真面目なことが言えんのかい。どんだけ強情なのよ。

「やめてあげる代わりに、私のご機嫌を取ってよね」

 ふん! っと両腕を組んで、つぅんとしている凛さん。あ、やばい。早速凛さんが使い物にならなくなってしまった。

「えっと……じゃあどうすればいいんだ?」

「んなもん萌絵ちゃんのことはきっぱり忘れて、土屋に告白してこい」

 きっぱりと断言してしまうゲスト。



ゲストこと梅崎陽太は今日も今日とて絶好調である。

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アオハルシンドローム 多樹 @ume--

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