ボクの時間
綴。
第1話 ボクの時間
「イタタッ! 痛いなぁー。でも我慢してあげるよぉー」
結ちゃんの声が耳元で聞こえてくる。ボクはさっきまでお留守番をしていたんだ。薄暗い部屋で、キャットタワーに登って。
レースのカーテンにぶら下がって遊んでたんだけど、なんだか飽きちゃったしお腹も空いてきたんだ。
ボクがレースのカーテンで遊びすぎて少しお外が見えるようになっちゃった。
「あー、またカーテンで遊んだでしょー!」
結ちゃんに怒られちゃう。まぁ、いいんだけど。お外は暗くなってきて、いろんなお家の部屋に明かりが灯っていく。今日は一日中雨が降っていて、車が水たまりを通ると空から降ってきた雨が弾けて飛ぶ音が聞こえてくる。ボクのいるお部屋は真っ暗で、なんだか寂しいなぁ。
結ちゃん、まだかなぁ。
するといつもの音が聞こえてきた! ガチャガチャと鍵を開けて、靴を乱暴に脱ぎ捨てる音! 結ちゃんだ!
「ただいまー! オッドー! 遅くなっちゃった」
「にゃー」
ボクは急いでキャットタワーから飛び降りて結ちゃんの所へ行く。
「おかえりなさいにゃー! 遅かったにゃー!」
手を洗ったり、買ってきたものを冷蔵庫にしまったりしている結ちゃんの足に体を擦りながらボクは話かけるんだ。
「オッド、待ってね! あっ、危ないよぉー、ちょっと待ってよぉー」
ボクがあまりにもスリスリするから、結ちゃんは動きにくそうだ。待ってるけど、待てないっ! って一生懸命伝えるんだ。
「にゃぁーぉ」
「お腹空いたよねー!」
「にゃん」
「うんうん、わかってるよ」
そしてボク専用のお皿にご飯を入れてくれている。カラカラカラって音がして、ボクはペロリと口を舐めた。
「はい、どーぞ! 今日は特別に缶詰めものせたよ!」
「にゃー! か、缶詰め最高にゃー」
そして結ちゃんも美味しそうなお弁当をテーブルに広げている。結ちゃんの大好きなヒレカツ弁当だ! 結ちゃんがカツをひとくち食べるとサクッって音が聞こえてくる。
もうボクは食べ終わっちゃって、お皿をペロペロしてきれいにして、ソファーの背もたれに乗って結ちゃんが食べ終わるのを待っているんだ。
「アハハ! ハッ!」
少しクセのある結ちゃんの笑い声が心地いい。ボクはテレビを見ている結ちゃんのお膝の上に座ってみる。
「ん? オッド、可愛いねぇー」
結ちゃんの細い指がボクのおでこをクシュクシュと撫でて心地いいんだ。ボクのママはどんな風にボクを可愛いがってくれてたのかなぁー、全然覚えてないや。
「アハハ!」
笑っている結ちゃんの肩にボクは顔を乗せる。寂しかったから、結ちゃんにたっぷり甘えるんだ。今はボクとの時間にしてよ。
「にゃっ」
「イタタ! オッドの爪、痛いなぁ……」
そう言いながらも結ちゃんはじっと我慢してくれるんだ。だって今はボクの大好きな時間なんだもん!
結ちゃんの頬に頭をピトッてくっつけて、ボクは前足で結ちゃんの腕や体を押すんだ。どうやら遠い昔の記憶なのかなぁー、これをするとなんだか落ち着くんだ。
結ちゃんの腕や体は柔らかくて、とーっても温かい。結ちゃんの声が耳元で聞こえてくる。前足を動かしながら、ボクは目を閉じて眠るんだ。
―― 了 ――
ボクの時間 綴。 @HOO-MII
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