第6話 新たな世界

 世界各国の政府は、地球沸騰化により、人が地表で暮らせなくなる対策として、火星への移住を検討していた。でも、世界中の全ての人、いえ、富裕層だけでも多くの人を移住させるのは無理だし、移住しても長期間、火星で暮らすのは非現実的だと分かったんだって。


 そこで、逆に、人間の体を環境に合わせるよう、遺伝子操作の研究を始めた。環境の変化の速度はあまりに早く、政府は、大勢の被験者を募り、失敗も覚悟で血眼になって人体実験を進めたと聞いたわ。


 だから、各国のあちこちで異常な変化で亡くなる人も増えていったらしい。そして、生きている被験者も、成功していないと、更に誰かと子供を作ったら被害が拡大するので、政府の組織が殺害をしていったんだって。


 それだけ、政府は人類の生き残りに必死だったみたい。


 動物は自分の遺伝子を残そうとすると聞いたわ。この政府の動きも、組織として、少しは変更してもいいから、自分たちの遺伝子を残そうとする本能だったのだと思う。


 一部の人間だけど、実験は成功し、私のような人間が、地上で生活を始めた。見た目はほとんど人間と変わらないんだけど、違うのは、尻尾が生えたことと、鼻とか耳が穴だけになって、頭がゆで卵のようにおうとつがない形になったこと。


 ただ、環境に適応するうえで大きな違いがあって、子供の頃の成長速度と、気温や湿度、酸素濃度などの変化に強くなったこと、そして、少ないエネルギーで活動できることだったわ。穀物などの生産は少なくて済むんだって。


 また、性格は穏やかになったって聞いている。昔の人は、攻撃的な人が多かったのかしら。


 本来の人間は、地球ではもう生きていけないほど、地球環境は悪化していたから、改良された人間以外は、この地球にいなくなってしまったの。だから、昔は、土地に対して人間が溢れていたけど、そんなことを気にしなくてもいいぐらいに人口は激減していたわ。


 実際、私が暮らしている集落では、かなり歩かないと、隣の家族に会えないというぐらい人口は減っているの。でも、テクノロジーは高度化されたままだから、暮らしは困らないし、いつでも全世界の人と会話できる。


 このような世界で、格差社会なんて概念はなくなって、だれもがゆとりを持って平和に暮らしている。


 私達は、これからは、自らの快楽だけを追い求め、環境を破壊するようなことをしてはいけないと強く教育されている。そうは言っても、これからも国同士の戦争とかあると思う。でも、せっかく多くの犠牲のもとに得た生活なんだから、大切にしないと。


 新しく改良された私は、太陽の強い陽の光を浴び、80℃の砂漠の中で、明日は何をしようと明るい気持ちで尻尾を振り、夕日を眺めていた。

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悪夢 一宮 沙耶 @saya_love

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