第4話

 足先から順に、普段よりも幾分動きのゆったりとした沙羅が部屋の中へと入ってきた。今朝方泣き続けていたせいか、少しだけ目が腫れている。私は今すぐにでも抱きしめたい気持ちに駆られて身体を起こし駆け寄った。私のせいだ。沙羅の両腕に手を添えたまま、何度も頭を下げた。


 そんな私の身体を沙羅は抱きしめてくれた。それから、「なんで新奈が謝るの? 新奈のせいじゃないよ。私があのメモ帳を用意したいって言ったんでしょ? それに、医務室にいてあれが手元にないだけで心が軽くなってきたんだよね。今朝の私は、きっとどうかしてたんだと思う。だから、顔をあげて」と頬を包む込むように手を添えられて、私はその力に導かれるようにして顔をあげた。


「よしっ、とりあえず新奈と沙羅は仲直りってことだな」


 私達を見守ってくれていた湊が口を開いた。沙羅が医務室に行っている間、私は職員さんに授業に出るように言われていた。当然ことのながら、授業を受けている間の私はずっと心此処にあらずという状態で、目を通しても頭の中でそれを理解するまでに霧散して消えていくようだった。沙羅のことが何よりも心配だった。それと、今朝の湊が沙羅にとった対応にあまりにも違和感があり、頭の中はそれらで一杯だった。普段の湊は確かに大抵の事には動じないような冷静さがある。でも、今朝の完全に錯乱し取り乱している沙羅に対する対応はとても初めだとは思えなかった。


──今のお前の姿をみたら、きっと職員達は……いや、三島がお前のことを精神病棟送りにする。


 それに今朝湊はこう言った。三島さんの事は私も好きではない。だが、精神病棟送りにするまでとは到底考えられなかった。


「じゃあ、始めようか」


 そんな私の考えをよそに、丸テーブルを囲むようにして座る私と沙羅の顔に順に視線を送り、湊はゆっくりと口を開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る