ゆびさき逆噴射

紫陽_凛

第1回 アクショントレーニング企画に寄せて


【お題】

国家としての正義に位置する人物(A)が単独作戦行動中に、背後から忍び寄った反政府組織に在籍する人物(B)から銃口を背中に押し付けられます。

AがBから銃を奪い制圧するも、Bの仲間(C)から不意をつかれて形勢逆転し、Aが死亡するまでを描いてください。

話中の経過時間は3分以内。



「よオ」

 挨拶と同じくらいの気軽さで押しつけられた銃口がディーの肩甲骨をえぐった。ディーもまた挨拶を返すように手を軽く挙げる。

「――ここまで来るのに何人殺した?」

「聞いてどうすんだよ。今から一人増えるのに」

「臭いんだよ、血のにおいで失神しそうだ。さぞ下で大虐殺を繰り広げてきたんだろう」

「大虐殺なんて大げさな、たった十に――」

 ディーは振り向きざま、右手の肘を相手の顔面にたたき込んだ。相手の鼻骨が折れ、両の穴から鮮血が吹き出す。それでも握ったままの拳銃チャカはディーの肺を狙っている。顔を血まみれにした男は先の一撃で脳しんとうでも起こしたのか、しゃにむに拳銃をかまえた。が、――より早く、ディーの足蹴りが彼の手首にリーチする!

 拳銃は宙を舞い、 侵入者は発砲する前に仰向けに倒れ込んだ。ディーは滑っていった拳銃を拾い上げ、そのグリップを強く握り込み、冷たく訊ねる。

「お前が殺したその中に、テオという男がいなかっただろうね?」

「お、ぼえてない」

「もしお前が殺した十数人の中にテオがいたのなら」

 怒りに燃える瞳の男は、侵入者に銃口を突きつけた。

「この場でぼくはおまえを殺す」

 ディーの口唇は震えていた。「テオは、前途あるわかものだった――」

 そのとき、両者の鼓膜を揺らしたのは、切羽詰まったわかものの声だった。

「管理官! ディー管理官!」

 声の主の正体を悟ったディーの顔が喜びに輝く。生きていたのだ――。

「テオ!」

「下が大変な事になっています! みんな血だらけで、生きてる人は一人も居なくて――」

 その刹那、胸に飛び込んできた小柄な青年は、手にしたナイフをディーの心臓に垂直に差し込んでいる。ディーの口から一拍おくれて、血があふれた。

「がッ、お、おまえ……」

「ディー管理官も、もうおしまいですね。そんなに僕のこと好きでしたか?」

 腕の中で微笑む間者スパイは天使のような風貌で今際のきわのディーにささやいた。

「すごくうざったかったよ。バイバイ」

 ディーは崩れ落ち、そのまま物言わぬ死体になった。



 

 

 

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