第23話

「考え……?」


「まず、俺達にできる最善って個々の力、能力を最大限に発揮することじゃ無いかと思うんだ。確かに今の作戦のまま堅実にヤオウを倒しに行くというのもいいけど、それでは最善を尽くせない。持ちうる技の最高峰を隙だらけの初っ端に出し切るというのはどうだろう?」


「最高峰の技ってのは火力的な話か?だとしたらかなり技の溜めに時間がかかるだろうよ。剣士だろうと魔術師であろうと火力だけに特化させるのならそれは変わらねえ。それに魔力集中をヤオウが感ぐらないとは考えにくい。現状の最善は、初っ端から遅延の少ない実用的な技、魔法で攻撃し、それを後の戦いにおいても持続し続けることだろ?」


「なら、もし最初にヤオウの動きを、少しの間だけ封じることが出来たとしたら?」


「確かにそれなら、一度にヤオウを落とせる可能性は出てくる。だがなァそんな都合良い方法なんてものは――」


「俺の力が使えるかもしれないんだ。」


「ああ、例のやつか。」


「俺の力は説明した通り、自分の分身体を作ることが出来るんだけど、それだけでは無いんだよ。分身体を煙上にしたり、粘っこい物質に変化させたり、むしろそっちの方がメインで使ってるくらいだ。中でも粘っこい物質に変化させる能力。これを使えば多分、ヤオウの足を止められる。」


「分かった。で、お前のその力をどうやって命中させるんだ?絶対に当てられる自信はあるのか?一度でも外せばその作戦は破綻するんだぞ?」


「ヤオウは魔物を見境なく食べる生き物だと聞いた。なら逆に習性を利用したら良いんじゃないか?魔物を食らおうと近づいてきたところで、地面の中かどこかへあらかじめ配置していた分身体の形質を変化させる。これなら避けられる可能性は限りなく低くならないか?」


 大人しく話を聞いていたアリスとカエデはなるほどと手を叩いた。


「それは、いかにカイト殿の言う形質変化が粘ってくれるかに掛かっているな。自信があるならその作戦はアリだ。」


「少なくとも、今まで逃げ出せた魔物は居ないです。二例だけですけど……。」


「す、少ないな……。」


 それを聞いたアリスは少し難しい顔になる。


「ま、良いか。最初から博打で挑むよりはマシだろ。」


 が、最後に肩を押してくれたのは否定派であると思っていたコケルだった。


「失敗したら、すいません……。でも、最善は尽くします。」


「前の作戦でいったって博打も同然。だったら、この作戦ともそう変わらねえしな。後、単純にあれは嫌だこれは嫌だとかアリスみたいなことは言いたくねえんだ。」


「あのなぁ…。」


 アリスは呆れ返っていた。


「失敗したら、その時はその時でカイトさんが凄い作戦を考えてくれますよ。ね!カイトさん!」


「そんな期待されてると思うと心が重くなってきたな。」


「当然その作戦が失敗すれば、逃亡をはからざふを得なくなる。カエデ殿が昨日の夜、カイト殿のことを褒め称えていた。それはもう嬉しそうにお前の活躍を語っていた。女を失望させるでないぞ。」


「え?そうなんですか?」


 カエデの方に顔を向ける。


「へ?へ?へのへのカァッパァ!」


 そう言うとカエデはプイっと顔をそらした。


「へ、へ、へのへのカッパ?」


 あまりにも反応が露骨だった。いや、露骨なのか今のは?へのへのカッパなんて動揺の仕方きいたことがないんだが。

 まあ恐らく反応を見る限りは本当にいってくれたのだろう。

 とても嬉しいのだが、こみしょうの俺にはこういう時の声のかけ方が分からない。ありがとう!って直球に感謝を伝えれば良いのかな?


 俺がうじうじしているのを見たコケルさんはやれやれといったポーズをとる。


「こういう時にクサイこと言って喜ばしてやれよお前はァ。」


「と言うと?」


「例えば、君の目はまるでルビーのように情熱的な色をしていて、俺の心を真っ赤に染め上げられるようだ!とかな。」


「それじゃただの口説き文句じゃないか。しかもクオリティ低いな。」


「馬鹿言え!深読みの余地なんて無くして、これぐらい直球に言うべきなんだよ!だが、好きだ、愛してる、の一言で済ますのは論外だ!いくら分かりやすいとは言えそんな誰でも言えるような何の捻りもない有象無象の言葉をなぞっても女の心には届かねえ!」


「一体何の話をしてるんだよ。コケルがズレたこと言って場を引っ掻き回したせいで本当に俺が言い損ねたみたいになってるじゃないか。」

 

「だから、助言をしてやってるんだよ!お前にはそれが――」


「たわけ共。肝心の口説こうとしている女のことは無視か?」

 

「え?」

「え?」


  俺たちはカエデの方へと顔を向けた。

 

 カエデは顔を震わせ、涙目になっている。今にも泣きだしそうだ。


「あちゃー」

「そ、そんなつもりじゃ――」


「い、いえ、全然気にしてないですから。カイトさんは何も謝ることは無いですよ。」

 

 カエデの顔を見れば明らかにそれは無理をしている発言だった。


「カエデのことを貶しているとか、そういう訳では全くなくて。悪いのはコケルだから堪忍してくれないかな……?」


「それなら許します。」


 カエデもコケルが全部黒幕には同意してくれたようだ。

 

「よし、こういう時にこそ、君の涙は深く神秘的で、まるで宇宙の星々の中の煌めく星の一つのようだ、とか言ってやれよ!」


 何を勘違いしたのか、コケルは再びポエム催促を促した。


「百歩譲って歯が浮きそうなポエムのことは置いておくとして、コケル、空気を読んでくれよ。これで全部丸く収まった感出てたじゃ無いか。年上の大人の余裕ってやつを少しは見せてくれ。」


「俺はいつも余裕だ!余裕だけど俺のプライドが傷つけられたらちょおっとばかし怒りたくなるだけだ!だいたいな、本当の黒幕はアリスだろ!お前が最初っからこいつに告げ口しなければ――」


「罪の擦り付け合いはそこまでにせんか!そんなことはどうでも良いであろう!今はヤオウのことに集中せんか!」


「そうですよ。もう、この話は終わったんですから。まずはヤオウを釣るために魔物を捕まえないとダメなんでしたよね?」


 バックグラウンドで時折、「おい、俺の話を!」とか聞こえるが気にせず俺たちは会話を続ける。


「近辺の魔物は恐らくヤオウが食べつくしてしまった可能性が高い。あの巨体が入れない洞窟にならば多少は残っているだろう。」


「ここら辺に洞窟ってあるんですか?」

 

「あるぜ、俺達は知ってる。」

 

 コケルは話しに入ることが出来たと嬉しそうにしている。


「なんだか、俺の中でもっていたコケルさんのいんしょうがここ最近で全く変わったよ。」


「それは良い意味で、だと捉えておくぜ。」


 そうして俺達は洞窟を目指し歩き出した。

 

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異世界魔王探し クロネコ太郎(パンドラの玉手箱) @ahotarou1024

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