第6話 星との出会いは突然に
「あ、えっと……」
思わず言葉に詰まった。
突然の美少女に、なんて言葉を返せば良いのか分からなかった。
身長は俺より少し低いぐらい。
首まで伸ばした金色の髪に、青い瞳を持つ。
年は同じくらいだろうか、顔立ちはアリスとリリィに近い。
二人が『可愛い』なら、彼女は『美しい』と表現するのが似合う。
服装は身軽さを意識しているのか、かなり軽装な格好をしている。
そしてどこか凛としていて、華やかさを感じさせる雰囲気を持っていた。
……と、あんまり見続けるのは良くないな。
とにかく、彼女の質問には返さないとな。
さっきから『どうしたんだろう、この人』みたいな変人を見るような顔が、かなり俺の心にくる。
「あ、あぁ、そうだ。『あなたも』ってことは、キミもそうなのか?」
「うん。あなたの少し前に登録した、いわゆる同期ってことになるのかな」
そういえば、憲兵が言ってたな。
『運が良い』とかなんとかって、それって彼女のことだったのか。
わざわざ勿体ぶらなくても、なんて言うのは野望というものか。
「そうか……それで、一体なんの用だ? ただ同期だから声をかけたってわけじゃなさそうだけど」
「まぁね。私もさっき登録して、広場で待ってるように言われたの。そしたら、ちょうどあなたが登録してたじゃない。だから、お互い良い暇潰しにならないかなって思ってね」
「暇潰し、か。俺なんかで良ければ」
「決まりね!」
そうして始まった暇潰しは、思ったより有意義なものだった。
彼女の名前はステラ・ブレスリング。
俺と同じで、農村出身らしい。
しかもグレイ村よりも規模が少し大きい。
同じ農民にしては、雰囲気が少し違うように見えるのは、そのせいだろうか。
立ち振る舞いが、前に王都に行った時の貴族に似たようなものを、俺は感じずにはいられなかった。
……まぁ、人には色々事情があるよな、きっと俺みたいに。
そう思って深くは聞かないようにしようとした瞬間――
「私、結婚されそうになったのよねぇ~」
「ブフッ!?」
あっさりと自分のことを話す彼女に、俺は飲んでいた水を思いっ切り吹き出した。
ちなみに、なんとか彼女にかかることだけは阻止した。
「だ、大丈夫?」
「あ、あぁ。その、まさかそんな深いところまで言うとは思わなくてな」
「別に、ただの愚痴よ、愚痴。言ったでしょ、私の暇潰しだって」
「そ、そうか」
結論から言えば、ステラさんも逃げるように家出をしたらしい。
結婚するなら自分の好きな人、そして何のしがらみもなく自由に生きることが、彼女にとって何よりも大切なことなんだとか。
それが叶わないと分かった彼女は、決別として髪を切って夜中に村を出て行き、そして稼ぐために冒険者が集うフェスリティア都市にやって来たみたいだ。
俺が言うのもなんだけど、随分とアグレッシブな子だった。
けど多分、予め想定していたんじゃないかとも思った。
だって結婚の話が勝手に決まって、すぐその日に家を出たみたいだからな。
彼女の境遇は笑えないけど、すぐに決めて動ける行動力に、少しだけ親近感が湧いていた。
少なくとも、同じ新人として仲良くなれそうな感じがした。
「まぁ、理由は何であれ、俺からすれば、この時期に冒険者の人が少ないって聞いてたから、一人でもいてくれて良かったよ。しばらく一人で活動するんじゃないかと思って、少しヒヤヒヤしてたからさ」
「……私が言うのもなんだけど、調べなかったの?」
「俺も、色々と事情があってな。冒険者になるって決めたからすぐに動いたんだ。まぁ……俺も家出みたいなものかな」
「ふーん、そう、なんだ」
あながち間違ったことは言ってない。
流石に、好きな子から振られた反動で旅に出るって言えるわけもないしな。
ただ、ちょっとはぐらかし過ぎたのな。
ステラさんが少し疑惑の視線を俺に向けている。
……ちょっと怖いんだけど。
顔は笑っているのに、目が笑っていない。
『何を隠している、吐け』とでも訴えているかのような、そんな目をしていた。
生まれて初めてそんな顔をされたんだけど、怖いって。
「……夢があるからな」
「夢?」
「あぁ、世界を旅すること。それが俺の夢。そのためにまず、金銭稼ぎで冒険者になったって感じだ。父さん曰く、冒険者が危険だけど、一番稼げるって言ってたからな」
「世界を旅する……うん、本当みたいね。とりあえず、そこから深く聞かないことにするわ」
……え、隠してるのバレてる?
なんで父さんといい、リリィといい、ステラさんといい、俺の隠し事がすぐにバレるんだ。
そんなに顔に出ているのか、俺って。
「……ぷっ」
きっと、そんな俺の考えも丸見えだったのだろう。
いきなりステラさんが吹き出していた。
「ぷ、アハハッ!! アッシュくんって、本当に分かりやすいのね!」
「そ、そうか?」
「そうよ! ハァー、笑った笑った。良い暇潰しになったわ、本当に。これなら、これからあなたとパーティー組んでも信頼できそうね」
「俺は今、とても信頼が低いんだが?」
「安心しなさい! 私、腕は凄く良いんだから。やって来た冒険者のお墨付きよ」
違う、そうじゃない。
能力とかそういう話じゃないんだが、と抗議しようとしたが、余計に面倒なことになりそうだったから黙ることにした。
それに、そろそろ頃合いみたいだしな。
「新人のお二方、お待たせしました! 担当の人が決まったので、こちらへお越し下さーい!」
「……だってさ」
「そう、アッシュくん。良い暇潰しになれたわ。お互い頑張りましょ」
そう言って、彼女は右手を差し出してきた。
全く、誠実なのかふざけているのか、よく分からない人だな、ホントに。
「あぁ、お互いにな」
そうして俺は彼女と握手を交わした。
――そしてこれが、彼女との運命の始まりだったのだ。
殲滅のアッシュ~真の勇者は平穏に暮らしたい~ 幻想タカキ @fantasy000
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