冬芽
安部 真夜
第1話
まだまだ寒い一月末。
今日は千鶴の誕生日を大切な恋人である和宏と祝う日だ。
「ごちそうさまでした」
お腹いっぱいのふわふわした気持ちになる。
小上がりになっているこの店のスタイルは、とても寛げる。
特別な日のご飯には、ここを予約して彼と美味しいご飯を食べるのを楽しみにしている2人がいた。
「いろいろな小鉢をシェアできるのは、2人で行く魅力だよね」
「だね、シェアできるには嬉しいし、千鶴は本当に美味しそうに食べるから、
それも楽しみの一つだね」
セットメニューについてきたお茶(多分香ばしさからほうじ茶だと思う)を
のみつつ、ニコッと笑う和宏。
「和宏さんとだと、自分では頼まない食材や味付けものをシェアし合うことになるから面白くて」
「それは俺も思う。
舞茸の天ぷらって俺は絶対頼まないけど、食べてみると案外美味しいんだよな」
こうやっていつもお店で出るお料理をシェアして食べているので、新たな味やメニューへの挑戦ができてお互い楽しくてちょっと得した気分になるようだ。
そして店を出て、同じ階にあるシアトルスタイルのカフェで新作のホワイトチョコレートのフランペチーノをテイクアウトする。
テイクアウト用のペーパーバッグに入れてもらい、エレベーターに乗り込む。
暗闇についたぼんやりとした灯りを見ながら、ゆっくりと九階から一階に降りていく。
降りた先には西口に広がる大きな公園がライトアップされていた。
「わぁ………綺麗だね」
青を基調としたライトアップ。 少し大人っぽいイメージである。
「2人で見られて良かったね」「うん」
そう言い、どちらかともなく手を繋ぐ。 あたたかな手だ、と2人は思った。
宿泊予定のホテルへと歩く。少し寒い。
ペーパーバッグからフランペチーノを取り出し、千鶴は一口だけそれを吸う。
甘い甘い味が口いっぱいに広がった。
「私の誕生日が1月末。
あなたの誕生日が11月末。
なら12月末のクリスマスは丁度その真ん中だね」
そう言い、その年は盛大にクリスマスを祝った。
シャンパンを買い、憧れだったブッシュドノエルを買い、食べ。
ささやかながらチキンも食べて、お酒も飲み、ほろ酔いで一晩過ごした。
それももう1ヶ月前のことなんだな、と千鶴はしみじみ思った。
「? 千鶴、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
こうやって過ごす日々が何年、何十年も続きますように。
そう願いながら、キラキラ光る公園のイルミネーションを目に焼き付ける千鶴だった。
ふと、冬枯れの木を見た。わずかながら蕾がついている。
こんな寒い時期にも蕾や芽をつけている、木々の逞しさや力強さには少し感動を覚える。
「ねぇ」「?」
強く手を握り、そして
「春はお花見したいね、夏は涼しいお家で本読んだりアニメ見て過ごして。
秋は紅葉見ようね、そして冬はお互いのお誕生日をお祝いして、またイルミネーションみて」
口早にそういうと
「思い出をたくさんつくろうね」
といい、唇をを重ねた。
永遠は信じていない。
けど、お互いを強く思いあえたらいい。
過去は現在が作り出し、現在が重なり合って未来になることを、祈っている。
<おしまい>
冬芽 安部 真夜 @abe-maya
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