第56話 卒業式

 魔術学院の卒業式はイベント会場を貸し切って行う。開場前の会場前にはおめかしした卒業生とコスプレした部活の後輩が集まり、一種の全校イベントのような空気を漂わせている。コスプレもピンキリでパーティーグッズ吊るしで使ってる部活もあれば、衣装ではなくて舞台装置みたいなコスプレ、あるいはリオのカーニバルの山車みたいなほとんどモビルスーツみたいな大掛かりなコスプレもいる。

 アニメーション研究部と特撮研究部と光画部が合同で仮装格闘している横で化学部が花火を爆発させ、居合道部がガマの油売ってたり、水泳部が水着でバンザイ同盟して走りまわる。女子レスリング部と男子レスリング部が薔薇と百合を公衆の面前でやって見せてるし、控えめに言って渾沌カオスである。


 卒業生追い出しとかは大義名分にすぎず、各部活が自らの存在感をアピールし、年度最後の勧誘をする場でもある。


「すごいね。まるでお祭りだ。」


 今回の卒業生である並木たちは同好会はやっていたが部活といった形ではなく全員同期と学外の専属レーシングドライバーなので後輩などというのは居ない。世帯を大きくする気もなかったし、卒業後にここに残すつもりはなく、三波、瀬名、並木、坂本が独立した個人として同好の士が集まるという形態に変わるだけだ。


 並木はスーツで、三波は真っ白なツナギで、坂本は振り袖でおめかししてる。

 どうせなら並木も変な格好してほしかったところだが日和見やがった。ツナギ着て卒業式に臨むのはかなりチャレンジングであるが、かの本田宗一郎も天皇陛下に謁見するときツナギで臨んだというからノープロブレムだ。


「こうして待ってる時に普通知り合いにあったりするもんだろうが、俺たちの交友関係俺たちだけで閉じてるよな。」


 交友関係が閉じているというより、誰もついてこれないキチガイ揃いで隔離病棟に隔離されてるのだから交流などあるわけがないのだ。


「三人でひとかたまりみたいなもんだし、浮いた話もなかったから仕方ないよ。」


 思えば、若気の至りというやつでこの三人でつるんで散々悪いことばっかりしてきた。某国の核兵器輸送中の事故から同位体魔石を◯むわ、高粘着タイヤでアスファルト舗装を剥ぐわ、爪を隠し持った肉球スパイクタイヤでサーキットの舗装を削るわ、研究室棟の廊下で100本ノックするわ。流石に放火・殺人はしていないが、坂本は殺人まがいのことをやって聖剣軟膏使ってギリギリ殺してはいないという状態にして来ただけだ。


「世間知らズのボンボンの白痴の雑魚どもと戯れてる余裕なんてないわよ。」


「おまえ、それEクラスに所属して成績下位の頃なら言っていいけど、今俺たちEXクラス、成績優秀者扱いだからガチの厭味に聞こえるぞ。そういうの外に向けて言うのは自分にとって損だぞ。」


「だからインテリは変な服着てくるくらいしか出来なくなるのね。何かを言えば厭味になるし、奇抜な行動をして見せても勝手に何か意味を捉えようとしてくるし」


坂本が三波に当て擦る。


「バカ言うな。錬金術師の正装は真っ白なツナギだ」


三波は開き直る。


並木は、部活対抗勧誘合戦を羨ましそうに見ながらぼやく。

「僕達も、部にまではしてなかったけど公認サークルだったんだよね。後輩が追い出しに来てくれたらどんな感じなんだろうね?」


「レーシングカートで送迎って訳にも行かんだろう。一人乗りだからな。」


「フラグというか召喚したみたいよ、ほらあそこ」


坂本が指を指した先には、「三並レーシング同好会創設メンバー賛江 学院卒業おめでとうございます。 瀬名珈琲点与利」の横断幕を掲げたウイングトラックがあった。瀬名か?


停めてあるトラックに駆け寄ると、エルフの運転手と瀬名の二人だった。


「来ちゃった……」

エルフの運転手がトラックから降りてくる。


「ここでいいのかい?」


 車窓から瀬名が大声で確認すると、エルフが答える

「多分ここであってる。先にオープンしちゃってて」


 出張出店とのことだ。バンでキッチンカーはよく見るが、20t車のキッチンカーなんて初めて見た。それより瀬名いつの間にエルフと知り合ってたんだ?


―――

 卒業式本編が始まるので会場に入る。Eクラスは立ち席だが、三波たちは最前列に椅子が用意されている。卒業生代表とともに壇上に上がるためだ。別に台詞も何も無い。本当に卒業生代表が卒業証書を受け取る横で立っているだけという指示であり、他に何もするなと厳しく言われている。


 卒業生代表への卒業証書授与が終わると会場から一斉に拍手が聞こえてくる。壇上から会場を見下ろす位置に立っている並木は、恥ずかしそうに照れている。

 おめ〜に向けられた拍手じゃねえよw


 厳重かつ巧妙に計画された卒業証書授与式には三波たちが暴れる余地は全く残されていなかった。奴らのほうが一枚上手だったようだ。

 降りて自席に戻り、理事長の話。長い上に単調で同じ話を何回も何回も繰り返している。

 Eクラス名物の、理事長の発言を先取りして「ハイ、皆さんご一緒に〜」はその後坂本の子供の八兵衛くんが入学してから始めた伝統なのでこの時点ではまだ存在しないが、坂本がこのとき考えついたという話もある。真相は闇の中だ。


―――

 卒業式にキッチンカーで出張してきてくれた瀬名の店で、卒業式の余韻に浸る。


「学校は終わったけど、瀬名のメカニックを務められるのはおそらく俺たちだけだ。参加したい競技があればまたいつでも飛んでくるから言ってくれ」


「また、その時はお願いします。」


「ぼく、自動車部品販売店を始めるから、買わなくていいからたまに来てよ。瀬名くんが出入りする店ってことになれば宣伝広告効果も絶大だよ。」


 並木は卒業後自動車パーツ販売店を始めるつもりらしい。ヤツは天才だ。きっと確固たる信念と成功への確信があるのだろう。三波オレにはそこまでの確信は無い。クルマは趣味として、当面は地味な普通の仕事に従事しようと思う。

 他方、坂本の進路は公務員だな……2つの国に所属してる怪しい公務員二重スパイ

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