第55話 首席と臨時新クラス

 卒業生の首席というのは単純に取得単位数とその評点を掛けたものなので、実は議論の余地というものはない。自ずから坂本、三波、並木の三人が、A〜Dクラス含めて他の学生をダブルスコアで圧倒しててこの三人以外を首席認定するのは無理がある。


 それもそのはず、この三人は学費定額取り放題を良いことに乞食根性丸出しで毎日早朝から夜間向けまで毎日8コマフルで登録し、その全てを履修、単位取得にこぎつけたキチガイどもである。通常魔術学院は就職活動を控える後半二年はコマはあっても登録しないでスカスカにしておくのが普通であって、初めから終わりまで全コマ登録しただけでも前代未聞なのに、この三人は全コマ文句を言わせず単位認定させたのだ。しかも在学中にオーパーツみたいな発明を一つやふたつでなく息を吐くように事あるごとに発明してきて、自動車レースでも大手メーカーをバックにつけた強豪チームを嘲笑うかのごとく蹴散らした三並レーシング同好会でもある。


 基本的に学院側として三人のいずれかが首席となるというのは異論を挟む余地は1ナノメートルも存在しない。


 しかし、いうてもEクラス所属である。Aクラスの王家や公家、Bクラスの公爵伯爵を差し置いてEクラス所属の学生が首席というのはいかにも都合が悪い。Eクラスは隔離病棟というのが建前で、Dクラスを偶々いくつかの科目で打ち負かすくらいまでは許容できるが、まかり間違ってもAクラス最下位よりも上に居てはいけないのである。


 それに今回卒業のAクラスには王位継承権第3位の王子殿下も在籍している。王子殿下が卒業生代表であるということは首席が誰であれ変わることはないのだ。それ故卒業生代表挨拶の他に成績優秀者の表彰が卒業式で予定されている。


 教授会で、三人の扱いについて議論される。桜之宮博士と飯田橋博士は鼻息が荒い。なにせハズレ担当の、教授間での権力闘争にあぶれた結果担当したEクラスに不世出の天才がゴロゴロと転がり込んできたのだし、飯田橋博士に至っては、傷痍軍人で片腕まるまると指三本、その他方肺飛行が可能な臓器は片方がなかったのに、今では失ったものを全て取り返し、五体満足の健常者となっている。

 Eクラス担当というのはともかくとして三人には学院としての栄誉くらいでは報いたい。


理事長が口を開く。

「高度に政治的な配慮より、卒業生代表は王子殿下であることに異論はないな?」


パチパチパチ


満場の一致を見た。流石にそこに異を唱えるものは居ない。


「そして、こちらが問題なのだが、成績優秀者表彰が、客観的指標で判断をするならどうしてもあの、3人ということになる。」


「Eクラスの生徒3人をもって成績優秀者とするのには反対です。各クラス別に一人づつ成績優秀者を決めましょう」


ざわっざわっ……。


飯田橋博士はそのような妥協案に納得してない。

「その意見には反対です。なぜ成績優秀な三人をたった一人に絞り込む必要があるのですか?三人が頑張った。ほかの子もみんな頑張った。上位三人の表彰をやめて目的の子が入るまで10人、20人を対象にしてもいいけど客観的な数字で成績優秀な上位3人を分断するようなことはしてはいけません」


ざわっ


「そもそもクラス分けの原点に立ち戻ってはいかがですか、実力順にしている建前上Eクラスから上位者が出るはずはないけど出たと言うなら、その建前が機能してないからそうなるんです。優秀な三人を急遽上位クラスにつけてはどうですか?」


桜之宮博士が提案する。


「王族しか入れないAクラスにあの不良連中を入れるのですか?」


「違います。彼ら三人だけが所属するAクラスより上の臨時新クラスにしてしまうのです。もとがEクラスでAより上のEXクラスってことで良いでしょう。」


「Aの上はSではないのか?」


「名前なんてどうでもいいんじゃないですか?」


「じゃあSとEX合わせたSEXクラスで。」


教授会での方針は決まった。あとは本人たちの了承だけだが……。「いまさら遅い!」とかざまぁされそうで気が重い。


―――


「というわけで、急遽君たちだけSクラスへのクラス替えが教授会で決まったのだが……。のんでくれるかい?」


 飯田橋教授が三人に打診する。外向きには関係ないことになっているが、Eクラス学生さん応援キャンペーンを瀬名の店にやらせている関係上、三人としては寝耳に水だった。


「新設のSクラスなんですか?今後も隔離病棟がSクラス学生を受け入れるんですか?」


 流石に最低クラスの学生が成績優秀者であるというのが対外的にカッコ悪いから名前だけの別クラスということにしようとしたのだが、並木は新しいコース、カリキュラムのあるクラスだと勝手に大きな話に誤解している。めんどくさいキレ者の疑問に教授もちょっと困った。


「実はな、来年度から僕は上位クラス棟で教鞭を執ることになっている。その前段階として優秀な生徒を指導したという建前も欲しいのだ。全て書類上だけの話だから口裏合わせてくれるだけでいいから。お願いだ。」

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