教育実習
第51話 教育実習〜並木の場合〜
この国では貴族の子弟は家庭教師に、大商人の子弟は私塾に、町の職人の師弟は寺子屋に通い基礎となる読み書き算盤と教養を身につける。そこの教員はそれぞれの指導内容での実績があれば特に資格といったものは必要がないが、教育のイロハをわかってますよという品質保証的な教員免許状という資格があり、魔術学院には教員養成課程とは別に錬金科のような他の専門をやりつつ、教員免許状を取得できる単位が習得できる。
座学単位を取って免許状を発行するまでに1週間の教育実習を履修しなくてはならない。
通常は出身校に頼んでやらせてもらうものだが、毎日全コマ埋めてる並木にその交渉を行う時間はなかったし、並木の母校は孤児院だ。依頼が遅れたため無理やりねじ込んで無事実習受け入れの許可を得た。そのため受け入れ体制というのは用意されておらず、ぶっつけ本番となる。
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「この三角形と、この三角形が相似であることを証明すれば良いのだが、この辺Aと平行な直線は、三角形の頂点から底辺までしか動かないとはどこにも書いてないし読み取れる記述もないから、この問題への回答は、偽である。反例として三角の外に線を引いて、この場合成立しないと書くのが正答です。」
と説明したあと教科書ガイドを開くと、真であるとして相似であることを証明して終わっていた。有害図書である。
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「穴に突っ込んで、ぐりぐりと…。間違ったらここをモミモミしてぶちゅーと吸い出すんだ。」
技術家庭で課題のラジオを作っているが、説明が感覚的で生徒は呆然としてる。そもそも、ハンダ付けは大錬金術師アランに怒られていた実技レベルだ。先生も実はあんまり上手くないんだよ……。
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「これは植民地英語ってことね。英語はRP、米語、パトワ、植民地英語があって、この教科書はRPや米語を喋る人の奴隷とされるべく作られた洗脳教科書だよ~。キミたちはその意図の裏まで踏まえて逆手に取ってやらないとだめだからね。」
外国語1では語学一切やらずに植民地支配のための王室主導の浸透工作の歴史ばかりやってる。社会の授業はすべてを階級闘争の歴史に紐付けて、社会科ではなくて社会主義教育をする。
――
授業が終わると、翌日の授業計画と報告書と教材作成だ。この時間が辛い。
担当教員は並木がここにいた頃、なにかとつけて因縁つけてきた一番キライな先生だ。
報告は毎日10回却下され、授業計画はいちゃもん着けられ、必要部数刷ったところで教材にダメ出しされること5回されたうえに紙代トナー代を請求され本格的にブルー入った。
感覚的で掴みどころのない授業は学生にもバカにされる始末。一応終えたし可の評点をもらったが、ぜってえ金輪際生涯教職には付かねえし、権力を握ったら学校なる不愉快極まりない腐敗組織を全て廃止すると心に強く決めた。権力を握ることはないけど。なんなら坂本がここにいたら暴れるのを許可していただろう。
「やってられっかよ!!」
むしゃくしゃしながら氷結片手に呑んだくれ、くだまきながら家路につく。実習期間中は酒飲みながら歩いて帰ったり暴走族が集まるところに出入りするとは何事かと言われるから行けなかった瀬名の店とキャバレーでも寄るか。
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