第49話 卒業制作
リースをきっかけに調べたら出るわ出るわこの学院の闇。後輩のことを本当に考えるならここで闇を一掃するのが理想ではあるのだが、あまりに深すぎる闇に単なる一人や二人の汚職とか背任で話が終わらず、汚染は学院教職員全員に広がってる。額がジュースとパン代ぐらいにとてもショボいというだけで桜之宮博士も飯田橋博士も構図としては全く同じだ。
しかし当面の問題は上位クラス向けゼミの研究設備調達にリースを使われるとお下がりが発生しなくなり、Eクラス隔離病棟ゼミが詰むという現実的なアカデミックな問題だ。
ぶっちゃけ現状維持はリースによる設備調達だけ防ぐということで事足りるが、現状維持は現状で蔓延る不平等予算配分と補助金私物化に加担するという事でもある。
「悔しいね。入学当初に気付いてれば対処のしようもあったのに。」
「知りすぎた新入生ということになって追放されるのがオチだ。結果出した後の俺たちだからこそメスを入れる権利があるんですヨ。」
「迫りくる危機に対処することが、根本的な問題構造に加担することになるが、迫りくる危機を受容しても問題構造への対応にならないなら、ぼくたちが取る方針は一つだね。」
「チートで全部解決ですヨ……」
ちゃうっつうねん。
「スクラップアンドスクラップ。全てをぶち壊す事よ」
やめて。学院を血の海にしないで。
「研究設備を必要なときに必要なだけ空気と水から作り出する汎用工作機械を作るんだ。もう業者に頼らない。」
「出来たら苦労しないなw」
「3Dプリンタね?」
「いや、3Dプリンタはプラスチックの形成専用だから、導通性があったり、熱に強かったりするいろいろな素材を形成できて、後処理もできるような汎用工作機械でなくてはならない。」
えっ?本当にそっちで決着付けるの?
「まずは3Dプリンタをレンタルで借りて汎用工作機械を出力する。次からは作られた汎用工作機械で汎用工作機械を作る。ここで、機械は工作機械以上の精度を出せないという課題をクリアするために、梃子を使って縮小する機構と回転を利用して絶対的な真円を出す機構は別途つける……。」
並木はどえらいもんで教官からダメ出しされた、自分自身を作り出せる機能を考えていたので、作るものはポンポンと案が出てきた。
―――
聖剣素材というチートがあるので三人がかりで1ヶ月掛けて作った、自分自身を作り出せる汎用工作機械はとびきりの精度を誇った。さすがに空気と水だけからとはいかないが、聖剣素材とどこにでもある廃材を砕いて入れるだけでだいたいのモノが出てくる。
「すごいわ。高真空装置も掃除機も電子顕微鏡もテレビも加速器もコピー機も電子レンジも旋盤もワンタッチで一晩で出せてそのまま使えるわよ!」
「あっけなかったね。こんなに簡単に息を吐くように解決出来たなんて。入学以来積み重ねてきた勉学は伊達ではなかったんだね。」
肉球タイヤやどれだけの衝撃も跳ね返すビキニアーマー作った時点で人類が到底到達出来ない領域に達してたくせに何を言ってるんだ並木は。
並木は三人で作った卒業制作の出来映えに満足してすっかり牙が抜かれているが、この卒業制作の真骨頂はここからだ。三波にとってこの道具は学院に平和をもたらすためではなく剣を投げ込むために作ったのである。
「コレがあるとどうなると思う?」
三波が二人に聞く。
「狙われるわね!返り討ちにしてやるわ!」
坂本が大型拳銃を構える。だからやめなさいって。
「僕達の夢の装置だよ?なんか問題があるとは思わないけど。」
並木は錬金術師としては
「研究設備費を横流しキックバックを受けてた研究室が、設備費を支出する口実を失う。ここまではわかるな?」
三波の話に並木が青ざめた。
「つまり……。この発明は口封じされてなかったことにされる……と?」
「半分正解で半分ハズレだ。おそらくは死に物狂いでこの発明を無かったことにしようとありとあらゆる手を使ってくるだろう。しかし坂本が居る以上は全学を相手取って武力闘争をしたとしてもこっちが勝てるので、そのための悪あがきは徒労に終わるだろうという意味で半分ハズレだ。学院を血の海にする覚悟はあるか?」
「そこまで見通してモノづくりなんかしないよ。」
「だよな?じゃあどうする?天才錬金術師並木はどうするんだよ?」
「今のうちに増殖させて、必要とする各方面に配り、この発明が無かったことに出来なくする」
「キックバック汚職教官たちは本来もらえないものがあるべき姿としてもらえなくなるだけで損をしたわけでもないし、過去は不問に伏すということですヨ。向こうにとっても本当は悪い話じゃないんですヨ。」
「本当はというのは……なんか含みあるね。」
「不正利得をあてにして屋敷運営や信用取引してますからネ。奴等、破産すらあるかもしれませんヨ」
「ないものをあてにしたなら自業自得だよね?」
「完全に逆恨みですけどネ。」
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