第48話 クラス分けの謎と力学のベクトル整理

 建前上では魔術学院のクラスは実力と社会に出たあと果たすべき役割に応じて《適切に》クラス分けされていることになってる。

ざっとこんな感じだ:


Aクラス―真のエリート。国益を賭けたネゴシエーター、最高峰の科学者、ルールを定める者を養成するカリキュラム。


Bクラス―真のエリートを補佐し、場合によっては代行する者。大臣、閣僚、教授クラスの研究者を養成するカリキュラム。


Cクラス―実務を取り仕切るエリート養成課程。


Dクラス―優秀な労働者となり世の中を実質的に回していくエリートを養成するカリキュラム。


Eクラス―隔離病棟。世間様に迷惑をかけないように矯正することを目的としたカリキュラム。


黒板に書かれた「Eクラスの地位低下」から矢印を引いて、他のクラスとの比較におけるEクラスの地位をリストアップして、三波と坂本が愚痴る。


「はじめからDクラスとEクラスの格差が妙に大きいんだよな。」


「まるで同じ学校の学生とは思えない差別待遇よね。」


「隔離病棟側の研究室予算で備品買ってるの見たことないし、その履歴も図書館資料を探した限り今のところ見つからない。」


 筆記具すら個人の持ち出しだったり、場外競馬場の使い捨ての鉛筆だったりが転がってるのが隔離病棟のゼミ室の見慣れた光景である。


「はじめからEクラスは別の学校なんじゃない?それを無理矢理併合したとか、予算山分けハゲタカお公家集団に乗っ取られたとか?」


「だとしたら分断の格好の餌食になるね。もともと別のものをくっつけたところに亀裂入れれば簡単に割れちゃうよ」


 並木が闘争の進め方について漠然とした不安を表明する。団結して交渉する際奴等のいつもの作戦は一部を買収してスト破りならぬ仲間割れ内ゲバへの誘導である。


「でも、私たち三人対全学生の武力衝突になっても負ける気は全然しないわね。」


 坂本が大型拳銃を構える。だからやめなさいって。


「この三人でエスカレートすると三波謹製の核危機まで一直線だ。少し冷静になれ。結局僕達は何と戦うつもりなんだい?」


並木が坂本を牽制すると坂本は即答する。


「この国の身分制!」


あぁ、やっぱり。


「少なくとも学び舎においてナンセンスだわ。教育効果に最適化されてるクラス分けならともかく、どう考えても本来Eクラスに分配される筈の予算を山分けしてるじゃないの?」


「これについては必ずしもそうでもなさそうなんだ。この親御さんから学院への寄付金、やはりクラス順に多いんだ。Eクラスでも大商人のご子息とかはちょっとは寄付してるみたいだけど、全員が王家、公爵家のAクラス、侯爵のBクラス、伯爵のCクラス、男爵、騎士のDクラスとは比べるべくもない。一応、Eクラスにも没落貴族と一代貴族の子(当人は貴族ではない)もいることはいるが、押して察するべし」


「結局、この学校の存在そのものが平民から巻き上げて貴族たちで山分けするマネー・ゲームなんじゃないの?」


いや、それはこの学校に限らず政府を「お上」だなどと呼ぶ国のすべての機関と御用商人の企業財界全てが山分けマネー・ゲームなんだが……。敵を大きくするんじゃない。


「研究設備リースを発端にエライこと発見しちまっいましたヨ。」


「どう考えても、迫りくるリースの脅威よりもこの学校根本からおかしいね。」


「みなかったことにしようか?」


「こりゃ、政府補助金を学院が恣意的に山分けするのみならず、業者から教官に、教官から決定権のある学長へ還流する分も普通にあリますヨ」


「背景はあまり良くないけどいいとして、この背景の中で僕たちは何を要求したらいいんだろう?」


「俺たちの要求自体は簡単ですヨ。問題はどこまで現状と妥協して着地点を設定するかですネ。それが関係者全員にとって我慢できるものでなければ要求は成就しませんヨ。」


 どこに着地させるかの見通しを立てないままともかく闘争に突入する事も可能であったが、三人の中にそのような向こう見ずな者は居なかった。勝利条件を明確にして、その達成のための行動として計画しなくてはならない。


―――

「で、これなんですけど……。」


 坂本がコピーを三人に配る。とある教官の邸宅の帳簿だった。そこには一応一回付け替えられているが、研究費と同額の入金が学校から入ったことになっておりそれがブラックボックスに行って帰ってメイドの人件費に充当されているのが読み解けた。コピー用紙にはそのカネの流れの経路に赤ペンが入れてある。


「よくこんなもん入手したな~。」


「こっち方面は昔やってましたから。」

そう。坂本は三重国籍で二重スパイで一重瞼だ。


「要は、この金の流れを断ち切ると生活に困る人が出るってことだよね。つまり、リースへの支払いは別腹でもらわないと帳尻が合わなくなる。」


「汚職に生活かけてるなぁ」


「で、共同責任は無責任ってことかしらね~。」

次のコピーが配られる。こちらは学校の帳簿だ。

「さっきの西九条先生の研究費、受け取って入れてる額より大きく出したことになってるね……。」


「差分は理事長の懐ね。」


「証拠は?」


「そのコピーの裏の学校の流動性口座取引明細にいやってほど。西九条先生のは、左斜め下のコピーにあるわ」


確実にクロじゃねぇか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る