第44話 ぼく、もうだめなんだ

 7つの威力を搭載した信楽焼の狸、「どえらいもん」を瀬名の店に丁稚奉公に出す。


 7つの威力とは以下の7つの機能及び特徴のことである。

・善悪を判断できる人工知能(ただし身体の随所に分散されているので葛藤する)

・収縮アクチュエータを使った人工声帯(デフォ発音のあ~っ、あ〜っから学習してどんな言葉でも発声できるが今のところ暴走族語しか学習していない)

・地獄耳(どんな悪口もゴシップも聞き逃さないが、都合の悪いことは聴こえない) 

・夜中に不気味に光る眼

・1.21ジゴワットのパワーサプライ

・宇宙までトベるあんパンをポッケに常備

・顔の一部はクッキーで出来ていてちぎってお子様にプレゼント可能


そして、見た目は狸だが、自我は猫でシャーッと威嚇し爪で引っ掻くスタイルでケンカする。


「なんか、また性懲りもなく技術者の暴走してますね」

 瀬名がブツを確認して、ボソッと感想を漏らす。


「僕達の夢と理想とそれぞれの大好きなものをこれでもかって全部詰め込んだスーパー・ホムンクルスだ。受け取ってくれたまえ。」


で、ガワが信楽焼の狸ですか?


「これからの時代はやっぱり100万馬力より1.21ジゴワットなんですヨ」


で、ガワが信楽焼の狸ですか?


「猫の自我は、いずれなんとかするけど今はこれが限界。私たちのベストを尽くしたわ。」


 なんで猫やねん!タヌキをデフォルメまでしてTheタヌキとして作られた信楽焼の狸にどうして猫の自我を組み込むかな?


「また、どえらいもん作りましたね。」


「そうなんだよ、コイツ『どえらいもん』って名前なんだぜ。ゼミの桜之宮博士の命名なんだ。」

 えっへんとドヤ顔で言う並木だが、それ、名前つけたんじゃなくてありのままそれを呼ぶ呼称、ケミカルXとか謎物体とかと同じような、とんでもないものという意味の普通名詞だから。


 三波、並木、坂本を野に放つと何作り出すか分からない。レースが無いとその持て余す才能でどえらいもん作ってきた。またレースに行くことでこいつらのお守りしてやらないといけないのか……。


―――

「おい、そこのたぬき」

「おい、そこのたぬき」

「おい、そこのたぬき」

「おい、そこのたぬき」

「おい、そこのたぬき」

「おい、そこのたぬき」


 はじめのうちは「ぼくはタヌキじゃないよ。猫型ホムンクルスだよ!」といちいちお客さんに言い返していたが、言い返すと余計に笑われたので、学習してだんだんとどえらいもんは無口になっていく。

 お客さんは何かのパロディの自虐ネタか何かだと笑っていただけなのに本気でブルー入っているどえらいもんを見て……心配などするわけもなく余計に悪ノリしていく。

「これこれ、ブルー入ってんじゃねえよ。心をブルーにしてる暇があったらボディを青く塗装しようぜ?」とペンキで全身青くして何かのマンガの主人公のパチもんみたいな姿にされた。

「うん。戦慄のブルーの色を完全再現したぞ。」

「どえらいも〜ん、シズヱちゃん出して〜!」


 きっと彼らの心のなかにある何かの記憶と合致して琴線に触れたのだろうが、もう限界だ……。

maximum number of process exceeded.

gabage collecting……FAILED!!.

segmentation fault.

process caught signal-11,killed and coredumped.

SYSTEM KERNEL PANIC……memory dumping done.

口からレシート状のプリントを吐き出し、どえらいもんは緊急停止した。

瀬名は作業を一段落させると三波に電話した。


「三波さん、大変だ!どえらいもんが倒れた!」


 三波と並木が到着すると、そこには折田先生像のように全身ペイントされて、付け髭つけられゲーセンのジョイスティックをケツから差し込まれてもとの面影がほとんど見られないどえらいもんが倒れていた。


瀬名の店、さすがに少しは客選んだほうが良いぞ。

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