第42話 招き猫と仙台四郎

 瀬名はレースのないとき喫茶店を経営している。かつては引きこもりだったが、ヒールできれいな瀬名になり、カートレースで華麗な勝利を収めたその名声が生きているうちに平時に人と接する仕事をしたいとのことで始めた郊外ロードサイドで喫茶店を始めた。店内には予選で速度の世界記録に肉薄した車両を展示し、そういうのが好きなお客さんにアピールしてる。

 駐車場には走り屋仕様のスポーツカーが停められており、この喫茶店の客層を雄弁に物語る。瀬名は近い将来F1のシートを手にすると目されていて既に常連も入り浸ってクルマと走りに関する談義が繰り広げられていた。


 並木、坂本、三波が瀬名の店にピンクの軽で店に乗り付ける。

「よっ!繁盛してるじゃん。」


「今のところは記憶に新しいですからね。ちゃんと一定の成績を定期的に上げてお客さんの期待に応えていかなくちゃ。」


 直輸入の豆をこだわりを持って煎じた本格ブラジル珈琲はなかなか美味い。瀬名にこんな才能もあったとは予想外だ。


 会計をすると、レジの横に仙台四郎と腕が往復運動する招き猫が置かれている。


招き猫ピ〜ンチ!


―――

 仙台四郎の方はお客さんからもらったものだから勘弁してくれということだったが、招き猫のほうは瀬名が自腹で買ったようなので遠慮なく借りてきた。とったんじゃないぞ永久に借りておくだけだぞ。


 往復運動する腕のみならず肢体を全部可動にして喉や肺も肉球も組み込み、学習プログラムを焼き込んだマイコンと駆動回路を組み込む。

 初期の教えてのサインは「にゃーん?」の鳴き声だ。並木のゼミ室に三人入り浸っての工作に指導教官の桜之宮博士がしゃあねえ奴らだなという軽く困った顔をしている。


「バッチリだね?」

「にゃ〜ん?」


招き猫が歩き早速いろいろな動きを覚える。不気味の谷の向こう側でとてもファニーな挙動だが、夜中見たら完全に怪奇現象で大声上げて逃げるだろう。


「おすわり!」


 並木が言うと、招き猫の定位置定姿勢、つまり普通の招き猫の姿となり、手だけをおいでおいでの往復させる。こうしているとただの招き猫でしかない(手に肉球がついてるが)。これが飛びかかってきたら恐怖だ。


よし、出来た。瀬名の店に置いてお客さんに調教してもらって学習データを蓄積しよう。


―――

「またしょうもないものを作りましたね。」

瀬名は呆れてる。 


「お客さんを驚かしたりするつもりはない。学習データ蓄積中でいろいろ教えてあげてねときちんと張り紙出しておけばいいだろう。」


瀬名にとってはレースのメカニックにして勝利の原動力たる三人に逆らえない謎の力学が働いていて、少しインテリジェントな招き猫くらいはいわれるまま置くしかなかった。

 

 ホムンクルス招き猫はお客さんにも好評でマスター、競技車両の展示に次ぐ第三の名物となった。ちゃんと手の内明かしてそういうものだと納得してもらえばなんの問題もなかった。

 1週間で学習も進み、新開発の収縮アクチュエータでとっても力持ちで店の手伝いもする賢い招き猫として評判はうなぎのぼり。


 気を良くした瀬名は、許可は取ってあるから仙台四郎もやっていいと渡してきた。いや、まねき猫の躾したからわかるんだが、人間幼児の学習を成人の姿してるのにやらすのマジでヤバいし、御存命の頃知的障害者だったという話になってる仙台四郎が、「あぁ~?あぁ~!」とか赤ちゃんみたいな声上げて呻く人形、絶対ヤバいから。バカにしてるとか似合わないとかじゃなくて真逆でハマりすぎてるので余計にヤバい。その場にいる全員が許したとしても人権活動家団体が殴り込み掛けてくるわ。


「ごめん。よく考えたら今は無理。」


 並木は色々と考えたうえで仙台四郎にAIアクチュエータを仕込むのは断ることにした。

いや、今仕込んでも当分の間は秘蔵っ子としてひたすら教育しないと世に出せるものでない。もしくは最低限大人のマナーを学習したデータセットを確保するまでは。


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