学外活動編

学園闘争

第46話 研究設備のリース調達反対

 並木も三波もEクラスである。Eクラスといえどもゼミもある。しかし研究室への配置は上位クラスから先に決定され、建前上各ゼミの地位は対等のはずなのだが何故か暗黙の序列があり、Eクラスの生徒が選べるゼミは通称隔離病棟と呼ばれてるあばら家に入居してる8つの研究室だけだ。


 隔離病棟は図書館にこそ近いものの、キャンパスライフを満喫する上で不可欠な購買部と学食のある学生会館や授業の大半がそこで行われる一般教養棟ぱんきょうとうから遠く、荷物置き場としてゼミを選ぶ学生にも不人気だ。


 その割に電子顕微鏡やらイオン加速器といった意外に良い設備があるのはひとえに上位クラス向け研究室からのお下がりであるからに他ならない。


 この「お下がり」が今危機にさらされている。上位クラスのゼミが最近始めたリースによる設備調達である。

 リースとは、物件をリース会社が購入して契約期間の間利用者に貸出し、利用者は月々の賃貸借料金をリース会社に支払い、契約期間満了とともにリース会社が物件を引き上げるという取引である。問題はこの「物件を引き上げる」というところである。研究設備のお下がりを使ってる隔離病棟の乞食研究室を直撃する悪意ある取引スキームとしか言いようがない。


「オレたちはもうすぐ卒業しちまうから別に構わないけどは、後輩たちのためにここは一肌脱いで闘わないといけないところだよなぁ?」


「えっ?何?カチコミ?任せて!暴れて荒らしてすべてをぶっ壊してタマ奪ったるでぇ〜!」


 坂本がついに出番到来かと嬉しそうに大型拳銃を構える。並木が冷や汗ドバッと出す。


「いや、そういうのじゃないから」


「でも、リース会社の営業が来るたびに何故かここで死体が上がってたら警戒して向こうから営業かけてこなくなるでしょ」


 それ連続猟奇殺人事件じゃねえか。それ以前にリースってのはリース会社が看板背負ってリースにしませんかと営業かけてくるわけじゃない。そういうのもお仕置きだべ〜、ポチッとなとかやってるなんとか一味のヤクザ上がりのリース会社含めればないわけじゃないが、質にとって物件を奪うことが目的の金融詐欺だからそういうのはほっといても取り締まられて消える。


 並木たちにとって脅威なのは、研究用の設備を販売するメーカーやプラント建設を取りまとめる商社にくっついてる、いわゆる真っ当なリース会社だ。設備調達するときにお金が無くてと断ると、うちはリースもできますと商社やメーカーの営業が切り札として出してくるヤツだ。彼らとて犯罪をしてるわけでもないしむしろそういう王道のリース会社は社会的ステータスもある立派なお仕事だ。

 むしろ白日のもとに晒されたとき責められるのはこっち側の乞食研究室の方なのだが、本当の諸悪の根源は研究室への差別的予算配分である。なので隔離病棟研究室予算の増額または学院全研究室にリースでの設備調達禁止を要求する。途中経過をすっ飛ばすと意味不明で決して繋がることのない2つの要求ができ上がった。事情を知らないものはこの2つを同列に語ってる時点で頭のおかしいヤツだと判断してしまうだろう。また別の背景を持つものがこの2つの要求をみたら2つをつなぐ思いも寄らない全く別の理由を想像してしまうかもしれない。それではシンパサイズに問題が出て学園闘争上不利に進む可能性が高い。


 そもそもリースはただの賃貸借と違って、途中解約はできない。必ず全額支払わされる。言ってしまえば単なる月賦で最後に物を取り上げられてしまう契約である。税制や会計、産業廃棄物規制関連の諸制度が生み出した、本来なら存在しえない奇形進化した金融業だ。

 それが事業用でなく利益を生み出す投資でない研究設備に入り込む余地など本当は無いのだが、賃貸借と言う建前に騙されて要らなくなったらすぐ返せると誤解してる教官が少なからず居るから学院に入り込む隙を与えてしまっている。そしてリースの営業もその誤解を成績のために利用してるきらいがある。

 気付いたら学院が債務超過しててまるごとリース会社に召し上げられるということにもなりかねない。リースは法律上何も悪くはないし真っ当な顧客に対しては事務の代行や減価償却の短縮延長に利用できる真っ当な商売なのだがこちらの研究室にとってはともかく厄介で都合の悪い存在なのだ。



ーーー

(作者注)

最近では解約物件を中古で売って解約賠償金を減額したり、中古市場が熟成してる品目に限り期間で全額回収しないリース契約もありますが、リース会社は貸すために新品を買ってるので満額払わないで返されたら本当に困るし損害賠償を請求します。向こうの立場に立てば当たり前の話ですが、借りて要らなくなったら返せばいいと軽く考えてる人いい歳こいて結構いるんですよ(涙)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る