第40話 決勝と表彰
2回戦、そこでは世にも奇妙な光景が繰り広げられていた。前回1位のビビアン選手に狙いを定めて纏わりつきあんな手こんな手でいろいろな角度から攻めて48手どの手でも勝てる事を見せつけながら進む。各シチュエーションの戦闘開始状態に持ち込む助走ついでに後ろから追い付いてきた他車をことごとくそれとなく妨害してすげぇいやらしい。
レースだというのにストーカーと性的被害者を想起させるのに充分ないやらしさだ。
初戦1位のビビアンを三位に落とし、二位に初戦最下位のミハエルを通し、初戦2位のネルソンは妨害によって5位に突き落として堂々の1位を瀬名が獲得した。あとは決勝戦でもう一回1位を取れば瀬名の勝利が確定する。
「あと残るは決勝戦だけだな。」
「このために走ってきました。あと一走で一位を取るだけです。勝利を決めます。」
「変なトレーニングを本番でやるなよ。遠慮はいらない。容赦なく1位狙ってくれ。」
三波のマシンも瀬名のテクニックもこんな地方ローカルの入門レースなど蹴散らかすだけのポテンシャルを持っている。初めから1位ー1位ー1位が狙えるのだし、むしろそのほうがよほど楽なのになぜ瀬名は他車との絡みを楽しむのだろう?
「出し入れ自在のパワーと決してスリップしないタイヤが強みですがエンジン出力そのものでは他車の方に利があるんですよ?メリハリ付けた走りで油断を誘発する事も必要なことですよ」
「済まないな、三波サイクルエンジン載せられなくて。」
「あんな危ないもの載せないでください。」
時速600キロは坂本のからくりホイールと並木の肉球タイヤによるものであって三波のエンジンは使ってない。そんなものなくてもレースに勝てることと世界記録に肉薄する速度を出せることをこの瀬名は証明してしまった。
決勝戦でも相変わらず他車との絡みを披露する瀬名。必要ないと言っているのにあの手この手を試す。ただ1回戦の1人づつ確実に潰すスタイルでも、2回戦の後続車を妨害して任意の選手を2位につける走りでもない。
絡み中に抜かされたら次の手でも勝つことを試すのを放棄して一段落ついたらその抜かした選手に絡むスタイルだ。しかしこのスタイルには負けパターンが存在する。絡み中にゴールのテープを切ってしまうパターンで2位になってしまう。
仮に2位になってもシリーズ優勝は動かないが、その間に複数車に抜かされたらそれすら怪しい。早めに見切りを付けて勝ちを取らなくてはならない場面の見切りが必要だ。
最終ストレートに達したとき絡んでいたクルマのほか2台が先に出てる。いつ見切りを付けるのか?と見ていたら、突然一気に加速し二馬身差をつけてトップでゴールイン。ドップラー・レーダーによる計測速度は時速350キロを記録した。瞬間最高速度ではF1より速い。いや予選で600キロ出した瀬名にこの期に及んでF1より速いなんていうのは蛇足か。
カートから降りてきた瀬名にレースクイーンがハワイアン・レイをかけてキスをする。レーサーにとっての晴れの場だが瀬名は今ひとつ浮かない顔をしてる。
決勝1位だしシリーズ優勝でもあるから当然表彰台にも立つ。サービスでやっている作り笑いとわかる苦虫か何かを噛み潰したような影のある笑顔をしてる。どうしたのだろう?
―――
表彰を終えて、後片付けも済ませてメカニックのみんな――と言っても並木と坂本と、
「おつかれさん。優勝カップでヒール飲もうぜ」
「言うと思ったんで家においてきました。」
「言うと思ったなら持って来いよノリ悪いな。」
「あれ、重金属使ってて飲用に使用すること想定してないですよ!」
「ちっとくらい平気だよ。気にし過ぎだって。」
素手で放射性物質扱う三波や死体を蘇生するエリクサーを保有してる並木に言われたら説得力無いがこれを言ったのは坂本だ。こいつは一度焼き殺されかけてる。今生きてる分はまる儲けくらいの心境なのだから余計に説得力がない。
「本物をやってみてレースの奥深さを感じたんです。今後レースのたびにカップで飲んでたら身体に重金属が蓄積します。」
難しい顔してたのはレースの奥深さを振り返っていたのか。てっきり絡み手を中断して勝ちを取りに行かなくてはならない場面の決断とか、ギリギリ勝利を目指したのに二馬身差も付けてしまったミスを後悔してるのかと思ったぞ。
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