第39話 レースで這い上がる。
8番目のグリッドを得た瀬名は狙った通りだと満足してる。8車混走までは通信対戦ゲームで勝手知りたる世界で、対CPU戦のみならずイベントの通信対戦で生身の人間と対戦経験がある。
仮想世界でなくて現実であるという点と、運営により作り出されたイコールコンディションどこ吹く風というのが違う。後者は三波、並木、坂本というマッドサイエンティストがその持てるチート能力を結集した総力で作り上げた狂気のチート車両で瀬名にとっては追い風でしかない。なんならそれだけはダメとされた三波サイクルエンジンを降ろしても速度世界記録に肉薄出来るカートだ。
運転フィーリングもエンジン特性ガン無視でエンジンは常にフル回転してチャージしておき、出したいエネルギー量を出したいときに取り出すので非常にリニア。まるでエンジン特性の再現を諦めた古い世代のレースゲームのように。
そして瀬名が自ら望んで作り上げた状況の7人の先行車が居る8番目からの出走。コンピューターのロジックを逆手に取って通信対戦世界ランク上位に食い込んだテクニックはどこまで実世界に通用するのか。少なくとも混走でない範囲では、リニアな特性の車両と慣れた対戦相手人数との勝負など瀬名の思い描く通りに動いている。
ゲーム世界に転生したチートヒーローってこんな感じなのかもしれない。水を得た魚のように初戦では3位。圧倒的強者が獲物を弄んだ挙げ句最後にパクッといくようないやらしい戦い方だ。いや抜いたらそのまま次の上位走者に挑めばいいのに一人づついろんな位置関係からどんなパターンになっても確実に最後に勝てるように全パターンを網羅しながら確実に1人づつ沈めていく。勝負中に勝負やり直してないで先に行って次の選手と闘えよ。
どの方面から勝負に入っても決して勝てない事を散々見せつけられた先行選手たちは深いトラウマを植え付けられた。
そんな余計なことをしながらでの結果が3位なのである。本気で勝ちに行けば1位は余裕だっただろう。
「ゲームのテクニック、意外に通用しますね……。多少見直しが必要なのはカーブ中のクルマに左斜め後ろから迫るときのケースだと人により気付くのに掛かる時間がバラバラなことぐらいですね。気付いてからの動きがまるっきりゲームの通りだったから笑っちゃいましたよ。」
ゲームのロジックだって、有名選手の監修が宣伝文句となるように座学レベルまでは理論上間違えてない行動が再現されている。それの通り動くのが上手い選手とされる理想を、現実の制約無しで繰り出すのだから同じに決まっている。もちろん本当の最新の走行理論までは搭載されていないが、そういうのは世界選手権大会レベルまでは無縁だ。
「練習はともかくとして決勝では1位獲ってくれよ。」
「決勝で1位はもうわかりませんが、決勝戦では1位通過してみせますよ。」
「余裕ぶっこいて1位になれないのは頑張ってしがみついていってドベよりも遥かにカッコ悪い。余裕ぶっこいた限りは2位じゃダメなんですヨ」
「ですから、これは本戦なんです。3回戦が決勝戦となるこのシリーズではあと2回が1位でもシリーズ1位となれるとは限らないんです。そのために、1位2位のポイント差は僅少なのに3位には大きな得点差という絶妙な得点配分にしてあるんです。シリーズ通しで2位を取れた選手は3位、1位、1位の選手より点が大きくなります。」
「何その変なルール!?」
「エンタメ性を高めるための工夫ですね。一度もテープカットしてない走者が月桂冠を戴冠する。それもまた観客の中にオレは認めないと怒り出す人も出て騒動が話題性になるっていう巧妙な手口ですよ。」
「ですから現時点での上位選手の順位管理も2回戦からのオレの作戦に組み込まれます。うまくいくかわかりませんがまあ見ててください。そして決勝戦で1位テープカットは切り札を使っても必ず穫ることをお約束します。」
そこはコンピュータゲームにない、プリミティブな政治力の世界。瀬名は経験したことのないがいつかは必要になるスキルとして磨きたいものだったとのことだ。だから三波サイクルエンジンの圧倒的なパワーでずっと1位キープしたほうが確実だと言っているのにわざわざ自分を追い込むようなことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます